前回なんて無いけど前回までのあらすじよ、デビドラモン!それにヴォーボモン!! 大分嫌なこともあったけど、誠実の紋章と所持者のデジヴァイスを確保した片桐達は次の相手をバロッコ南部から侵略を狙うファラオモンに決めたわ。 そんな中、またデジタルワールド・バロッコとレイヤーが重なった上、森で罠にかかって私達とはぐれた勇太の前に現れたのは林花英(イム・ファヨン)……よりにもよっていつぞやの偽姉! しかも家に誘いやがった!!このデジタルワールド私の脳に優しくないから嫌い!!! あらすじは終わりよデビドラモン、ヴォーボモン……勇太ぁ!!その偽姉は鮎川とは別方向で怪しいから惑わされんじゃないわよ!! ──── 「ここがアタシ達の家。とにかく上がって」 板張りの一軒家に辿り着き、勇太は若干の困惑を感じながら足を踏み入れる。 玄関からすぐ、居間が見えた。フローリングの床に座り心地良さそうなベージュのソファーと木目調のテーブルが視界に入った。 (普通の家なのが、おかしいよ……) 視線を動かし続ける。電気調理器が見えるキッチン。開けっ放しのドアからベッドが見える部屋。 森の奥にあるとは考えられない家に疑問を持ち、勇太は双眼鏡を壁にかけ、開けっ放しの部屋へと向かうファヨンを呼び止めることに決めた。 「ファヨンさん。この家にいつか……らァ!?」 ファヨンは部屋に入る前に上着を脱ぎ捨て、ベッドへと放り投げた。 背中と薄桃色の下着が視界に映った勇太は声を甲高く跳ね上げると、目を瞑る直前にギリードゥモンが後ろから勇太の目を塞いだ。 「どうしたの勇ちゃん!虫かなんか出た!?」 「あんたよファヨン!勇ちゃんも居るのにそこで脱ぐな!!」 それからすぐ勇太の耳には、後悔の声と慌ただしい足音が響いた。 「ミアンヘ!ギリードゥモンと暮らしてた時のクセでそのまま!!」 「そ、その……見てない。というか、ギリードゥモンが隠してくれたので……」 見えた等と言える訳もなく、青い部屋着に取り替えた後、大げさに両手を合わせて謝るファヨンに、勇太は目を逸らしながら答える。 「気をつけなよ勇ちゃん。こいつ普段の生活はホント抜けたことするから。またなんかやるわよ」 湯呑みを持ちテーブルに置いたギリードゥモンに、ファヨンは恨めしそうに「シックロウォ」と吐き捨てた。 勇太が湯呑みを覗くと、湯気立つ薄橙の液体の底に沈む果実が見えた。遠慮がちに掴み口をつける。熱と同時に柑橘と蜂蜜の甘味や酸味が広がり、喉を通ると突き立った心が僅かに収まり、息を自然と吐き出した。 「中々いいだろ、勇ちゃん。私もファヨンの柚子茶は気に入ってる」 「うん……おかげでちょっと落ち着いたよ」 ギリードゥモンが勇太に話しかけ、一気に柚子茶を一気に啜る。ファヨンはその様子を自分の分を飲みながら、緩めた笑みで勇太とギリードゥモンを、無言で交互に見つめている。 「……本当にありがとうございます、ファヨンさん」 「いいのよ。アタシはお姉ちゃんだから」 微笑んだまま相変わらずの事を言うファヨンに、勇太は引きつった苦笑で返した。 「夜の森はさ、本当に危険だからね……ここはまだ安全地帯だけども……」 ファヨンはどこか冷徹にも見える暗い緑の瞳で窓の外を覗き、湯呑みに口をつけた。 勇太もファヨンと同じ視線の先、暗い夕焼けで燻るような樹木の茶色と葉のくすんだ緑が続く森に目をやると、自分の狙ったデジモンのものかも分からない銃口や弓矢の濁った光沢を思い返し、背筋に痛むものを感じ、歯を軋ませた。 「光ちゃんには、デビドラモンとヴォーボモンがついてくれているんでしょ」 「分かってます。それでも、やっぱり」 心配と駆け出したい気持ちに足を震わせる勇太にファヨンが近づくと、勇太の目線に合わせて膝を曲げて両肩を掴み「ナドクマウムアラ(気持ちは分かるよ)」と言い、暗い緑の瞳で勇太をジッと見据えた。 「でもここは、みんなを信じてあげて」 「……俺、まだ全然落ち着けてませんね」 「いいのよ。心配で落ち着けなくて。 だけど耐えようね。お姉ちゃんも明日から、助けてあげれると思うから」 「えっ……良いんですか!?」 肩から手を離したファヨンが切れ長の目で微笑むと、勇太が思わず破顔し目を輝かせ返した。それから間を空けず、ファヨンは目線を逸らしながら額を掻き「まずこの家なんだけど」と話を始めた。 「持ち主の分からない空き家で……まぁ、勝手に、アタシ達が使ってて、ね」 勇太は顔を僅かに顰めて瞬きをすると、ギリードゥモンが炭酸と氷で割られたであろう柚子茶のコップをテーブルに置き、言いづらそうに続け始めた。 「それがある日、周りが急に森になったのよ……これといった予兆は無くね」 「森に住んでたというより、周りが森になった。って感じ?」 舌で心地よく弾ける炭酸と甘味に勇太は肩の力が抜けたままギリードゥモンに聞き返すと、草葉色の身体が縦に揺れた。 「外の肉畑とこいつの買い込む性分のおかげでまだ大丈夫だが、ずっとここも安全とは限らない。 だから何とかしたいのは、私達も同じよ」 ギリードゥモンがファヨンの顔を、一瞬不服そうに見て、ファヨンは即座に目を逸らした。 「それで、三日前からこんな風になった原因を調べるか森から抜けようとしてるけど、進展無し。 流石にそろそろ、何か進展欲しいかな……」 ファヨンが小さく呻きなぎら話すのを聞きながら、勇太は炭酸割りの柚子茶を飲み干した。 「どうやって動くにしても、俺も出来ることをします。幸いデジヴァイスが無事なので、やれることはありますから」 「そう?でも無理はさせないからね……さて」 返答したファヨンがゆっくり立ち上がると、切れ長の目でニコリと笑い、どこか軽く楽しげな足取りでキッチンへと向かい出した。 「晩御飯の用意するから、待ってて二人とも」   ──── 「よし、サンチュの代用品は残ってた。シャリの実もあったし……やろう、か」 炊飯器のスイッチを押し、一通りの食材と調味料を揃えたファヨンは、冷蔵庫から塊肉を取り出しまな板の上へと置き、息を呑む。 【あの時】から包丁を自然に持てず、肉を切るのも苦労するようになった。唾も飲み込み、引き出しから調理用のサバイバルナイフを取り出し、柄をゆっくりと握る。 「……よし、出来る」 柄を掴んだ右手から、湿りを感じた。ファヨンは不快感を抑え込むように歯を噛み締め、分厚い塊肉に刃を当て、切った。 弾力が刃を通して、はっきりと伝わった。その瞬間にファヨンの手は、久しぶりに強張った。 「っ……大、丈夫……」 薄切りにされた肉をどけ、再び切る。また、弾力を感じる。大丈夫と呟く。 切る、弾力を感じる。そう繰り返していくうちに、ファヨンの右手の湿りが、全身に伝わり始めた。 「あっ……これ……まず……」 それでもファヨンはまた肉を切ろうとして、ナイフをまな板に叩きつけてしまった。 そしてそれから、ナイフを握る右手から伝わっていた湿りが、生ぬるく変わり始めた。 「オットカジ……(どうしよう……)」 キッチンからは肉が切れず、まな板にナイフを叩きつける音だけが響く。ファヨンの全身は生ぬるく湿った感じに支配され、ナイフからも指を引き剥がせなくなった。 いつしか右手の生ぬるさから、赤い血がついたように見えた。それからたまたま、肉が切れた。 その瞬間にはっきりとあの時……両親を刺したあの感触がまた伝わり、ファヨンは叫びと震えを堪えてその場で荒い呼吸を繰り返し始めた。 「あの、お困りならやっぱり俺も手伝……ファヨンさん!?」 「しまった……ファヨン、落ち着いて!」 足音が聞こえないまま現れた勇太とギリードゥモンの声に、ファヨンは粘りつくような悪寒から一先ず解放され、ゆっくりと二人に首を向けた。 「どう、した、の……ごめん、ちょっと……」 「まず、ナイフから手をゆっくりと手を離しましょう。それが無理ならまず、大きく息を吸って」 パートナーの言葉に従うも、指は接着剤で固められたみたいに、動かなかった。 「ギリードゥモン、ごめん。したいけど……離れ……」 「ファヨンさん。大丈夫。大丈夫です」 声まで震え始めたファヨンに、勇太がギリードゥモンの制止に構わず、ゆっくりと近づいた。 「ごめ、勇ちゃん。離……」 それから勇太がゆっくりとファヨンの左手を優しく握ると、全身に伝う湿りと吹き出る汗が、少しずつ乾き始めた。 「俺の手をふり払って落ち着くなら、すぐにそうしてください」 優しい声音にファヨンは勇太の顔を見た。 額から汗を垂らしながらも必死に笑みを作り、橙の目で温かく……それても、やはり怖さは拭え切ってない笑みで、自分より30cm近く背の低い少年が、震える自分の手を、優しく握りしめている。 ふと、何かが肩と背中から抜けたように思えた。それと同時に湿りも生ぬるさも完全に消え果て……ファヨンの手から、ナイフが自然と離れた。 「……とりあえずでも、大丈夫ですか?」 「うん。大丈夫、ありがとう。勇太君」 ──── 肉の焼け付いた色の油が鉄板で泡立ち、弾ける音と香ばしい匂いが部屋を満たす。それらが肉の旨味と柔らかな噛み応えを想起させ、いつしか口内にそれを広がらせていく。 「さ、出来たよ勇太君」 ファヨンは焼けた薄切り肉を勇太の皿に置いた葉物まで運ぶと、彼は口元を緩めてタレを掛け、そのまま箸で口に運んで表情を綻ばせた。 「うま……この食べ方も良いですね、ファヨンさん」 「たくさん炊いてないけどシャリの実もあるからね、遠慮しないで食べて?」 微笑んだファヨンの言葉に勇太が一瞬考えた様子を見せたが、ギリードゥモンがまた肉を置くと、再び同じように食べ始めた。 「ここを抜けて光ちゃんが見つかったら、また同じようにみんなで食べようか勇ちゃん」 「っ……!そう、だね!」 ギリードゥモンはそう言うと、自分の分を手づかみで口に運ぶ。勇太はその言葉に、ここに来た中で一番嬉しそうな笑みを見せた。 「あ。アタシは勇太君みたいに優しくしないから。 光ちゃんにもきっちり葉物で巻いて、玉ねぎも乗せて食べてもらうわよ」 「あっ。そこは遠慮しなくていいです。むしろお願いします」 笑いながらの予想外の即答に、ファヨンは思わず笑みをこぼすと自分も肉を取り、口に入れた。   「というか、ごめん勇太君……途中から肉切るの代わってもらって……アタシ、久しぶりにああなって……」 「気にしないでください。俺も、その……子供の頃に刃物で襲われたら……ファヨンさんみたいになってるかもしれませんから……」 想像したのか一瞬天井を見て、勇太はそれでも笑って返し、椀に盛られたシャリの実を口にした。 ファヨンは口が引き裂かれても彼に言いたくない事実を伏せて伝えた嘘に、胸中が重くなり、ギリードゥモンも「言わなくていい」と言わんばかりに目を伏せて、頷いた。 「ここの所大丈夫だったから、油断したわ……ごめんなさいファヨン。とりあえず、しばらくは無理にやらないでね」 ギリードゥモンの謝罪に「気にしないで」と伝えると、勇太が小声で呻きながら目を眇め、少ししてコップの水を飲み干し、遠慮がちに口を開いた。 「あの、俺でもいいなら……代わりに食事、作ってもいいですか?」 「ホントに!?」 ファヨンが喉元まで昇った喜びを口に出す前に、ギリードゥモンがテーブルから身を乗り出す勢いを見せ、勇太は体を僅かに仰け反らせた。 「俺、さっき出来ることはするって言いましたし……光と合流するまでは、そういう意味でも……」 目線は逸らさずとも不安げに話す勇太に、ファヨンはいつの間にか口元を真一文字に閉め、彼の橙の目を覗き込むと、喉元までやってきた喜びをゆっくりと押し戻し、あくまで冷静にと自分に言い聞かせながら、自覚しながら笑みを浮かべた。 「なら明日から、お願い」 「……はい!」 一瞬、息を呑もうとした勇太は明るい返事で返すと、ファヨンも押し込んだ喜びを少しずつ戻し、また肉を焼き始めた。 ──── 片付けと換気を終え、入浴も済ませた。安堵と疲労感からソファーで寝息を立てる勇太の髪に手を触れ、表情無く「チョンマルクィヨプタ(本当に可愛い)」と呟くと、自身も近くのソファーに腰掛けた。 「ホント、最悪のタイミングで出たわね」 「……ね。彼が居て、良かった」 ギリードゥモンの言葉に目を伏せて返す。その言葉だけで、刃物を握った感覚が右手にぼんやりと蘇りまた生ぬるい湿りが生み出されそうになるも、自分を止めるために勇太が握って左手の優しげな、幼少の頃に握ってくれた両親の手のように思い返され、湿りは上書きされ、消えていく。 「ファヨン。あの子どうしたくて連れてきたの」 続いた問いに、ファヨンは自分でもハッとして沈黙で答えると、ギリードゥモンはため息で返した。 「……まぁいいわ。私もあの子、結構気に入ってるから……またカレー作ってもらいましょ」 「アンタも大概ね」 ギリードゥモンは目線も返さずに「うっさい」とだけ返し、缶のお茶に手を付けた。 「この森はファラオモンの侵攻の支援も兼ねて【作った】けど……まさかまた、勇太君が来るなんてね」 「……で、アンタはあの子をどうする訳?今度は決めてないは無しよ」 「……迷ってる」 「迷ってる?」 ファヨンは急に、双眼鏡越しに敵を覗く、感情の殆どが消え雲の上から何もかもを観る感覚のままゆっくりと立ち上がり、未だに眠る彼を自分でも冷たいと思うような目で見て、答えた。 「勇太君を光ちゃんと合流させたいけど、返したくない」 ギリードゥモンは、まるで想像すらしてなかった言葉に沈黙し、ゆっくりとテーブルの茶を置く。ファヨンはそれから勢いよくソファーに座り、困惑したままのパートナーを朗らかな目で見た。 「あっ。しばらくはアンタがベッド使っていいわよギリードゥモン。アタシはここで寝る」 「いや、私もここで寝る。あんたが勇ちゃんに何するか分かったもんじゃないし」 ギリードゥモンの咎める言葉に、ファヨンは全く思い当たるフシのないまま目を丸くして彼女の目を見て答えると、ギリードゥモンはため息をついて「要らない心配か……」と呟いた。 ────