突き刺さるような冷気が支配する、完全なる銀世界。見渡す限りに広がる白銀の雪山と、その頭上に果てしなく広がる透き通るような青空のコントラストは、本来であれば息を呑むほどに美しい大自然の造形美であったはずだ。静寂に包まれた針葉樹の森は、枝葉にたっぷりと雪を蓄え、まるで白い衣を羽織った静謐な巨人のように立ち並んでいる。風が吹き抜けるたびに、細かな雪の結晶が陽光を反射してダイヤモンドのダストのようにキラキラと舞い散る。そんな幻想的な風景の中で、ただ一つ、その静寂と美しさを切り裂く異質な存在が、雪原の上を滑るようにして急ぎ飛んでいた。

スキンヘッドの頭部に、額に浮かぶ三つの禍々しい赤い斑点。つり上がった細い目と、薄く笑みを含んだ口元から時折覗く鋭い牙。和装を思わせる紫の肩衣と薄緑の着物を基調とした奇抜な装束を身に纏い、背後からはふさふさとした巨大な獣の尾が揺れている。悪魔界からの刺客であり、変幻自在の能力を持つ雪之丞変化魔であった。彼は今、これまでにないほどの焦燥感に駆られていた。その表情には、普段の余裕のある狡猾さはなく、何かとてつもなく恐ろしい事実を目の当たりにしたかのような切迫感が張り付いている。

「はっ！……早くペトラー様に報告しなくっちゃ！」

雪之丞の口から、焦りに満ちた独り言が漏れる。彼が目撃したもの――それは、悪魔界においてさえ恐れられる最強の一族、ラファール族の末裔に他ならなかった。その圧倒的な存在感と計り知れない力の片鱗に触れた恐怖が、雪之丞の背筋を凍らせていた。この重大すぎる事実は、一刻も早く直属の上司であるペトラーへと伝えなければならない。もし報告が遅れれば、どのような恐ろしい処罰が下るか分からない。己の保身と、悪魔族としての使命感が入り混じり、雪之丞は必死に空を駆け抜けようとしていた。

しかし、その急ぎ足は突如として遮られることとなる。

「待ちなさい！」

澄み切った雪山の空気を震わせる、凛とした少女の声。その声には、一切の迷いも恐怖もない、確固たる正義の意志が込められていた。ハッとして急ブレーキをかけ、雪之丞は声のした方向へと視線を巡らせる。

「誰？」

いらだちと警戒心を露わにしながら問いかける雪之丞の視線の先、雪に覆われた小高い斜面の上に、三つの影が毅然と立ち塞がっていた。

「あ、あんた達は！」

雪之丞の目が驚愕に見開かれる。そこに立っていたのは、彼にとって最も目障りであり、同時に倒すべき宿敵である三人の少女たちだった。それぞれが色鮮やかなスキーウェアに身を包んでいる。中央には、明るく燃えるようなピンクとオレンジのウェアを着た、赤みがかったピンク色の髪の少女、花咲ももこ。その右側には、クールな印象を与える青と紫を基調としたウェアを着た、長い茶髪の少女、谷間ゆり。そして左側には、活発さを象徴するような黄色とオレンジのウェアを着た、緑色のショートヘアの少女、珠野ひなぎく。

三人は、ゲレンデでの楽しいひと時を中断してまで、邪悪な気配を察知して駆けつけていたのだ。普段のあどけない中学生としての表情はそこにはなく、世界を愛で満たし、悪魔の野望を打ち砕く「愛天使」としての決意が、彼女たちの瞳の奥で力強く燃え上がっていた。

三人は同時にスキーのストックを雪に突き立てると、それぞれの胸元から、愛と光の力が宿る神聖なアイテムを取り出した。

ももこが掲げたのは、ハート型の宝石が輝く黄金のコンパクト『聖ミロワール』。ゆりが手にしたのは、気品ある装飾が施されたリップスティック型の『聖リリィ』。ひなぎくが握りしめたのは、重厚な輝きを放つ懐中時計型の『聖トルナード』。

「ウェディング・ビューティフル・フラワー！」

ももこの高らかな叫びと共に、聖ミロワールが眩いばかりのピンク色の光を放ち始めた。光の粒子が爆発的に広がり、ももこの身体を包み込む。瞬く間に彼女の姿はシルエットとなり、ピンク色の花びらが雪風に乗って竜巻のように舞い上がる。光の帯が彼女の身体に巻き付くと、それは純白の布地へと変化し、瞬く間に美しいウェディングドレスを形作っていく。ふんわりと膨らんだパフスリーブ、幾重にも重なるレースのスカート、胸元に咲き誇る一輪の大きな黄色の花飾りが実体化する。そして、背中には天使の象徴である純白のリボンが結ばれ、頭上には可憐なベールが舞い降りた。

「ウェディング・グレイスフル・フラワー！」

続いてゆりの澄んだ声が響き渡る。彼女が聖リリィのキャップを外し、ルージュを引くような優雅な仕草で天へと掲げると、そこから黄金色の光の筋が天高く伸びていった。光のシャワーがゆりの身体に降り注ぎ、純白の百合の花びらが彼女の周囲を舞い踊る。光は彼女のスレンダーな体躯に沿って流れるように形を変え、気品に満ちたマーメイドラインのウェディングドレスへと織り上げられていく。純白のドレスには淡いピンクのリボンが上品にあしらわれ、首元にはチョーカーが光る。長い茶髪は風に揺れ、頭にはティアラが王女のように輝いた。

「ウェディング・アトラクティブ・フラワー！」

最後にひなぎくが力強く叫ぶ。聖トルナードの蓋が開かれると、そこから眩い緑と黄色の光が溢れ出し、彼女を光の球体の中へと閉じ込める。弾けるようなデイジーの花々が次々と咲き誇りながら舞い散る中、光は彼女のスポーティな身体を包み込み、可愛らしくも活動的なウェディングドレスへと姿を変えさせていく。胸元に輝く大きな緑色のハートの宝石、ふわりと広がる特徴的なスカート、手首のフリル。緑色のショートヘアには清楚な白い花飾りが添えられ、純真無垢な花嫁の姿が完成した。

三つの光の柱が雪原に立ち昇り、やがて光が収まると、そこにはスキーウェア姿の少女たちの姿はなく、神々しいまでの純白のウェディングドレスに身を包んだ三人の愛天使が並び立っていた。そのあまりの神聖な美しさに、雪之丞は一瞬息を呑むが、すぐに悪魔としての本能が牙を剥く。

しかし、彼女たちの変身はこれだけでは終わらなかった。戦闘形態であるファイターエンジェルへと移行するための「お色直し」が続く。

「エンジェル・アムール・ピーチ！」

ももこ――いや、ウェディングピーチが胸の前で両手をクロスさせると、再び彼女の身体から強烈な光が放たれた。純白のウェディングドレスが光の粒子となって分解され、瞬時にして新たな戦闘用のコスチュームへと再構築されていく。真紅のレオタードに、愛の象徴であるハートが刻まれた胸当て、肩を覆う金色のアーマー。腰には短く可愛らしいプリーツスカートが翻り、足元には真紅のブーツが装着される。ピンク色の髪には大きな黄色いリボンが結ばれ、愛天使のリーダーとしての威厳と愛らしさを兼ね備えた姿が誕生した。

「エンジェル・プレシャス・リリィ！」

ゆり、ウェディングリリィもそれに続く。彼女のウェディングドレスが弾け飛ぶと、清らかな青を基調としたレオタード姿が現れる。胸元には紫色のひし形の宝石が輝き、金色の縁取りが施された装甲が肩と腰を覆う。白と青のコントラストが美しい短いスカートに、足元には青いハイヒール。流れるような茶髪はそのままに、頭部にはティアラが光を放つ。その立ち姿は、洗練された大人の女性の美しさと、戦士としての鋭さを併せ持っていた。

「エンジェル・クラージュ・デイジー！」

ひなぎく、ウェディングデイジーの変身もまた、力強さと快活さに満ちていた。純白のドレスが消え去り、元気な黄色を主体としたレオタードに包まれる。胸には緑色の丸い宝石、肩には鋭角的なデザインの金色のアーマー。白いプリーツスカートの下には、健康的な脚線美が覗く。首元にはチョーカー、腕にはリング状のブレスレット。緑色の髪に飾られた花飾りはそのままに、彼女は拳を固く握り締め、闘志を全身から漲らせていた。

三つの光が交差する中、天高くから祝福を告げるかのように、神聖な黄金の鐘の音が「カラン、コロン」と鳴り響いた。変身を終えた三人は、まるでスポットライトを浴びるかのように光の道筋に降り立ち、それぞれの決めポーズをとる。

「ピーチ！」 「リリィ！」 「デイジー！」 「「「長らくお待たせ！」」」

三人の声が完璧なハーモニーとなって雪山に響き渡る。その堂々たる姿は、どんな邪悪な存在をも退ける希望の光そのものだった。リーダーであるピーチが、真っ直ぐに雪之丞を見据え、その凛とした声で名乗り口上を紡ぎ出す。

「ゲレンデを、風と共に滑る青春。スキーを楽しんでいる友達同士を憎しみ合うように仕向けるなんて、許せない！」

ピーチの言葉一つ一つに、強い怒りと悲しみが込められていた。彼女たちが愛する日常、友情の絆を、悪魔たちは平然と踏みにじろうとする。その理不尽な悪意に対して、愛天使として絶対に屈するわけにはいかない。ピーチは右手を力強く前に突き出し、最後の一言を放った。

「愛天使ウェディングピーチは、とってもご機嫌斜めだわ！」

その堂々たる宣戦布告に対し、雪之丞は一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに余裕の態度を取り戻し、不気味な薄笑いを浮かべた。彼にとって、愛天使の登場は予期せぬトラブルではあったが、同時に大きなチャンスでもあった。

「おほほほほ！出たでおじゃるわね愛天使！」

雪之丞は、袖で口元を隠しながら甲高い声で笑う。その笑い声には、相手を見下すような傲慢さと、残酷な計算が隠されていた。

「あんたたちのウェーブも、丸ごと吸い取ってあげるわ！」

悪魔族の目的は、人間の持つ「愛のウェーブ」を奪い、それを「憎しみのウェーブ」へと反転させることにある。愛天使が持つ強力な愛のウェーブを根こそぎ奪い取ることができれば、それこそラファール族の件をも凌駕するほどの、ペトラー様への最高の手土産になるはずだ。雪之丞の頭の中で、狡猾な計算が瞬時に弾き出された。

「サア、いくでおじゃるよ！ はぁーっ！！」

雪之丞が両手を大きく広げ、空に向かって奇声を上げた瞬間、彼の全身からどす黒い妖気が爆発的に立ち昇った。それに呼応するように、周囲の空気が急速に冷え込み、気圧が急激に変化する。

「きゃあーっ！」

愛天使たちが悲鳴を上げた次の瞬間、猛烈な地吹雪が巻き起こった。雪原に積もっていた大量の雪が、暴風によって一斉に巻き上げられ、文字通りの白い壁となって三人に襲い掛かった。風の咆哮が耳をつんざき、氷の粒が弾丸のように打ち付けられる。

「前が全然見えない！」

デイジーが腕で顔を覆いながら叫んだ。視界は完全に奪われ、一寸先は真っ白な闇に包まれていた。方向感覚すら喪失させるほどの強烈な吹雪の中で、三人はあっという間に互いの位置を見失い、孤立してしまった。これこそが雪之丞の狙いだった。チームワークを武器とする愛天使たちを分断し、一人ずつ確実に始末するための、変幻自在の悪魔ならではの戦術である。

吹き荒れる雪の渦の中で、デイジーは懸命に足を踏ん張り、目を凝らした。仲間の姿を探して視線を彷徨わせていると、不意に吹雪の向こうに人影が浮かび上がった。真紅のレオタードとピンク色の髪。間違いない、ピーチだ。

デイジーは安堵の息を漏らし、彼女の元へ駆け寄ろうとした。しかし、その時、背後から何かがぶつかってきた。

「っととと。何するのよデイジー」

振り返ると、そこにもう一人のピーチが立っていた。デイジーは混乱に陥った。目の前にピーチがいる。そして背後にもピーチがいる。声も、姿形も、着ているファイターエンジェルのコスチュームの細部に至るまで、二人は完全に一致していた。

「悪い、悪い！でもなんでピーチが……」 「私が何だって？」 「えっ？……ピーチが二人！」

デイジーの思考が完全に停止した。どちらが本物で、どちらが偽物なのか。見分ける手立ては全くなかった。右を向いてもピーチ、左を向いてもピーチ。彼女の素直で裏表のない性格が、この高度な精神的トラップの前では致命的な弱点となった。「どういうこと？」と、デイジーが困惑の表情で二人のピーチを交互に見比べた、まさにその無防備な瞬間だった。

「たぁーっ！」

デイジーの背後にいたピーチ――偽物のピーチの顔が、邪悪な笑みに歪んだ。そして、彼女の両手から黒く禍々しい波動が放たれ、デイジーの背中を容赦なく強打した。

「きゃあーっ！」

全くの不意打ちを受けたデイジーは、防御の姿勢をとる間もなく、悲鳴と共に吹雪の中へと弾き飛ばされた。雪原に激しく叩きつけられ、そのまま雪煙を上げて転がっていく。

「デイジー！」

その光景を目の前で見せつけられた本物のピーチは、激しい怒りに震えた。大切な仲間を、しかも自分の姿を騙って傷つけるという卑劣極まりない手口。愛天使として、絶対に許すことのできない蛮行だった。

「よくも……！」

ピーチは拳を固く握り締め、偽物のピーチへと向き直ろうとした。しかし、彼女が振り返った先に立っていたのは、偽ピーチではなく、青いレオタードに身を包んだリリィの姿だった。

「あ、あなた、本物？」

ピーチの声がわずかに震えた。直前にデイジーが騙し討ちに遭うのを見たばかりだ。目の前のリリィが本物であるという確証はどこにもない。しかし、もし本物だった場合、疑うことは彼女を傷つけることになる。愛天使としての優しさと、リーダーとしての警戒心が、ピーチの心の中で激しくせめぎ合った。

その迷いを見透かしたように、偽物のリリィは、いつものリリィと全く変わらない、上品で落ち着いた口調で微笑んだ。

「当たり前ですわ」

その完璧な演技に、ピーチの心がほんの一瞬だけ緩んだ。「よかった、本物のリリィだ」と安堵の息を漏らしかけたその刹那。

偽リリィの瞳に、残酷な光が宿った。

「はぁーっ！」

偽リリィの両手から、デイジーを沈めたのと同じ強力な邪悪な波動が放たれる。至近距離からの不意打ち。ピーチの優れた運動神経をもってしても、それを回避することは不可能だった。

「きゃあーっ！」

強烈な衝撃がピーチの身体を貫き、彼女もまた、デイジーと同じように吹雪の彼方へと吹き飛ばされた。愛のウェーブを守るべきリーダーが、自らの優しさゆえに罠に嵌り、雪の上に倒れ伏した。

残されたのは、リリィただ一人となった。

「ピーチ！ デイジー！」

リリィは猛烈な吹雪の中で、仲間たちの名を必死に呼び続けていた。しかし、返ってくるのは風の咆哮だけ。冷たい雪が容赦なく彼女の肌を打ち付け、孤独と不安が彼女の心を次第に侵食していく。先ほどまでの自信に満ちた愛天使の姿はそこにはなく、ただ一人の非力な少女としての脆さが露呈していた。

そんな彼女の前に、ついにその姿が現れた。

吹雪の中からゆっくりと歩み出てきたのは、他でもない、リリィ自身の姿をしたドッペルゲンガーだった。

「わ、私？」

リリィは完全に言葉を失った。目の前にいるのは、鏡に映ったもう一人の自分。青いレオタード、茶色の長い髪、ティアラの輝きまで、寸分違わず同じ姿。自分が自分自身と対峙するという異常な状況は、リリィの理性を根底から揺さぶった。

仲間を傷つけられたという予備知識もなく、突然自分自身と直面させられたリリィは、デイジーやピーチ以上に激しい混乱に陥った。彼女は一歩後ずさりし、ただただ目の前の光景を信じられないといった様子で呆然と立ち尽くすしかなかった。

「はぁーっ！」

偽リリィは、その絶望的な隙を見逃さなかった。無表情のまま両手を突き出すと、最後の一撃となる禍々しい波動を放った。

「きゃあーっ！」

リリィの悲鳴が虚しく響き渡る。抵抗する間もなく強烈な打撃を受けた彼女の身体は宙を舞い、雪煙を激しく巻き上げながら雪原へと叩きつけられた。

愛天使三人は、雪之丞変化魔の恐るべき擬態能力と心理的な揺さぶりの前に、本来の力を全く発揮することなく、無惨にも敗れ去ってしまったのだ。

三人を沈めた後、偽リリィの姿は不気味な光に包まれながら、徐々に元の姿――雪之丞変化魔へと戻っていった。和装の着物、三つの赤い斑点、獣の尾。その顔には、完璧な勝利を収めた者の邪悪な高笑いが張り付いていた。

「さあ、まろを憎め、まろを！」

雪之丞は、雪の上に倒れ伏してピクリとも動かない三人の愛天使たちを見下ろしながら、呪文のような言葉を口にした。それは、彼自身の必殺の術である「お誘いウェーブ」の発動の合図だった。

騙し討ちに遭い、仲間を傷つけられ、理不尽に打ちのめされた愛天使たちの心には、今、間違いなく怒りと悲しみが満ちているはずだ。雪之丞の魔力が周囲の空間を歪めると、倒れているピーチ、リリィ、デイジーの身体から、彼女たちの生命力であり力の源である「愛のウェーブ」が、美しいピンク色の光の帯となって立ち昇り始めた。

「おお……なんと美しいウェーブ……！ そしてなんと強大な……！」

雪之丞は、吸い上げられていく愛のウェーブのあまりの純度と量に、思わず感嘆の声を漏らした。これほどのエネルギーを持っていたからこそ、悪魔族は彼女たちに何度も苦汁をなめさせられてきたのだ。しかし、今やその力は全て彼の手の中にある。

ピンク色の美しい光の帯は、雪之丞の術の空間を通過するにつれて、徐々にその色を濁らせていく。愛と希望を象徴する光が、暗く沈んだ紫やどす黒い赤へと変色し、おぞましい「憎しみのウェーブ」へと変質していくのだ。愛天使たちの最も純粋な感情が、最も醜いものへと反転させられていく。その光景は、悪魔族にとっては至上の芸術であり、愛天使にとっては最大の屈辱と悲劇であった。

「はははは！ もっとだ！ もっとまろを憎み、その力を差し出すでおじゃる！」

雪之丞の貪欲な吸収は止まらない。愛のウェーブを奪われ続けることで、愛天使たちの身体に明らかな異変が生じ始めた。

彼女たちを包んでいたファイターエンジェルの強力な装甲が、光の粒子となってポロポロと崩れ落ちていく。力を維持できなくなった変身が、強制的に解除されようとしていた。真紅のレオタードが色褪せ、青と黄色のコスチュームが霞んでいく。やがて眩い閃光と共に、三人の姿はファイターエンジェルから、一段階前のウェディングドレス姿へと「退行」してしまった。

純白のドレスに身を包んだ三人が雪の上に横たわる姿は、まるで命を落とした白鳥のように痛ましく、そして美しかった。しかし、雪之丞の残酷な宴はまだ終わらない。

「まだまだ！ 骨の髄まで吸い尽くしてやるわ！」

雪之丞がさらに魔力を強めると、ウェディングドレスすらもその形を保つことができなくなった。純白の生地が光の糸となって解け、フリルが消え、花飾りが散っていく。神聖な光のオーラが完全に消え去り、最後に残されたのは、ごく普通の中学生の少女たちの姿だった。

ゲレンデで着ていた、ピンク、青、黄色のカラフルなスキーウェア。愛天使としての全ての力を奪われ、ただの無力な人間へと戻ってしまったももこ、ゆり、ひなぎく。彼女たちの顔は血の気を失い、目は固く閉じられ、微かな呼吸を繰り返す以外に生命の兆候は見られなかった。

「ふはははははっ！ 大成功でおじゃる！ この大量のウェーブがあれば、ペトラー様もさぞかしお喜びになるはず！ ラファール族の件も帳消しになるやもしれぬわ！」

見事な成果に完全に満足した雪之丞は、両手を天に掲げて狂喜の声を上げた。彼にとって、愛天使たちの生死など最早どうでもよかった。目的は完全に達成されたのだから。

雪之丞は踵を返すと、再び宙に浮き上がり、ペトラーの元へと急ぐべく、吹雪の向こう側へとその姿を消していった。その不気味な笑い声だけが、しばらくの間、風に乗って雪山に木霊していた。

雪之丞が去った後、周囲を覆っていた地吹雪は嘘のようにピタリと収まり、再び静寂な銀世界が戻ってきた。雲の切れ間から差し込む冷たい太陽の光が、雪原をキラキラと照らし出している。

その広大で無慈悲な美しい自然の中で、三人の少女だけが、ピクリとも動かずに横たわっていた。彼女たちの身体は冷たい雪に少しずつ埋もれ始め、その頬からは完全に赤みが失われている。愛天使としての力を全て奪われ、究極の絶望と敗北の淵に沈んだももこたち。彼女たちを助け起こす者は誰もおらず、ただ風の音だけが、彼女たちの悲哀を歌うかのように静かに吹き抜けていくのだった。
