森林の中を10数名の集団が隊列を組んで歩いていた。鬱蒼と生い茂り、蝉の番を求め鳴く声の他何も聞こえない森の中を、その集団は無言で進行を続けている。  ふと、戦闘を歩いていた少年が歩みを止めた。フードを外し、露になった獣耳をひくひくと動かし、しきりに鼻の匂いを嗅いて周りの様子を伺う。やがて、表情を険しくして後方を振り返ると、集団の中から一人の男が進み出て無言で頷く。  前方に生い茂る木々をじっと、射抜くような目つきで観察していた男は、やがて一人の女性の名を呼んだ。 「はい。隊長」  長髪の黒髪、長身の、美貌と言っていい容貌だが陰気な印象を強く抱かせる女性が前に進み出ると、一本の樹木を指さした。  黒髪の女性は手を掲げ、手に魔力を集める。そしてかッと目を見開くと、男の指差した樹木に魔力弾を放った。魔力の弾はその樹の幹に吸い込まれるように向かっていき。轟音を立てて幹をへし折った。 「ぎゃああああああ!!」  折れた幹と共に、一人の男が枝から現れ転落していく。その男は大地に叩きつけられうめき声を上げながら失神した。  それまで微かだった周囲からの殺気が強まった。赤髪の少年と、白髪の隻眼の少女が剣を鞘から抜いて辺りを警戒する。  草むらの中から甲高い笛の声聞こえた。直後、樹の陰から、岩の背後から、草むらから次々に男たちが現れた。どう見ても堅気ではない、品性を感じさせないような薄汚れた衣装に、凄惨な空気を身に纏わせた男たちが下卑た笑い声をあげながら集団を取り囲む。  集団の中から、頭一つ分は大きいかと思われる体格の巨漢が姿を現した。 「もう少しいいポジションに囲いたかったが、バレちゃあ仕方ねえ。ようこそ、俺たちセーンカ盗賊団の縄張りへ。俺は盗賊団の頭、ザファン・ディールエだ。歓迎するぜ」  親分の嘲り声に、レオタードを身に着けた、大鎌を構える黒髪の少女が眉をひそめる。  男は静かにザファンに問いかけた。「降伏し、悔い改めるつもりはないか?」と。 「悔い改める?面白いこと言うじゃねぇかおい!」  ザファンが周りを見渡して叫ぶと周囲の子分たちがけたたましい笑い声を上げた。 「それはこっちの台詞だボケが!こっちは70名、てめぇらは10数名、しかも女子供が半数以上ときた!はっ大した気勢じゃねえか!」  ようやく笑い声を収めるとザファンは卑しい目つきで集団を見渡す。一目見ただけでもここにいる女たちは上物揃いだとわかる。族の中には既にこの後の楽しみを想像して好色な笑みを浮かべて舌で唇を舐めまわす者もいた。 「そうだな。有り金と武器。それと女子供置いていくなら寛大な心で見逃してやってもいいぜ?」  なぁ!と親分が叫ぶと子分が一斉に歓声をあげた。憤りを顔に浮かばせながら金髪の剣士の少女がマントに身を包む男を見上げると、その男は呆れた様子で肩を竦めた。 "交渉、決裂だな"  先程長身の女性に隊長と呼ばれた男が、一人の男の名を呼んだ。前に進み出た男──大楯と、槍を手に持つ金髪碧眼の、整った容貌の美青年は神に祈りの言葉を捧げると、気合と共に片手を天に掲げた。 「おおっ!?」 「なにっ」 「なんだぁ!?」  盗賊たちが次々と驚愕の声を口にする。金髪の青年を中心に、半径50メートル程の、円柱の形をした結界が張られていた。青白い色をした円柱の果ては族たちが見上げても見えず、果たしてどれほどの高さなのか判断する事すらできない。 「この壁は外部からの干渉を断ちます。同様に、内部からの脱出も不可能です。僕が解除するか、死なない限りは」  淡々と金髪の青年の述べる言葉に、どよめきが悪党たちから湧き上がる。内心の動揺を隠し、凶悪に顔を歪ませたザファンが青年に吠えた。 「馬鹿がっ、お前たちを守る結界ならともかく、俺たちまで囲んでどうするってんだ!頭、可笑しいのか!?」 「クリストは間違ってなどいないさ」  背に棺を担ぐ、陰鬱な表情をした男が頭目の言葉に答えた。いつの間に出したのか、その手にはボーガンが握られている。 「なぜなら貴様ら屑どもを取り逃がさないための魔法壁なのだからな」  語り終えると素早く男はボーガンを構え矢を発射した。一人の盗賊が肩に矢を受け、悲鳴を上げながらのたうち回る。  その射撃を合図に、集団──PT「キブリーズ」のメンバーも各々の武器を構え、或いは魔力高める。喚き声を挙げながら次々と盗賊たちが斬りかかり、ここに13名の冒険者と70名の盗賊たちとの戦いが始まった。 ******************** 「カーニバルといこうぜ!」  両手に爆弾を持った魔術師マーリンが合図を送ると、聖盾のクリストは心得たと頷き再び防壁魔法の準備に入る。小悪党な笑みを浮かべると、マーリン両手に持っていた爆弾を投擲した。クリストが今度はPTの周囲に範囲を絞って防壁魔法を発動させた直後、壁の向こうで爆発が巻き起こり、不運にも爆発に巻き込まれた盗賊たちの苦痛のうめき声が至る所で聞こえる。 「いつも通り、まず私から斬りこませてもらうよボスッ」  クリストが壁を解除すると、待ってましたとばかりに☨天逆の魔戦士☨アズライールが、大鎌を構えると大きく跳躍する。くるくると縦回転しながらハナコは練気を大鎌に集中させる。 「☨暗黒の鎮魂曲(ダークネス・レクイエム)☨!!」  高々と叫びながら大地を己の練気を込めた大鎌で殴りつけると、周囲の盗賊ごと、大地が吹き飛んだ。  モクモクと湧き上がる煙に、ラーバル・ディ・レンハートとサンク・マスグラード帝国の訓練生 ジーニャが剣を手に飛び込む。 「12時に3、4時に1、8時に2」 「楽勝だな」  素早くラーバルが敵の位置と数を把握してジーニャに伝えると、ジーニャが不敵に笑う。 「サンク・マスグラード帝国の剣術、お前らに魅せてやるよ。屑ども」 「覚悟しろ。罪なき民の敵め!」  賊たちを冷たく見据えると、ジーニャとラーバルは同時に斬りこんだ。血なまぐさい戦場には不釣合いな、白と赤の、麗しき二重奏が開演した。 「悪党、覚悟っ!」  偽勇者ユイリアが、勇者の剣を手に次々と盗賊たちをなぎ倒していく。本来勇者にしか扱えない勇者の剣を己の、強靭的な筋肉で無理やり扱う彼女の攻撃は、ただの盗賊がどうこうできるものではなく、中には剣で受け止めようとした腕に覚えのある者もいたが、ガラスのように容易く折れる自分の剣に信じられない表情を浮かべたまま倒されていった。 「おーにさーんこちらっ♪てーのなーるほーうへ♪」  ハルナが、歌を口ずさみながら樹と樹の間を飛び回り、盗賊に苦無を投擲する。アクロバティックに跳躍するハルナに幻惑されればユイリアの斬撃が盗賊を襲い、ユイリアに注視すれば背後から、頭上からハルナの苦無が襲い掛かる。盗賊たちは二人に完全に翻弄されていた。  リーダー格の男が仲間に檄を送る。 「臆するんじゃねぇ!あいつは力はやべえが離れれば怖くねえ!!まずは剣の女の方だ!剣が届かないとこから弓矢で攻撃しろ!他の奴らは飛び回る女を見張れ!」  その声に弓を手にした盗賊たちが、遠巻きにユイリアを囲む。だが、矢を構えようとした瞬間射手たちは異変に気付いた。 「お、おい!矢がねぇぞ!」 「こっちもだ!」  射手たちが矢筒に入ってる筈の矢が、ごそっとなくなっていた。この事態にリーダー格の男も呆然として立ち尽す。その間もユイリアとハルナの猛攻は止まることはなく、周囲に盗賊たちの阿鼻叫喚が響き渡る。 「ど、どういうこった…?」 「こういうことだよばーか」  目の前の惨状が信じられず、呆然と立ちすくんでいた男の目の前に、透明化していたマーリンが姿を現して矢の束を見せつけた。驚愕で固まる男の股間を、マーリンが思い切り蹴り上げる。抱えてた矢を手放すとナイフを取り出し、股を抑えて悶絶する男の後頭部に柄で殴って昏倒させる。草原に矢を隠し終えるとマーリンはユイリア達の方を振り返った。 「おし、こっちは終わりそうだな」 「ぎゃあ!」 「ぐえぇ」  賊たちの悲鳴があちこちで挙がっている。理由は明らかであった。長髪の女性、漆黒の勇者イザベラである。  彼女の放つ魔法攻撃によって、的確に盗賊たちは狙い撃ちされ、一人、また一人と数を減らしている。  あの女を仕留めなければどうにもならないと、一人の盗賊が樹に隠れながらイザベラの様子を伺っている。魔術師崩れのその男は、イザベラを一撃で仕留めるべく手に魔力を込める。 「ちっ、あの楯の色男が邪魔だな…」  正面から突撃する賊たちはクリストの大楯に阻まれ、彼を突破できないうちに、後方からイザベラの魔法によって沈黙させられている。  狙うなら側面。そう判断した魔術師崩れの男は草むらを這って移動する。幸いイザベラは攻撃に集中してて木々までに集中できてない、そう判断した男は立ち上がると魔法を唱えた。イザベラが男の気配に気づくが時すでに遅く。男の放った業火に包まれていった。 「馬鹿め!俺の勝ちだ!」  男は勝利の笑みを浮かべる。直後、その笑みが驚愕で引き攣った。  イザベラが、燃えていない。周囲を男の放った業火が包んでいるが、彼女の周囲を纏う白く輝くオーラによって阻まれ、勢いを失ったまま漂っている。 「【リフレクター】。相手の攻撃魔法に自分の魔力を込めて弾き返します。クリストが、私のために掛けてくれた魔法」  イザベラが、今、男の前で起こっている現象を伝える。 (だから、あの女は攻撃に集中できてたってわけか?なるほど、馬鹿は俺だったってわけか)  白いオーラが一段と強く輝く。イザベラに向けて放った炎が向きを変えて放った本人に向かっていく。  自嘲の笑みを浮かべながら、魔術師崩れの男は自分の放った炎に襲われ、意識を失った。 「舐めやがって…!」  無精ひげの男がよろめきながら立ち上がった。彼の視線の先には、アズライールとサーヴァイン・ヴァーズギルトが躍るように盗賊たちをなぎ倒している。大鎌をまるで軽業師のように軽々と扱いながら、大袈裟な技名を叫んで戦うアズライール。黙々とある時は剣を、ある時は槍を、ある時はボーガンと対峙する敵によって武器を変えながら戦うギル。たかが二人相手に周囲の賊たちは完全に圧倒されていた。 「だが、俺には秘密兵器がある!」  醜悪に顔を歪めて男は笑った。こいつを食らえばあの二人も無事ではすむまいと、この先繰り広げられるであろう光景を予感しながら男は懐をまさぐった。だが……。 (ない…ない!?ないっ!!)  幾ら懐を漁っても目当てのものは出てこない。混乱する男の前に、一人の少年が姿を現した。 「おじさんが探してるのって…これ?」  そう言って少年が取り出したものは火炎瓶。男の自慢の一作だった。 「こんな原始的なものを秘密兵器とは、そうとう懐がお寒いんだね。マーリンが聞いたら鼻で笑うよ」  少年──シーフのフレイが小ばかにした顔で笑った。カッとなった男がフレイに向けて駆けだす。 「小僧っ!返せ!………ぐあぁぁ!!?」  フレイに手を伸ばした瞬間。轟音が聞こえ、直後に男の手の甲に激痛が走る。彼の手には風穴が開き、傷口から血が溢れ出ていた。 「フレイには手を出させない」 「ありがと、アリシア」  拳銃の銃口から煙を漂わせながら冷たく告げる、傭兵アリシアの姿に、男はぞっとしたものを背中に感じた。この瞬間、男の闘志は消え去っていた。 「どうだった?」 「全然ダメ、大したアイテムはないし、武器も刃こぼれや粗悪なものばっかだしで……こりゃアジトに期待するしかないよ」 「まっ、そっちがフレイの本領発揮の場だから気にしないで」  フレイと平然と会話してる間もアリシアの目は敵を見つけては適格に狙撃して、ターゲットを無力化させていく。 「俺は手出しはせん。目の前にいる三人、それぞれ相手の攻撃を受けてから一撃で仕留めてみろ」 「はい。わが師、ヤンよ」  血の滴り落ちる二振りの剣を持ったヤン・デホムが右腕をあげ、目の前にいる三人の賊を剣で指し示した。表情を変えることなく頷いたスパーデ・ディ・レンハートが歩みを進めると、剣を構えた。  一人の盗賊が剣を上段に振りかぶりながら斬りかかった。こともなげにスパーデは刀で男の渾身の斬撃を受け止めると、横なぎに男に峰うちを与えた。 「一人」  左前からまた一人盗賊が斬りかかる。容易く男の剣を弾き返したスパーデが峰うちで袈裟切りを与えれば、肩を砕かれた男はうめき声を漏らしながらどうっと倒れた。 「二人」  雄叫びをあげながら槍を手に持った男がスパーデに向けて槍を突き出した。ヤンは軽く体を捻って突きを躱しながら、剣で柄を両断する。呆然と立ちすくむ男にそっと近づくと、スパーデは男の頸を思い切り蹴り上げた。 「三人」 「ひひ、ひひひ……あ、あり得ねえ。70人だぞ……70人いたんだぞこっちはっ!?」  ザファンは混乱の極致にいた。楽な仕事の筈だった。それがたったの12名、それも半数以上が女子供のPTにここまで圧倒的な敗勢に追い込まれている目の前の惨状が、ザファンには信じられなかった。 「ひぃっ!?」  キブリーズのリーダーの「あなた」が目の前に現れ、ザファンが後ずさる。助けを求めようと血走った目で辺りを見渡すも、立っているのはキブリーズのメンバーだけ。 「わ、わ、悪かった!降参だ!降参するよ!」  恥も外聞もなくザファンはひれ伏し、土下座した。コメツキバッタのような大男を見下ろす「あなた」だったが、一言ザファンに尋ねた。 "今のお前のように命乞いする民に、お前らはどうした?" 「へ、へへへ………」  脂汗をダラダラと流しながらも土下座を解かないザファンにため息を吐くと、「あなた」は縄を取りに荷物のある場所に踵を返した。  キブリーズのメンバーの一人、ツジカイが叫ぶのと、ザファンが狂気の帯びた目つきで立ち上がるのはほぼ同時だった。 「親分!危ない!」 「俺は…俺は常に勝者!奪う側なんだよぉぉぉ!!」  全身の筋肉を躍動させザファンがちょうど振り向いた「あなた」の顔面に右腕で渾身の握りこぶしを見舞う。「あなた」はその凄まじい拳を片腕で受け止めた。 「!?ッ…この…!」 "なるほど、いいパンチだ。少し、手が痺れたよ"  言葉とは裏腹に、「あなた」に掴まれた頭目の拳は全く動かすことができない。ぞわっと、ザファンの背筋に冷たいものが走った。 "それだけの力…!" 「や、やめっ」 "なぜ、他者を傷つけ、奪うことに使う事しか思い至らなかったッ!"  ぐいっと「あなた」が頭目の腕を引き寄せた。体勢が崩れ、前のめりになる頭目の顎に、渾身の力で「あなた」はアッパーカットを叩きこんだ。  弓なりに仰け反り、地響きを立てて頭目は仰向けに倒れた。完全に伸びている頭目を縛ろうとロープを持って駆け寄ってきたツジカイを呼ぶと、「あなた」は感謝の言葉を述べた。 「そ、そんな大したことしてないよ……え?"君がいなかったら反応が遅れたかもしれなかった"……へへ。ど、どういたしまして…」  照れ隠しに頭を掻くツジカイにもう一度礼を言うと、「あなた」は仲間を集めると無力化した盗賊を拘束し、次にクリストを呼んで念のため盗賊の周囲に結界を張って逃げられないようにしておくよう、クリストに指示を出した。 ********************  官憲に盗賊を引き渡したと、ギルドに任務完了の報告を終えた一同は、ナチアタ・コンナーニの背に乗って帰路についていた。 「ごめんねナチアタねーちゃん。今回の任務に連れていけなくて」  ツジカイがナチアタに詫びると『わかっている』という風に、ナチアタは首を縦に振った。「あなた」もナチアタに詫びながら背中の甲殻をポンポンと叩く。異形の上巨体なナチアタを連れて行くと、盗賊たちは警戒して姿を見せないだろう。そう考えた「あなた」は討伐任務にはナチアタを外す決断を下した。  「あなた」に、上機嫌にマーリンが話しかけた。 「いやー。いい稼ぎになったな。今回は!盗賊のアジトでレアアイテムも手に入ったし!」  「あなた」は笑顔で頷く。魔王軍の侵攻への対策という外患。野生の魔物や、各国に巣食い根を張る凶悪マフィア、{ヒュドラ}という内憂等への対処が優先され、辺境の盗賊が跋扈する乱世の時代。今回キブリーズが依頼を受け討伐したのはそういった勢力の一つだった。 「まだ、報酬の分配の話があるから、くれぐれも抜き取ったりしないでね」 「わかってらぁ!そんなに俺が信用できねぇか!?」  ジト目でマーリンを見つめるフレイにマーリンが抗議の声を挙げる。その言葉にPTのユイリアを除く全員が頷いた。 「え、うん」 「信じてるよ馬鹿マーリン。マイナスの方向に」 「クハハッ、お前の盛名は常々聞いているぞ」 「ギャンブランドでパンツ一丁で借金取りから逃げ回ったらしいではないか」 「…フレイの言う通りだ」 「よく言ってくれたわフレイ!」 「アタシたちのとこにまでお前の借金取りが押しかけたんだけど」 「なんか可哀想だからお茶出したら感涙されたよなジーニャ」 「ナチアタねーちゃんが投資とギャンブル狂いな人との付き合いは考えろと言ってた」 「マーリン、ツケ払ってください」 「あっ…マーリンさん、クリストにツケ返してないの…?」  全員のツッコミ、特に最後のイザベラのジトっとした追及の目つきには、流石のマーリンも冷や汗が止まらない様子。 「う、うるせー!」 「あっ透明化した!」 「ざけんな!あいつ報酬持ってったままだよ!」  フレイとアリシアが透明化したマーリンを血眼になって探し始めた。苦笑いして一連の流れを見ていた「あなた」の隣に、ラーバルが並ぶと、小声で「あなた」に今後の予定について尋ねた。 「ど、どうだリーダー?その…間に合いそうか?」 「あなた」がサムズアップでラーバルに答えると、ぱあっとラーバルの顔が輝いた。直ぐにラーバルがジーニャ達の所に戻りこの事を伝えると、次々にメンバーから歓声の声が上がった。 ********************  今日は海の日、ということでPT「キブリーズ」のリーダー「あなた」はビーチへPTのメンバーを引き連れて海水浴に訪れていた。海と言えばビーチ。ビーチと言えば気ぶり。勇者であると同時に、気ぶりのために生き気ぶりのために死ねる男「あなた」。重度の気ぶラーである「あなた」にこのイベントを逃すという選択肢は存在しない。 そんな彼が引き連れるPTは、選りすぐりの気ぶりのオーラを漂わせる男女によって形成されており、「あなた」は今日で一年分の気ぶりエネルギーを獲得するつもりでこの日の朝を迎えた。 「あっちー…なんだこの暑さは。殺人的じゃねぇか…」  買い物があると遅れて合流したジーニャが、日焼け止めクリームを体のあちらこちらに塗りたくりながら愚痴を言い始めた。彼女の母国は北国だからさぞこの暑さは堪えるだろう、と「あなた」は同情する。カンカン照りの日差しが二人の肌を焼き、汗が地面に滴り落ちる。「あちー」とジーニャがシャツ襟元を伸ばして手で風を送ってるのが「あなた」の横目に入った。  彼女が着てる半袖のシャツの下は、恐らく既に水着姿なのだろう。今回は既に彼女の相棒、いやそれ以上の関係と言っていいラーバルはナチアタのビッグなビキニは目撃済み、この後のラバジニャを堪能できる予感に「あなた」は内心ほくそ笑む。  砂浜ではナチアタが日向ぼっこをしており、その周りに人だかりができている。 「おっぱいでっかいな…」 「………」  その集団の中に呆然とナチアタの、ゴールデンビキニを身に着けたことで破壊力を増した、ド迫力なとある部分を見上げるヤンと、彼の後姿を「<〇> <〇>」な目で見つめているスパーデの姿を確認した「あなた」は、思わず頭を抱える。  スパーデに目をやれば彼女はスイムウェアを着ている。スパーデの均整のとれた美しいボディラインがスイムウェアによって強調されており、機能性とファッション性を両立させた見事な選択眼と言えた。  ただ、相手が悪すぎた。それだけなのだ。  メンバーで最も加入が遅いヤンはまだナチアタの、破壊兵器級の破壊力を誇るビキニおっぱいを見ていないことに思い至らなかった自分の至らなさを悔いた。 「まぁ、今回は事故みたいなもんだ。気にすんなリーダー」  ジーニャのぶっきらぼうな慰めが、却って胸に痛い「あなた」であった。  忍び足で遠ざかりながら、「あなた」はスパーデに向けてせめてもの慰めに「良かったな。アイツも女の胸に興味とかあるようだぞ」と心の内で呼びかける。無論、そんな心の声がスパーデに聞こえるはずもなく、「あなた」の視界に姿が見えなくなるまで、ずっとスパーデはヤンの背中を見つめていた……。 「あっボス!とジーニャ。やっと来たのね」  真っ先に「あなた」とジーニャに気づいたのは、PTの特攻隊長であるアズライール。競泳水着風の下着が発達途中な彼女にフィットし、健康的な印象を与える。 「ボスからもなんか言ってよ!ギルったら。ずっとあそこで寝っ転がってんのよ」 「あなた」はアズライールの指さす先を見ると、パラソルの下でアロハにグラサンを装着したギルがバンザイ寝をしている。 「あなた」が「泳がないのか」と聞くと、ギルはグラサンをずらして「あなた」の方を見た。 「…日焼けしたくない」 「日焼け止めクリームならあるぞ」  間髪入れずにジーニャが答えるとクリームをギルに投げて渡す。 「………」 「ナイスよっ!ジーニャ!」  アズライールとギルの反応は対照的だった。仏頂面でクリームを見るギルと、ガッツポーズを作るアズライール。  「もう逃げられないな」と「あなた」が笑いながら言うと、ギルはため息を吐きながらクリームの蓋を開けた。アロハを脱いで上半身を露にさせ、クリームを塗り始めるギルを、なぜか顔を赤くさせながらアズライールが見入っている。 (うわ、うわうわうわっ そういえば私こんな間近で、ギルの裸見るの初めてだった!)  暑さで汗の滴る、端正なギルの顔。引き締まった腹筋。逞しい二の腕の筋肉。男性にも色気というものがあるということを、今、アズライールは肌で実感した。 「……なにをぼーっとしている」 「えっ!?あっ」  気づけばクリームを塗り終えたギルが不機嫌そうな顔でアズライールを見ていた。溜息を吐きながら立ち上がると、アタフタするアズライールの頭をポンと叩いた。 「……ひと泳ぎしてくる。お前はどうする?」 「あっ、わ、私も行くわ!」 「うおおお!!」 「とりゃーーー!!」  気ぶりを求める「あなた」と、ラーバルを探すジーニャが砂浜を歩いてると、少し離れた所から少年らしき大声が聞こえた。 「今の声、片方はラーバルだな」  頷いた「あなた」が声の方向に顔を向けると、ツジカイとラーバルがビーチフラッグをしていた。  狼獣人であるツジカイの脚力に食らいつくラーバルの姿に感心した「あなた」が口笛を吹く。二人は同時にフラッグに飛びつき、砂をまき散らしながら倒れこんだ。 「勝ったぁぁ!」 「くぅっ!」  勝利の雄叫びをあげたのはツジカイだった。間一髪の差で捥ぎ取ったフラッグを掲げながらツジカイは会心の笑みを浮かべた。周囲を見渡したツジカイが「あなた」に気づき大きく腕を振り始めた。  手を振り上げながら、ツジカイを引きこんだのは正解だったと「あなた」は思う。仲間にした直後は周囲と比べて突出した個性がないことをツジカイは気にしていたツジカイだが、今見たように単純な身体能力、特に足の速さはPTでも上位である。それに聴力と嗅覚が優れる彼は、調査や斥候でも才能を急激に開花させ始めていた。 「情けねぇなラーバル」 「う、うるさい」  二人の方に行くと、ジーニャがビーチフラッグに負けたラーバルを揶揄った。口を尖らせるラーバルの姿が可笑しく、三人は一斉に笑い声を上げた。  笑いを収めた「あなた」がツジカイにナチアタの現在の状況を伝えると、驚いたツジカイの耳がピンと立った。 「え!?ナチアタねーちゃん目当てに大勢の人が!?……オレ、一寸見てくるっ!ありがと親分!」  驚嘆すべき脚力で瞬く間にツジカイが遠ざかっていく。ナチアタを護る小さな騎士に「あなた」はエールを送るとツジカイは一瞬止まるとサムズアップをし、また駆けだした。  ツジカイを見送ったラーバルの肩にジーニャが手を置いた。 「今度はアタシとビーチフラッグやろうぜ!」  バッとジーニャがシャツを脱ぎ捨てると、Vネックデザインの水着を着たジーニャの健康的な姿を現した。 「………」 「ん?どした?」  ジーニャの水着姿を見つめたまま、呆けて動かないラーバルに不審に思ったジーニャが、ラーバルの目の前まで歩み寄ると、ラーバルの頭を小突いた。 「あいたっ」 「ツジカイに負けて、消沈しちまったか?」 「ちっちげーよ!よーしやろうじゃないか!」 「よしっ」  フラッグを埋め直すとジーニャとラーバルがスタート地点に並んだ。「あなた」が「位置について」と告げると二人同時に姿勢を構える。 "よーい…スタート!"  「あなた」の合図とともに白髪の少女と赤髪の少年は勢いよく駆け出していく。それはまるで、若く生命力あふれる二頭の狼が大地を駆けるようだった。  ラーバルからクリストたちの居場所を聞いた「あなた」が目的の場所へ移動すると、イザベラとクリスト、フレイとアリシアの四人を発見した。 「あ、隊長」  「あなた」に気づいたクリストが、ビーチバレーボールを手に持ちながら動きを止めた。サーフパンツ一丁という、普段の彼からはまずお目にかかれないラフな姿だが、それでも気品さを失っていない。 「僕とフレイチームと、アリシアさんとイザベラ様チームに分かれてビーチバレーしてましたが、ご覧の通り一方的な有様になってしまいまして…」  苦笑しながらクリストが指さした先を見ると、砂に木の枝で「17-8」と書かれている。 "圧倒的ではないか、わが軍は" 「いえ、その…負けてる方は僕たちで」 "なん、だと………" 「僕ばっかアリシアたちが狙うからだよ」 「怒らない怒らない、フレイ」  剥れながら「あなた」に釈明したのはフレイ。普段のあまり良くない意味で大人な彼とは打って変わって、今は年相応の子供のよう。  様子を見ていたアリシアがフレイのつかつかと歩み寄ると、悪戯顔をして彼の頭を撫でた。キーホールビキニを身に着けている彼女の、特に中央のホールによって彼女のよく育った胸の谷間が強調されてる姿は非常に目に毒であり、慌てて「あなた」は目を逸らす。 「ハンデつけてあげるって言ったのに、いらないって突っぱねたのは誰だっけなー?」 「うっさい」  頬を赤らめてフレイがアリシアの手を払うと、プイッと顔を背ける。 「僕、飽きたんで海で泳いでくるね」 「あっ待って」  手を合わせてアリシアがイザベラ達に謝るジェスチャーをした後、慌ててフレイの後を追いかけていった。 「あの二人、姉弟のようだね」 「仲、いいですよね」  イザベラがクリストの隣に立って並ぶ。 「フレイ君って、女性相手だと緊張して、距離を置きがちだから、ああいう面を見ることができてなんかほっとした」 「はい。アリシアさんがこのPTに居てくれて本当によかったです」  PT入りしたフレイは今より格段に口数が少なかった。必要最低限のコミュニケーションしかとろうとはしなかったし、特に女性にはひどく警戒反応を示した。 「恐らく似た者同士、シンパシーを覚えたんだろう」と「あなた」が推測を言うと、クリストが首を傾げる。 「シンパシーとは?」  クリストの疑問に「とにかく、沢山のお金が必要な者同士」と答えると、考え込みながらクリストは頷く。 「一体どうしてそんなに、お金が必要なのかな」  イザベラの言葉に「あなた」は「そこまでは知らないし、たとえ知ってても言えない」と首を横に振る。 「うん、これ以上は踏み込み過ぎだね」  イザベラもあっさりと引き下がる。次の話題を探していた「あなた」はニンマリと笑うと、クリストにイザベラの水着について感想を求めた。 「え、ええええ!!??」 「イ、イザベラ様の!?あっあの、そのう…」  途端に赤面してアタフタしだした二人に「あなた」は(くぅ~~!これだよこれ!)と心中で叫ぶ。  恐る恐るクリストはイザベラの、可愛らしい黒色のフロントクロスビキニに目を送る。普段のドレスより格段に露出の多いその水着は、長身でスタイルの良いイザベラの魅力を十全に引き出している。  イザベラの熱い視線を感じながらやっとのことでクリストは顔を真っ赤にしながら口を開いた。 「イ、イザベラ様の水着は、可愛らしさと美しさを両立させていて……その、とても素敵です」 「あ、あう…そのっ有難うクリストッ!私も泳いでくるッ!」 「イザベラ様っ!?」  嬉しさと気恥ずかしさに耐え切れなくなったイザベラが、頬を抑えながら海に猛ダッシュし、彼女を追いかけようとするクリストに慌てて「あなた」はマーリンたちの居場所を尋ねた。 「マーリンたちなら磯の方に行きましたよ!」 「おっ、大将じゃねぇかどうした」  磯では、マーリンが岩石に腰を降ろして釣りをしていた。 「"釣れてるか"って?まぁ、ボチボチだな」  そう言いながら脇に置いていたバケツを見せると、小魚が数匹泳いでいる。 「ああ、ハルナたちなら今潜ってるぜ……そろそろだな」  マーリンが岩礁を眺めながら呟くと、ハルナが「ぷはっ」と、海面から顔を出した。 「マーリーン!魚ゲットしたよ!」  銛の先に刺さった魚を掲げながら意気揚揚と戻ってきたハルナが、「あなた」の存在に気づき赤面した。フリフリなフレアビキニを着たハルナの姿は何とも可愛らしい。 「お、お兄ちゃん!?やだっ。恥ずかし、マ、マーリン!何で言ってくれなかったの!」 「潜ってるお前にどう伝えればいいんだよ!」 "仲いいんだね” 「「誰がこんなのと!」」  ギャーギャー言い合う二人を生暖かい目で見つめていた「あなた」は、ふとハルナが持っている銛が、どうも気にかかって尋ねた。 「どこにこの銛が売ってたかって……それはな」  ハルナとマーリンが、顔を見合わせるとニヤリと笑った。 「俺と」 「ハルナの二人で作った物でーす!」  思わず「あなた」は「嘘!?」と叫んだ。魚を外し終えたハルナから銛を手渡されると、マジマジと眺める。シンプルなデザインだが、しっかりとチョッキ銛も作動していて、確かにそれは立派な銛だった。 「ま、チョッキが多少苦労したが、この程度マーリン様に取っちゃ朝飯前よ!」 「説明書見れば大体の構図はわかっちゃうもんね!」  ハイタッチする二人を感心のあまり呆れる思いで「あなた」が見つめていた。普通銛を手作りで作ろうなんて思わない。二人の器用ぶりに舌を巻く「あなた」だった。 「マーリン!ウツボ捕まえましたよウツボ!」  海面からざばっと、ユイリアの頭が現れた。恐るべき速度で泳いで戻ってきたユイリアが岩石の上に上がると、マーリンたちの所に向かってくる。 「ユイリアにも銛渡してたんだ」という「あなた」の言葉に、引き攣った笑みを浮かべながらマーリンとハルナは首を横に振る。 「……いや、アイツには銛は渡してねえ」 "?" 「素手だよ。ユイリアお姉ちゃん手づかみで捕まえてるの」  今度こそ「あなた」は開いた口が塞がらなかった。そんな話をしてる間にも磯に上がったユイリアがウツボを笑顔でウツボを持ち上げる。マーリンに一秒でも早く褒めてもらいたいと、一目でわかるほどに気分が浮き立っている彼女の姿はまるで、獲物を捕らえた猟犬が主人に大喜びで持ってきているかのようだった。  「あなた」とハルナが改めてユイリアの身体能力の凄さに声も出せない中、マーリンが遠い目をしながら呟いた。 「大将の一味になる前も、何度かユイリアが素手で獣や魚を仕留めてたのを見たぜ俺は…」 「おや、"あなた"もいたのですね。"あなた"も楽しみにしててください。マーリンは私の仕留めた獲物を美味しく料理する天才なんですから!」  笑みを浮かべるユイリアの姿──モデルのようにすらりとした腰と、豊満な乳房が、ホルターネック・ビキニを付けることによって強調された、世の男の誰もが魅入らずにはいられない絶世の美女──からは想像もできないPTでもトップレベルの怪力を誇るユイリアに、「あなた」は思わず渇いた笑い声を漏らした。 ******************** 「ふぃー!遊んだなあ!」  夕暮れ時、赤く染まった空の下を、ナチアタの背中に乗った「キブリーズ」の面々が帰路についていた。 「姉上、残念だったな」 「…なにがだ?ラーバル」  揶揄い交じりのラーバルの慰めに、スパーデが鋭い視線で応える。殺気を混ざっていることに気づいたラーバルは平謝りして謝るしかなかった。もう一方の当事者のヤンはというと、口を挟んでもいいことはないとわかっているからか、完全に我関せずを決め込んでいる。 「まぁそうカッカすんな第三王女サマよう。あんなグレートなもん見せられたら男なら一度は反応するってもんだ」  愉快気に笑いながらナチアタの背をべしべしとマーリンが叩く。すると、機嫌を損ねたのかナチアタが大きく体を揺らした。 「うおおおお!!!??」 「きゃあああ!!??この馬鹿マーリン!」 「うおお…!?」  慌ててマーリンはナチアタの殻にしがみついた。危うく転びかけたハルナがマーリンの背中を小突く。 「男って馬鹿ばっか…」 「そうやって最大公約数で括るのはやめてください!マーリンと同類扱いには遺憾の意を表明します」 「ククッ…」  アズライールの呆れ声にすかさずクリストが抗議の声をあげる。普段お目にかかれない彼の珍しい反応に、ギルが笑い声をあげた。 「えっ嘘、ギル、今笑った?」 「…なんですか?ギルさん」 「いや?PTイチの守備職人にも弱点があったか、と思ってな…イザベラ以外にな」 「なっ!」 「わ、私がクリストの弱点って…うぅ…」  珍しいギルの軽口にクリストは憮然とした顔をする。滅多にお目にかかれない二人の光景に、周囲から笑い声があがる。 (さすがマーリンは偉大な魔術師ですね!防御魔法に長けるクリストさんの攻略方法を掴むとは!)  一人、なにか盛大に勘違いしている様子のユイリアが、尊敬の念に溢れる目でマーリンを見つめていた。 「…一日が終わるね」 「うん」  沈みゆく太陽を眺めながらアリシアが感慨深そうに呟くと、ツジカイも彼の言葉に頷く。 「来年も、同じメンバーで身に来れるかな」  ツジカイの不安の入り混じった声に、一瞬場が静まる。「しまった」という顔をツジカイが浮かべるが、吐いた言葉は元には戻すことはできない。  世直しのため、或いは復讐のため、或いは金稼ぎのために大陸を転々とし戦いに明け暮れる日々。常に死と隣合せな冒険者に、来年どころか明日の命すら確証はできない、ということを誰もがよくわかっていた。  その時、意外な人物が声を挙げた。 「来れるよ、きっと」 「フレイ…!」  フレイが確りとツジカイの目を見据えて答えた。フレイはPT全員を──女性メンバーも含め──見渡すと、一段と声を張り上げる。 「絶対に、大丈夫だよ。このメンバーは誰も欠けない!」 「フレイ!」 「うわっ」  感極まったアリシアがフレイに抱き着いた。 「だけどよ、来年もくるってそれはそれで困るな…」  予想外なラーバルの発言に、一同の視線がラーバルに集まる。 「だって、魔王軍来年も活動してるってことだろ?俺は今年中にでも滅ぼしてしまいたいのに」  何とも不敵な発言に一同からどよめきが起こる。ジーニャに「カッコつけんな」と頭を小突かれたラーバルが照れ笑いを浮かべる。  すくっとそれまで無言だったヤンが立ち上がった。無言でラーバルの所まで足を運ぶと、腰を降ろしたままのラーバルの目を食い入るように見つめる。 「なんだよ…」 「…………」 「ラーバルに何か用か、オイ」  ジーニャが険しい顔をしながら立ち上がり、物言わずラーバルを見下ろすヤンの腕を掴もうと出を伸ばそうとした、その時、ヤンが口を開いた。 「獅子の子は、獅子か」 「…え?」  ヤンが笑った。相手を見下す挑発的な嗤いではなく、心から嬉し気に、笑った。 「お前の父も、そうやって不敵なことを言っては笑っていた。勿論お前とアイツとは天と地ほどの実力差があるが、今のお前の顔は、難所を前に笑うアイツそっくりだった」 「俺が、父上に……」 ラーバルが、己の顔に手でそっと触れる。 「ここにいると、楽しみが増える」  愉快気に笑うとラーバルに背を向け、再び腰を降ろす。  身を強張らせて二人を見守っていたスパーデがほっと息を吐いた。ナチアタの殻から飛び出る棘に壁にもたれかかって座り直すと夕焼けの空を見上げる。 (父上、ラーバルは、しっかりと成長しています……。私の予想以上に…) (そして、わが師、ヤンにも勇者の精神が今も強く根付いております。必ずや、私はヤンを連れてレンハートにして凱旋みせます。…ふっ、ヤンを紹介したら、父上はどんな顔をするでしょうか)  心の内で父・ユーリンに胸の内から溢れる思いを告げると、スパーデは目を瞑る。不覚にも今の光景に己の涙腺が緩んでしまったことを、ラーバルに気づかれるのは、姉として何としても避けたかった。  混みあがる感情を必死に抑えながら、"あなた"は一同を見渡す。気ぶりがみたいという不純な動機から集めた面子で形成されし「キブリーズ」。それが今は、「あなた」の予想を超えて立派なPTへと成長していた。 パンッとマーリンが手を叩いた。一同の視線が集まるのを確認したマーリンは満足げに頷くと、演説を始めた。 「えー…なんか終わりという空気を皆さま出しておりますが、まだイベントは終わってはおりません!」 「なんですかー?」と、クリストが野次を飛ばせば、吊られてイザベラも「は、早く、言えー!」と(彼女にしては)大声を上げてクリストに続く。 「この後、花火大会を開く予定です!俺とハルナで作った渾身の花火、とくとご照覧ください!」 マーリンの演説が終わるとPTは盛大な拍手でもって彼に答えた。一人、一抹の不安を覚えたクリストがボソッと呟いた。 「信頼していいんですかねその花火…」 「大丈夫です。だって彼は偉大な魔術師ですから!」 「わぁっ!?聞こえてたんですかユイリアさん!?」