「コロデアさん、久しぶりです!」  家に見慣れない来訪者が来たのですごすごと出て行ってみると、確かに久しぶりという言葉のチョイスに相応しい人物だった。  彼女は○○さん。  高校の頃、二個下で同じ部活にいた後輩だ。  それにしても、よく自宅が分かったものだ。 「うん、久しぶり」  それからは適当に思い出話やとりとめのない現状報告をして、その日は終わった。  次の日、近所のデパートで買い物をしていると、また○○さんに遭遇した。  通っていた学校はもっと遠かったはずなんだけどな。  引っ越しでもしたのか聞いてみると、そういうわけではないとニコニコしていた。  じゃあ、どういう訳なんだろうか。  まぁ延々と同じ事を引っ張ってもクドいし、掘るのはその辺にしておいた。 ……次の日も、次の日も、次の日も、次の日も。  カードショップに、遊園地に、病院に、職場に。  ありとあらゆる場所に○○さんが待ち構えていた。  いつ、どこに行くにしても、先回りされている。  気味が悪いを通り越して、いい加減ストーカーの「敵」だと、俺は彼女を認定した。 「なんでいつもいつもいつもいつもいるんだよ!おかしいだろ!」 「君の身内のお陰で筒抜けだもん。○○さんのことが好きだから、外堀から埋めてみたんです」  彼女に不意を突かれ、抱きしめられた。  感触そのものは暖かいが、頭で考えて俺はそれを拒絶し、振り払う。 「来るな!俺にもプライベートってものがあるんだ!」  その日はそれで帰って行ったが、俺は仕事中も○○の言ったことが気がかりで仕方がなかった。  帰宅してからは、家族全員を問い詰めた。 「おい!俺のスケジュールや行き先逐一他人に流してるのはどいつだよ!」 「なによ急に騒いで」 「んな事する訳ないだろ。でも、モテないお前ならあの子はいいと思うぞ?」 「ふざけんな!」  家族も知らないと言っているが、真偽の程は不明。  ○○への悪印象がないということだけがわかるが、それはむしろ不都合だ。  結局、誰も信用できない。 ……いっそのこと、○○を受け入れてもいいんじゃないか?  だって、どこにでもついてくるくらいで、特に何かしてきたわけでもないし。  好意的なのは間違いないし。  気付けば、俺は山中の森林を歩いていた。  無論、誰に言うこともなくだ。  一人でゆっくり考える時間が欲しかったんだと思う。  だけど、その猶予は与えられることはなく。 「コロデアさん、こんにちは」  あり得なく、当然のように、そいつはそこにいた。  移動手段や身に付けるものに、発信機でもつけられていたんだろうか。  今日は周りには誰もいない。  一対一だ。  森の湿気と少しの緊張感が、俺の額を湿らせた。 「コロデアさん、高校の頃話したことを覚えてますか」 「高校の頃のどの会話だよ」 「一緒に死んでくださーい!ってやつですよ」 「ああー、あれか」 印象的だったので覚えてはいる。 自分はその台詞が出た経緯についてはあまり深く考えていなかったが、まぁ冗談かアニメの台詞を言っちゃう痛い子なのだろうくらいに流していた。 しかし、この状況でそれを掘り返してくるという時点で、俺は不穏さを汲み取り動けるような心構えで次の一言に備え始めた。 「ずっと、待っていました。今、ここでお願いします」  そう言うや否や、○○は懐から包丁を取り出してこちらに向かってきた。  くそ!足場が悪くて駆けづらい!  案の定……というには、実際にされてみるとやはり想定外だった。  そして、単純な速さでも○○に負けているらしい。  日頃の運動不足をこれ程呪ったことはないが、それこそ「これ程」が最後になるかもしれない。 嗚呼、追いつかれた。 せめてもの抵抗をするべく○○に向き合い、格闘戦に移行を図る。 素手では部が悪いが、一応服は厚めだしなんとかならないだろうか。 ……ならなかった。 左手が痛い。 包丁を受け止めようとしたそれは切り付けられて。 傷は浅くとも、血がとろとろと滴り落ちていく。 死にたくない。 死んでたまるか。 死ぬくらいなら。 ……死ぬくらいなら。 気付けば、俺の手にはチェンソーのようなものが握られていた。 持ち手は剣っぽいけど、なんか回転しそうな感じ。 色は紫。 あれ、これどっかで見た事あるような。 オレンジ色のグリップを引くと、チェンソーが強烈な回転を始めた。 使い方も知っていた。 うん、完全にこれあれだわ。 「死ぬくらいなら死ね!」 多分、そんな感じのことを口走りながら、俺はそのチェンソーを押し付けていく。 人体を切るのに適していないそれは、真ん中あたりで留まったのだった。 (いやー、寝覚めが悪いわ) 目が覚めて息を整えながら、明るい部屋で考える。 さて、どこまでが俺の過去の残滓や後悔だったのか。 確かなのは、これが夢だったということだけである。