一人は恍惚とした顔で、一人は心底疲れ切った顔で、己の股間を見つめるのだった。 そこにはつやつやとした白い塊がある。それも一つや二つといった程度ではない。 そしてまた、大きい。鶏のそれよりも、二周り三周り――倍近くの体積はあるだろうか。 成人男性の拳より大きなものが、二人の脚の間にはごろごろと無数に転がっていて、 そしてそれらは、しばらくそこに無造作に放り出されているかと思うと、 急に、めくれ上がった赤黒い床の隙間に呑み込まれるように消えてしまうのだった。 床は生物の血管を思わせるような脈動を、断続的に続けている。天井も壁も同じことだった。 二人のうちの一人が、時に絶望的な表情で繋ぎ目のない空間を見つめるのもその理由による。 きゅっ、と絞られて皺と入口との境目が判断不可能になった胃袋のようなものである。 そのうえ、ここには元から出口というものが作られていないのだ。生物としては欠陥品だろう。 神がこの醜い肉の塊を作らしめたなら――それは非万能性の証明にもなったろう。 なおのこと、少女の顔は、自己嫌悪の色彩を纏っていくのである。 だがそれも長くは続かない。少女の表情は硬い岩盤がこじ開けられていく時のように、 緊張した固いものから、次第に崩れ始め、ある線を越えた時に、一気にだらしなくなる。 それはちょうど、新たな塊が彼女の膣口を半分潜り抜けた瞬間と合致するのだ。 すぽん、とそれが抜けきるやいなや、栓のされていた膣口を生温い風が撫で、 その感触だけでまた、少女の身体は抗い難い快楽によってびくびくと震える。 そしてそれに追随してか、締まりのなくなった尿道からは愛液と区別のつかない尿が垂れ、 涎と共にびちゃびちゃと肌を濡らす――そしてその異臭を覆い隠すがごとくに、 剥き出しになった乳房からは、搾られもしないのに母乳が幾筋も噴くのであった。 それが卵一つ潜り抜けるたびに起こるのである――彼女の親友が壊れてしまったのも無理はない。 すぐ隣で、美しい金色の髪を獣のように振り回して絶頂の波に弄ばれるその姿。 若菜色の瞳には知性の残滓もなく、虚ろに光を吸い込んでいるだけ。 そしてその胸から噴く、自分以外の母乳が肌にびちびちと掛かった時に、 少女は彼女を巻き込んでしまったことへの後悔と罪悪感に苛まれるのである。 己も同じように、我慢できない体液の雫を彼女の肌に引っ掛けながら。 二人の腹部は、臨月の妊婦のように膨らんでいる――否、実際に彼女らの身体は産婦のそれだ。 子宮内に己とは違う生命を宿しているのも、それに与えるための母乳を生産しているのも、 通常の妊婦のそれと、何が違うのか?ただその産むものが、哺乳類の原則に合致しないだけだ。 胎内の卵を全て出し終えたのち、ようやく彼女らの子宮はぺたんと凹む。 しかしその安らかなる空白は長くは続かない。絶頂の余韻に身体を小さく震わせているうちに、 床か――もしくは壁、天井からぬるりと伸びてきた同じ材質の肉の蔦が、 無防備な彼女らの股間に食いついて、離れなくなるからである。 今ではもう、二人ともそれを引き剥がそうとはしない。無駄と悟っているからだ。 もしくは、ここから与えられる快楽にすっかり脳を侵されてしまったのであろうか? 膣口にちょうど、男性器そのものとして突き刺さったその先端からは、 改造されきった各々の子宮めがけ、情け容赦のない射精を行う。 そして当然、己を守る手段を持たない卵子は異形の精子に撃ち抜かれ、 それぞれが白く丸い外殻を有した卵として、形成されていくのだ。 胎内でぼこぼこと、硬いもの同士がぶつかりながら大きくなっていく感覚―― 摩耗した精神にはその正確な時間までを測ることはできまいが、 人間の受精卵が本来出産に要する期間よりも恐ろしく短いことだけは確かであった。 当然である。天才と名高い彼女が、家畜の大量生産のために編み出した技術だ。 それまでの種付けの労苦を思えば、ほとんど嘘のような時間と手間で済んでしまう―― 産まれた卵の数は、人間の女性が一生涯に産み得る子の数をとっくに超えていた。 それが、自身の卵子を確かに使って作り出されているのだから――時折、少女はぞっとする。 生殖細胞の生産には、生物としての限界がある――というのも、昔の話だ。 それを突破できてしまった己の技術と、それを実装してしまった己の愚かさを、 卵がいくつも連なって吐き出されてくるたびに、悔いて悔いて――快楽に頭を塗り潰される。 家畜が多産に苦しまぬよう、脳の神経系を操作するように創ったのは、自分ではないか。 どんな種類の獣にも適応できるようにしたのは、自分ではないか。 繁殖以外の声明活動を肩代わりさせるように、頚椎に寄生させ固定するようにしたのも―― 二人は壁にもたれかかったまま動かず、延々と股間からぽろぽろと卵を産み続ける。 動く意味がないのだ――摂食も排泄も、“代わり”にされているのだから。 密閉された空間には、二人が垂れ流した体液の匂いが籠もっているものの、 その中で息が詰まることはない。酸素も同じように、適切な濃度で送り込まれているから。 四肢はほとんど麻痺したように、重たく、邪魔な枷として機能する――既に少女らは、 自分の手で顔を擦ることも、歩くことも、やり方を忘れてしまった風であった。 ただ全てを委ね、卵子を卵に変換し、母乳を垂れてさえいればいいのである。 その代わりに、人間がおおよそ抗うことのできないように作られた快楽が脳に流れ―― 出産の労苦を紛らわすための、神の与えたもうた仕組みにただ乗りする格好で、 終わりなく、二人は与えられ続ける全てを、拒む権利すらなく受け入れ続ける。 終わることのない妊娠状態は、それによる脳内の回路の再構築を促す。 どう見ても、それは他と同じ卵にしか過ぎないというのに――狂った頭には、 世界に一つしかいない、血を分けた最愛の子であるかのようにも見えるのである。 だが、重い肩、腕、手、指を駆使してそれに触れるより先に音もなく床に消えてしまい、 悲しみを味わうまでもなく、次なる愛し子が膣口を押し拡げながらすぽん、と飛び出てくる。 愛着と別離とを高速で無限に繰り返させられていたら――正気でいる方が難しいというものだ。 そして親友の口から、呂律の回らない母の愛がうねりながらこぼれてくるのを聞くと、 自分が朦朧としている時に唇の隙間から逃げ出しているうわ言もまた、 それに類するものではないかと、少女は確かめようのない不安に囚われるのだった。 直にぷつんと意識が途切れ――彼女の口もまたもごもごと、何かを象るように蠢く。 妊娠出産に伴う分泌物による変化は、体型の変化という形でも目に現れ始めた。 少女らの乳房はここに囚われてから――新技術の核であるこの生物の制御を失ってから―― 明らかに、ずっしりと重たく、柔らかく、脂肪の塊としての性質を増している。 元より十二分に大きかったそれらが、さらに、彼女ら自身の頭部に匹敵する質量を得て、 重たくて堪らない胸は、なおさら、二人の身体の動きを阻害する。 するとさらに、不必要な四肢の筋肉は落ちて脂肪として身体の資源を胸や尻に回していき―― 発達させられた乳腺は、産卵の与える刺激すら必要とせずに母乳を垂れ流す。 それまでは噴き出るに任せていた母乳も、貴重な資源として再利用するためか、 股間に寄ってくるものとは先端の形状が違う、海星のように先割れしたものが、 搾乳機めいて張り付き――ずるずると、無駄にせぬように吸い上げていってしまう。 その快楽もまた、抵抗力を失った脳には効く。意識がぶつぶつと切られ、喘ぎ、呻く。 緩んだ身体は、卵一つ一つを押し留めるだけの力を持たずに、するすると吐き出してしまう。 すぽん、すぽん、すぽん、と抜けていくと――当然、そこには快楽が訪れる。 二人の足元には、回収すら追い付かない白い花畑が咲き乱れていた。 そしてそれらは――孵るのだ。母体の囚われている、外の世界で。 今や工房は――近くの村は、街は、二人の生んだ異形の子に埋め尽くされていよう。 人とまぐわい、その血を汚しながら急速に数を増やす忌み子たちは、 母がもはや何も考えられぬ産む肉塊と化してなお――産み出され続けていた。