『牧野さんとも、また行けたらいいな』 「ふふ…」 いつになるかはわからないその時のことを考えたら、自然と顔がほころぶ。 この前遊園地を一緒に回った時は、絶叫系で大変な思いをさせたから…次はもうちょっと自重して、ゆっくり回りたいかも。 「…はあ。ちょっと雫!いつまでもニヤけてないで。ほら、パレード行くよ」 「…はっ」 そうだった、今日はkanaさんたちと一緒に来てたんだった。 …私、そんなにニヤけてた、かな? 「雫ちゃんがそ↑んな顔するなんて、珍しいですねぇ〜。牧野さんと遊園地、そんなに楽しかったんですかぁ〜?」 う。こころちゃんからもツッコまれた。すごいニヤニヤ笑ってるし。 って、あ。そうだ、これ、グループメッセ。…既読4。みんなに、見られてる。 「…」 瑠依さんは、メッセには書き込みしていたけど、さっきからずっと難しい顔をしてる。 「え、えっと…そ、そろそろパレードに?…」 「待てや」 kanaさんの鋭い一声。な、なにごと…? 「まあちょっと、そこ座れや」 「あ、あの…なんかキャラ変わってませんか…?」 「いいから。こころ!」 「承知!」 え。いつの間にか後ろに回っていたこころちゃんが、私を羽交い締めに。 今の今まで座っていた椅子に、無理矢理戻された。 「あの、パレードは」 「パレードはまた後でやるし、何なら年パスがあればいつでも観られるじゃん。  それよりも面白そうなネタが見つかったからね」 「ええ。じっくりとお話しを伺いたいですねぇ?」 くっ、さすがの仲良し。連帯感が強い…。 でもそれなら、こっちには瑠依さんが 「…詳しく聞かせてもらえるかしら」 終わった…。瑠依さんは私の隣の席に座って、真剣な眼差しを私に向けた。ああ、顔がいい。 というか、私を囲んでいる3人が3人ともトップクラスのアイドルなわけで、それは当然。 隙を見て逃げる、というのも瑠依さんとのフィジカル差を考えると、現実的に無理がある。即捕まって引き摺り戻されるのが落ち。 …いや、よく考えたら。そもそもやましいことは何もしてない…別に話しても問題ないのでは? …大丈夫、だと、思う。多分、きっと。 「えっと…あの時は…」 ----- 「かぁ?!甘酸っぺえなあ!」 「今日のkanaさんはどうなってるんですか…?」 「いちいち気にすんなって。他人の恋バナを生で聴く機会なんて大人になったらそうそう無いんだよ!  特に、普段周りにいるのがあいつらだしさ」 普通にあったことを話しただけなんだけど、恋バナ…恋バナかな…? 「こ、恋バナ…ですか…?」 「これで違ったら逆に驚くっての」 「聴いてるだけでかなり感情が漏れてましたけど、雫ちゃん、まさかの自覚無しですか…?」 そう、なのかな…?…ハハハ、マサカネー…。 「えっと、そういうみんなは…」 「今は雫の話をしているのよ」 「アッハイ」 ささやかな抵抗は、あっけなく瑠依さんの声に遮られてしまった。 これは長時間コースの予感。 私たちの座るテーブルの近くを通り過ぎていくパレードの音だけを聴きながら、私は今までのあれこれをみんなに話すのでした。 ----- 「…そんなこんなで、なんやかんやあって改めて遊園地へやってきたのだ」 「雫?誰に話してるんだ?」 「何でもない。ちょっと最近会ったことを思い出してた」 「?そ、そうか?ならいいんだが」 今日来ているのは、この間とは違う遊園地。 最近疲れ気味だから、って牧野さんがお休みを合わせてくれるとなって、私がリクエストした。 結構遠い場所だから、車も出してもらった。久しぶりにたくさんお話しもできて、それだけでもうれしい。 「もっと色々なアトラクションがある、大きい遊園地じゃなくてよかったのか?」 「ん、ここがよかったから」 私は記憶の扉を開き、あたりを見回す。…うん、あの頃と、あんまり変わってない。 「昔、お姉ちゃんが出演したドラマで使われた。今日は聖地巡礼も兼ねてる」 「なるほど。それでもねさんのぬいぐるみを連れてきたんだな」 「うん。お姉ちゃん、遊園地だよ。久しぶりだね」 昔ロケ地を調べた記憶はあったけど、念のためお姉ちゃんに確認しておいた。 お姉ちゃん(ぬい)も、心なしか嬉しそう。 「移動に結構時間かかってしまったし、乗りたいアトラクションがあるなら急ごうか」 「うん。あ、ここにはそこまで激しい絶叫系は無いから、安心してね」 「そ、そうか。それは助かる」 「で。今日は聖地巡礼だから、ドラマで出てきた順に乗る」 「本格的だな…どこから行くんだ?マップをもらってこようか」 「大丈夫。事前にスマホにメモしてきた順番を確認して、マップも把握済み」 「準備万端ってわけか」 私は頷くと、奥の方に見えるジェットコースターを指さした。 「まずは、あれ。結構距離あるから、急がないと」 「了解だ。なんとか全部回れるといいんだが」 「うん。それじゃ、行こ」 普段よりちょっとだけ早歩きで、私たちはジェットコースターへ向かって歩き出した。 ----- お姉ちゃんのドラマの話もしながら、一つずつアトラクションを巡っていくこと数時間。 「な、なんとかあと一つ…」 すっかり日も暮れて、夜の闇の中で照明に照らされたアトラクションたちが、いい感じの雰囲気。 …うん。最後に行きたかった、あのアトラクションにはうってつけ。 「中々に大変だったな…雫、大丈夫か?」 「う、うん。ありがとう、ございます。えっと、次で最後…です」 「そうなのか。ここまで色々と乗ってきたけど、最後は何だろうな」 内心のドキドキをどうにか抑え込むために、大きく息を吐きだした。 ついに、最後のアトラクションの前に到着。 「なるほど、観覧車か」 私たちは並んで、ゆっくりと回転するゴンドラたちを見上げた。 「奇麗…」 「ああ…なんかいいなぁこういうの」 わかってない人の発言。 「…そろそろ乗らないと、帰りが遅くなる」 「おっと、そうだな。足元、気を付けてな」 そう言いながら先に乗り込んで、手を差し出してくれた。…こういうことをさらっとやるから、困る。 「?どうしたんだ?」 「あ。えっと、はい。ありがとう、ございます…」 おずおずと牧野さんの手を取って、私もゴンドラに乗り込んだ。 係の人が扉を閉めると、私たちを乗せたゴンドラはゆっくりと高度を上げていく。 「観覧車なんて乗るのいつ以来だろう」 ちょっと楽しそうなのがかわいい。…こっちの気も知らないで。 「えっと」 「うん?」 「…高い、ですね」 「ああ。でも、まだ頂上まで結構かかりそうだな」 そうだ、これに乗っていられる時間には限りがあるんだった。 「あの…」 「…さっきから、なんだかソワソワしてないか?」 バレていた。 「えっと、やってみたかったことが、あって…。お姉ちゃんのドラマを、再現してみたい。お芝居の練習も兼ねて」 「なるほど、それを言い出そうとしてたのか。いいよ」 「!やった…。それじゃ、相手役、お願いします」 「ああ。それで、俺はどうすればいい?」 「うーん、しばらくそのままで」 まだ小さかったころの私には恥ずかしくて、それでも何度も観たあのドラマ。台詞は全部、頭に入ってる。 「『今日は誘ってくれてありがとう。すっごく楽しかった!』  『…ね、また一緒に来たいな。約束、してくれる?』  (ここで、『ああ、もちろんだよ』って言って)」 「よ、よし。『ああ、もちろんだよ』」 「『…よかった。それじゃ、こっちに座って』」 私は自分の隣に来るように、椅子を左手でとんとん、と叩く。 「えっ?」 「(早く。牧野さんはほとんど家族みたいなものだから、大丈夫。問題ない)」 「あ、ああ、…ああ?」 慌てて私の隣に移動する牧野さん。 …近い。当たり前だけど。 「『私、今日のこと、絶対に忘れないよ』」 この距離で、正面から顔を見ながら台詞を言うのがこんなに恥ずかしいなんて…。お姉ちゃん、やっぱりすごい。 いや、これからもっとすごいことをしないといけない。 …ヨシ!大丈夫、行ける! 「『ん…っ』」 「!?」 ドラマの一番の見せ場。この回のサブタイにもなってる、『約束のキス』。 あ、もちろん本当に当ててはいないのでご安心ください。…私は誰に言ってるんだろう。 「『…ふふ、キス、しちゃったね。またここで、しよ?』」 「………」 牧野さん、放心状態。顔が真っ赤っか。…それは、私もか。 ----- 観覧車を降りて、車までの帰り道。 …気まずい。お芝居とはいえ、いきなりやりすぎた。 でも、しょうがない。やってみたかったのは事実。 「…ええとその、なんだ。リフレッシュはできたか?」 どうにか絞りだした声。 …そうだった。元々はそのためにお休み取ってきたんだった。 「うん、すごく楽しかった。ありがとう、ございます」 「そうか。それならまあ、よかったよ。うん」 牧野さんの安心した顔を見てたら、ちょっといたずら心が湧いてきた。 「今日のこと、寮でみんなに自慢しちゃおうかな」 「…えっ!?さ、さすがにそれは」 「ふふ、冗談。今日のことは、思い出として大事にしまっておく」 「そ、そうか…うん。そうしてくれ…」 「それでね、まだ再現したいシチュエーションがあって」 「…。し、しばらく時間を置こうか…」 ダメとは言わない。やさしい。 「じゃあ、『約束』」 「さ、もう遅いし帰るぞ!早く乗ってくれ!」 慌てて車に乗り込む牧野さん。ちょっとやりすぎた。反省。 次にやりたいことまた今度、ね。 終わり。