きらびやかな羽とは対照的に、彼の内面は荒れ果てた原野のようであった。 世界は白く見え、ゆえに彼はこの世で最も美しいものの中に己の失った色彩を求める。 著名な画家の残した、それだけで家の傾くほど高価な絵の具を惜しみなく使った絵画。 あるいは人間国宝が研鑽と偶然の果てに生み出した夜空に星々の光るような陶器。 地底奥深くにて膨大な圧力の下に生まれた原石を、職人が細心の注意を払って磨いた玉石―― あるいはもっと直接的な、純度の高い金、銀、白金の延べ棒、その山。 集めれば集めるほど――何のためにそれを収集していたのか、わからなくなってくる。 興味を失ったものをすぐに払い下げていたから、部下からの受けは存外によかった。 だが俗物どもからの評価が何となろう。媚び、へつらい、分け前を多くしてくれと暗に語る。 その顔が――真っ黒に塗り潰されて見え、彼の作り笑いは時に歪に歪むのである。 そして集めた輝きに釣り合うようにと、彼は己の外面を磨くことを怠らなかった。 鏡の前で財宝を背景に、赤の、青の、虹色の羽を一枚一枚丁寧に梳かす。 そうして――心からの理解はできなかったが――集めた美の中に埋没せぬようにと、 自身の姿を確かめている時だけが、彼に生きている実感を与える。 自分たちの上司がそうして日に何時間も鏡の前で難しい顔をしながら羽繕いをするのを、 分け前に不満げな下っ端は笑い者にしたものである――どうせすぐに汚れてしまうのに、と。 事実、彼の“仕事場”において、その努力の結晶を維持できる時間など数分にも満つまい。 今宵の予告状を送りつけたのは美術館であった――今頃、向こうでは大騒ぎだろう。 乱暴な手段を使うことも厭わぬ亜人種の強盗団、成功率はおよそ八割にものぼるやり手揃い。 人の姿で下見をした際に、どこからどう入りどう出れば阻止できぬかは把握済みである。 どこかの学生――中学か、高校か――の集団が、走り回るのを止めもしないような無能な警備に、 手に手に凶器を有した悪党どもを止められるわけがないとも踏んでいた。 それがどうか――珍しく空手で逃走経路を走る彼の後ろで、部下の悲鳴が何度も上がる。 腕に覚えのあるような護衛をこの短期間で雇えるわけもなかろうに。 窓を蹴り破るその刹那、彼は背後で、小さく白い影が悔しそうに地団駄を踏むのを見た。 そしてその彩度の低い姿が――ひどく、目に焼きつくように思われるのだった。 ねぐらに戻って、ぼんやりと失敗の要因を考え出す――この時ほど彼の頭が働く瞬間はない。 地図を頭の中に立体的に再構築し、駒を配置し声や音から撃破された順序をなぞっていく。 するとやはり、全員がほぼ一撃で打ち倒されていたに違いない、ということが見えてくる。 そして件の不確定要素の姿を可能な限り細かく思い出そうとすればするほど、 彼の思考はその小さな――男にしてはあまりに細く薄い――影のことに支配されていく。 声も、考えてみれば高かった。砕ける硝子の音に混じってよく聞こえなかったが、 その口ぶりはひどく幼く、大人であろうとはとても思えなかった。 ――ならば自分たちは、小娘にしてやられたというのであろうか? その結論に至ったとき、彼の内心に生まれて初めての感情が湧いた。 二度目にその影と相対したのは、貴金属店にてのことである――正面から見ると、 やはりその背丈は小さい。屈むまでもなく、什器に半身が隠れてしまう。 高い声で、覚悟しろとありきたりの言葉を吐くのには密かに笑いを堪えらなかったが―― 事実、部下たちをあっさりとのしてしまえる程度には、腕に覚えのあるようだった。 赤い髪を頭の左右で短めにまとめ上げ、同じく赤い瞳で“敵”をじっと見据えるその表情は、 体躯に見合わず、何かしらの武道の心得のあることを思わせた。 腰を落として構えた姿勢から――呼気と共に、一直線に拳が伸びる。 それをいなすと、流れ弾をくった展示台が大きな音を立てながら縦回転して吹き飛び、 中に入っていた宝石と腕時計を店中に放り投げながら、硝子の破片を振り撒いた。 まだ意識のある部下が、こそこそとそれらを拾い集めているのを横目に、改めて相手を見る。 薄く、細い身体。なのに、隠されもしない女性性。ふりふりとした布飾りがあちこちに、 それでも運動性を損なわない。なのに、鼠径部はくっきり見えて股関節を自由にさせている。 体勢を立て直すふりをしながら、羽の一枚を手裏剣のように顔に向けて飛ばすと、 少女はあっさりと、それを握って止めた。猫が羽虫を撃ち落とすのと同じように。 その姿に彼はひどい苛立ちを覚えた。彼女の若さ――そしてそれに根付く生物としての美しさ、 それこそが彼の求めている、生を実感させる何物かではなかったか? だがそれを、つまらない武道家の真似事をして背景に埋没させている。 そのくせに、女としての装飾を捨てたわけでもない――その中途半端な姿にだ。 天井からの埃を払うのも忘れ、彼は目の前の少女に、心からの敵対心を抱いた。 本気で戦ったのは――きっとこれが初めてで、彼女相手にしか、それはできなかったのだ。 戦績は五分と五分。準備をしっかりと整えて部下からの支援を受けられた回は、彼が勝った。 といっても、それは無事に狙いのものを盗み出せた、という点においてであり、 いざ真っ向勝負となると、彼はどうしても後れを取った――だがそれも仕方のないこと。 その生命の輝きへの強い嫉妬を抱くからこそ、彼は少女を殺めることなどできなかったし、 もし全力で相対していたなら――いずれかの死の他には決着がなかったからである。 口の血を拭い、努めて平静を保ちながら、変身の解けて髪の色の黒く戻りつつある少女が、 悪態をつきながら逃げていくのを見守る――部下にも余計な追い打ちはさせない。 いつしか彼の中では、盗む、という行為よりもそれを止めに来る彼女の方に関心が移っていた。 戦利品の量は減り――部下からの不満と陰口は増えたが、彼は満たされていた。 あれだけ積み上げていた金銀財宝も、鏡越しに彼の背丈に隠れてしまうぐらいになったが、 彼は脇腹に残る拳の痣を、むしられてまばらになった羽の生え替わるのを愛でている。 ――そして雌雄は決した。お互いの他に何の邪魔も入らない、言い訳のきかない場にて。 倒れ伏した少女は――それでも彼を睨んだ。血混じりの唾を顔に吐きかけた。 生まれて初めて、彼はこの雌を――己のものにしたいと、思った。 ずたずたになっていた衣装を、同じ質量の端切れに変えてしまうのは容易なことであったし、 彼自身、ほとんど脱ぐ必要もないぐらい、自慢の一張羅をぼろぼろにされていた。お互い様だ。 戦闘の高揚、初めて得たいと思った雌の裸体に直面した興奮によって、もう性器はそり立って、 今にも、少女の柔らかな肉を食い破ろってやろうとばかりに震えている。 一方で、これまで何度も拳を交わしてきた相手に凌辱されようとしていながら、 やはり彼女は――中学生という身空に関わらず――気丈に振る舞っている。 口からは彼を罵る言葉を。隙あらば蹴り飛ばしてやろうと膝を曲げ、腕も胸ぐらに。 だがそんなものが、決意を固めた成人男性――しかも人の身を捨てた相手に通ずるか。 腕の骨の軋むのを感じながら、彼は無理やりに彼女を組み伏せ、力量差を教え込んでいく。 牙をわざとらしく剥いて、首筋に――噛みつくふりをして、赤い唇の跡を残してやる。 破瓜の瞬間さえ、痛みに泣き叫ぶでもなく、少女は彼の目から視線を切らさない。 目を逸らしたら、永遠に負けてしまうと本能的に理解しているかのように。 “戦利品”として持ち帰られた彼女は、これまでの前例とは違った扱いをされた。 払い下げや共有を期待して部下が指を伸ばそうものなら――腕ごと、切り落とされた。 自分の中に、それだけの独占欲があったことに彼自身驚きもしたが、それを抑えられない。 様子を見に行くたびに、強く睨まれると――心の中が清涼感に満たされて、 彼女の胎内に、今の立場をわからせてやりたくてたまらなくなる―― 鏡に向かう時間は、少女の雌性を貪る時間へとそのまま置き換わった。 喘ぎ声の一つも上げず、彼への無限の反骨心しか返さないというのに――一層、夢中になった。 だが、その反抗も永遠に続けられるわけではない。心も体も、有限のものである。 最奥まで掘り抜かれ、身体を密着させての膣内への射精――それをすれば必ず、 少女は彼のことを、拙いながらの語彙を駆使して、散々に罵っていた。 だというのに――いつしか、言葉数は少なくなり、やがて無言となり、 次第には、発露しきれない感情に抗うように、彼の背に手を回すようにまでなった。 その無自覚の媚に、雄としての彼は満足し、男としての彼は苛立った。 いつまでも、折れぬ不屈の花であってほしかった――そんな、無責任な感情さえ。 そして屈するのはまた、身体もそうである。若く健康的な女が、ほとんど毎日、 同じく若い男に犯され――胎内に精を受けているのである。宿るべきものが宿るのは当然だ。 吐き気と倦怠感はますます精神の均衡を乱す。一人でめそめそと泣いていることすらあった。 その姿に――以前の彼は殺意を覚えたであろうが、彼女の胎内に生命があり、 それが己の種であることを思えば、無碍に扱うこともできなかった。 雄の本能といえばそこまでであるが――むしろ態度を軟化させたのは、彼の方であった。 ぷっくりと膨らみ始めた下腹部を撫でながら、舌を絡め合い――同じく膨らみの起こり始めた、 しかし小さな乳房を、玩弄するかのように掌の中で転がす。 少女が身につけているのは、かつての戦闘装束であったもののうちの一部、 猫を思わせるような耳、鈴の付いた首輪、といったものぐらいだ。 裸体はほとんど隠されておらず――けれど彼にしか許されない。他の雄の触れるも許さない。 彼女自身、まだ子供でしかない自分が身籠ったという事実を飲み込めていないのであろう、 彼とまぐわっている最中に、人の気配があると――酷く怯えた顔をする。 そしてその不安をほぐしてやるように、またみっちりと、身体を貪っていく―― 人々は既に、自分たちを守ってくれた勇敢な少女のことなど忘れていよう。 何度も世を騒がせた悪党を撃退してきたというのに、その末路一つで評価をひっくり返す。 まして、一年ぶりに公に見せたその姿が――しっかりと子を孕まされ、 種つけた雄の腕に手を絡めて、庇護を求めるような有様であったならば。 彼は戦利品を見せつけるように、彼女の股を割り開いて、年齢不相応に使い込まれたそれを、 衆目に晒す――初めは無数の悲鳴が。直に、嘲笑と罵倒の言葉が。次第に、撮影する音さえ。 背後から囁かれた言葉に従い、少女は観衆に向けて引きつった作り笑いをする。 男は彼女の頭を撫でて褒めてやり、自分が一年間育て上げ、磨いてきた芸術品を誇る。 彼女の中の、本人には否定できない女としての美しさ、その剥き出しになった姿。 なまじいに、武に身を置いていては永遠に現れることのなかった側面―― それを掘り出したことへの悦びに満ちる彼は、それを見せつけずにはおれぬのだった。 少女の声が震えていたとて、連れ帰ってのち、甘え方がより激しくなったとて、 彼女が直に見せる、母としての美しさに――彼は目を晦まされていたのである。