新進気鋭の勇者「あなた」が率いるPT"キブリーズ"は一つ特徴があった。 「イザベラ様!隊長!支援魔法張ります!」 「ありがとうクリスト!」 クリストのバフで火力を増したイザベラと「あなた」の魔力の砲撃が、魔物の群れを吹き飛ばす。 「オーケー!敵の持つ貴重なアイテムを盗めたよアリシア!」 「リーダー。フレイを援護するよ。これはいい稼ぎになったね」 イザベラ達の攻撃によって魔物たちが混乱している隙をついてフレイが敵陣に潜り込み、スキル「盗む」を発動した。首尾よくアイテムを盗んで自陣に戻るフレイを怒り心頭に発する魔物が追いかけるが、アリシアの銃撃と「あなた」の魔法攻撃がそれを阻んだ。 「もういいわよねボス。遠慮なく刈りつくそうぞギル!!ユイリア!!」 「ええ!」 「そんな大声を出さずとも聞こえている…」 フレイの仕事が終わったことを確認し、待ってましたとばかりにハナコ、ギル、ユイリアが魔物の群れに突入した。パイルバンカーと大鎌と勇者の剣が乱舞し、辺りは一方的な蹂躙の場と化した。 「ケケッ、フィナーレといこうぜ!」 頃合いよしと見たマーリンが合図を出し、前線の三人を退かせると爆弾を投擲。 素早くクリストが防壁魔法を展開すると、壁の向こうでマーリンの爆弾が炸裂した。 「ちぇっ。出番残しとけよ」 「そう言うなジーニャ。お前らお疲れさん!」 後方で馬車の警護をしていた、ラーバルとジーニャが仲間たちを出迎える。活躍の場がないのが不満なジーニャを宥めながら、ラーバルが仲間たちを労った。 「お前らに魅せたかったぜ俺様の活躍をよ!」 「素晴らしい活躍でしたマーリン!」 マーリンがドヤ顔をし、ユイリアが称えるPTのいつもの光景を繰り広げる。 「ふん、美味しいとこどりしただけでしょ」 「…気にしたら負けだ」 マーリンの自慢話が気に入らないハナコがギルに不満を漏らした。気難しい妹を宥めるようにギルがハナコの頭を手で撫でると、それまで不満顔だったハナコの顔がにへらと緩んだ。 リーダーの「あなた」が仲間たちの活躍を称えると休憩を指示する。歓声をあげ思い思いに散らばりくつろぐ10人──正確には綺麗に男女ペア5組に判れた10人──をじっくりと見渡すと、心地よげに「あなた」は頷いた。 勇者「あなた」。彼の趣味は旅の冒険者たちの恋愛事情の観察。その性癖を満たすために冒険者になった男だった。 ******************** 今日は梨の日か、と市場に買い出しに来ていたPT「キブリーズ」リーダーの「あなた」は特売の梨を見ながら呟いた。 いそいそと花言葉の辞書をじっくり確認し、本を懐に仕舞うと売り子に言った。 "1箱ください" 「なんだこれ、梨?」 戻ってきた「あなた」はPTの女性陣を呼ぶと梨の入った箱の蓋を開ける。真っ先に中を覗いたジーニャが呆気にとられた声を漏らした。 「これ、どうしたんですか?隊長?」 長身の体で覗きこんでいたイザベラが興味津々の様子で聞いてきた。今日が7月4日だと「あなた」が言うと一様に彼女たちは納得したように頷く。 「それで衝動買いしたわけ。いいねお金あって」 ジト目で見つめてくるアリシアの無言の圧に、冷や汗を搔きながら「あなた」は特売だということを伝えると、ようやくアリシアは矛を収めた。 「どうやって食べましょうか。こんなに」 ユイリアが梨を一つ手に取って呟いた。なぜか「あなた」の脳裏に握力で梨ジュースを作るユイリアの姿が浮かんだ。 パンと手を叩いて注意をこちらに向けると「あなた」は提案をする。 "皆の作った梨料理を夕飯に食べたいな" 途端にハナコが不満顔を「あなた」に向ける。 「えー?私今夜担当じゃないのに。めんどい」 その反応は「あなた」も予測済み。ピンと人差し指を立て、梨の花言葉を伝える。 「「「「「愛情…」」」」」 "皆の愛情の籠った料理をうちの男性メンバーにも味わってほしくて" その言葉に女性陣は黙り込む。だが、彼女たちの表情から、この無言が後ろ向きなものではないことを「あなた」は感じ取った。 「し、仕方ないわね!やってやろうじゃない!」 顔を赤らめながら、腰に手を置いたハナコが叫んだ。他の女性たちもうんうんと頷く。 「アイツ、マスグラードで梨料理って食ってたっけ…」 「うーん、クリストはコンポートは大丈夫かな」 「アリシアっお駄賃あげるから手伝って!あとギルには内緒ね!」 「フフッ毎度あり……フレイは、梨はどんなの食べたことあるかな」 「手で握り潰して梨ジュースはマーリンは怒るでしょうか…」 わいわい喋りながら去っていく5人を見送った「あなた」は、一人となった空間で「仕込み完了」と呟いた。 そして、夕飯に濃密なイザクリ、ユイマリ、ラバジニャ、アリフレ、ギルハナが繰り広げられる期待に気持ち悪い笑い声を上げる「あなた」なのであった……。 ********************¥ ビキニの日。この日を無為にするようではキブラーは名乗れない。新進気鋭のPT「キブリーズ」のリーダー「あなた」はとある計画を打ち立てた。 "青い海!白い雲!美女のビキニ!お色気アピール!" 晴天に照らされる海に向け「あなた」は叫ぶ。勿論周囲に今団員はいないことは確認済みであるから安心してほしい。 当然ビーチは貸し切り。PTのメンバーは美男美女揃い。有象無象のチャラ男やギャルが押し寄せてナンパ逆ナンの憂き目に仲間が合うのはは必定とみての措置である。「あなた」はNTRもBSSも許さない男だった。 鼻歌を歌いながらアロハシャツを着た「あなた」が砂浜に向かう。意中の男に水着姿をアピールしようと、女性陣が水着を選びに何度も街に出かけてたのは確認済み。きっと各々ピンク色のオーラを出しながらいちゃついてるに違いない。 そう予想しながら砂浜に着いた「あなた」は愕然とした。確かに女性陣は揃っている。だが、一か所にまとまって前方にいる男性陣を、凝視しているではないか!しかも戦闘時にでも中々お目にかかれないようなオーラまで漏れ出ているときた! 慌てて「あなた」は彼女たちの所に駆け付けた。そして驚愕した。 サーヴァイン「おっぱいでっか…」 ハナコ「<〇> <〇>」 クリスト「おっぱいでっか…」 イザベラ「<〇> <〇>」 ラーバル「おっぱいでっか…」 ジーニャ「<〇> <●>」 マーリン「おっぱいでっか…」 ユイリア「<〇> <〇>」 フレイ「おっぱいでっか…」 アリシア「<〇> <〇>」 彼等の視線の先には、新入りのナチアタ・コンナー二が上半身にゴールデンビキニをつけて砂浜の一スペースを占拠して日光浴をしていた……。 改善の傾向はみられるとはいえ、態度に荒んだ部分が今も残るギルや。女にトラウマのあるフレイまで呆然としてナチアタの、とある部分を見上げている。 ひょこっとナチアタの背中に乗っていた、同じく新メンバーのツジカイが姿を見せて、大きな声で「あなた」に向けて叫んだ。 「おやぶーん!僕たちをこんな素敵なビーチに連れてきてくれてありがとー!!」 言い終えると二カッとツジカイは笑った。その笑みは青天の光にも負けないくらい、晴れやかな笑みだった。 ******************** 「お願いしますッこのPTで雇ってもらえませんか!?」 話を聞いていたキブリーズPTリーダー「あなた」は難しい顔をして腕を組んだ。彼の前には東方の服を着た少女、ハルナが切実な顔をして直立している。彼女の後方に目をやると、仲間たちが興味津々な顔でこちらを見ている。その中に目をキラキラさせてるユイリアもいるのをみて「あなた」は心中ため息を吐いた。 話を遡る。移動を止め、小休憩を命じ自身も休息を取っていた「あなた」に遠慮がちにマーリンが相談を持ち掛けてきた。 「なぁ…頼みがあるんだがよ」 "金は貸さんぞ" 「今回はちげーよ!じゃなくて、PTに入れてほしいと言ってるやつがいて、会ってくれねえか」 「あなた」が頷くとマーリンは指を鳴らした。すると一本の樹木の枝ががさりと揺れ、一つの黒い影が飛び出した。その影、いや少女は綺麗に着地すると、驚嘆すべき速度で「あなた」の前に進み出た。 「は、初めまして!私ハルナと言います。本日はよろしくお願いします!」 ハルナの話によると、依然彼女は他のPTに所属してたのだが、同じPTにいたマインという少女に変な噂を流され、PTにいられなくなり離脱したらしい。 途方に暮れてた時マーリンと会い、うちに関心を抱いたとの事だった。 面接を終えるとハルナを一旦下がらせ、マーリンを呼ぶと「あなた」は彼女について訊ねる。 「まあ、ちょっとな。色々渡り歩く中で出会った腐れ縁ってやつだ」 「腕は確かだ。苦無っていう飛び道具を使う」 「それ以上に、あいつはかなりの情報通だ。仲間にして損はねえ」 「あなた」は迷った。既にハルナとマーリンの関係にかなりの気ぶりを「あなた」は感じてとっている。だが、ユイリアの事を思うとおいそれと頷けない。用を足しに行くとその場を離れ、さりげなくユイリアに接近しハルナについてどう思うか聞いた。 ユイリアの返事は単純明快だった。 「ぜひ仲間に!マーリンが太鼓判を押すなら絶対に彼女は大丈夫です!それに、私の知らないマーリンの話題とか聞いてみたいです!」 それを聞いて「あなた」の心は固まった。「あなた」は円満な着地ができるなら俺の翼エンドも認める男だった。 「よろしくお願いします!」 元気よくPTに挨拶するハルナに拍手で応えながら、今後の展開に胸膨らませる「あなた」だった。 「これで貸し一つな、カゲツ」 「わかってるって。ジャック」 ******************** 誰が言ったか、7月8日はナンパの日と。 「そう…まさに俺のためにある日だよね!」 人が忙しく行きかう繁華街で、新聞で顔を隠しながら、必中のスナイプが飢えた狼のように獰猛な笑みを浮かべる。彼の視線の先には、今売り出し中のPTキブリーズの女性陣が買い物中なのか、団体でウインドウショッピングを楽しんでいた。 (長かった…) これまでの日々を思いスナイプは涙する。神に嘲笑われているかのごとく狙った子が悉く男の娘や女装男子だったナンパ歴。だが、今日でそんな日々もおさらばである。 目の前にいる女性陣は極上の美女揃い。事前にチェックも済ませたから工事している恐れもない。 「さて、誰に声をかけようかね…」 惜しいが流石に全員をお相手できる自信はない。ここはよく対象を見極めなければならない。 (まずイザベラちゃん。いいねぇ!あの雰囲気に皆惑わされてるがかなりの美人!「俺が君をコーディネートしてあげるよ。それで明日から君はアイドルさ」とか言いたいね!) (ユイリアちゃんもいいね!あの魅力的な容姿、際どい鎧を堂々と着てるその自己意識の強さもいい!深窓の令嬢らしい雰囲気と戦闘スタイルとのギャップもいい) (ハルナちゃん…妹キャラか。周りのレディたちをお姉ちゃん呼びするのにわざとらしさを微塵も抱かせない愛らしさ…いいじゃない!お茶したいなあ…) (アズライールちゃんは…うーん数年後に期待かな) (アリシアちゃんのあの一歩引いたクールな姿勢とマイペースそうな顔つきの中に、時折意思の強さを見せるのがそそるね。それに、銃使いというのもグッド!ぜひお互いの銃について語り合いたいね。ベッドで) (ジーニャちゃんか…あの眼帯の傷と隻眼から放立てられる強気な眼光。きっと凄い苦労してきたんだろうなあ。そういう子の心を解き明かしてこそ一流のナンパ師ってものだよね) 女性陣が移動を始めた。じっくり観察を続けてたスナイプも彼女を追うように移動し始めたその時、スナイプの目に一人の女性の姿が映り、その子に目が釘付けとなった。 彼女はキブリーズのメンバーではない。よって今回の対象ではない。だが、スナイプのナンパ師としての勘が彼女にしろと全力で叫んでいた。 何かに突き動かされるかのようにスナイプは足を踏み出すと、そのまま一直線に彼女──専属女中リタ=ヘンリエッタの所に向かい、爽やかな笑みを浮かべて声をかけた。 ******************** ギルドの会議室の前には、多数の冒険者が集ってちょっとした騒ぎになっていた。今、会議室の中では話題沸騰中のPT「キブリーズ」の会議が開かれていた。 「おい、もうちょっと詰めろよ」 「押すなよって……くそ、何話してるか聞こえねえや。誰か聞こえるか?」 「…駄目だ。どうやら結界が中から張られてる。盗聴防止対策だろう」 「くそっ。もしPTの拡大の話とかなら俺も立候補しにいくのに!」 「僕は憂いています。キブリーズの現状を。仲間に降りかかる災難を」 壇上で演説するのはクリスト。支援、防御、回復に長けるチームの要の一人である。 「特に嘆かわしいのが、近頃やけに「結婚した方がいいんじゃないか」とか「もう付き合っちゃえよ」とか野次を浴びること。これは明らかなマリッジハラスメントです!」 黒板を拳で叩きながらクリストが叫んだ。その言葉にラーバル、ジーニャ、イザベラ、ギルが大きく頷く。 もうお分かりだろう。今回の会議はPTの対ハラスメント会議だった。 会議資料を捲りながら、マーリンが挙手した。それに気づいたクリストが苦い顔で指名する(クリストとマーリンの不仲コンビはキブリーズの名物だった)。 「マリハラはわかるぜ?だがなぁ…いくら何でも種類多すぎねぇかこれ?ハラハラなんて、日曜15時過ぎの俺かと思ったぜ!」 「競馬でハラハラする金あるならツケ払ってくださいマーリン。他には?」 クリストとマーリンのやりとりを苦笑いして見ていたハルナも、マーリンに賛同する。 「うーん。言ってることはわかるけど、過敏すぎない?って思うね…」 「でも、僕たちからすると頷ける部分多いです」 おずおずと挙手した狼獣人の少年、ツジカイがハルナに異を唱えた。 「やっぱ妹キャラしても世代はごまかせねぇな」と、小声でマーリンが呟いた。 「ハラスメント対策は大事だ。アタシも精神論振りかざすつもりはない」 不満げに挙手したのはジーニャ。その堅い声色にメンバーの視線が集まった。 「だが、これだけは納得できねー!なんだアルハラって!こんな神経質になって美味い酒が飲めるか!」 がーっと騒ぐジーニャを、慌ててラーバルが宥めた……。 その後、対策会議は以下の決議案をまとめてリーダーの「あなた」に提出した。 「パワハラ、セクハラ、ダメ絶対」「お酒は節度を持って楽しく飲みましょう」「マリッジハラスメント死すべし慈悲はない」 ******************** 「あなた」が率いるPT「キブリーズ」の一員に加わりたいと、その門を叩く冒険者は後を絶たない。極めて高い任務成功率、メンバーの高い練度もそうだが、メンバーが美男美女揃いという点も大きいだろう。だが、そのような冒険者の大半は面接で不合格となり、よしんば通っても団員との摸擬戦でふるい落とされるのが常だった。 「そのキブリーズに興味は湧かないか?わが師ヤンよ」 「ない」 鍛錬中のヤン・デホムに、事実上彼の弟子のスパーデ・ディ・レンハートが誘いの言葉をかけるが、ヤンに一蹴される。 「まあ見てくれ。募集のチラシがギルドにあってな。急いで持ち帰ってきた」 「まったく……うん?」 渋々鍛錬を止めてチラシを手に取ったヤンが目を落とすと、とある箇所に目が釘付けとなる。 「このチラシに描かれてる少年は…もしや?」 「我が弟、ラーバルだ。わが父ユーリンの次男の成長、見たくはないか?ヤンよ」 不敵な笑みを浮かべるスパーデの顔を虚に浸かれた顔で眺めていたヤンだが、やがてニヤリと笑った。 「俺に叩きのめされた弟御の情けない様を見ることになるやもしれんぞ?」 「フン、その時は私が奴の尻を蹴っ飛ばしてやるさ」 「あなた」の面接をフリーパスの速度で通過したヤン達は摸擬戦へと進んだ。 「ユーリンの名声に胡坐かく小僧かと思ったが、一端な冒険者程度の面構えはしてるようだな」 「父は父、俺は俺だ」 摸擬戦が始まり、ラーバル、ジーニャとスパーデ、ヤンの四人が剣を構え相対した。笑みを浮かべ気を発するヤンの威圧感にラーバルが一瞬仰け反るが、直ぐに気合を入れ圧を跳ね返す。その姿にヤンの笑みが深くなる。 「将来お前の義兄上となられる方だ。胸を借りろラーバル」 「まじかよ姉上!」 「俺はお前を婚約者にした覚えはない」 スパーデと向かい合っていたジーニャがラーバルを叱咤した。 「挑発に引っかかんなラーバル!」 それを見たスパーデが呵々と笑う。 「良き女を捕まえたではないかラーバル。私のことは義姉上と呼んでくれたまえジーニャ殿」 「なっなななな何言ってんだ!」 ラーバルとジーニャが顔を真っ赤にしながら斬りかかるが、ヤン組の華麗な剣技に加えて、先程の言葉で心乱され、劣勢に陥るラーバル組に、試験官のハナコが呆れ顔で呟いた。 「はあ…、これじゃどっちが挑戦者だがわかったもんじゃないわ」 当然摸擬戦はヤン達が勝利し、二人はキブリーズの一員に加わった。 ******************** 一面が闇に覆われた、皆が寝静まる深夜。周りは時折草がそよぐ音が聞こえる位で辺りが静寂に覆われている。PT「キブリーズ」のメンバーも皆夢テントの中での世界へと旅立っているだろう。 見張り番のイザベラとクリストを残して。 「静かだね。クリスト」 「はい」 焚火の日を眺めていたイザベラが、笑いかける。クリストも笑って彼女の声に応える。言葉は殆どなくとも、PT入りする前から名コンビとして活躍してた二人の心は通じ合っていた。 「そっち行っていい?」 クリストが頷くと、イザベラは立ち上がって、クリストの隣に移動すると座り直す。無言で焚火を見てた二人だったが、思いついたようにクリストが星空を見上げた。 「イザベラ様、星空綺麗ですね」 クリストの言う通り、人工の明かりなど何もない闇の中だと星々の輝きが瞬くように見える。無言で見上げていたイザベラが、こつんとクリストの肩に頭を乗っけた。 「イザベラ様…?」 「ありがとうクリスト。私についてきてくれて」 「僕はイザベラ様の盾です。貴方の前では力不足かもしれませんが…」 「そんなことない!だから、もう私の前から消えようとか思わないで」 「ゔっ、は、はい」 "嗚呼…イザクリ尊い…" マーリン「嘘だろあいつらあれで付き合ってねえのかよ…」 ハルナ「信じられない。こっちは見てるだけでお腹一杯なのに」 ギル「…クリストは敬虔な聖職者だ。色事には前から潔癖だった」 ユイリア「ここは静観が吉です。イザベラさんは奥手ですし、クリストさんは勇者に負い目がありますから」 スパーデ「ふむ?負い目とは何があったのだ?」 ハナコ「リーダーやイザベラと比較し負い目覚えて、離脱を検討したことがあるの。ここならイザベラ様も安全だから自分は必要ないって」 ヤン「フンッ護るべきものを残して去ろうとは大した盾だな」 アリシア「あの時のイザベラの取り乱し方といったらそれは酷かった」 フレイ「仕方ないよ、クリストさん、自分の外見のせいで仲間の功績や賞賛まで自分が掠め取ってるって悩んでたから。辛かったと思うよ」 ラーバル「掠め取ってるって…皆回復と防御でクリストがどれだけ貢献してるか知ってんだろ」 ジーニャ「イザベラの生き急ぎっぷりを一番制せるのが、クリストだってことを本人は早く気づけって話だ」 ツジカイ「ナチアタねーちゃんがあの二人はぜひ聖都で式上げてほしいって言ってた!」 ******************** 一面が闇に覆われた、皆が寝静まる深夜。周りは時折草がそよぐ音が聞こえる位で辺りが静寂に覆われている。PT「キブリーズ」のメンバーも皆夢テントの中での世界へと旅立っているだろう。 見張り番のラーバルとジーニャを残して。 「ここはやはりマスグラードとは違うな」 焚火の炎を見ながらジーニャが呟いた。 「違う?…それは暖かさ、とかか?」 恐らくそれだけではないだろう。わかっていながらも平凡な答えしか返せない己をラーバルは嫌悪した。 「それはある。だけど、一番の違いは…人の心の余裕」 黙ってラーバルは、焚火の向こうのジーニャを見つめ彼女の言葉を待つ。 「悔しいな。世界の広さを、豊かさを見るにつれ、なんでアタシたちの国はこうじゃないって思っちまうんだ。これは、アタシの心が貧しいからか?」 「ジーニャ。陛下は名君だ。きっと帝国は生まれ変わる」 わかっていると、ジーニャは頷いた。暫し焚火が爆ぜる音のみが続いた後、ジーニャが口を開いた。 「そうだ。陛下は偉大な方だ。アタシは陛下に多大な恩がある。わかってるよなラーバル」 それは、ラーバルというより、自分自身に言い聞かせてるような声だった。 "うう…ラバジニャ尊い…辛い…" ハルナ「ともに背負うものがある同士、思い合ってるのに結ばれないって辛いね…」 ユイリア「私たちにはどうにもできないのですか…?」 マーリン「馬鹿野郎が…ガキの癖に変に重いもん背負いやがって…」 ギル「…仕方あるまい、ラーバルはレンハートの王子。将来国籍を担う身。一介の兵士のジーニャとは身分が違いすぎる」 ハナコ「くっだらないっ。思い合っている二人が結ばれない世界なんて絶対に間違ってる!」 アリシア「愛に溺れる状況が許されないくらい、大切な物を背負ってるってことでしょ?」 フレイ「二人にはそれぞれ護るべき国がある。だから、これも仕方ないことだと思うよ」 クリスト「彼女たちの力になりたいですが、二人の背負うものは個人ではどうこうできないほど大きすぎます…」 イザベラ「でもっ、私は、二人に幸せになってもらいたい」 ツジカイ「あれっ?そう言えばスパーデさんは?ずっと静か(ry」 スパーデ「もうたくさんだ!あの二人が結ばれないなんて私は辛い耐えられない!今すぐレンハートかた『セック(ry 出られない部屋』を張れる結界師を呼んでくる!」 ヤン「スパーデ、ステイ!」 ******************** 「お姉さま~~~!ここで働かせてくださいよぉ~~~!!」 新進気鋭のPT「キブリーズ」にトラブルが沸き起こった。一人は新入りのメンバー、ネーサ・マオ。パートナーの【あなた】と共に加入してきた超大物冒険者だ。その彼女が今、心底困り果てた顔をしながらキブリーズリーダーの「あなた」や、パートナーの【あなた】に救いを求める目をチラチラ向けている。 「ねぇさまぁぁぁぁぁ!!私もつれてってえええええええええええええ!!!」 そのネーサの足元には。彼女の妹分、オトー・コギラウィンが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ネーサの腰にしがみついていた。 PTのメンバー、それに【あなた】の「何とかしろよリーダー」という、無言の圧力に負けた「あなた」が渋々オトーとの面接に挑む。 オトーの主張は単純明快だった。 「お姉さまの居るところ即ち私の居る所!それに【あの人】とお姉さまを一緒にさせるわけにはいきません!」 その主張を聞いた「あなた」が【あなた】の方を向く。ネーサの隣の立つ彼が生暖かい目をオトーに向けているのを見た「あなた」は大体の事情を察した。 "さて、どうしたものか"と「あなた」は腕を組んで考える。 シーフは既にフレイがいる。一方でフレイにはない彼女の高い戦闘力は魅力的だ。 「あなた」はチラリとネーサと【あなた】の方を見た。「あなた」は高い気ぶりを二人から感じ取っている。それ故に「あなた」はネーサ達を何日も口説いてスカウトしたのだ。 オトーのネーサへの執着からして、仮にオトーを雇うと二人のお邪魔虫として立ちはだかるのは目に見えていた。それを考慮するとここは断るべきである。 "だが…" 「あなた」はオトーにべろべろばーする【あなた】と、「ガルルルル…!」と【あなた】に威嚇するオトーを見比べる。 なぜか「あなた」はこの二人からも微かに気ぶりの気配を感じていた。だが、どう見ても二人の仲は険悪そのもの。これはいったいどういうことだろうか? 長い逡巡の後、「あなた」はオトーに首を縦に振った。 数年後、ウェディングドレスのネーサを右に、タキシードの【あなた】を左に、自身は間に挟まり満面の笑みでヴァージンロードを歩く、ウエディングドレス姿のオトーの姿があった。 "あの時の違和感はこういうことか…"と三人の誓いの言葉を聞きながら、一人頷く「あなた」なのであった。 ******************** イザベラ、ユイリア、アリシア、ハナコ、ハルナ、ジーニャ、スパーデ、ネーサ、オトー。サカエトルの繁華街を、華やかな繫華街の中でも一際目立つ、抜群の美女軍団がウインドウショッピングを楽しんでいる。 彼女たちは新進気鋭のPT「キブリーズ」。その女性陣達を虎視眈々と付け狙っている男が一人いる。その名をスナイプといった。 「今度こそ逃がさないぜ、小猫ちゃんたち…!」 ギラリと新聞紙で顔を隠しながら血走った眼をスナイプは向ける。以前も彼はキブリーズのメンバーをロックオンしたことがあったが、つい魔が差してしまった結果、リタ=ヘンリエッタをナンパするという大ポカをしでかしてしまった。 「だが、今回は前のようなヘマはしねえ!」 スナイプは拳を握りしめる。リタが傷つかないよう振舞い、アフターフォローも完璧にこなし、「また、会えますよね…?」と潤んだ目で尋ねるリタにキザな笑みで頷いたスナイプだが、本来のターゲットは無論女性。一応彼はノーマルなのだ。 武器屋の店頭の品ぞろえに気を取られたスパーデがグループから少し離れた。彼女に狙いを定め接近しようとしたスナイプの目の前を、白髪の貴婦人が優雅に通り過ぎる。 その時、スナイプの体に電流が走った。 視線は張り付いたかのようにその貴婦人の後姿を追い求め、足が吸い寄せられたかのように追いかけていく。既にキブリーズの事は脳中から消え去っていた。 「そこの麗しいレディ」 「──む、私の事かい?」 スナイプの声に、貴婦人──ウァリトヒロイを外遊中、お忍びでサカエトルを散歩していたノースカイラム国王、テオクラシア=グレイス=カイラムが振り向いた。 「貴女に心を奪われた。もしよろしかったら……お茶を共に楽しむ喜びを俺にくれないかい?」 テオクラシアは顎に手を当て考え込む素振りをしていたが、やがてにこりと笑った。 「ではお願いしようかな。──君の名は?」 「スナイプ。必中のスナイプとは俺のことさ。……君は?」 一瞬、テオクラシアが頬に手を当てて考え込み、やがてふわりと笑うとスナイプの耳元で囁いた。 「そうだな。テオと呼んでほしいな」 「了解、テオちゃん♪今日は素敵な日になりそうだ。お互いに……な♪」 その日、スナイプはノースカイラムの王家の歴史に永遠に消えない名を刻んだ。 「なんでこうなるんだよぉぉぉぉ!!」 ******************** 今日は「キブリーズ」の休息日。テントから顔を出したキブリーズリーダーの「あなた」は欠伸をしながら周りを見渡す。暇つぶしに「あなた」は、散策も兼ねてPTの休息の過ごし方を観察することにした。 他のテントの中を覗くと、マーリン、オトー、ギルの三人がポーカーに興じている。どうもマーリンがだいぶ勝っているらしく、オトーの顔は悔しさで真っ赤になり、ギルも仏頂面をしている。マーリンと「あなた」の視線が合った。すると彼は底意地の悪い顔でニヤリと一瞬笑った。 (あれはイカサマしてるな…)と察する「あなた」であった。 少し歩くと、切り株に座ったクリストがツジカイとフレイ相手に、神の教えが記された書を朗読している姿が見えた。神妙な態度で二人の少年はクリストの説教に耳を傾けている。 ツジカイはともかく、大人びた少年であるフレイも神の声に耳を傾けることがあるのかと、「あなた」はフレイの意外な一面を見た気がした。 平原の方で爆発音が聞こえた。それに複数の高い魔力も。慌てて「あなた」が駆け付けると、そこで背中合わせにして武器を構えるヤン・デホム、ネーサ・マオを、イザベラ、アズライール、ユイリアの三人が囲んでいた。 どうやら2VS3の摸擬戦の最中らしい。アズライールとユイリアの豪快な斬撃に合わせたイザベラの魔力攻撃を、ヤンとネーサが見事なコンビネーションで捌いている。 情勢は互角の様子で、3人相手に互角なヤンとネーサが凄いのか、この二人相手に接戦できるイザベラ達が凄いのか、とにかくハイレベルな5人の戦いに感心するしかない「あなた」だった。 森の中ではラーバル、スパーデ、ジーニャがナチアタの背でアスレチックごっこに興じていた。ナチアタの背によじ登る速さを競ったり飛び降りたり、皆童心に帰った顔で遊んでいる。飽きがこないよう時折微妙に姿勢を変えるナチアタの親切さが印象的だった。 ナチアタアスレチックを眺めている「あなた」を遠方から呼ぶ声が聞こえた。「あなた」が振り向くとネーサのパートナーのあなたが、仕留めた魔鹿を担ぎ、アリシアとハルナを連れてこちらに向かってくるのが見えた。どうやら狩りに出かけていたらしい。 魔鹿に気づいたラーバルたちがナチアタの背の上から歓声を挙げている。今日は思わぬご馳走にありつけそうだ。 気ぶりはあまり接種できなかったが、こういう日もたまには悪くないと思う「あなた」だった。 ******************** キブリーズの定例会議では様々な話題が議題に上る。各国の政治情勢、魔王軍の動向。野良魔物や盗賊の出没状況や異変の発生、ギルドの最新の依頼一覧など…。 定例会議は基本的に全員参加となっている。情報の共有を重視する「あなた」の意向だった。 「では、これにて会議を終了したいと思います」 司会者のクリストが閉会を告げると、場の空気が緩んだ。その時、「あなた」が思いついたように口を開いた。 "今日はパートナーの日だな" 「パートナーの日……?」 一同の視線が「あなた」に集まる。 「あー…パー(8)トナー(7)だからパートナー、ね」 PTでも一際頭の周りが早いマーリンがいち早く正解に辿り着いた。 「それ、ただの語呂合わせじゃん」 「まあそうだなアズライール……、んで大将、それがなんか?」 マーリンの疑問に「あなた」が頷く。曰く、"このPTは仲間に加わる前からコンビを組んでたり、古い付き合いのあるペアが多い。この日を記念に懐旧談に花を咲かせるのもいいかもしれない"と。 「親分、ジジくさいなぁ!」 ツジカイの声に一同が笑いに包まれた。仲間たちが去った後、一人残った「あなた」はニヤリと笑った。 「ん、どしたラーバル?」 「ん…特に用はないけど、いていいか?」 「…いーぜ。アタシのパートナー」 (パートナーって柄じゃないけど、腐れ縁って意味なら…) (私のパートナーと言ったら!) 「「マーリン!……あっ」」 「ん?どした?ハルナ、ユイリア」 「ね、ねぇギル……私って、あんたのパートナーかな…なによ!その目は」 「…いや、意外と可愛いとこあるじゃないかってな…くくっ」 「あー!笑ったー!」 「アリシア、側にいていい?」 「…うん、いいよ。でも…フレイ、私の傍にいて大丈夫?」 「大丈夫っ。アリシアは僕のパ、パートナーだから」 「イザベラ様、一緒に過ごしません?」 「…驚いた。私も今クリストに同じこと言おうとしてたの」 「気が合いますね。パートナーだから、ですかね」 「フフ…そうだね」 「ヤンよ。師弟はパートナーと呼べるのか」 「ふむ……少なくとも対等ではないな」 「…そうだな」 (むっ、何やら不機嫌になったな) 「ナチアタねーちゃん!親分が言ってたけど、今日はパートナーの日なんだって!」 「……」 「あ、あのっ俺ってねーちゃんのパートナーかな?」 「……(こくり)」 「ッ!やったあ」 「姉さまはパートナーと言ったらどっちを選びますか?」 「あらオトー、パートナーが一人だけなんてルールはないでしょ?ね?あなた?」 ******************** キブリーズでちょっとした微笑ましい珍事が勃発していた。フレイとアリシアが休憩時間を終えても戻らない。手分けして二人を捜索した結果。 「ア、アリシア…起きてよ~」 「すー……すー……」 木陰でアリシアが、フレイをあすなろ抱きにしたまま眠りこけていた。もぞもぞとフレイは儚い抵抗をするが、アリシアの腕は解かれることなく。 「う~………ん」 「うわっ……あう…」 ますますぎゅっとフレイを抱きしめる始末。お陰でフレイの後頭部はアリシアの豊かな胸部にむにゅっと埋まっている。正直誰もが羨む状況だろう。 「た、助け……」 フレイがキブリーズに助けを求めるも、どいつもこいつも微笑ましいような目を向けるばかり。最後の頼みとばかりにフレイは「あなた」に視線を送るが…。 "全知全能なる我らが神よ…ハグの日にこのような思わぬ気ぶりを私にもたらしてくれたこと、心からお礼申し上げます…" 感涙しながら天に手を合わせる「あなた」を見て、助けはないことを察し遠い目をするフレイだった。 「うぅ~………ん…フレイ……」 「だからなんだよぉ……」 "うう……アリフレキテル…"