高慢な読モ系同級生のマイクロビキニ ---  目の前で、三条莉央が自分の唇の端に人差し指を添えて、スマホのインカメラに小首を傾げている。  もう何枚目になるのか、数える気も失せていた。ローテーブルに背中を預けて長い脚を斜めに流した姿勢のまま、画面の中の自分を確かめては顎の角度をほんの少しだけ変え、また撮る。栗色に巻いた髪が肩を滑り落ちるたびに甘い香水がふわりと立ちのぼって、俺の狭いワンルームの空気の中で、その匂いだけが場違いなほど上等だった。  「ねえ、これ何の集まりだったっけ」  画面から目を上げもせずに、莉央が言う。語尾が、こっちの返事なんて端から要らないとでもいう高さで放り出された。  「文化祭の、出し物の打ち合わせ」  言い終える前に「あー、はいはい」と被せられる。「美咲がどうしてもって言うから、来てあげただけなんだけどね、私」  来て“あげた”。たった一語の置きかたで、こいつが俺の部屋とその主をどれだけ低い場所に見積もっているかが伝わってくる。三条莉央。同じクラスの、読者モデルだかなんだかをやっている女で、廊下を歩けば男たちが揃って振り返り、本人もそれを知り尽くしていて、知り尽くしているからこそ誰のことも正面からは見ない。教室で偶然目が合っても、莉央の視線はガラスを透かすみたいに俺をすり抜けて、その向こうの何かを探しにいく。たぶん、名前も覚えられていない。  莉央がようやくスマホを伏せて、つまらなそうに部屋を見渡した。  「ふうん。男の子の部屋って、こんな感じなんだ」  値踏みするでもない、心底どうでもよさそうな声。安物のカラーボックスも、洗い忘れたマグカップも、その視線が触れた端から価値を失っていくみたいだった。  キッチンで氷の鳴る音がして、美咲が背の高いグラスをふたつ持って戻ってくる。  「莉央ちゃん、お待たせー。アイスティーでいい?」  「ん、ありがと」  差し出されたグラスを受け取る莉央の顔が、そのときだけ少しだけ緩む。緩む、というより——「同じ側の人間」にだけ向ける顔だ。派手で、可愛くて、教室の上のほうに並んで座っている者同士の、探り合いを省いた笑み。その輪の内側に、俺はいない。現にグラスは、二つしかなかった。  莉央はアイスティーを半分ほど一息に空けると、ソファの背に後頭部を預けて、気だるそうに脚を組み替える。  「あー、暑いと眠くなるよね」  誰にともなく呟いて、手入れの行き届いた喉をこくりと鳴らし、まぶたを半分まで落とした。  その隙に、美咲が俺の耳元へ唇を寄せてくる。  「ねえ」——ぞくりとするほど低い声だった。「あの子に、乗り換えてよ」  ……やっぱり、それか。  「あんたのことずーっとモブ扱いしてる、あの生意気な子にさ。私の服、着せてあげようよ」  美咲の目が、ソファでとろけかけている莉央の身体を上から下へと舐めていく。薄手のニット越しに張り出した胸のふくらみ、深く切れ込んだウエスト、組まれた太腿の内側のなめらかなライン。舌なめずりでもしそうな視線だった。  「ああいう自信たっぷりの子ほどさ——ぐちゃぐちゃに崩すと、最高に気持ちいいんだから」  断れたためしがない。美咲がこの声で「お願い」を差し出してきたとき、俺の中の何かはもう抗うのをやめている。けれど今日のそれは、いつもの諦めとは違う手触りをしていた。俺を一度も人として見たことのない女、その身体の内側に、これから俺自身が入り込む。誰も正面から見ようとしないあの高い場所の中身を、逆に、俺のほうが残らず知ってしまう——胃の底が、嫌な熱を持ってじくりと疼く。やめとけ、という声の裏で、見てみたい、という声が同じ音量で鳴っていた。  莉央のまぶたが、とろりと完全に落ちる。  それを見届けて俺も静かに目を閉じたのが、ほとんど同時だった。          * * *  暗い水の底から押し上げられるみたいに、視界が開けた。  あー……うたた寝してた、あたし。んん、と伸びをすると、ソファの上で組んだ脚がローテーブルの向こうへ斜めに流れていて、膝の丸みからふくらはぎの張り、足首の先まで、リビングの照明を載せてなめらかに光っている。うん、今日も調子いい。オイルケア、さぼらなくてよかった。  スカートの裾に寄ったしわが目障りで、指二本でつまんで膝頭の上へ整えてから、ついでに腿の内側を手のひらで撫でて乾燥をチェックして、栗色の巻き髪をひと房すくって毛先の艶を確かめ、親指の腹で下唇のグロスの残りをなぞる。よし。寝起きでこの仕上がりなら、いま撮られても勝てる。  ……撮られるって、誰に。  まあいいや、それより喉渇いた。アイスティーまだ残ってたっけ、とグラスへ手を伸ばしかけた視界の端に、色褪せたカラーボックスが引っかかる。何あれ。よくあんなの人に見える場所に置けるよね、この部屋の男——  ——の、部屋の。  俺の部屋だ、ここ。  二年住んでいる。あのカラーボックスの三段目には俺の漫画が巻数順に並んでいて、どの巻のカバーが日焼けしているかまで言える。言えるのに、さっきからこの部屋のすべてが、初めて上がり込んだよその男の子の部屋みたいに、いちいち安く見えている。  ま、いっか。  ——流れた。いま、けっこう重大な引っかかりが「ま、いっか」のひと言で、すとんとどうでもよくなった。おかしいだろ。俺は気になったことを夜中までこねくり回すタイプで、ま、いっか、なんて言えたためしがない。なのに頭はもう次へ行っている。喉が渇いた。前髪を直したい。鏡が見たい。  手首を返した拍子に、甘い香水が鼻先で揺れた。いつもの匂い。ほっとする——名前も、知らないのに。  「お。入った?」  美咲がフローリングに膝をついて、下から顔を覗き込んでくる。  その顔が自分より低い位置にあるのが、妙にしっくりきていた。人の顔は見上げるものじゃなくて、見下ろすもの。それが当たり前の世界に最初から住んでいたみたいに、ソファにもたれたまま、身を乗り出してやる理由がひとつも浮かばない。  「……何、美咲。近いんだけど」  囁くくらいの声量で十分足りた。美咲相手にこんな口の利き方をしたことなんてないはずなのに、言い終えてみれば、これ以外の言い方がどこにも見当たらない。  美咲は怯むどころか、にんまりと目を細める。  「あっはは、すごいすごい。莉央ちゃんそのものじゃん」  「は? あんた何の話——」  「ねえ、『俺』はちゃんと中にいる?」  ——俺。  その一語が、釣り針みたいに暗い水の底まで降りてきた。いる。俺だ。俺が、いる。じゃあさっきから、この部屋を採点して、脚の仕上がりに満足して、アイスティーの残りを気にしていたのは誰だ。ぜんぶ俺だ。俺が、いちいち自前の考えとしてやっていた。莉央の思考が混ざっているなんて一度も疑わないまま——背中を冷たいものが落ちていったのは、けれどその一瞬きりで、  「いるに決まってんじゃん。何、失礼なんだけど」  口はもう不機嫌のほうを喋っていた。確認とか、される側じゃないんだけど——って、この苛立ち、あたしの? 俺の? どっちのだよ。  「……いる、けど。ヤバいな、これ。呼ばれるまで、俺、いなかった」  ようやく俺の喋り方を取り戻したのに、声だけは莉央の甘いままだから、自分の台詞が下手なモノマネみたいに浮いた。瑞希先輩のときも史織さんのときも、流れ込んでくるものはちゃんと「来た」のが分かった。水位が上がるみたいに、こっちへ迫ってくる感触があった。莉央のは違う。最初からもう莉央で、俺のほうが後から足されている。  「へえ?」  短く笑った美咲が立ち上がってクローゼットの扉に手をかけると、引き出されたハンガーの先には、布と呼ぶには面積の足りない白い紐の束がぶら下がっていた。  「じゃ、もっと『莉央ちゃん』にしてあげよっか」  ハンガーの先で揺れているそれは、白のマイクロビキニと呼んでいいのかも怪しかった。胸を覆うのは先端をかろうじて押さえるだけの三角形がふたつ、それを繋ぐ紐は靴紐より細くて、ボトムに至っては前の布が手のひらの半分もない。生地は照明をてかてか弾く安いポリエステルで——は? 無理。あたし、ああいうの絶対着ない。  鳥肌のほうが先に立った。安いから無理。下品だから無理。ああいうのは脱ぐのが仕事の子が着るもので、あたしの肌に載せていい布じゃない——って、フルスピードでそこまで言い切ってから、一拍遅れて別の「無理」が追いついてくる。おい待て、論点はそこじゃないだろ。彼女の前で、男の俺が、ビキニって——  二つの無理が喉の奥で渋滞して、  「やだ」  先に外へ出たのは、莉央のほうだった。  「えー? 莉央ちゃん、水着のお仕事もしてるじゃん」  「お仕事とこれは別。っていうか何それ、どこのよ。タグ見せて」  タグて。言い返しながら内心で頭を抱える。俺の抵抗、いつのまにかブランドの話になってる。しかも質の悪いことに、安物は肌に載せたくないというその言い分に、俺はけっこう本気で頷いてしまっている。  「いいから♡ はい、ばんざーい」  ニットの裾から美咲の手が忍び込んできて、言い合いの続きごと頭から抜き取られた。空調の風が剥き出しの腹に当たって、肌がさっと粟立つ。  「わ、下着えっろ♡ さすが莉央ちゃん」  見下ろした胸を包んでいたのは、肌の色に溶けるベージュの総レースだった。寄せて上げる気なんてさらさらない、いつ脱ぐことになっても完璧でいられるように選ぶやつ——って、なんで俺がこのブラの「意図」を知ってるんだよ。知ってるというより、選んだ覚えのほうが薄っすらある。試着室の照明の下で、鏡に映してから買った記憶が。  隠したい気持ちは、来るだろうと待っていたのに来なかった。撮影で、フィッティングで、何十人もいる現場のド真ん中で、この身体は何百回も服を脱いできている。見られるのは平気。ただ、自分で選んでいない布を着せられる、そこだけが腹の底でぐつぐつ煮えている。  背中のホックを外された途端、レースの支えを失った乳房がたぷんと前へ揺れ落ちた。Eカップの重みがじかに胸の皮膚を引っ張って、外気に触れた乳首が薄桃色の乳輪ごときゅっと縮んで尖っていく——この身体は、なんでもないことをいちいち大きく拾う。スカートとショーツもまとめて足首まで下ろされて、片足ずつ抜き取られるころには、俺は俺の部屋のまんなかで、三条莉央の裸で突っ立っていた。  「はい、こっちは下から♡」  マイクロビキニのボトムに足を通されて、腰の横で蝶々結びがきゅっと締まる。前の布は恥丘を半分隠すのがやっとで、美咲がクロッチの位置を指先でずらして直した拍子に、布が割れ目へ浅く食い込んで腰が跳ねた。続けて白い三角形が乳首に当てがわれ、首の後ろと背中で紐が結ばれていく。布は乳輪を覆うのがやっとの大きさで、結び目を締められるたび、収まりきらない柔肉が縁から四方へむにゅりとはみ出していった。  布から、甘ったるいバニラが香る。美咲の匂いだ。肌に残る莉央の上品な香水の上へ安くて甘いそれがかぶさって、息を吸うたび、どっちが自分なのか鼻が決めかねている。  「できた♡ じゃーん、見てみ?」  肩を回されて、姿見の前に立たされた。  ——何これ。  先に来たのは、羞恥じゃなかった。  鏡の中の女は、白い三角の布で先端だけをかろうじて隠して、横乳も下乳も剥き出しのまま、深い谷間に影を溜めて立っていた。腰の細い紐が骨盤の張りをかえって強調して、そこから長い脚がまっすぐ落ちている。安っぽいはずのてかてかが、この肌の上だと「わざと外して攻めてる」演出に化けていた。似合っている。悔しいくらい。  ——いや、違う。悔しがってるのは俺だけで、胸のほうはとっくに、ほら、やっぱり、あたしは何を着ても勝つ、って誇らしさで膨らんでいる。  気がつけば腰を半歩ひねって、顎を心持ち引いていた。撮られるときの角度。鏡の中の女はそうやって一番いい線を作ってから、うっとりと目を細めて自分を見た。  俺は、鏡の中の自分の顔を、あんな目で見たことが一度もない。  「……ね♡」  鏡越しに、後ろから美咲がにやりと笑う。  「いま『似合う』って思ったでしょ」  「触るよ♡」  宣言と同時に、後ろから回ってきた両手が、布からはみ出した下乳をすくい上げた。  「ひゃっ……!?」  跳ねた声が、自分の耳を疑うくらい高くて甘い。手のひらの熱が乳房の素肌にじかに伝わって、揉まれるたび、白い三角の布の中で乳首が布地と擦れる。たったそれだけの摩擦が、針の先みたいに尖って胸の奥まで通った。なんだこれ。さっき外気で尖ったときの比じゃない。  「やわらか〜♡ それにおっきいよね。Eだっけ?」  「F……に、近い、E」  律儀に答えてから舌を噛みそうになる。違う、そこは答えるところじゃない。でも、サイズを勝手に丸められるほうが我慢ならなかった——あたしの数字、適当に扱わないでよ。  「ふぅん♡ じゃ、こっちも正確に教えてくんない?」  指先が三角の布の縁をなぞって、際どいところをゆっくり往復する。布が少しずつずれて、薄桃色の乳輪が半分覗いて、でも先端だけは隠れたまま。じれったさが熱に変わって肌の下に溜まっていくのに、胸を突き出すみたいに背中が反るのを止める気が起きない。だって、張って見せたほうが胸は綺麗だから。撮影でいつもそうしてる——いつもって、誰のいつもだよ。  「ほら、鏡♡ ちゃんと見て」  顎を取られて、正面を向かされた。  鏡の中で、白いマイクロビキニの女が、ギャルに後ろから胸を揉まれている。布からはみ出た柔肉に指が食い込んで、形が変わるたび、女の唇から声が漏れる。眉が下がって、目が潤んで、頬が上気して——エロい。この女、感じてる顔までいいじゃん。  ぞくり、と背筋が震えたのは、見られたからじゃなかった。見たからだ。鏡の中の自分に、俺は——あたしは、いま確かに興奮した。  「気づいてる? 莉央ちゃん、さっきから鏡の中の自分のことガン見してるよ♡」  反論は喉の途中で溶けた。美咲の指が三角の布を横にずらして、尖りきった乳首をきゅっとつまんだからだ。  「ぁあっ……!」  声が天井へ抜ける。つままれた先端から熱が走って、お腹の奥がきゅうっと窄まって、その奥からとろりと滲み出すものがあった。脚の間。ビキニの前布の裏側で、割れ目が熱を持って湿りはじめている。  「すごい声♡ ねえ、下も見ていい? ……って、聞く前に見るけど♡」  美咲がしゃがみ込んで、ボトムの前布を指で軽く引っ張った。クロッチの中心で、色の濃くなった染みが楕円に広がっていた。  「あっはは、もうぐしょぐしょ♡ 莉央ちゃん、感じやすすぎ」  「ちがっ……これは、その……」  言い訳の続きが出てこない。違わないからだ。揉まれて、つままれて、鏡の中の自分のエロさに見惚れて、この身体は——あたしは、ちゃんと濡れた。  「ソファ座って♡ 脚開いて、鏡に見せたげて」  断る、という選択肢はまだ頭のどこかに浮かんでいた。浮かんでいるだけで、手を取られたら腰はもう動いていて、ソファに浅く座って、言われるままに膝を開く。正面の鏡に、自分の股が映る。前布が割れ目の形に湿って張りついて、布の脇から陰唇がはみ出しかけていた。  「ひどい格好……」  呟いた声に、嫌悪より先に甘さが乗っていて、自分で驚く。ひどい格好なのに、ひどい格好の自分まで、ちゃんとエロくて綺麗だと——あたしは思ってしまっている。  美咲の指が、クロッチを横へずらした。  濡れた性器が外気にじかに触れる。鏡の中、自分の割れ目が丸見えになった。手入れの行き届いた無毛の恥丘、ぷっくりした陰唇が愛液で照って、その合わせ目で硬くなったクリトリスが頭を出しかけている。  「綺麗なおまんこ♡ さすが、お手入れ完璧」  「あたり、まえ……でしょ……」  返事をしてから、何があたりまえなんだ、と頭の隅で誰かが言った。誰か。俺だ。俺の声が、もう「頭の隅の誰か」になりかけている。  「ねえ莉央ちゃん、知ってる?」  美咲が内腿に指を這わせながら、鏡越しに笑う。  「あんたが今いる部屋の男の子さ——学校であんたにゴミみたいに無視されてんの、あたし、ずーっと見てたんだ♡」  心臓が、嫌な跳ね方をした。  それは莉央の動揺じゃなくて、俺のだった。  「だからさ——今の莉央ちゃんのこの格好、あの子が見たらどんな気持ちか、考えてみてよ♡」  考えるまでもなかった。それは俺の腹の底で、もうずっと前から熱を持っていた。教室で視線ごと素通りされるたび、名前を呼ぶ価値もないと思い知らされるたび、胃の裏へ沈めてきた小さくて暗いもの。それが今、莉央の濡れた股の奥で、じくじくと疼いている。  ざまあみろ、って。  お前は今、無視してきた男の部屋で、安物の水着で股を開いてる、って。  最低の感想だった。最低なのに、その最低が腹の底で熱に変わって、莉央の快感と同じ場所へ流れ込んでいく。  「あ、ひどい顔した♡」  美咲の指先が、剥き出しのクリトリスにちょん、と触れた。  「——んぁああっ!?」  腰が跳ねた。さっきの乳首とは桁が違う。触れられた一点から白い火花が散って、背骨を駆け上がって、つま先までびりびり痺れさせる。  「やっ、待っ……そこ、だめ、ほんとに——」  「だめじゃなくて気持ちいい、でしょ♡」  くにくにと円を描かれて、声が止まらなくなった。愛液を掻き混ぜられて、くちゅくちゅと音が立つ。鏡の中の女はもう取り繕う余裕もなく眉を歪めて、口の端から声を漏らし続けていて、それでも——それでもまだ、綺麗だった。乱れても崩れない。撮影用の「作った顔」が剥がれて、その下から出てきた素の顔のほうが、何倍もエロくて、何倍も目が離せない。  あたし、こんな顔できたんだ。  知らなかった。誰にも見せたことがない。どの男にも、どのカメラにも、こんな顔——  「指、入れるね♡」  ぬぷ、と中指が膣口に沈んだ。  熱い。自分の中がこんなに熱くて、こんなに柔らかくて、入ってきたものにこんなに絡みつくなんて。膣壁が美咲の指を覚えこもうとするみたいにうねって、奥から溢れた愛液が指の付け根までとろとろ濡らしていく。  「なかも完璧♡ ぬるっぬる」  「やぁ……っ、み、さき……ぬい、て……」  「ほんとに抜いていい?♡」  指先が、お腹側の膨らんだところをくんと押し上げた。  目の前が白く弾けて、抜いてほしいなんて嘘だと身体が先に白状した。膝が震えて、腰が勝手に指を追いかけて——違う、勝手にじゃない。追いかけたのはあたしだ。もっと押してほしくて、自分から腰を傾けた。  「……ぬい、ちゃ……やだ……」  言った。言ってしまった。  鏡の中の女と目が合う。とろとろに蕩けた顔で、安物のマイクロビキニを乳輪までずらして、ギャルの指を咥え込んで腰を揺らしている女。学校で見かけたら、あたしが真っ先に「ないわー」って笑う見た目の。なのに。  ——エロい。最高にエロい。あたしの身体、こんなにエロかったんだ。  認めた瞬間、何かが切れた。  「あっ♡ あっ♡ やっ、それ♡ いいっ♡ いいの♡」  声に♡が混ざる。混ざっているのが自分の耳に届くのに、止められない。美咲の指が二本に増えて、ぐちゅぐちゅと出入りして、親指が同時にクリトリスを転がして、  「みさきっ♡ みさきぃっ♡ そこ♡ そこぉ♡」  「名前呼びになっちゃった♡ かわいー♡」  ずちゅ、ぐちゅ、と水音が部屋に響く。鏡の中の自分が揺れてる。おっぱいが揺れてる。あたしの自慢のおっぱい♡ 揺れてるとこまでエロい♡ 顔も♡ 声も♡ ぜんぶ♡ あたし、ぜんぶエロい♡ 何着せられても勝つ♡  ざまあみろ、が、まだ腹の底で鳴っている。誰に向けたざまあみろなのか、もうわからない。莉央にか。俺にか。どっちでもいい、どっちでも、もう、どっちも、あたしで——  「イクっ♡ イクイクっ♡ あたし、イッちゃ——」  最後のひと押しで、視界が白に飲まれた。  膣壁が指を食いちぎりそうなくらい締まって、腰がガクガク跳ねて、ぷしゃっ、と噴いたものがずらされたクロッチを、美咲の手首を、フローリングまで濡らした。鏡の中でマイクロビキニの女が仰け反って痙攣しているのを、どこか遠いところから——いや、いちばん近いところから、あたしが、俺が、見ていた。          * * *  目を開けると、見慣れた天井がいつもより遠かった。  ラグの上。俺の身体だ。視線を下げれば、莉央の長い脚の代わりに、ジャージの男の脚が投げ出されている。胸も軽い。あの重みと張りが消えて、呼吸がすかすか通る。それが、物足りな——おい、物足りないってなんだ。俺の身体だぞ。  ソファでは莉央が、元のニットとスカートに戻されて、何も知らない寝息を立てていた。乱れひとつない。美咲の仕事は手際がいい。ローテーブルの上には、白い布の塊を突っ込んだビニール袋。まだ湿っているはずのそれから、目を逸らした。  「おかえり♡」  美咲が満足しきった猫の顔で、俺の隣にしゃがみ込む。  「……ただいま」  出てきた声の低さに、一瞬、自分でぎょっとした。喉が、まだあの甘い声の出し方を覚えている。  立ち上がろうとして、消えたテレビの黒い画面に映った自分と目が合った。前髪が乱れている。直さなきゃ、と指が持ち上がりかけて——今のは、どっちの癖だ。  莉央は十分後に何食わぬ顔で目を覚まし、「うわ、寝てた。最悪」とだけ言って、俺のほうを一度も見ずに帰っていった。          * * *  週明けの教室で、三条莉央はいつも通りだった。  取り巻きの真ん中で完璧な角度に笑って、廊下ですれ違えば、視線はやっぱり俺を素通りしていく。ガラスを透かすみたいに。名前も覚えていないモブの上を。  前までは、それで胃の裏が少し冷えた。  今は——口の端が緩みそうになるのを、噛んで殺している。  お前のおっぱいのほんとのカップ数、俺は知ってるんだぞ。鏡の前でどんな顔をして自分に見惚れるのかも、安物のビキニで何回腰が跳ねたのかも、イクときに名前呼びになることも、ぜんぶ。  最低の優越感だ。わかってる。わかっていて、手放す気になれない。あの高慢な横顔が澄まして通り過ぎるたび、腹の底であの声が甘く再生されて、ざまあみろが、舌の上で溶ける。  ——莉央が歩きながら、窓ガラスにちらりと自分を映して、前髪を直した。  その指の動きを、俺の指が、机の下でなぞっていた。