「ふぅ‥‥っ」 ゆっくりと腕を伸ばし、まだぼんやりと残る眠気を身体から追い出す。 普段より大分早い目覚めに、無意識に浮かれてたりするんだろうか。 洗面所で顔を洗い、鏡に映った自分の顔をチェックする。 ‥‥よし、顔色は良好。 目の下にクマが出来ていたりもしない。 寝巻きを脱ぎ捨て、しばしクローゼットの前で悩む。 「どーれーにーしーよーうーかーな‥‥っと」 いつもの服だって、別にお洒落していない訳じゃない。 むしろ、フィールドワークをする服装にしては結構着飾っているつもりだ。 でも、あの人っては割と‥‥いや、結構鈍感な所があるから。 だから、お洒落しているんだと分かるようにしてあげるのも、優しさだろう。 一目見て、『今日は違うね』位の事を言ってくれたら及第点としておく。 破けてしまうから、と普段なら履かないレースのスカートに、フリルを付けたブラウス。 いつもと違う、白や灰色ベースの服に袖を通し、ペアーのコロンを一吹き。 保湿用の無色のリップを棚に仕舞って、 代わりに奥の方にしまってあった買った時から全然減ってないリップを手に取る。 きっと、こんな細かい所なんて気付いてくれないんだろうケド。 翠の石をあしらったネックレスを首から下げて、鏡の前でくるんと一回り。 スカートがふわりと浮き上がり、私の頬も緩みそうになる。 「へへ‥‥可愛い、かな」 ‥‥うん、大丈夫。 今日の私は、きっと可愛い。 ふと、『普段の方が可愛いよ』なんて言葉を返されるイメージが浮かび、ぶんぶんと頭を振る。 ‥‥もしそう返されたら、拗ねるのか照れるのかは今の内から考えておいた方が良い気がしてきた。  いつもよりだいぶ早く家を出て、待ち合わせ場所の広間へと向かう。 30分は早めに到着しそうだけど、 あの人はどうせ時間ギリギリに来るんだろうし、広間の手前にあるカフェで、モーニングの珈琲を頼んでおこう。 「‥‥あ」 そんな皮算用は、広間が目に入った瞬間、あっさり崩れ去った。 噴水の近くで、暇を持て余し気味にぼんやりとしている彼が居た。 ‥‥ちょっと、落ち着け私。 別に、どうって事はない。 彼はただ、約束の時間より大分早く来ただけだ。 時間前行動は大事だし、早めに来るのだって当たり前だろう。 私だって、こうして30分前には来ているんだし。 ‥‥だから、彼が早く来ているのは当たり前なんだ。 でも、そんな当たり前の光景が、私の胸を高鳴らせる。 平静を保てなくなってしまう。 ニヤけてしまう頬を、思わず手で覆った。 いや、落ち着け落ち着け、ほら、私とお出かけするのにいつもみたいな地味な服とかマイナスだし、 きっとただいつもより早く目が覚めたとかそういう理由だろうし、別にちょっと嬉しくなって早く来たとかじゃないと思うし。 一旦落ち着いた私は、彼の元まで少し早足で近付く。 待っている所に向かう感覚は、なんだかとても気分が良くて。 「ごめん、待たせちゃった?」 お決まりの台詞に、今来た所だ‥‥なんてベタな台詞が帰って来る。 ウソつけ。 さっきまで人を待っていて暇で仕方が無くございます、みたいな表情してた癖に。 すると、私がいつもと違う事に気付いたのか、彼が私の服装をまじまじと見てくる。 ‥‥な、なに? 何か変な所でもある? 思わず彼の顔を、こちらもと見上げてしまう。 私の視線に気付いた彼は、顔を赤くして目を反らしてしまった。 え、もしかして。 え、え? ‥‥‥‥ふーん? 思わず、私まで顔が赤くなりそうになる。 言葉にしなければ伝わらない、なんて言うけれど、今の様子じゃ一目瞭然だ。 何やらモゴモゴと褒め言葉を言ってくれているようだが、浮かれた私には全然耳に届かない。 ‥‥や、ヤバい。 これ、嬉しいかも。 「ほら、行こ!」 無理矢理手を引いて、話を中断させる。 握った手から、互いの鼓動が伝わるような気がした。 ‥‥あぁ、ダメだ。 私今、絶対にやけちゃってる。 だってほら、振り向けばきっと彼の顔だって赤い筈。 私は、浮かれる気持ちを抑えきれないまま、目的地まで彼を引っ張り続けた。