「え~とまずは、バトマーテルでエリスとマルファ...さんのサーチを」 「そうではないでしょう。リソース面について全く考えられていませんね、この手札なら後の動きを考えるべきです」 アパートの一室で、俺のデッキ一人回しに付き合ってくれている対面のエクソシスターマルファがそう注意した。 この展開は何度も注意したことだからか、呆れたような声色。 彼女はカードの精霊で俺はそのマスターだが、こう叱られているとまるで主従関係が逆に思えてくる。 「それと“さん”をつけるならエリスにもそうしてください。私が実際にいて気が引けたのがバレバレですよ」 「は、はいすみません...」 「ダメなマスターですね」 後付けでマルファにさん付けしたことも見抜かれていた。 もうこっそりミスをごまかすのとか、全然できる気がしない。 カード効果も自身の事だから俺よりも把握しているみたいだし。 赤の瞳で見つめられると、二重の意味で心臓が跳ねてしまいそうだ...。 「これでは実践なんて程遠いですね...もう基礎の基礎、展開から教えましょうか?もうこれは何回も教えたはずですけど」 「ああ頼む...」 「「頼みます」ですよね」 「頼みます......」 主としての威厳を出そうとタメ語で話してみたが、細眼で笑顔になったマルファに押し戻された。 そんな甘い考えは許されなかった。 「失礼しますね」 実際の動かしかたを教えるために、マルファが対面からこちら側へと座る。 俺に展開を見せるためにマルファは背を向けることになるため、その長く赤い髪がこちらに向いてくる。 うっ、その赤い髪が揺れるたびにとてもいい匂いがする...。 「まず、手札が私だけだった時の展開方法から教えましょうか。まず私とエリスを特殊召喚してカルマエルの私を────」 そんなことを考えていたら、マルファが動かし方を説明し始めた。 いかんいかん。 またマルファに叱られてしまう。 集中して聞かなければ。 だが、暑い時期だからと回していた扇風機が首を振るたびに、甘い匂いを乗せた風が俺の鼻孔を通り抜ける。 マルファもうっすらと汗をかいているため猶更濃密な匂いだった。 「バディスの効果で特殊召喚したエクソシスターを変身させ─」 背を向けているからか、俺の事なんかお構いなしに話を進める。 でも、俺はそれどころじゃなかった。 マルファがEXデッキのカードを取るために首を下にひねると、匂いの発生源である綺麗なうなじが覗いてくる。 ああ、意識が飛んでしまいいそうだ。 「あの。話、聞いてます?」 マルファが振り返って俺の方を見る。 背中越しでも、俺が説明をまともに聞けていないことを見抜かれていたようだ。 「あ、いや、その......」 「ぜーんぜん聞いていなかったじゃないですか」 「その、いい匂いがして集中できなくて...」 「へぇ、そうだったんですね」 マルファがすっとぼけたような反応を返してくる。 くそ、なんで今日はこんな部屋に甘ったるい匂いが充満してるんだ。 待てよ。 確か今日はエアコンを使うほどの気温じゃないからって、扇風機を回すことにしたのはマルファだ。 しかも、家の窓がいつの間にか網戸にしていたのに完全に閉じられている。 「もしかしていい匂いをさせていたのはワザと────」 「それはマスターが女の子の匂いで興奮しちゃうヘンタイさんなのが悪いんじゃないですか?」 「なっ」 俺がマルファによって仕組まれた状況な事に気が付いたが、反省するどころか、俺が悪いように責めてくる。 「じゃあこうしましょう」 そんな小悪魔なマルファは俺に向かって背を向け直した。 「そんなに嗅ぎたいならもっとどうぞ」 「うぶっ!?」 背を向けたマルファが俺に向かって倒れこんできた。 ピンクの髪の毛が俺の顔に覆いかぶさって、呼吸をするたびに直に匂いが入り込んでくる。 甘ったるく、柔らかくて薔薇と柑橘類が混じったようなそんな香りだ。 「う~~んん!!」 倒れこまれた状態から脱出しようとするが、全く抵抗できない。 凄い力で抑え込まれていて、鉄像のように動かなかった。 「ほら、もっと頑張ってください。女の子にデュエルでも力でも負けちゃう弱いマスター“さん”」 俺の事を小さい虫を虐めるかのように、煽ってくるマルファ。 なにくそと目の前のピンク髪を押すが、当然全く動く気配すらない。 覆い被さられている内に甘い匂いと暑さでくらくらしてきた...! 「んんんん゛ーー!(許してくれマルファさん)」 俺は従者であるマルファに許しを請う。 だが、マルファは全く力を緩めてくれない。 むしろ嬉しそうに、押しつぶすかの如くこちらの方に力を入れてくる。 ああ...意識が...。 「どうしました?」 マルファは様子が変だと拘束を解く。 「あら、これだけで気絶しちゃいましたか。じゃあ起きたら...もっと虐めてあげましょうね」 気絶したマスターを見たマルファはそう言って笑顔になる。 その笑みはまるで悪魔のようだった。