ユーリエ=アッテンボロー 王都警察セルフ怪文書  サカエトル王都警察、ウァリトヒロイの王都においてその治安維持を目的に組織されたであろう警察機構である。    ユーリエ=アッテンボロー、交通安全課所属でサンタの娘。  呪いとも言えるほどのダメンズウォーカー、つまり男運が非常に悪い。  今日もトナカイのスレイに跨り魔杖を振るう。 「待ちなさい!待ってダーリン!!」 「ちっ、アイツ、ポリだったかのかよツイてねえ」  男が人ごみをかき分け逃げていく。  追う婦警はユーリエ、逃げる男はその彼氏、正確には元カレシと言えるだろうか。  スレイのスピードならば余裕で追いつけるはずだが、人ごみのせいか上手くつかみ切れない。 「くそっ邪魔だ!」    逃げる道中、男が少女を突き飛ばす。  必死な動きから繰り出されたそれに、少女の身体は容易く浮き上がり、車道へ飛んでいく。 「あぶない!」  追走を中止し、少女の方向に頭を向ける。  トナカイ、スレイは時を踏みつけて走る特殊なトナカイである。  気合を入れると時を飛び越えて瞬間移動も可能となる。  一晩で様々な場所を回るサンタクロースに時間の制約を突破させる術であるのだ。  超高速で少女に近づき、鞍に足をかけ、側面にぶら下がるように傾く。  住んでのところで少女を拾い上げ、馬上に引っ張り上げる。 「大丈夫?けがはない?」 「ありがとう、お姉ちゃん!」  突き飛ばされたあたりを払ってやり、地上に下す。  親が子を抱きしめるのを微笑みながら確認し、彼らが礼をせんとこちらを向き直る前にスレイが高く跳躍する。 「許さない」  目が座る。  愛したものを見失わない天性のセンサーのようなものか、男を人ごみの先に見つけ出す。  手綱を引き、そこに向かって空を蹴りながら突進する。 「なっ!てめ…ぐっ!」  問答無用に魔弾が炸裂する。  ユーリエが魔杖「ブルームハンドル」より放つ魔弾は対象の健康状態を損ねる効果を持つ。  男は悶絶し突っ伏した。  どこぞに結石でもできたのだろうか。 「被疑者、確保しました。回収お願いします」  いつもの朗らかさはどこへやら、彼女の故郷のように冷たい声で通信に告げる。  捕り物はここに終着を見た。      いつからだろうか、ガラの悪いオトコに惹かれるようになったのは。  両親はサンタクロース、全世界共通で最高レベルの善なる存在。  その血が自身に流れているのはわかるし、誇りでもある。  反動だろうか?  その割には警察官などしているのだから趣向と行動に矛盾が生じている。  もしかしたら自身の矛盾を世界が許容しきれるのか試しているのかもしれない。  さてなぜこんな小難しいことを考えているかと言えば本日も彼氏を逮捕したからである。 「はぁ…」 「お手柄じゃあないかユーリエ」 「課長…」  ハルノ=レノレヴィン、交通安全課課長。  ユーリエの上司である。  傷心の部下をねぎらい話しかける 「まぁたまにはこういうこともあるさ…いや割とあるようとは思うけどよ」 「うぅ…薬品関係の会社に勤めてるって言ってたのに、まさか売人だったなんて…」 「…うん、今度はもう少し吟味した方がいいな~」  肩を軽く叩き、ハルノが自身のデスクに戻っていく。  当直の時間も終わったので今日は帰ることにするユーリエ、切り替えの早さが自身の取り柄だと言い聞かせる。 「おつかれさまでーす、おさきでーす」 「「おつかれー」」  買い物を済ませ、帰宅し、ポストを確認すると手紙とチラシが入っていた。 「…母さんからだ」  チラシを脇に置き、手紙を読む。  特にいつもと変わらない内容、元気でいるか、街には慣れたか、今度いつ帰る。  サームイテツクの奥地からここまでと考えると、さてこの手紙が投かんされたのは何週間前のことになるか。  確かな親愛の情を感じ、返信の手紙を書こうと筆を取った。  その時、先ほどのチラシが目に入った。 『サカエトルへの移住者限定!いい出会いを見つける婚活セミナー』 「…これだ」  ダメンズウォーカーの目に何かが灯った気がした。  ペンは母への手紙からチラシの申し込み欄へとその矛先を変え、滑り出していった。