火の国の大名は、会議室の窓に残る黒い煙をじっと見つめながらも、腹の虫が鳴るのを堪えきれずに口を開いた。余──いつもの重々しい一人称が、その場の空気を一瞬和らげる。 「余は……腹が減った」 奈良シカクは書類の束を膝の上に置き、冷静に眉を寄せる。「今は作戦の検討が優先です、大名様。ただ、休憩も必要かと。食事の補給は判断力にも影響します」 志村ダンゾウは両腕を組んだま、いつもの仮面の奥で考え込む。「根(あの組織)の末端からの報告では、物資の確保は難航している。だが、外部の食料供給ルートとして、民間の店舗が再開している可能性はある」 水戸門ホムラは杖をつきながら、ほうっと息をついた。「私が見てきた限りでは、屋台も再開しているところは少ない。だが、全国チェーンの大きな店は早く動く。……マクドナルドなどは、被災地対応で営業しているかもしれん」 うたねコハルは目尻を下げ、ぽつりと言う。「ハンバーガーって、みんなで食べると落ち着きますよね。子どもたちにも喜ばれますし」 大名は目を細めて、自分の中の欲望と政治的建前を秤にかけるようにうなった。「ならば、そこの選択肢を挙げよ。余は王道を好む。肉とパン、塩とソース。それがあればよい」 シカクはメモ帳に事務的に書き込みながら、一覧を口にした。「ビッグマック、チーズバーガー、チキンナゲット、ポテト、シェイク……それとサイドに野菜のセットがあれば良いかと」 ダンゾウは低い声で突っ込む。「ビッグマックを用意するのはリソースが要る。二手に分けるなら、温かさの保持が問題だ。ナゲットは輸送と保温が容易だが、満足感はバーガーに劣る」 ホムラはにやりと笑って言った。「ならば、セットの比率で配分を。高齢者や負傷者には噛みやすいものを。子どもや若者にはボリュームを優先する。全体で均等に満腹になるように」 コハルは優しく付け加える。「ジュースは糖分で体力回復に役立ちます。けれど、熱いお茶もあると安心ですね。塩分や水分補給も大切ですから」 大名は一呼吸置いてから、決めるように言った。「よかろう。まずはビッグマックを二つ、チーズバーガー数個、チキンナゲット大箱、ポテトはMとLを混ぜて。飲み物はシェイクとお茶もまぜろ。配分はホムラ殿に任す」 シカクが即座に人数と優先度を整理する。「了解しました。配達経路と受け取りポイントを設定します。必要ならば我々の警護班で周囲を確保します」 ダンゾウは小さく頷き、仮面の陰で唇を引き結ぶ。「目立たぬようにだ。だが、まずはこうした基本的な配慮が士気を回復させる。食は作戦の一部だ」 コハルは笑って、ふわりと肩の荷が軽くなったように見えた。「みんなで同じものを分け合えば、心も少しは癒えるはずです」 外では、瓦礫の合間に復旧の音が小さく響いている。だが、窓の向こうの暗闇よりも、会議室のテーブルに並ぶであろう紙箱と袋の方が、今はずっと現実的な希望だった。大名が立ち上がり、短く宣言する。 「行け。まずは皆の腹を満たせ。戦はその後だ」 その声に一致するように、決定事項が書類に走り、連絡が飛び、やがて誰かが小さく笑った。――焼け跡の町で、マクドナルドの紙袋が届くことは、些細だが確かな慰めになるだろうと、誰もが思った。