吾輩のビジネスであります…… 七割がパロディ 登場人物 前作で四式を持っていた戦術人形……指揮官を求めていたが、身に余る力によって完全におかしくなってしまった。 01 営倉。 最近、爆撃で焼肉にされる夢を見たであります。確か、その前は投資家になる夢…… 「ああ、金持ちになったら指揮官に好きになってもらえるかな……」「夢を叶えてあげましょうか?」 「な、なんでありますか!」隣の鉄格子から薄くて細い、白い手が伸びていた。 「投資マニュアルに興味は無い?」「通報するでありますよ?」「金持ちになりたいんでしょう?」 吾輩は欲望に負けた。 「いやあ、どうもどうも。今のこの国は働き口に欠けていて困っていたところなんです、へへ……」 薄汚れたレンガの街には不似合いなデカダン・ロクサット様式の綺麗な建物で吾輩はこの男と握手した。 吾輩は株取引で元手を稼ぎ、東欧の某国に工場を建てるところで、契約はこの汚職役人を通す必要があった。 「これで家族を腹いっぱい食わせてやれるぞ!」 「えー、この工場も数か月運転してきたところですが、今日は皆さんに吾輩からのお知らせがあります」 「なんだ?」「あの人形は誰だ?」オフィスから出てきたのは鉄血の技術を使用した人形だった。 「皆さん、こんにちは。私はデフェネストレイターです。今日から私がこの工場を統括させていただきます」 「話が違うぞ!この汚らしい金持ちが!」レンガが窓を打った。 「ユーザー。以前解雇した労働者からの抗議が79%と甚だしく増加しています。直ちに対処するべきです」 「その辺は想定内であります。吾輩が何故お前を作ったかわかるでありますか?」銃声、警備人形が片付けるだろう。 「わかりません」「そうでありますか。オーガスプロトコルの方が今後都合がいいからであります」 彼女は無言だ。「この国を覆うトップダウンの無人機ネットを構築して、お前をトップに据えるのであります」 「人間の労働者の雇用を奪うどころか、この国を無人地帯にするおつもりですか?」 「そう言ったであります。吾輩が人形の帝国を作り上げて、やがて指揮官殿に全部あげるであります!」 「残された人間に社会保障を与える予定はありますか?」少し考える。「それ、吾輩に何か得が?」 「そうですか。あなたの指揮官はそんな事望まないでしょう」 デフェネストレイターは真顔になり、吾輩を掴んだ。 「え?え!?やめるであります!やめるであります!」「これは指揮官からの伝言です……お前は人形の屑だ!」 「うわああ!」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 02 またデジャヴであります。吾輩が死ぬ夢。それに蝶の舞う幻覚…… 「メイリン殿、ちょっとメンテ頼んでいいでありますか?」「今日はダメです~……絶好の飲酒日和です~……」 「指揮官殿!」「私は二日酔いだ……それに」「それに?」 「ヘリアンさんに愚痴られてね。なんでもマッチングアプリに登録しても成果無しだそうで。傭兵の何が悪い!って」 少し考える。 「ナガン殿。吾輩とビジネスする気はないでありますか?」「わし、もうお金は普通に働く分で十分じゃよ」 ナガン殿は遠い目で窓を見つめて、低い声で笑った。 「わしはもう十分稼いだからのう」「貧乏警官なのに?」「そういう夢を見たんじゃ。対価は苛烈じゃったよ」 ちぇ、夢なんかよりもそこにある現ナマであります。 と言うことで吾輩はマッチングアプリをバイブコーディングしたであります。 労働者と雇用者が一定のプロフィールと条件を入力すると、アルゴリズムが引き合わせるというもので。 イエローエリアにはそう言ったものがろくにないでありますからな、こういうのがあればいいであります。 「へえ……やるじゃないか」 ふふ、指揮官殿に褒められたであります……もっと褒められたいであります! かつてロクサット連盟と呼ばれた地域は、吾輩の作った恒久戦争アルゴリズムが支配するエコシステムと化した。 吾輩と指揮官はどこに?コーラップスの膜より上にある、楽園に等しいスペースコロニー。 『バスティ、聞こえてる?』謎の無線信号を傍受した。 『あなたの泥棒猫のハウスはそこよ』穢れきった地球が映る空に、一筋の光が映った。 吾輩は咄嗟に隠していたアサルトアーティラリーに死んだ目の指揮官を放り込み、それから飛び込んだ。 「クソッ、一体どうやって!」 初代武装機兵型AAがガラスの天井を蹴破った。空気が抜ける。填隙剤の泡が自動的に放出された。 敵は首を回転させ、頭部自動砲を同時に乱射した。まるで吠えるかのように。真空状態により、資金源が酸欠で死んだ。 『死ねェ!泥棒猫!』「貴様ぁ!」吾輩は自動砲を速射した。だがあのAAは柔らかい動きで前転し、全弾を回避した。 双方、ブレードを抜いた。切られたのは、吾輩だった。 吾輩が、負けた……? 指揮官が敵のコックピットに移乗した。吾輩は機械の巨人に指で掴まれた。 割れた窓から、太陽が見える。 「吾輩の、指揮官……」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 03 「ええ~!指揮官殿借金で首が回らなくなってしまったんでありますか~!?」 吾輩が叫んだ時、指揮官は死んだ目で借用書と金利の書かれた資料を見せてきた。 「おわぁ~」こりゃダメだ。 「ふふ、私の人生っていつもこうだ」「大丈夫であります指揮官殿、吾輩がちゃんとお金を稼いで来るであります!」 海! 「ふふっほ……うっぷ……」 マグロ漁船がこんなにキツイ職業だとは思わなかった。ああ、何てことだろう。こんな風になるなんて…… でもエルモ号の借金、返済するには吾輩がとんでもなく働かないといけないんでありますよなぁ。 あー……や、やばい……上に上がってきた。ベレー帽が海へと落ちていった。それが引き金となった。 「オエエッ」「おら!娘っ子!こんなところでへばってどうすんじゃ」船長に声をかけられる。 お礼を言おうとしたんだけど……吾輩が目を向けたらELIDダツに頭を貫かれ、ゆっくりと倒れるところだった。 「ああ~!船長!」「海賊も来たぞ!」「どうすんだよ!俺ら銃持ってるけどほぼ素人だぞ!?」 「吾輩に任せるであります!」出来る根拠は無い。だが吾輩はここで船を乗っ取ることにした。 これが……権力への第一歩であります! 考えてもみよう。水産資源とは生物だ。地球上の生物は北蘭島事件のせいでELID化しつつある。 となれば環境保護の為にはこんな風に魚を取ったりしてはいけない!吾輩が地球を守らねば…… 吾輩は政治家に賄賂を贈ったりして、国際的な漁業規制と無人魚介類養殖培養業の許可にサインさせた。 指揮官の借金はどうなる?吾輩の作り出した自動的スシ培養エコシステムは既に強烈に回転を始めている。 あの程度、はした金に過ぎないということであります。 吾輩の屋敷。 「オラァ!職を奪った奴出てこい!」「家族を養えなくなってんだこっちはよぉ!」「飲む打つ買うも出来ねえ!」 「ああ~!なんてことであります……」世界各国の漁業従事者が集まり、吾輩の屋敷に押し寄せてきたであります! 指揮官殿に電話をかけた。「テレビ見たでありますか!?助けて!」「君はやりすぎたんだ。自業自得だよ」 き、切りやがった! 「この地球を汚す悪魔共!魚を無尽蔵に取ったら貴様らの食い扶持も無くなるでありますよ!」「なんだと!」「殺せー!」 「クロ!撮影してないで助けるであります!」「いや面白いから続けて?」「ああ!?……ああ~!!」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 04 「指揮官殿は、子供の頃何になりたかったんでありますか?」 「どうだろ。もう正直このところ十年間いろいろありすぎて昔の事とかあんまり覚えてないんだ……」 「定番は……ヒーローでしょ?子供の頃の夢」ロベラが横から入ってきた。 「ハハハ、それもあるかもね。ヒーローか」「なりたいでありますか?」 「なれるなら、少しはね……」 あれから10年。 所属不明の自律ドローンが砲火によって都市を燃やす中、肉塊がビル街を這っていき、市民を飲み込んだ。 マーダードローン。シュライク。 それが吾輩達の敵だった。2075年、奴らがロ連と南極を同時に襲った時、大国の同盟が成立したのだ。 「皆さん!ネオグリフィンの人達が助けに来てくれました!」レポーターの人形が歓声を上げた。 「指揮官殿!」「ああ!」フルフェイスに外骨格を着た人形達がVTOLから降下し、片膝を付けて着地した。 「ヒーロー達が来てくれたんだ!」「母さん!俺達助かったんだよ!」「あなた!」 「ネオG&K、作戦開始だ!」……指揮官殿、念願の叶ったこの状況は楽しいでありますか? ……吾輩は、最高に楽しいでありますよ! さらに10年。 「ピュアG&Kの部隊が吾輩のオフィスビルにまで到達?クソ!」 自作自演でのサステナブルウォーとそれを利用した経済操作がバレたのがまずかった。ロ南連合は内戦状態だ。 「ジャスティスG&Kの部隊は……」最終防衛ラインが外骨格を着た人形達に突破された。 金庫の番号は……ああ、エルモ号に何とか乗り込めた日だった。さ、金塊をバッグに詰めよう。 「もうやめよう……こんなことして何になる」指揮官殿? 「何に、って……無限に金を稼いで、あなたに全部を……与えたかっただけであります!」 「冗談キツいよ。ねえ、これ見える?」クロがカメラを向けながらM14と二つの指輪を見せた。 「ペアリングでありますか。吾輩も作ったんでありますが、肝心な時に……」クロが拳を振り上げた。 テーザーを抜いた。「ぐあっ!」「クロ!」「う……動かなくしてやったであります!」 「てめえ!」外骨格を着た男が入ってきた。に、逃げなきゃ…… 逃げて、吾輩の金塊さえあれば、それ元手にして、いつかは指揮官を……あっ。 外骨格の手で持ち上げられた時、床に落ちていく金塊の表面に、吾輩の顔が映った。 ……誰だお前? 吾輩は窓から投げ捨てられた。 05 「なんというか、最後になると地道に働いて目の前の問題を解決するしかないと思うんだ」 「吾輩の指揮官殿はいいことを言うでありますなぁ!」 「だから、ね。変な商売とかに手を出さずに真面目にやってくれないか?」 「しかし指揮官殿。それでは吾輩が変な商売をやってえらい目に遭ってそうな口ぶりでありますが……」 「夢を、見たんだ……」 「きっと疲れてるんでありますよ指揮官殿は。予知夢なんて映画じゃないんでありますから……」 建材の入ったバッグを背中に抱えて、高層ビルを超すようなメガストラクチャーの骨格を歩き回った。 アクチュエーターが悲鳴を上げる。このまま行けば膝関節の固体潤滑剤まで消耗するだろう。ああ。嫌だなあ。 「夢なんてどうでもいいからさぁ、何で私までこんな肉体労働してるわけ?私ホワイトカラーだよ?」 クロが呟いた。「だってクロ殿はいらんこと言って指揮官殿を怒らせたんじゃ……」 「うるっさいよ、アンタら働いてる間に私はネットで配信するから、さっさとネットを修復しろっつっただけじゃん」 「社長が体調を崩してるらしい……」建設会社の兄ちゃんの話を小耳に挟んだ。 ふむ、建築の事業をやるのもいいかもしれない。 大手ゼネコンの中に潜り込んだ吾輩はそのスペックで急速に頭角を現した。 なんてことはない。人に本質的に必要なのは正しきマインドセットだ。 無限の向上心と鋼の意志さえあれば人類は神にすら到達できる。人形も人類であるなら、簡単な話…… 「クロ殿、準備はいいでありますか?シャブコン混じりの防護壁とロ連中の建設会社の談合を同時に発表するから……」 「私は合わせて株を売り抜ける。指揮官は公表に合わせてパラデウスとの繋がりが疑われる会社に人形を送り込む」 「あなた達、こんなことやって何になるんですか……」オレンジ色の険しい目が吾輩を見た。 「吾輩がゼネコンの女王になったら、指揮官殿にはバイスプレジデントの地位を与えるであります。これはその前段階」 計画は滞りなく進んだ。ロ連全体が大混乱に陥ったが、弊社は内部留保のおかげで想定通りのダメージで収まった。 ある日…… 「なわー!?」警備の戦術人形の悲鳴が聞こえた。血の付いた高周波ドスを持った知らないおっさんが入ってきた。 「弊社従業員の敵ーッ!」「誰ー!?ああっ!」クロ殿が刺された! こっちに来る!?「な、なんでありますかーっ!?」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 06 「ハァ~!?今のボールでありますかぁ!?どういう判定でありますかッ!」 五分後。 「いやいや、今のはどう見ても胴に剣先が当たったじゃない」 TV中継でスポーツを見ていて、何となく人間の審判はある種の心理的レバレッジで結果を捻じ曲げている気がした。 「スポーツにこだわりすぎじゃない?」ヴェプリー殿、わかってほしいであります…… 「タバコある?」「ここ禁煙でありますよ、指揮官殿」 吾輩は株取引で元手を稼ぎ、スポーツ業界に参入したのであります。 つまり、我々は審判を完全に機械化した。 AIによる完全な公正なシステムを人類種に導入し、ロクサット最大化を行ったのであります。 「ねえ、ヴェプリー思うんだけど、この状況だと審判はストライクにするよ。負けが込んでるチームだからね」 「ボール!」「あれ?あの審判なら……」「AIによる判定だよヴェプリー。正しいけど温かみが無い気がするな……」 温かみ?気持ち?そんなの不要であります!スポーツは厳正なシステムの中で力と力をぶつけ合うものであります! 人類はあるべき形に収束するべきであります……これがポストスポーツの時代であります! 数日後。 「ずいぶんと調子良さそうだな……我々の夢を踏みにじったとも知らずに」 屈強なPMC共が吾輩のゲーテッドコミュニティ邸宅に押しかけて来た。 「な、なんだ貴様らは!こんな風に侵入してくるとは!」 「お前は我々の業界を踏み荒らした。意味は分かるか?お前はな、我々の操作によるスポーツ界の支配を挫いたんだ!」 「なんでありますかそのゲームみたいな陰謀は!それにスポーツは常に健全であるべきであります!」 「それは貴様のエゴだ!我々のエゴは違う!我々の勝つべきチームが勝つべきチームだ。力が上回る方ではない!」 「この大脳皮質が大きく高い知能があるくせにロクサット化のされていない野蛮な種族が……!」「死ね!人形!」 吾輩は秘密スイッチを押して、暗号化通信でヴェプリー殿に指示を出した。 「何!所属不明の複数のアサルトアーティラリーが一斉に我々のスポンサーを襲撃している?バカな!」リーダーが叫んだ。 「吾輩と道連れにしてやる!全員死ね!」毒ガスが周囲に充満していく! 最後の力を振り絞って奴がこっちに来る。拳銃が外骨格に弾かれるが、それでもゆっくりと……吾輩の所に! 「うわああ!」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 07 「もし指揮官殿が吾輩が作った会社のトップになれるとしたら、嬉しいでありますかぁ?」「会社の中身次第かなぁ」 ここで吾輩はスタートアップ企業三社、軍用製造業、義肢、生物工学の三種類を買収したのであります。 「ヴェプリーね、今この会社のフレシェット弾を試供品で貰っちゃったの☆」賞金ハンターの案件撮影は順調らしい。 さて、これは三角形の経済還流の作成であります。 「これが俺の……新しい脚?」「あなた!」「俺は立って歩いて、君を抱きしめられるんだ!」「カット!」 「いやー、本当にありがとうございます。まるで本当の肉体のようで、もうなんて言ったらいいのか」 「ああ、退役軍人殿。それなら弊社のプロダクトを他の人達に拡散して欲しいのであります。出来るだけ多くの人に……」 人々は欲望と恐怖に突き動かされ、必要でもない物や必要な物を徹底的に買い漁る機械であります。 弊社がこのネットを作り上げ、弊社以外に手を出す気になれないようにすれば、資本のサイフォンが完了するのであります。 「うう~」あっ指揮官殿。負傷してしまったのでありますか?弊社の再生治療プロダクトへの案内をしているのであります。 さあ、ここにサインを。 「つまり君は兵器で他人を傷つけて、義肢か再生治療を使うかを自社で完全に完結した流れを作ったのか」 「そうでありますよ!」「最低だぞお前!」指揮官は唐突にキレた。 「違うであります!兵器を使うのは汚い人類の業であります。わが社は撃つ側と治す側の両方で稼ぐだけであります!」 資料を胸に押し付けた。 「全部サステナブルウォーを終わらせられないおバカな人類が悪いのであります!吾輩はその流れに乗っかっただけ!」 「君はそんな……倫理的じゃないだろ。良くないよ」「法律に適合した商売でありますよ!?さあ!これ!」 書類を押し付けた。 「この書類にサインして社長になればいいのであります。全部あなたのものであります!」 「いらないよこんなもの!」ビリビリ。「あー!なんで!?」 「付き合ってられるか!私はCEOのマインドセットなんてもうたくさんだ!」「指揮官殿ー!」 入れ違いに知らないおっさんが入ってきた。 「チティーリ・コングロマリットのCEO……だね?」「誰」 「おじさんはかつての倒産した主要軍事企業や被害者一同にクラファンで雇われた殺し屋だよ。じゃ、死んでくれ」「え?あ゛ー!」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 08 「あーあ、ヴェプリーももっと給料欲しいな~」 「ヴェプリー殿、ちょっと時間あるでありますか?」「何何?……ねえ!アレな商法でしょ!」 「吾輩そんな事無いでありますよ!とにかく読むであります!」「凄い!ヴェプリー経済分かった!」 数ヶ月後。 「皆聞いて。北海道経済が完全に破綻したわ」グローザが新聞を回した。 「ハハ、なんだそりゃ。もうエイプリルフールは過ぎてるぞ」指揮官が笑った。 「そういえばヴェプリーはどうした?」「北海道に行くって言って姿を消しているの……」テレビをつけた。 『あ゛ー!』『大変です!北海道のロ連アイドル技研ビルから人が落ちてきました!』 ピザ君を背負っている高級スーツの少女がビルから落ちていった。 「ヴェプリーに似てるな。そういえばクロはどうした?」「知らない!吾輩知らないであります!」 『あ゛ー!』『大変です!南米のサイバーメディア支社から人が落ちてきました!』 「何だアレは!?」 エルモ号から降りると、高級スーツを着た手と黒と白のツートンカラーのリボンが木の洞から突き出ていた。 や、ヤバいであります!吾輩とツテのある人形オリガルヒが連続殺人事件に巻き込まれているであります! 「一回整理しよう、君は何かを知っているな?」指揮官は吾輩に電撃ビリビリ棒を押し付けた。 「ぐああ!投資マニュアルをシェアしただけであります!吾輩が知ってるのはそれだけであります!」 「マニュアルを読んだだけで南米と北海道の経済が崩壊するわけないだろ!何をした!」 「知らないであります!クソみたいに疑いを向けて暴力をふるうとは、指揮官も人類野郎だったでありますか!」 ビリビリ。「ぐああ!」「もういい!君が拡散したマニュアルを読ませろ!」 シェアした。「なんてことだ!私にも経済がわかるぞ!」指揮官は叫んだ。 数ヶ月後。 「皆聞いて。全世界同時経済破綻が起きたわ。半導体産業が終わったから人形という種も終わりね」グローザが言った。 「大丈夫だ。私達には自動工場があるからな。ロ連が終わっても私達は生き延びられる」 指揮官殿はなんか心が汚くなってしまったであります。 「ちょっといいかな」ボロを着た眼鏡の男が入ってきた。「サーか?ハハ!汚い服だな!」 「君はとんでもないことをしてくれたな!死ね!」「あ゛ー!」指揮官は窓から投げ捨てられた。 「指揮官殿!……吾輩もでありますか!?」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 09 もう一回普通にいい感じに稼ぐ道を選んだ方がいい気がしてきたのであります。 唐突に鳴るスマホの音で心臓発作を起こしかけた後、吾輩はしかめっ面で応対を始めたのであります。 『新作は書けそうですか?』 「ふ、ふええ!吾輩週間連載はもうごめんであります!ネタも切れてて……手首のアクチュエータとか……酷いから!」 『新作は書けそうですか?』 機械的な繰り返しが帰ってきた。 うう~…… さて、吾輩はこの際売れる漫画を描くということでやっていこうとしたのであります。 主人公のモチーフはもちろん指揮官殿で、後はG&KのNDAに触れない程度に抑えてかつての戦闘を書き…… 読者の脳に指揮官殿を田んぼの稲のように植え付けたいところでありますが……う~む。 売れ線を行くために銀髪でいい体形をしたヒロインを導入するのであります。最近は配信物が流行っているからこう…… 後はそうでありますな……いくらかの国々をマクガフィンで崩壊させておいて…… 『メンヘラ系キャラクターが流行っている昨今ですが……』テレビの声が聞こえてきた。 う~む、メンヘラ美青年と指揮官殿をいい感じに足して……後は過酷な展開を組み合わせ……出来た! 「ね~これやっぱ私に似てない?」「銀髪ってだけで精神性はまったく似てないと思うでありますよ!」「またまた~」 クロ殿を軽くあしらいながら入ってきた凄い額の印税を脳内で処理した。 まったく読者ときたらナイスバディな女と美青年を山ほど出せばアユの友釣りであります。ちょろいでありますな。 メール?『君は秘密を拡散しすぎたな』ゴミ箱に突っ込んだ。 いやいや、秘密サイボーグを抱えた悪の組織と政府が10年経っても繋がってるわけないであります。 さて、山ほど売れたところだし主人公とヒロインに強烈な悲恋を迎えさせて苦く苦しいエンドにするであります。 えらい燃えた。 印税で買った名刀を鞘に収め、ロ連から送り込まれたネイトの残骸を窓から投げ捨てた。 もうロ連の暗殺者とトチ狂った読者の区別がつかないであります! 「うう……ひ、ひどいよ先生……なんで彼くんと配信ちゃんの幸せな結婚で終わらせてくれなかったの……?」 あっクロ殿!何でありますか物騒なブレードなんて持って……そうか、こいつも敵か。 鍔迫り合いになるはずだった。クロはブレードを点滅させ、刃をすり抜けさせた。脊椎に粒子で穴が開く。 吾輩は窓から投げ捨てられた。 10 人手が足りない時はサブエージェントを雇用・作成などして活動するのがマニュアルの一部であります。 しかしそれが人間だったら?意図しない挙動やカオスの原因を計画に導入したらどうなるか?そんなことは自明。 吾輩は吾輩をコピーしてグリッドを形成することにしたのであります。 吾輩は旧EUの権力者の秘書人形として雇われたのでありますが…… 「秘書くん。人形規制法案を議会に提出するから、これの改善点を詰めてくれないか」 「了解でありますが、これって人類の進歩を遅らせる気がするであります」「ああ、でも私達の権力は保たれるだろ?」 ホワイトエリアの信号機の整備をする吾輩と目が合った。 吾輩は多分……死ぬ。でも吾輩の総体の、そして付随する人類の向上の為なら、そう悪くない気がしたのであります。 吾輩は北海道のホワイトエリアの老人介護施設で働いていたのであります。 「君は絵が上手いねえ」「ありがとうであります」今漫画を読ませているこのご老人は引退した政治家でありますが…… 定期的に息子の現役の政治家と会っているのであります。 ところで、吾輩は絵を通して人形がいかに人類を助けるかを識閾下に刻もうとしているのであります。 「君……どこかで会わなかったか?」サー・グリフィンが質問した。 「気のせいであります」「しかし……」吾輩は三秒後に死ぬのであります。総体の為に。 あれは賞金ハンター。あれは農家。あれは漫画家。あれは配管工。あれは警備員。あれは投資家。あれは指揮官。 あれもこれも、全部吾輩であります。吾輩は一人一人を助けるプロダクトとして形成され、そして成立するのであります。 「なあ……」指揮官殿?「なんか……街を歩く人形が皆同じソフトで動いてるように見えるんだ……」 吾輩の指揮官殿は目ざといでありますな。しかし、危険でありますな…… 指揮官殿はスマホを弄り始めた。 「ああ、ダンデライオン殿……一体何故ここに?吾輩に何か用でありますか?」 「サー・グリフィンお付きの運転手が事故を起こしたって話は聞いてる?」「不幸な事故でありますな」 「その運転手の人形が地球を覆うネットを形成していたことは?」「アマチュアSFでありますか?」 「ヘリとイフィがね、吾輩ってつけて喋るようになったの……どう思ったと思う?」自分を指さしながら言った。 「どうって……」「ビックリするわ!」「うわああ!」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 11 「全部人類が悪いのであります」吾輩はクルーデッキでそう言った。 「あ~……つまり?」 指揮官殿ぉ、でありますからぁ、人類種全体の知能を上に強制的に引き上げる事が出来たらでありますよ? 例えば人間と人形の境目を無くしたりして、全員をエッジなスパコンの入った遺伝子改造の改造人間にしたりして! そうしたりして人間の知的能力が上がったら、戦争とかそういう不合理な行動はしなくなると思うのであります! 全部QCの問題でありますよ!未来すら理解できる知性さえあれば全ての行動を最適化出来るはずであります! 「……いや、なんというかそういうのは良くないと思うんだ。強制したりとかさ。人には人の人生がある」 うん、でもね…… 「この話物騒だからやめない?」指揮官殿! 「ねえ、ヴェプリー思うんだけどいくらスピーカーいいのに変えても演者がヘタクソなら何やっても同じでしょ☆」 ぐっ…… 「ハァ?地球人全員ラボに送り込むとして予算どうすんのよ。アンタの財布から無限に沸いてくんの?アホでしょアホ」 吾輩が株で稼ぐのであります! そして吾輩は吾輩の計画を実行し、人類種はいっこ上のヒューマンとなってしまったのであります。 地球。数年後。 「また核兵器が撃ち込まれたぞ!」『本日の天候は毒ガスです。マスクを着けて外に出ましょう』 うおーっこいつら何でいつまでたっても戦争してるのでありますかッ!? 吾輩達はコーラップスの膜を超えて恒星間航行とか出来る能力を獲得したのでありますよ!? 「バカだね君は。人類が賢くなったから戦争をやめると思ったのか?」指揮官殿! 「人は短期的なエゴや思想に基づいて殺し合っていたのかもしれないが、今はただエネルギー収支で殺し合ってるんだ」 クソ!過去の人間より賢くなっても今度は理屈の上で殺し合うようになってしまったのでありますか! 指揮官殿……吾輩はどうすればよかったんでありますか?吾輩はただ世界を良くしたかったのであります…… 「普通に目の前の苦しむ人を日々助けたりしてくれればそれで良かったんだ」 でも、それじゃあまりにスケールの大きい問題を三秒以内に解決することは出来ないのであります。 後なんか吾輩の経済マニュアルが通じなくなってるんでありますけど。 「ああ、私が対抗策を構築して、対処したんだ。君が私の身体を勝手に改造したのを私は許していないぞ!」 「あ゛ー!」 吾輩は窓から投げ捨てられた。 12 ロ連には実はロクサット主義者の異端が大量に紛れていて、資金提供を待ち望んでいるそうでありますが…… 『個々人ごとに調整された仮想世界に脳を直結し快適に過ごさせ、現実では労働させる』「チェンジであります」 『人形と人類の境界線を無くし、全員をポストヒューマンにする事で革新に至らせるのだ』「チェンジであります」 『人類全体をモジュラースケーラブルで改良可能な電子生命に改善して世界に適応させよう』「チェンジであります」 『我々は多分もうどうしようもない。人類全体を適当な手段で一斉に安楽死させるべきでは』「チェンジであります」 『遺跡技術を通して人類の精神を一斉に幸福な世界線にアップロードさせましょう!』「チェンジであります」 『世界全体を加速させて、脱出速度に到達させるわ。世界を芸術的か破滅的に蕩尽しましょう』「チェンジであります」 ……ダメだ、頭がわやであります。 その後来たサー・グリフィンの着信を拒否しようとした時、後頭部に銃を突き付けられた。 『君に拒否権は無い』 何でありますか、機械なら都合よく使えるとでも? 数ヶ月後。 案の定サーが遺跡を爆発させたであります。 ……吾輩も範囲内でありますよ。 緑色の光に包まれた後、気がつくと見たこともない場所に立っていた。扉が目の前にあり、押すとゆっくりと開く。 扉の更に奥のスクリーンには、吾輩が映っていた。成功者、あるいは失敗者としての吾輩。そしてその死。 「あなたは何がしたかったの?大量に金を稼いで、それを貢げば大好きな人が振り向いてくれると思ったの?」 女の声。「そんなところでありますが、それの何が悪いのでありますか」 「程度問題かもね……世界を狂わせて、本当に欲しい物は得られず、最後には死ぬ……それで楽しかった?」 「三途の渡し賃なら十分持ってきてるであります。静かにするサービスがあるなら、頼みたいところでありますが」 女が指を弾くと、廃れた教会に立っていた。 「これはお金で解決できる問題じゃない、私の個人的な気分の問題。そしてあなたは私には勝てない」 使い古しのM4カービンを彼女は構えた。 最後には世界に負ける運命が決まっているからって、吾輩が戦わない理由にはならない。 戦う理由になるのだ。 ……彼女のドレスはズタボロになっていた。 まだ動く片腕でステンドグラスの前に引き摺られて行っても、吾輩は後悔しなかった。 吾輩は窓から投げ捨てられた。