ある日の深夜の星見プロ。いつも通りに1人で黙々と仕事をしていると、携帯の通知音が鳴り響いた。 「っと、メッセか。ええと…雫からか」 ロックを解除して、内容を確認…。 雫『魚おおおおおお!』 雫『できた!』 雫『私、がんばった!』 な、何だ…?何やら妙にテンションが高いな…。 雫『はっ、ごめんなさい。嬉しくてつい』 雫『お疲れ様、です』  『お疲れ様、雫。こんな時間にどうしたんだ?できたって、何か作ってたのか?』牧野 最近は仕事絡みで何かを作る話は出ていなかったはずだ。 曲や衣装についても今は特に何か準備しているわけでもない。 雫『うん』 雫『前に、ぬい活の話したの、覚えてる?』  『ああ、もちろん。俺はまだ準備できてないが…』牧野 雫『大丈夫。お気に入りのぬいが手に入ったら、いつでも一緒にぬい活できる』 雫『私も、そのために新しいぬいを頑張って作ってみた』  『自作のぬいぐるみか!それはすごいな…』牧野 雫『うん。千紗ちゃんからの教えを胸に、ちょっとずつ進めて…』 雫『さっき、やっと完成した』 雫『感動のお裾分け』 なるほど、それで連絡してきたのか。 『それで、何のぬいぐるみを作ったんだ?』牧野 雫『それは、まだ秘密』 雫『明日、事務所に連れて行くから、お楽しみに』 雫『(投げキッスする配達ラッティーのスタンプ)』 …もったいぶられてしまった。雫は一体何を作ったんだろう。 まあ、明日持ってきてくれるというんだからそれを待ってみようか。 ----- 「牧野さん、お疲れ様、です」 「ああ、雫。お疲れ様。今日もシナモンくんと一緒だな」 「うん。シナモンくん、ご挨拶しようね」 「こんにちは、シナモンくん」 このやり取りも段々慣れてきたな。 しかし、このシナモンくんはいつも連れているシナモンくん…だよな? そんな俺の疑問を読み取ったのだろうか。 「えっと、昨日完成した子を連れてきた」 そう言って鞄から取り出したのは…。 「『牧野くん』、牧野さんだよ。牧野さん、『牧野くん』だよ」 「…」 いや、これは想定していなかったな…。 手作りゆえに既製品のぬいぐるみのように整ってはいないが、そこに味がある…のかもしれないが、自分がモデルとなると気恥ずかしい。 「…ダメだった?」 「え?ああいや、ダメじゃないんだが、ちょっとびっくりしたから…。よくできてる…と思うよ」 「ほんと?よかった…」 いざ作ってみたものの、完成した後に大丈夫だったか不安になってしまったのか。雫は安心したようにぬいぐるみを抱きしめた。 「でも、何で俺のぬいぐるみなんだ?」 「牧野さんは、私の夢をいっぱい叶えてくれて、応援してくれる…。知らなかった景色を、沢山見せてくれる。それが、嬉しい。  前に言ったけど、牧野さんは、私の心の推し。だから、推し活のために頑張った」 そう言えば、前にそんなことを言われたっけな。 「雫が頑張ってくれてるから、俺もサポートしたいと思えるんだよ」 「うん、分かってる。これからも、よろしくお願いします」 恥ずかしさはあるものの、これがモチベーションに繋がってくれるならいいか。 「『牧野くん』も、いっぱい色んな所に連れて行ってあげるね」 「ああ、そうしてあげてくれ…って、俺が言うのもちょっとおかしいような気もするが…。  まあ、あんまり大っぴらにやらなければ大丈夫だと思うけど、ぬい活って連れ歩いて写真撮ったりするんだろう?  SNSにアップとかしないように気を付けて…雫?どうしたんだ?」 「あ、うん。そうだね…公開は、しない。大丈夫」 何だか歯切れが悪いような気がするが…まあ、アイドル文化に詳しい雫なら大丈夫か。 ----- 時は遡り、前夜。 「よし、牧野さんに報告もしたし…早速推し活しよう」 『牧野くん』とシナモンくんを並べて、どんどん色んな写真を撮っていく。うーん、最高…! 明日からは、シナモンくんと一緒に連れて歩ける。楽しみ…。 …あ、もうこんな時間。さすがにそろそろ寝ないと。 そうだ、せっかくだから、やってみたかったやつ、やろう。 「…おお〜…」 シナモンくんと、『牧野くん』を枕の両側にセットして、川の字…。川の字かな?になって寝る。 スマホのカメラを自撮りモードにして、ぱしゃり。…至福の時間。 って、ついついまた何枚も写真を撮っちゃった。本当に寝なきゃ。 「おやすみ、シナモンくん、『牧野くん』…!」 横を向いて、順におやすみを言おうとして、こてんと転がった『牧野くん』と目が合った。 …これは、だいぶ恥ずかしいことをしているのでは…!? 私は慌てて『牧野くん』を机の上に移動させた。 …うん、大丈夫。 今度こそ、ちゃんと寝よう。 『牧野くん』、明日から、よろしくね。 終わり。