コージン=ミレーンの日記 D月J日 星骸炉なる忌器の破壊を目指し、かつてバルロスの街があったという地を見下ろす山の峠へと立っている。 いかんせん全貌も見えない組織だけにどこまでが奴らの勢力圏か分からない。故に警戒には万全を期する必要があるのであった…。 「そろそろ入り込む準備をするか、お前も何か顔を隠すものを用意しておけ…」 俺は聖騎士の制服と覆面を着込みながら、ライトにも変装を即した。 「でもここって大分昔に滅んだ街なんでしょ。人がいるかいないかも怪しいのに、わざわざ変装する必要ありますか?」 「前の邪竜教団相手の時もそうだったが、全貌の見えない組織立った敵を相手にするのに、こちらの素性を晒しているのは不利でしかない。それにこうしている間にもすでに奴らに見られているかもしれないから、ここからは警戒をして行くぞ!」 俺の意を決したような物言いにライトも気を引き締めたようで、以前レストロイカ帝より賜った気ぶり仮面を荷物袋から取り出して装着した。 *   *   *   *   * 「この街のことは良く分からないんですけど、確かバルロスという機械の竜がいたんですよね?」 「俺も資料とかで見た情報ぐらいしかないんだが、バルロスとは先の人魔大戦の際に作られた巨大ゴーレムで永久魔力炉といった現代の科学力でも再現が難しい高度な技術で出来ていたらしい。その技術を解析するために、多くの科学者技術者が集まったことで出来上がったのが学術都市としてのバルロスだ」 「そんなすごい街が一体どうして今は跡形も無くなったんですか?」 「その高い技術力を用いたこの地の防衛組織は下手な国軍よりも強力で、魔王軍に対しても多大な戦果を得ていた。しかしある日、街の内部に突如現れたエビルソードとの交戦によって滅んだとされている」 「まるでカンラーク事件と同じじゃないですか。エビルソード、何て恐ろしい奴なんだろ…」 噂に名高い魔王軍四天王、その強さの片鱗を聞いてライトも脅威を感じるのであった。 ミレーンはかつて一時的に共闘した元人造勇者でもあるスナイプの言葉を思い出しながら言う。 「ここからはスナイプの奴から聞いた話だが、バルロスの防衛隊の抵抗はエビルソードとも互角で人造勇者たちの犠牲も多かったが退けることはできそうだったらしい」 「じゃあ一体この街が滅んだのは誰が…?」 「バルロスの本体、つまり機工竜バルロスが突如起動し街を崩壊させ、どこへ飛んで行ってしまったんだ。エビルソードはそのまま帰ったからアイツが勝ったみたいに思われているが、実際のとこは痛み分けだよとスナイプの奴は言ってたな。まぁとりあえずこれがバルロス事変と呼ばれる件の真相だそうだ」 「とにかくこの一件で生き残った人々は散り散りになり、様々な国や勢力にその技術は広まっていった。俺たちが戦ったあのメックスーツもその一つじゃないかだとさ」 黒い甲冑ことメックスーツの厄介さは俺もライトも身に染みて知っている。故にこれから戦うであろう人造勇者にも十分対策を練らねばならない。 「人造勇者とか何たら機関とか呼び方が色々ありますけど、どういう組織なんですかこいつ等?」 「バルロス防衛隊とは所謂バルロス軍のことなんだが、その中にある特務機関で『特殊兵装実験部隊第四中隊』が正式名称。人造勇者とはその部隊で戦闘を行う改造人間の兵士のことであり、そいつらプラス開発やサポートを行う技術陣を加えた総称をヒジンドー機関と呼ぶらしい」 「元は優れた技術者でもあったイッテナン=ドナー中佐が立ち上げ、魔王軍との戦いでは敵拠点を取り返す戦果も上げたが。多くの予算や人員が回ってくると次第に組織は暴走し、ドナー中佐の死後は軍内部でもやりたい放題だったみたいだ」 「スナイプの奴も『転属命令で行かされたら無理やり変なもん仕込まれて改造人間にされちまった。後期の人造勇者連中はそんなのばかりだから、軍が無くなってせいせいしてるし戻る気も関わる気もねぇよ』だとさ」 「これから僕たちが戦うことになるのはその生き残りなんですね」 「粗製乱造された後期型と違って初期型、特に拾番台ぐらいまでの連中はコンセプトやプランも練られて作られているから強力な力を持っている者が多い。そして俺たちが戦うだろう相手は恐らくその初期型メンバーになるだろうと…」 『初期型のメンバーは仲間意識の強いやつらが多かった。もっともそれは初期型同士の話であって、他の後期型とはどこか一線を画していたよ。まるで常連だけで盛り上がってる酒場のような居心地の悪さがあったから後期型は軍解散後みんな消えちまったし、徒党を組んでやらかそうとしているのは初期型の連中なのは間違いない…』 初期型人造勇者の能力についてスナイプに問い質してみたが、彼は詳細はよく分からないと言ってた。 『俺たちとは一線を画してるって言ったろ。アイツらは妙に秘密主義で戦闘中に晒している部分程度の情報ぐらいしか俺たちには見せなかったんだ…』 山道を下りながらミレーンはライトと情報の共有をする。 下り坂の中腹からの眼前にはバルロスの街であった土地の全景が見える。周囲を山に囲まれた広い盆地の中に無数の廃墟が残っている。 そしてその中心地には半径2~3kmほどはある真円の更地が広がっている。おそらくそこは機工竜バルロスの起動した余波で生じた爆心地のようなものなのだろう。 *   *   *   *   * 山道を下りバルロスの街に入る。見渡す限りの瓦礫の山、そしてその傍らには今はも動かないであろうゴーレムがいくつも転がっている。 「すごいなぁ…、こんだけの数のゴーレムなんて今まで見たことないですよ。しかも五体満足で状態の良いのも結構ある。ジャンク狙いの冒険者に聞かせたら、凄い数の人たちが押し寄せますよ…」 ハイエナのように残り滓の中からお宝を探すような冒険者はこの世界にはうんざりするほどいる。 持ち主の所在が不明で交戦の恐れがないゴミ漁りは、効率の良し悪しは置いておいて危険性と言う意味では安全と言ってもいいレベルではある。 にも関わらず手付かずのゴーレムがそのままで放置してあるのは情報が知られていないのか、それともこいつらを守る墓守のような者でもいるのだろうか…。 とりあえず中心地の方向を目指して歩みを進める。すると遠くから銃声が聞こえてくる。 早速敵のお出ましか! ライトを伴い銃声の聞こえる方向へと向かって行った。 現場にたどり着くと瓦礫に退路を塞がれた状態で少女が4体の獣人に囲まれていた。獣人は鳥型、犬型、虫型、蜥蜴型の4種。 追われている少女…いや正確には小型の女性型ゴーレムのようだ。 客観的に言うなら小さい女の子が屈強な獣人4体に囲まれた絶体絶命の状況に見える。 瓦礫の陰から様子を伺っていると獣人たちの囲みの向こうから男の声が聞こえてくる。年齢的には20代前半の若者といったところ、そいつは獣人ではなく軍服を身に着けていた。 「ったく手間かけさせやがって! さっさと盗んだブツを返して一緒に来るんだな。背後関係に関して色々聞きたいことがあるから、即破壊なんて真似はしねぇから安心しろ」 どのしろその流れだとろくな目に逢わないのは分かるから、応じるわけないだろと思っているとゴーレム娘も反応する。 「断る。コイツはマスター所縁の命令だ。お前たちが引かねば私と一緒に粉々になってもらう」 軍服男はチッ!と舌打ちしながら応える。 「吹っ飛ぶなら勝手に吹っ飛べよ。その前に俺たちがそのリュックを引き剥がせばいいだけさ」 4体の獣人が軍服男の合図で飛びかかる。タイミングを合わせたかのようにゴーレム娘は両腕をマシンガンへと変形させる。 ゴーレム娘の放つ弾丸は近接距離なので獣人たちにキレイに着弾する。しかしながら獣人たちの生命力が強いのか一瞬反動で怯むものの、くたばるどころか引く様子も見せない。 この状況どう見ても人造勇者とその対抗者であろうと判断し、ライトに目くばせすると戦闘へと乱入する。 俺はいつものように両手両足に魔力を込める。強化された手刀で虫型獣人を一刀両断する。ライトは両の腕から刃を生やし犬型獣人を切り伏せる。 俺たちの姿を見て軍服男は苦虫を嚙み潰したような顔になる。 「何だぁお前らぁ…どこのもんだぁ?! このゴーレム女の仲間か何かか? まぁいい情報源は一人で構わねぇ、お前らはとりあえず殺すわ…」 軍服男が携えてた大剣を構える。 「お前は人造勇者なのか?」 名乗り代わりに聞きたかったことを軍服男に質問してみる。軍服男は訝し気な表情を見せた後、にやりと笑いながら答えた。 「俺たちのことを知っているってことは敵であるのは間違いないようだな。その通り!俺は人造勇者漆號レーベン=フィール様だぁ!」 漆號は大剣をまるで曲芸でも見せるかのように軽々振るって俺に斬りつける。おそらく改造手術的なもので身体の強化をされているのだろう、だがその技は大分お粗末だ。 荒い太刀筋に加えて扱いにくい大剣、振り切った隙間を縫い腰を掴むと俺は奴にフロントスープレックスを決める。もちろん一撃で仕留めるために頭から叩きつける通常の試合では禁じ手verだ。 俺が漆號を仕留める間、ライトは残りの犬型と蜥蜴型の獣人を両腕の刃で切り捨てていた。 ライトがゴーレム少女に大丈夫?と聞くと、彼女は「油断するなアイツらはしぶとい」と淡々と返した。 倒したはずの4体の獣人が再び起き上がる。負傷した箇所が徐々に再生されていっている。 ライトもこの状況には「何なんだいったい…」と返すしかなかった。 「奴らは生命力復元力ともに強い。殺すなら心臓を潰すか頭部を完全破壊しろ」 ゴーレム少女は再び両腕をマシンガンに変形させると犬型獣人に向けてヘッドショットを加える。 だが弾丸の口径が小さいためか敵を沈黙させるまでには達しない。 あわやとなったその時ライトの刃が犬型獣人の首とボディを二つに分かした。 「嫌だけど…これしか方法はないんだよね…」 ライトの問いにゴーレム少女は頷いて答えた。 ライトが感情をクールダウンさせると残りの3体を瞬く間に仕留める。 これで状況は終了したかと見届けていると背後から何者かが俺に斬りつけてくるのであった。 「よくもやりやがったな…テメーだけは必ず殺す…」 それは漆號であった。完全にへし折れたはずの首の骨が正常に付き筋肉や皮膚も復元されるのが早回しでもしたかのようにはっきりと見える。 漆號がまた大剣を振るい俺に斬りかかる。強化した左腕で受け止めようとすると前腕に裂傷が走る。 「アホか!聖剣は聖剣でしか受け止めれねぇんだよ!」 そういえばマスグラの国境で戦った捌拾弐號もそんなこと言っていたな。だが聖剣持ちということはコイツは確実に人造勇者の一人ということだけは分かった! 「お前達。一旦引くぞ」 ゴーレム少女がそういうと煙幕が拡散される。煙の中から見えるゴーレム少女のこっちに来いという合図を目標に、俺とライトはそちらへ向かって行った。 煙が晴れてから漆號が視界に見えていたのは4体の獣人の死体と蓋の開いたマンホールであった。 「ちっ!逃げられちまったか。だが穴の中にはすでにアイツが入っているから追う必要はねぇか。あの女に手柄取られるのはムカつくから、適当にボコボコにされてSOSでも出してくんねーかな…」 通信機を起動し状況を伝え漆號は本部に帰投するのであった。 (続く)