部屋の明かりは消えていた。俺はソファに深く腰を沈め、ただテレビ画面だけを見つめていた。リモコンは手元に置いたまま、指一本動かさなかった。午後十時。生放送の温泉特集が始まった。 画面に映ったのは、若い女性アナウンサーだった。名前は確か、佐藤美咲。二十代半ばくらいだろう。黒髪を後ろでまとめ、笑顔が清潔で、声も柔らかい。だが、彼女の格好は普通じゃなかった。 裸だった。 白い肌が湯気の中でほのかに光っている。肩から胸の谷間まで、ほとんど何も覆っていない。ただ腰のあたりに、極端に小さな白いタオルが一枚だけ巻かれている。それがすべて。タオルは本来のサイズの半分もない。胸の膨らみの下半分は完全に露わで、ピンク色の乳首がはっきりと画面に映っていた。タオルの裾は股間のすぐ上で止まり、薄い陰毛と、柔らかな割れ目までもがカメラに捉えられていた。 本来、こんな映像がテレビに流れるはずがない。なのに、番組は淡々と続いていた。 「皆さん、こんばんは。生中継でお届けします、秘湯『湯の里』特集です。私はアナウンサーの佐藤美咲です」 彼女の声は少し震えていた。頰が赤い。視線が時々、カメラから逸れそうになる。それでも、彼女は微笑みを保ち、両手を胸の前で軽く組んでいた。タオルがずり落ちないよう、必死に押さえているのがわかった。 俺は息を飲んだまま、画面から目を離せなかった。心臓が早鐘のように鳴る。部屋の中は静かで、ただ彼女の声と、遠くで聞こえる湯の音だけが響いていた。 「こちらの露天風呂は、源泉かけ流しの天然温泉で、pH値が8.2の美肌の湯として知られています。……あっ」 美咲さんの声が一瞬、途切れた。タオルが緩んだのだ。彼女は慌てて両手で胸を押さえ、タオルを引き上げようとした。しかし、カメラは容赦なく彼女の全身を映し続けている。乳房が手のひらからはみ出し、柔らかく揺れる。タオルの下から、太ももの付け根が丸見えだった。 それでも、彼女は仕事を続けた。 「す、すみません……。えっと、こちらの泉質は、疲労回復にも効果的で……」 羞恥心がはっきり伝わってくる。目が潤み、唇が小さく震えている。頰は真っ赤だ。普通の女性なら、こんな格好で生放送など絶対にできない。でも彼女はアナウンサーだった。仕事だと言い聞かせているのが、声の端々から感じ取れた。 番組は進む。美咲さんはゆっくりと露天風呂の縁を歩きながら、温泉の歴史や効能を説明していく。カメラが彼女の後ろに回ると、背中から尻の丸みがはっきり映った。タオルはもう、ほとんど意味をなしていなかった。 そして、中盤。 突然、タオルが落ちた。 「っ……!」 小さな悲鳴が漏れた。白いタオルが足元に落ち、彼女は素早く両手で体を隠した。右手で胸を、左手で股間を。だが、手のひらだけではすべてを覆いきれない。指の隙間から乳首が覗き、太ももを固く閉じても、陰部の輪郭が隠しきれていない。 美咲さんの息が荒くなった。肩が小刻みに震える。目がうるうるとして、カメラに向かって必死に微笑もうとする。 「た、タオルが……。申し訳ありません、皆さん。……でも、続けますね。この温泉の温度は四十二度で、ちょうど体を温めるのに最適です……」 彼女は手で体を隠したまま、しゃがみ込むようにして泉の水に触れた。指先が湯に浸かり、滴が腕を伝う。胸が腕に押しつけられ、形を変える。股間を隠す左手は、震えながらも離れない。 俺は画面に釘付けだった。喉が渇く。体が熱い。彼女の羞恥が、痛いほど伝わってくるのに、番組は止まらない。スタッフの声も、編集も、何もない。ただ生の映像が、延々と流れ続ける。 美咲さんは立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。手で隠しながら、でも視聴者にちゃんと説明しようと、声を張る。 「こちらの岩場は自然のまま残されていて……あ、足元が滑りやすいので、気をつけてくださいね……」 声が少し上ずっている。涙が一筋、頰を伝った。それでも彼女は笑顔を作った。仕事だから。視聴者のために。 番組は最後まで続いた。美咲さんは最後まで、手で体を覆い、温泉の魅力を語り続けた。エンディングの挨拶のとき、彼女の声はかすかに掠れていた。 「お付き合いいただき、ありがとうございました。また次の放送でお会いしましょう……」 画面が暗転するまで、俺は一度も目を逸らさなかった。部屋は静かだった。リモコンに手を伸ばす気にもなれず、ただソファに沈んだまま、彼女の残像を頭の中に焼きつけていた。 テレビはもう、何も映していなかった。でも、俺の視線は、まだそこに留まっていた。