それまでの狂騒が嘘のように、女の四肢からは抵抗の意思が抜け落ちる。 差し出された舌を――ほんの数秒前までは噛み切らん勢いで睨んでいたのが、 今ではただ受け入れ、舌を絡め返しさえする。唾液は一筋の滝となって、彼女の口腔へ帰る。 彼の首に付いた親指の跡は、絞め殺してやろうという意思の残滓に過ぎなかった。 だがそれももう、見る間に薄れていく。女の腕はくったりと寝転がっていた。 青い肌着の上からも、ぷっくりと盛り上がりの見えるほどに起き上がった乳首は、 彼女の肉体が、極めて高い興奮状態にあることを示している――不自然なほどに。 その火照りを示すように、頬は紅く、目端は潤み、上がった息がもうもうと昇る。 床の上に広がった艶めく金髪を漉くように、男の三本指が撫で、頭を掴んだ。 一際強く、瞳が光る。女の身体はびくん、と大きな痙攣を見せ、力を吐き出していく。 人形めいたその肢体は――けれど、あまりに肉々しく、雌臭い。 彼ならずとも、いかなる手を使ってでも己の子を産ませたいと思うほどに。 足首を掴まれても、もう彼女は抵抗しない。股間部分の布を強引に引き破られても。 なにせ、剥き出しになった陰唇は目の前の雄に媚びるようにひくひくと蠢き、 陰核は充血してその赤を恥じるように震えている。だが、腿を伝う液体の甘ったるさたるや。 内より込み上げる熱によって、それは雄への無限の求愛の香りを撒くのである。 ――それが、ほんの数分前まで生命の取り合いをしていた相手であることなど忘れて。 彼の先端が当たる、その感覚に彼女の全細胞は歓喜した。膣肉は押されてまくれ上がり、 わずかの隙間さえも残さぬよう、ぴったりと自ずから吸い付いた。 赤子が母の乳房にそうするように――いや、彼女こそがこれから母になるのだ。 精の一滴をも無駄にしないようにと、健気にひくついて離れようとしない子宮口。 長らく引き離されていた恋人同士であったって、ここまで熱烈な愛の示し方があろうか? 膣襞を擦り上げられるたびに、彼女の喉からは柄にもない甘えた声がこぼれる。 賞金稼ぎという生業上、悪漢どもには見せるはずもない弱々しい女の顔―― それを、まさに彼女に狩られるべき男が、宇宙でただ一人、独占しているのである。 結合部からは半透明の液体が断続的に噴いていた。無論、女の垂れ流したものである。 性器に与えられている刺激に比して、それは明らかに多すぎる、ともいえるものだった。 殊更に感じやすい体質ということもないのに――彼の瞳が怪しげに光るたび、 より敏感に、よりしなやかに、女の身体は彼の要求に応えていくのであった。 そして彼の腕の力が緩むと――それを補うように、自らその腰へと脚を回し、 結合をよりしっかりとしたものにする。快楽を貪るために、抽挿に合わせて息を整えていく。 じっ、と彼の目を見つめるその姿は、親鳥に追従する雛のようでもあった。 男は空いた手で、彼女の大きな乳房を服越しに揉んだ。電流でも流されたかのごとく、 新たな刺激は乳腺を巡って、まだ出ないはずの母乳を――恋人との子に与えるためのものを、 本当に溜め込んでいるかのように、張りと疼きとして脳を蕩かす。 両乳房を揉みほぐされているうちに、彼女の脳下垂体は、本当に授乳をしているかと錯覚し、 まだ受精していない我が子への愛着と幸福感を、繰り返し繰り返し刷り込んでいく。 当然それは、種を仕込んでくれている真っ最中の彼への感謝の意にも繋がるのだ。 力を取り戻した両腕は、雄の肩を抱くように伸ばされて、さらに依存度を高めていく。 胎の中に熱が爆ぜる――頭の中に白い爆発が起こり、膣内は一際狭く、締まりを強めた。 そして男は、繋がったままの性器を膣内にてびくびくとひくつかせながら、 彼女の臍下、遠からずぷっくり膨らんでずっしり重たくなるそこを――ねっとり撫で回す。 勝ち誇るようなその行為に、女は己の全てを差し出してしまう。抗えない。 死ぬまで俺の子を産ませてやるぞ――と。何十人もの無辜の民を操り、破滅させてきた悪党に、 己の卵子と子宮を提供することに、もはや何の違和感をも抱けないのである。 恋人同士のする、甘ったるい口づけ。その最中も、男の手は執拗に、女の身体を揉みほぐす。 指による刺激と、目から入る刺激とを関連付けて――暗示として、深く深く彫り込んでいく。 銀河最強の賞金稼ぎとて、生物としての脳の機能に指を掛けられれば、抗うことはできぬのだ。 彼女にその異名を与えたもの――鳥人族の遺産である伝説の鎧も、 それの使えない状況下に持ち込み、不意を打てば恐るるに足りぬ。 その小賢しさこそまさに、彼の生命線であり警戒すべき点ではなかったか。 うっとりとした顔でしなだれかかる女を抱き起こし肩を貸しながら、さらに男はその目を見る。 ぽうっと呆けたその顔も、もはや暗示が不要なほどに塗り潰されてしまったならば、 もとの怜悧な、美しく引き締まった表情に戻ることは実証済みである。 表の顔をそのまま残して、傀儡として使うのもいいな――と思考を働かせる彼の身体に、 女は幼さすらも残したあどけない顔を見せるのだ――ごくり、と喉に唾が落ちる。 そのような小細工は、また後から考えればいいことだ。まずは――と、 男は片手で宇宙船の操作盤に触れ、航路を隠れ家の一つへと向ける。 そこでは、誰かに邪魔されることもなく、じっくりと、この女を仕込んでいける。 幾度も射精したばかりというのに、柔らかく大きな胸を押し付けられていると、 すぐにでも、“続き”をしたくなる――男はまた彼女の身体を床に押し付け、顔を覗き込んだ。 男の上で、女は踊っていた。ぱんぱんに膨れた臨月腹を、重たげに揺らしながら。 そして両手には、発育の段階の違う年子をそれぞれに抱きながら、 黒々と染まり果て、かつての桜色を忘れきった下品で大きな乳輪から垂れる母乳を、 飲ませているのであった――そしてそのすぐ横には、それよりは大きな幼児もいる。 既に六度目のことだ。身重ながらにまぐわっても、胎の子に支障のないことはわかっている。 男はにたにた笑いながら、片手は彼女の身体を支えるように腰に回し、 もう一方の手で、腹を――ぷっくりと第三の乳首のように盛り上がった臍と、 何度も引き伸ばされて妊娠線の浮いた腰との境を、撫でるのであった。 どんどんと、子は増える。あの日からひたすら子作りに没頭し続けているのだから当然だ。 たった一度の月経さえも許さないかのように、男は彼女の胎に種を撒く。 それに応えるように――毎年毎年、きっかりと孕み産み続けた彼女の肉体は、 戦士としての役目を完全に失い、繁殖のために特化したものに成り果てた。 そしてそれは――雄の方とて同じことである。女の身体に溺れ続けているうちに、 己の血を引く手駒を増やすという大義は忘れ去られ、手段そのものが目的と化していく。 地球人種と、彼の種族とは外見的な親和性はあまりない――両親の形質を受け継いだならば、 半端な金毛の生えた、ぬるりとした白とも赤とも言えないような肌の混ざり子、 そんな風なものしか生まれ得ない――銀河の美的基準において、合格点には達しないだろう。 だが二人して、乳をねぶり、思いのままに泣き喚き、手を掛けさせる―― そんな醜い赤子たちを育てる日々に夢中になってしまっていた。と同時に、 それをさらに増やすことに没頭して――ますます、自分たちの住む小惑星を狭くした。 銀河全体の収支で見るなら、偉大なる守護者である彼女が失われた損失は大きい。 しかし、同時に無視できぬ被害をもたらした悪人が場末の小惑星に引き篭もって、 行動らしい行動をしなくなった――という点では、利益と見なすこともできよう。 彼はかつて溜め込んだ悪銭を湯水のように吐き出して、養育費に充てていたのだから。 やがて三十、四十人もの弟と妹のいる星から――一人、二人と旅立っていく。 そして彼らは、かさかさに乾いた手配書の切れ端、新聞記事に両親の名を見つけ、知るのだ。 自分の父と母がどれだけの悪党、英雄で――それすら忘れた子煩悩であるかを。