私、二階堂ユメは恵まれていると思う。二階堂家の一人娘として生まれ、少し厳しいけれど私のことを思っているのがよく分かる母上に少し過保護だけど大切にしてくれるママ、そして両親の仲はちょっと良すぎて娘の前でもイチャつくのはやめてほしいけれど……それでも私はすごく恵まれていたんだと思う。 だけど、私は思い出してしまった。この私……二階堂ユメは、両親の親友である月代ユキ、私の名前の由来である『ユキ』の転生体であったことを。今のこの日記は、私が『二階堂ユメ』である最後の時間で書いている。15年の生活はとても楽しかった。休みは遊びに連れて行ってくれるヒロ……違う、母上と巡った博物館や水族館……展示を逐一解説する姿には幼い頃は辟易としていたけれど、そんなところもヒロらしいですね。ママは過保護がすぎて小学校の頃は学校までついてきて、エマは私が過去に虐められていたから不安だったのでしょうね。友達にからかわれて恥ずかしかったりしたけど、全て私のことを思ってくれていたから嬉しかった。 母上、ママ。あなたの娘でいられて幸せでした。どうか、私のことを忘れなエマとヒロは私のことを覚えていえ、『ユキ』と『メルル』から取って名前をつけるくらいですから覚えているでしょうね。     「……ふむ」 目覚めた私は机の上に残されていた日記を読み終えるとそれを金庫に仕舞いました。ヒロは家族であってもプライベートは大事にすべきという考えから娘にも金庫を与えていたようです。ヒロらしいですね。 私、月代ユキ……いえ、今は二階堂ユメでしたか。はマメな性格のようで日々こうして日記をつけていたらしく、エマとヒロが親をやっている姿が記録されていました。とはいえ、彼女の記憶も私の中には残っているので鮮明に思い出せるのですが……こうして文字で読むのも楽しかったですね。 「しかし……悪いことをしてしまいましたね。最後の日記に私の意思が侵食してしまったとは。ううむ……ですが私が書き換えるのはユメに悪いですし、ここは我慢です」 ちらりと金庫を眺めてから堪えることにしました。ユメの意思はユメのもの。いくら私が目覚めるまでの存在であるとはいえ、そこは尊重すべきでしょう。 「さて……今すぐにでもエマとヒロに会いたいですが、もう深夜ですし朝に驚かせることにしましょう」 余りビックリさせて眠れなくしても悪いですからね、ではおやすみなさい。     「おはよう、ユメちゃん……いや、違う…誰?」 「どうしたんだエマ、ユメが……ユキ、か……?」 む、鋭いですね。もう気付かれてしまうとは。私がユメではないと……しかもユキであると気付くとは。 「よく分かりましたね、エマ、ヒロ。久しぶりですね、元気でしたか?」 まぁ気付かれては隠す必要もありません。にこりと笑顔を浮かべて近付こうとすると、後ずさるエマに、そんなエマを守ろうと立ち塞がるヒロ。おや? 「ユメをどこへやった?」 鋭い目付きで私を睨むヒロ。あんなにヒロが愛していた私が蘇ったというのに何故そんな目をするのでしょう? 「彼女なら消失しました。元々私が目覚めるまでの仮初の人格です。きっと本望でしょう」 「え……? 消失……?」 「ユキ……お前は……!」 ぽかんとしてへたり込むエマに怒りを見せるヒロ。な、なんでそんな反応をするんですか。親友の私が帰ってきたんですよ、もっと喜んでくれると思ったんですが…… 「ユキ……なんで、そんなことをした」 「なんでって……今度こそエマとヒロと三人で過ごすためです! 今の私は魔女ではなく人間です、今度は三人で幸せに過ごせます、花火だって、お花見だって、海水浴だって!」 あぁ、楽しみです。関係性は親子ですが私たちならきっとすぐにあの頃のように戻れるはずです。楽しみです、死ぬまでずっと一緒ですよ!