せっかく洗った端から、男の身体には新たな白い滴が跳ねるのであった。 にも関わらず、彼は自身の肌にその汚れを跳ね掛ける――背後の影に怒るでもない。 むしろ鏡越しに、その様子を伺いながらにたにたと無精髭の残った顔を歪ませるのである。 普段笑い慣れていない彼の顔は、引きつったような粘ついた笑顔にしかならない。 まして二人の置かれている現状は、一層男の笑顔の醜さを際立たせる。 それに比して彼女の笑顔は、柔らかくも人馴れのした、愛嬌のある風であった。 その中にどんな感情のあるにせよ――それが外に現れてくるようなことはあるまい。 彼らは夫婦と見るには、あまりに歳が離れていた――下腹の出だしただらしない中年太りと、 まだ水をも弾くような若い肌。そして二人の足元にはぎらついた蛍光色の敷物があって、 頭上より緩やかに注ぐぬるま湯の粒が、断続的に当たって軽やかな音を立てている。 それに濯がれて――男の背の泡も、少女の手に握られた洗い布の泡も、下水の中へと落ちていく。 だがまたすぐに、彼の背には白い飛沫が掛かる。それを彼女の乳房が拭うように広げる。 柔らかで――重く、下品なまでに実った脂肪の塊を、男の背に擦り付ける。 時折彼女は、自らの手で――その大きな胸を持ち上げて、彼の背に乗せてもみせるのだった。 そのたびに、自重や男の背肉の圧によって押しだされた白い液体が、垂れる。 石鹸の白い泡、垂れ落ちる白い雫、若々しい白い肌――それらに囲まれてなお、 少女の黒々とした乳首は――そして乳輪は、異様なまでに目立つ。 彼女の歳がようやく二十に乗るかどうかということを踏まえれば、 その色はあまりに熟しすぎていた。子に乳をくれてやるために最適化された色、 母となる準備を十分すぎるほどに整えた雌の色――男の唇はなお歪む。 当然、陰唇も同じく黒く染め抜かれてしまっていた。彼の手によって。 泡を出し尽くした洗い布に、少女はまた液体石鹸を注ぎ直し――そこに自らの乳首を向けて、 ぎゅうっと、根元から搾るように力を込める。するとほとんど抵抗もなく、 白い筋がぴゅうぴゅうと噴いて水気を足し、布を揉み込むうちに新たな泡が起こるのだった。 そしてそれを握って、男の身体の前半身の――背後からでもわかるほどに勃起したものを、 彼女は洗おうとする。その手つきはひどく手慣れていた。むしろ、笑ってさえいた。 八重歯の覗く口は、蠱惑的な――歳不相応の淫靡さを纏っている。 縦幅のある太い下がり眉も、芋臭さより艶めかしさを演出していた。 この顔と身体に誘われて抗える男はいない――誰しもにそう思わせた。 彼はそうしたうちの一人である。そして彼女の若い卵子を射止めた幸運な一人である。 男達の間を渡り歩いて――趣味のための小金をいくらか貰って、友人達と遊び回って。 それが彼女にとっての日常だった――だが倫理に反する行いを天は赦さなかった。 完璧にしていたはずの避妊の法も、偶然と偶然の重なり合いのうちにすり抜けられて、 たった一本の赤線の出た日に、少女の生活の全ては破綻したのだ。 籤は当たるやも、と思わせてこそ意味がある。外れしかない籤を引くものはいない。 若い雌を抱くのも――その胎に、己の子を生したいという雄の本能に刺激されてのもの。 他の雄の手つきである雌は、子宮が空くまで自分のものにはなりえない。 彼女の市場価値は、その一点で暴落したのだ。無論倫理的な成人君子たちは、 身重の彼女の身を慮ってのことだ、などと嘯くのであるが―― 収入が断たれれば、それまで成立していた均衡は崩れる。趣味の集いに顔を出せなくなり、 同時に、みるみる重くなる腹の扱いを決めなければならぬようになった。 街で営業を掛けても、服で隠しきれない身体の線は、男たちを遠ざける。 仮に連れ込むことに成功したとしても、ぽってりと膨らんだ臍下の盛り上がりを見るに、 彼らの股間がしなしなと勢いを失っていくことは茶飯事であった。 単純に、期待していた働きのできぬことだけではない――女として、雌としての魅力が、 胎の膨れるにつれ、目に見えて下落していくことは彼女には耐え難いことであった。 そして孕み女に好色な目を向けるものは、生物の道理より離れた異常者しかいない。 そんな相手に身体を開けば、自分はおろか――この子はどうなってしまうのだろう? 自分の種でない若い妊婦を金で好きにしようとする男など、碌な人種であるわけもない。 “仕事”用の携帯の履歴を遡って営業を掛けても――己の種と認める男は現れない。 それも当然である。彼らからの囲い込み、身請けの話を断ってきたのは彼女自身であったし、 しっかりと避妊を徹底する様子を見せつけて――万が一、を否定してもきた。 そんな女が今更、妊娠したのは貴方の子供の可能性があると擦り寄ってきたとして誰が呑むか。 心身の均衡もまた崩れ、雄から求められぬ日々が続き――親兄弟から逃げ隠れ続け。 やっとの思いで、かつての太客の家に転がり込んだのが三月前のことである。 そして――その代償に、彼女は己の肉体の全てを雄に差し出す術を仕込まれたのだ。 ご無沙汰の身体をじっくりと、ねっとりとほぐされ――前の穴も後ろの穴も、 彼の形を覚え込むまで毎日ねちっこくほじくられ、何度も絶頂させられた。 それまではわずかに滲むだけだった乳汁も、搾られる前からびゅうびゅう噴くように、 乳腺をしっかり開かれきったのも――ここに寝泊まりするようになってからである。 自分の身体を男の好きなように作り変えられていきながらも、少女は文句を言わなかった。 まだ己の身体が――雄を惹きつけ得るのだと、その事実に酔っていた。 身体のあちこちに――硬く反り返った男性器を擦り付けられ、臭いを塗りたくられるたびに、 彼の持つ底なしの欲が、失敗した生き様をどろどろに溶かしてくれるように感じた―― 彼の身体を洗おうと再び手を伸ばした彼女の手を、男の手が握る。 そのままくるんと半身を返し、無防備に半開きだった弾力ある唇に舌を差し込んでねぶる。 少女は驚きもせず、侵入してきた彼の舌に合わせるように己の舌をくねらせ、甘えた。 彼の背に腕を回し、乳と胎とを押し付けながら、彼の指が尻たぶに沈んで肉をこねるのを、 腰に伸びて腹との境目を撫で――妊娠線を爪の先で擦るのを、 乳房に上がって、乱暴に握って乳腺の中の乳汁を搾り出してくるのを、全て受け入れた。 時折、関西弁交じりの冗談めかした拒絶の言葉を吐きこそすれ。 少女がこれだけ献身的になったのは、何も妊娠後に優しくされたのが初めてだったからではない。 彼の家に転がり込んで――半月もせぬうちに、彼が一枚の書類を見せたのである。 それは彼女が求めた答え。寄る辺なき胎の子の父の定まった証――と同時に、 もう一枚の書類に己の名と拇印を残すことに、彼女は躊躇しなかった。 たとえ父と娘ほど年の離れた相手に、一生囲われることになったとしても。 男は何度も彼女の身体を味わい尽くし――己の子を産むだけの雌へと作り変えていった。 彼が命ずれば、尻の穴まで舐めるだろう――かつての彼女が嫌い、恐れた行為でさえも。 男は口付けの間も、彼女の若い肌を――自分のためだけに在る身体を、執拗に撫で回す。 この一人目だけで済ませる気はない。空けばすぐにでも。いやさらにその次も。 己の苗字に書き換えさせた若い女に、己の子を仕込み、産ませ、育てさせる―― それに憧れない男はいまい。彼はそれを成し遂げたのだ。 そして二人の身体が離れた後は――お待ちかねの、親子の対面の時間である。 男は彼女の臨月胎がよく揺れるように、壁に手をつかせ、その後ろに立つ。 尻たぶに爆発寸前の槍を押し当て、今にも入れるぞと無言のままに語る。 金のため、嫌々ながらにしていたその姿勢を――今の彼女は望んで取る。 ゆさゆさと、重い乳と腹とが揺れるのも邪魔どころか――彼を喜ばせる材料に、自ら、する。 たとえ彼の寝室の箪笥に、あの時飲んでいたはずの避妊薬の包を、見つけた後だとしても。