*   *   *   *   * 岩肌に囲まれた広いスペースの中に鉄骨で柱と梁が組まれている。地下のような場所にあるケージのようだ。 そこは整備場のようで例の黒い甲冑たちがハンガーに安置されていた。 目つきの悪いロン毛の男が右腕に包帯を巻いてケージ内を歩いていると、この男に声をかける者がいた。 「よう!腕は無事くっついたようだな」 黒い甲冑03の胸部と腹部が開き中が見える、どうやらこれはハッチのようだ。その中から身長1mほどのドワーフの小男が出てくる。 「クソ!あの小僧、次に会った時は必ずぶった斬ってやる!」 目つきの悪いロン毛男はどうやらライトに腕を切られた02の装着者のようだ。 「お前何であのガキが目潰れて苦しんでいる時にとどめ差さなかったんだよ」 「何言ってんだ。俺がお前さんと腕を迅速に運んでやったんだから、今腕がくっついてるんだろ。それに俺が倒しちまったら、お前さんのリベンジの機会がなくなっちまうじゃねぇか」 ドワーフ男は03の装着者いや操縦者のようだ。 「それにしてもアイツらスナイパーまで仕込ませていたとはな…。それもライフルを直接狙ってくるだけの凄腕だ…」 銃を分解整備している坊主頭の男がこぼす。彼の後ろにも黒い甲冑が安置されており、その肩には04と記されていた。ミレーンを撃ったスナイパーの男である。 「こいつ着てたら撃たれても平気なんだから、次は予備のライフルを持って行っておけよ」 ドワーフ男がそう提案すると坊主頭もそうだなと返す。 彼らの会話が一旦落ち着いた時、ケージ内に警報が鳴る。 「さぁ狩りの時間だ…」 02がそう言うと他の面々も自分の甲冑に向かって行くのであった。 *   *   *   *   * ラーバルは山の中腹にある昨夜スナイパーがいたと思わしき場所にいた。周囲の木々は切り倒され開けた空間には何やら鉄でできた構造物が立っている。おそらくここは奴らの監視場なのであろう。 「こいつはアンテナみたいだが、どこかと連絡を取り合っているのか…?」 ラーバルがこの監視場を探索していると金属製のハッチが開く音がする。ラーバルは物陰に隠れ様子を伺う。中からは例の黒い甲冑が出てきて肩には04と書かれている。どうやら例のスナイパーのようであった。 04はケースからライフルを取り出すとどこかと会話をしているようだ。このアンテナはそのためにあるのであろう。 04がライフルを構え目標に集中したのを見計らい、ラーバルは04の背後から音を立てずゆっくりとハッチへと近づく。そしてハッチをそろりそろりと開き内部へと侵入した。 内部へ侵入したことをス魔ホでミレーンに伝えようとしたが電波は圏外になっている。 「畜生!どこかで連絡手段を見つけないと…」 それはラーバルに科せられたもう一つの使命であった。 ライトとスナイプが山道を進んで行き、昨日交戦した場所へと着く。そこでは道の真ん中に01が立ち塞がり、両脇の森の中から02と03が現れた。 「なんだーお前らー。この子にはー手を出させないぞー」 スナイプが銃を構えながらひどい棒読みでセリフを言う。そして01に向かって一発撃つも装甲に弾かれダメージは見えない。 01、02、03がそれぞれ武器を構え攻撃体勢に移ったのが見受けられると、スナイプは助けてーとこれまたひどい棒読みをしながら脱兎のごとく逃げて行った。呆然とするライトの前に01がやって来る。 「シニタク ナケレバ キテモラオウカ…」 機械のような音声でライトに同行を強要する。ライトは黒い甲冑たちと同行するのであった…。 黒い甲冑の現れた地点から数百メートル離れた木々の中にスナイプはいた。腰のポーチからス魔ホを取り出すと何らかのアプリを開く。 「おっ、ちゃーんと機能してるね。ホワイトちゃんの方は旦那に任せるとして、俺の方は別ルートの入口を探さないとな…」 地図上には移動する赤いマークが見える。ライトに渡したブローチには発信機が仕込まれており、それを使って敵のアジトを見つけようとしているのである。スナイプはそれ目安に移動を開始した。 *   *   *   *   * 黒い甲冑たちが行きついた先には山の岩肌に付いた鉄製のゲートが見えた。何らかの施設のようである。 「(やはりそうだったか…)」 ミレーンは心の中で口惜しそうに言うと黒い甲冑たちと一緒にゲート内に入る。 「あらあら、結構厳重だねこれ…」 黒い甲冑たちに追いついたスナイプであったが、予想外の堅い守りの施設にどう侵入しようか頭を悩ませていた。しばらくゲート前の木陰に留まり観察していると、動哨する警備兵のような人物を発見する。 「野盗どころかちゃんとした制服を着た連中じゃないの。どうやらこいつは相当キナ臭い話になってきましたぜ…」 スナイプは動哨する警備兵を追いかけることにした。 ラーバルは侵入した施設内を隠れながら移動する。第一の目的は外部との連絡手段の確保。その前段階としてこの施設に関する何らかの情報が得たい。するとラーバルの目の前に資料室と表示された小部屋が見つかる。 部屋の中に入り何か使えそうな資料を手に取っては目を流す。その中で「メックスーツ マニュアル・納品書」と書かれたファイルを手に取って読むと、ラーバルの表情が苦虫を嚙み潰したようになった…。 地面に寝転がされていたジーニャが目を覚ます。とても甘く幸せな夢を見ていたような気がしたが、今はとにかく頭が朦朧している。半覚醒のまま上体を起こすと目に前には面識のある顔があった。 「あら目を覚ましちゃったのヒナドリさん。もっといい夢を見ておけば良かったのに…」 目の前にいたのはリシーツァ=リツィミェール辺境伯。彼女が一連の事件の黒幕であった…。 「えっ…と、ここはどこで今はどういう状況なのでしょうか…」 ジーニャは困惑しながらも現状を把握しようとする。 「とりあえず最初に謝らせてもらうわね。アナタの資産価値を調べておきたいから、少ーしばかり身体検査させてもらったの。そうしたら何とびっくりアナタ生娘だったのね。あっ心配しないで検査したのは私だから大丈夫よ。キュートな彼氏くんがいるみたいだったけど、まだ一線超えてなかったのねカワイイー! 身持ちの固いおかげで高ーく売れるから出荷の日まで乱暴されることはないから安心してね❤」 「えっ、あの…出荷とは一体どういう…?」 「アナタはウチとある国との貿易品の一つなの。最近はこの領内に訪れる若い女の子なんていないから納期に間に合うかどうかやきもきしてたんだけど、アナタのおかげで無事間に合わせることができました! ちなみに若い生娘は非処女5人分の価値になりまーす」 「そうでない子はウチの若い衆の福利厚生の一環になってもらってるけど、甘ーい夢を見てとろとろになっているんで誰も傷つかかないからセーフよね」 こいつ狂ってる…。状況の把握が不完全でも彼女の放つ言が常軌を逸しているのは理解できる。 早く逃げなければ…、出口に向かって這いずるジーニャの前に辺境伯は立ちはだかる。 ガスマスクを装着しあの01が持っていた香炉のようなものをジーニャにかざそうとした時、二人のいる部屋を誰かがノックする。 「新しい商品が納入されたので検査をお願いします」 強面の兵士が拘束された少女を部屋の中に入れ、ドアを閉めると出て行った。 その少女とは黒い甲冑たちに捕まったライトであった。ライトは部屋の中に転がされているジーニャに気づく。 「あらいらっしゃい可愛いお嬢さん。怖がらないでもいいわよ、ちょっと楽しい夢を見ている間に終わるから…」 辺境伯は二人の前に香炉をかざす。香炉から漂う甘い匂いを吸い込むとジーニャは再び昏倒した。 彼女の持つ香炉は『桃源香炉』と呼ばれる忌器である。 香炉の放つ甘い芳香を嗅ぐと昏倒し、その間幸せな夢を見ながら一定時間目を覚ますことはない。 さらに夢の内容に干渉することで、使用者の命令に応じて意識のない被害者を操ることもできる。 時間をかけて香炉の芳香を飛散させることで対象範囲を拡大することも可能で。(男/女)(子供/若者/大人/老人)といった具合でレンジを調整して狙う対象を絞ることもできる。 一方いくら匂いを吸わせてもライトには全く変化はない。 辺境伯が動揺するその一瞬の隙を突き、ライトと一緒に部屋の中に入ったミレーンが認識阻害を解除し右手で辺境伯の喉を鷲掴みにして締め上げる。 「やはりお前だったか…!」 *   *   *   *   * 「お前はあの旅の連中の一人…。どうやってここまで入った…」 「そんなことはどうでもいい! この領内に入ってまだ一日も経っていないのに、俺たちが襲われた事にずっと疑問を抱いてた。最初は監視装置か内通者を疑ったが、あれだけの装備とこの施設を見れば、この領内で一番力を持つお前が糸を引いてるのはバカでも分かる。そりゃいくら山狩りをしても成果は出ないだろうよ。全員がグルなんだからな!」 ミレーンの辺境伯の首を掴む手に力が入る。 「死にたくなければ、その手に持っている物を床に投げろ。その次は被害者たちを監禁している場所へ案内してもらう…」 辺境伯は香炉を床に放り投げる。ライトは凄まじい馬鹿力で両手にされた拘束をねじ切ると、床に転がるジーニャと香炉を抱えた。 ミレーンは辺境伯の背後に回り、左腕は裸締めで首を決め、右腕は彼女の右腕をねじり背中に回し逃げられないように関節を決める。 辺境伯のいた部屋を出て、黒い甲冑たちのケージへと進む。ケージ内では出動を終えた甲冑たちがまだスーツを脱がずに残っていた。 「(少し早すぎたな…。奴らが掃けたタイミングで移動をした方がスムーズに行けたか…)」 感情的になる余り勇み足となった自分の行動を少し悔やんだ。 「おい!お前ら全員武器を捨てて両手を上げろ。次に後ろを向いて跪け。さもなくばこの女の首をへし折る!」 どこまで通じるか分からんが、とりあえずジーニャは確保したから人質作戦でひとまず安全圏まで逃げ切ろう…。 3体の黒い甲冑たちは俺の言う通りに行動する。俺は奴らに妙な動きが無いか注視する。 肩の番号は02、03、04…全員いるな…いや01がいない、アイツら4体もいたのか! 嫌な気配を感じケージ内の2階部分を見ると、今まさに01が双剣を翳し斬りかかろうとする。 俺は辺境伯を盾にしてそれを躱すが、お互いの距離は2mもない肉薄したものとなった。 俺は裸締めをかけている左腕を締め上げ更なる人質アピールをしようと思った時、俺の顔面にまた見えない何かで殴られたような衝撃を受けた。 衝撃でホールドが緩むと見えない何かが俺の両腕を辺境伯から引き剥がそうとする。 拘束から逃れた辺境伯は俺から離れ01の方へと向かう。追いかけようとしても俺の腕を掴む見えない何かが邪魔をする。 そうこうしている間に他の黒い甲冑たちもこちらへ向き直し、武器を取ろうとしている…。 01が飛び降りてきた方向とは反対側のケージの2階部分から発砲音がする。そしてその弾丸は01へと着弾する。 01にはダメージを受けた様子が見当たらないが、衝撃で俺を押さえつけていた見えない何かは消えたのだった。 「久しぶりだな捌拾弐號!」 声の主はスナイプであった。とっくに逃げだしたと思っていたが来たのか…。 「オマエハ… シチジュウシチゴウカ…」 「ボイスチャンジャーなんて使ってんじゃねぇよ。いくら身元隠そうとしたって、その型式の試作聖剣を双剣で使っているのはお前ぐらいしかいないんだからすぐ分かんだよ」 この二人は知り合いだったのか…。 「こいつは人造勇者ってイカれた連中の生き残りでね『神の見えざる手』ってスキルを使う。中身は魔族どもの言う呪腕術みたいなもんで見えない腕を操るんだが、射程距離やパワーは大人の男一人分ぐらいで見えない以外は大したことねぇ。元から4本あるものだと思えば、旦那なら何とかできるだろ!」 なるほどいきなり殴られたり、関節技を外されたのはこういうトリックがあったのか…。 「逃げたと思ってたんだが、まさかここまで来たのか…」 「バカ言いなさんな。沢山の女の子たちのヒーローになれるチャンスを逃すような必中のスナイプ様じゃありませんよ! このアジトを観察してたら警備兵みたいなのがうろついてたんで、そいつを締め上げて警備用の出入り口から無事侵入って寸法でさ。ついでにそいつから女の子たちの居場所も聞き出したんで、後はこいつ等を始末するだけですぜ」 「お前が例のスナイパーか…」 スナイプの射撃の腕を見た04がこいつは俺の獲物だとばかりに睨む。自分用の整備ブースに駆け入るとミニガンを一丁取り出した。 ミニガンという名称ではあるが実体は小型のガトリング砲であり本来は据え置きで使うのであるが、黒い甲冑のパワーで軽々と構えスナイプに向けて乱射する。 スナイプは必死に逃げる。食らってしまえば死体は人の形も残らないミンチになってしまうのだから…。 02と03は二人がかりでライトに襲い掛かる。ジーニャと忌器を抱えた状態なので必死に逃げ回るので手一杯だ。 その隙を見て辺境伯が出入口から逃げようとする。もう数mでたどり着くところでそのドアが開く。入ってきたのはラーバルであった。 「逃げんじゃねぇよこの女狐が!」 様々な感情ではらわたが煮えくり返っているのか、普段の彼とは思えない語気の荒い言葉を放つ。 掌を広げた右腕を上下に動かすと、逃げようとしていた辺境伯が地べたに這いつくばる。 重力魔法をかけたのであろう。ラーバルは彼女の頚椎に手刀を叩き込み失神させた。 それを見た03はラーバルに向かって右拳を放つ。広いケージ内は4vs4の乱戦となった…。