成年後見制度改正の要点整理 作成日:2026年6月17日 【確認上の注意】 参議院公式ページでは、確認時点で「令和8年6月16日現在」とされ、法務委員会では令和8年6月16日に可決、衆議院本会議では令和8年5月26日に可決と記載されています。 ただし、参議院本会議の議決日・議決欄、公布年月日、法律番号は空欄でした。 そのため、本資料では「改正法案の内容」として整理します。実際の成立日・公布日・施行日は、官報または国会・法務省の最新情報で確認が必要です。 参照元: ・参議院「民法等の一部を改正する法律案」 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/meisai/m221080221043.htm ・内閣法制局「民法等の一部を改正する法律案」 https://www.clb.go.jp/recent-laws/diet_bill/detail/id=5261 ・衆議院「民法等の一部を改正する法律案」本文 https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g22109043.htm ---------------------------------------- 1. 改正の全体像 ---------------------------------------- 今回の成年後見制度の見直しは、現行の「後見・保佐・補助」という3類型を大きく見直し、原則として「補助」を中心とする制度へ再構成するものです。 現行制度では、本人の判断能力の程度に応じて、成年後見、保佐、補助に分類されます。しかし改正案では、本人に必要な支援を個別に定め、必要な範囲・必要な期間だけ利用できる制度へ近づけることが中心です。 大きな方向性は以下のとおりです。 ・後見及び保佐の制度を廃止する ・補助制度の対象範囲を広げる ・本人に必要な行為ごとに同意権・取消権・代理権を設定する ・判断能力を欠く常況にある人については、補助制度の特例を設ける ・制度利用の終了や一部終了をしやすくする ・本人の意思・意向の把握と尊重を重視する ・任意後見制度も見直す ---------------------------------------- 2. 「後見・保佐・補助」から「補助中心」へ ---------------------------------------- 現行制度では、判断能力の状態により以下のように分類されています。 ・後見:判断能力を欠く常況にある場合 ・保佐:判断能力が著しく不十分な場合 ・補助:判断能力が不十分な場合 改正案では、後見と保佐を廃止し、補助制度の適用範囲を拡大します。 これにより、制度の入口を「本人の判断能力の程度で大きく分類する」仕組みから、「本人にどのような支援が必要かを個別に判断する」仕組みへ移すことになります。 ---------------------------------------- 3. 必要な範囲だけ支援する制度へ ---------------------------------------- 改正案の重要点は、支援の範囲を必要な事項に限定することです。 現行の成年後見では、成年後見人に広い代理権が与えられるため、本人の生活や財産管理への関与が大きくなりやすいという問題がありました。 改正後の補助制度では、家庭裁判所が本人の状況に応じて、必要な法律行為だけを対象に、同意権・取消権・代理権を定める方向です。 例えば、以下のような行為について個別に支援対象とすることが考えられます。 ・預貯金の払戻し、管理 ・借入れ、保証 ・不動産その他重要財産の処分 ・訴訟行為 ・贈与、和解、仲裁合意 ・相続の承認、放棄、遺産分割 ・長期の賃貸借 一方、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、原則として本人の自由な判断に委ねられる考え方です。 ---------------------------------------- 4. 補助人の同意権・取消権 ---------------------------------------- 家庭裁判所は、必要がある場合に、特定の行為について「補助人の同意が必要」とする審判を行うことができます。 本人が、その同意を得ずに対象行為を行った場合、その行為を取り消すことができる仕組みです。 ただし、すべての法律行為を包括的に制限するのではなく、対象行為を個別に定める点が重要です。 これは、本人の保護と自己決定の尊重を両立させる方向の見直しです。 ---------------------------------------- 5. 判断能力を欠く常況にある人への特例 ---------------------------------------- 後見制度を廃止すると、従来の成年後見に相当する重い支援が必要な人への保護が不足するのではないか、という問題があります。 これに対応するため、改正案では、事理を弁識する能力を欠く常況にある人について、補助制度の特例を設ける内容になっています。 具体的には、必要に応じて「特定補助人」を置く仕組みです。 特定補助人には、本人の状態や必要性に応じて、取消権の行使、意思表示の受領、財産の保存行為など一定の権限が与えられます。 ただし、従来の成年後見のような包括的な制度ではなく、必要性に応じて限定する考え方です。 ---------------------------------------- 6. 制度の途中終了・一部終了 ---------------------------------------- 現行の成年後見制度では、一度利用を開始すると、本人の判断能力が回復しない限り、制度利用が長期間続きやすいという問題が指摘されていました。 改正案では、必要がなくなった場合に、家庭裁判所が以下を取り消せる仕組みが設けられています。 ・補助開始の審判 ・補助人の同意を要する審判の全部又は一部 ・特定補助人を付する審判 ・代理権付与の審判の全部又は一部 これにより、例えば、遺産分割や不動産売却など特定の目的のために制度を利用し、その目的が完了した後に終了する運用がしやすくなると考えられます。 ---------------------------------------- 7. 本人の意思・意向の尊重 ---------------------------------------- 改正案では、本人の尊厳や意思の尊重がより明確になります。 補助人等は、本人に必要な情報を提供し、本人の意向を把握し、その意向を尊重して事務を行うことが求められる方向です。 従来の制度では、本人保護を重視する一方で、本人の意思が十分に反映されにくいとの批判がありました。 今回の見直しは、本人を単に保護の対象とするのではなく、可能な限り本人の意思決定を支援する制度へ近づけるものといえます。 ---------------------------------------- 8. 任意後見制度の見直し ---------------------------------------- 任意後見制度についても見直しが行われます。 主な方向性は以下のとおりです。 ・任意後見契約と補助制度との関係を整理する ・任意後見人にも、本人への情報提供、意向把握、意向尊重を求める ・必要性に応じて、任意後見監督人の関与の在り方を柔軟化する ・任意後見契約の一部解除など、柔軟な運用を可能にする 任意後見も、本人の意思に基づく制度として、より使いやすくする方向です。 ---------------------------------------- 9. 既存の成年後見・保佐への影響 ---------------------------------------- 既に成年後見や保佐の審判を受けている人については、経過措置が設けられます。 施行日前に開始している制度が直ちに消えるわけではなく、従前の扱いが一定程度残る仕組みです。 一方で、新制度の補助開始を申し立てることも想定されており、その場合には、家庭裁判所が旧来の後見開始審判等を取り消すことができる内容になっています。 ---------------------------------------- 10. 施行時期 ---------------------------------------- 法案上、成年後見制度に関する主要部分は、公布の日から2年6か月以内で政令が定める日に施行される予定です。 そのため、法案が成立したとしても、制度が直ちに全面的に切り替わるわけではありません。 実際にいつから新制度になるかは、公布日と政令で定められる施行日を確認する必要があります。 ---------------------------------------- 11. 実務上の見方 ---------------------------------------- 今回の改正は、単なる名称変更ではありません。 制度の考え方が、次のように変わる点が重要です。 ・包括的な保護から、必要な範囲に限定した支援へ ・判断能力の程度による固定的な分類から、本人ごとの必要性に応じた支援へ ・一度始めると終わりにくい制度から、必要がなくなれば終了できる制度へ ・本人の意思より保護を優先しやすい制度から、本人の意思・尊厳を重視する制度へ 特に影響が大きいのは、相続、遺産分割、不動産処分、預貯金管理、身寄りのない高齢者支援の場面です。 ---------------------------------------- 12. 要点まとめ ---------------------------------------- 今回の改正案の要点は、以下の4点です。 1. 後見・保佐を廃止し、補助を中心とする制度に再編する 2. 支援内容を本人に必要な行為ごとに限定する 3. 必要がなくなれば制度の終了・一部終了を可能にする 4. 本人の意向把握と意思尊重を強化する 結論として、成年後見制度は「本人を包括的に管理・保護する制度」から、「本人に必要な支援を、必要な範囲で、必要な期間だけ提供する制度」へ移行する方向です。