大講堂と呼ばれる建物の中庭、そこでスヮリゲーターと人造勇者肆號、シュウこと人造勇者終號と人造勇者陸號が対峙し合う。 「(あのおじさんのスキルはカウンター魔法みたいなもんだっけ。下手に攻撃をすると自分に返って来ちゃうから難しいな…。まずはスピードで攪乱するか)」 陸號はステップを徐々に早めながらシュウの裏側を取ろうと距離を詰め始める。 スヮリはいつものプロレススタイルの大きな構えではなく、スタンスを小さく取ったストライカースタイルで待つ。 「(下手に組むと付いてる刃物がやっかいだにぃ☆ 特に右手と右足には注意にぃ☆)」 肆號はそんなスヮリの思惑などお構いなしに、スピードのギアを上げた高速のラッシュで攻める。 だがスヮリは冷静に対処し、厄介な右腕と右足は所謂パーリングで払い落す。そしてその連撃の隙を見計らい尻尾を肆號に叩きつける。 人型の両手足以外にパーツの付く魔族・魔獣・獣人に対しては、対人格闘のセオリーは通用しない場合も多いのだ。 通常ならアバラ骨がへし折れて悶絶する衝撃であろうが、無痛症の肆號にはどこ吹く風だ。 「油断した。でも『共感』、力入る。お前に食らわす、楽しみ…」 陸號は高速でステップを刻み、時折フェイントを混ぜつつシュウに連撃を加える。 「(フェイントに引っかかってスキルを使ってくれたら、その隙に一撃決めれるんだけどな…)」 だがシュウは冷静に対処をして、その思惑に引っかかろうとはしない。 「最初は半信半疑だったが、私にインプットされてた戦闘技術はちゃんと有効だったようだ…」 シュウを冷静に観察していた陸號はその呟きに気づく。 「インプット?訓練とか受けてたわけではないの? 何かよく分かんないけど本当怪しいね、気ぶり仮面のおじさん」 この膠着した戦況を打破するべく、大講堂の屋内から一人の女性が出てくる。人造勇者壱號ことアインス=ドナー大尉である。    *   *   *   *   * 弱り切ったミレーンの体を抱えながら飛ぶライト。地上を見ると彼らを捜索に出ていた部隊がその姿を見つけて追いかけようとしている。 そしてライトの背後の上空を追いかけてくるもがある。二体の鳥型合成獣人である。 通常であれば超高速で振り切るなり真空波で返り討ちにするのだが、今のライトは腕にミレーンを抱えているため反撃もスピードも上げにくくなっている。 一旦着地してミレーンを置いたら反撃するか…、そんな対処を頭の中で考えていた時に意外な援軍が入る。 地上から二発のロケットランチャーが打ち上げられる。それはライトたちを避け追跡する鳥型獣人を直撃する。 獣人たちは撃墜され落ちて行った。仮に直撃で死ななくても落下した衝撃で事切れるだろうから恐らく安心して良いだろう。 ロケットランチャーの放たれた方向の地上から光の点滅の合図が送られる。 ライトは不安を抱きながらもそこへ着地する。少なくとも敵ではないはずだから…。 「アホども。まだこんなことやってたのか」 マンホールの蓋を開けて小型の女性型ゴーレムがライトに声をかける。助っ人の正体はメトリであった。 「メトリちゃん!どうしたのこんなとこで?!」 ライトは意外な援軍の主、一度はPTを離れた元同行者が現れた理由を質問した。 「お前たちが暴れ回ってるせいで、バルロスから離脱できなくなっている。今は一時的にフリッツ博士と行動を共にしている」 「お前たちを売り渡して奴らと交渉しても良いが、マスター…私の父と所縁のある依頼が元だけにそれもし難い。なのでほとぼりが醒めるまでお前たちの支援をすることにした」 「それにしてもよく出て来れたね。地下道にも捜索の手が回って来てるはずなのに」 「連中の施設でお前たちが暴れているという情報が来ると、奴らはすぐに撤収して行った。だが今の砲撃のせいで再度地下へと捜索の手が回るだろう。お前らも早く来い」 「ごめん。まだ回収しなきゃいけない仲間がいるんだ…」 「スヮリゲーターと例の人造勇者終號のことか?」 メトリの問いにライトは頷いて答える。 「ならば別ルートの入口を伝える。X206Y137にあるマンホールから地下に入れ。ただし1時間経過したらそのルートは破壊する。我々の身の安全が第一だからな」 「わかった。とりあえずミレーンさんのことを頼む…」 ライトはメトリにミレーンの身柄を渡すと、再び翼を広げて大講堂へと戻って行った。    *   *   *   *   * 「私があの男に電撃を食らわす。奴は恐らくスキルを使って反撃するだろうから、お前はその隙を突いて攻撃しろ、陸號」 「僕は全然願ったり叶ったりですけど、大尉は大丈夫なんですか?」 「電撃使いが電撃にやられると思うか? 私の肉体にはちゃんと耐電加工は施してある。安心しろ」 「(もっとも全力レベルを何発耐えられるかなんて実験したことはないがな…)」 「(ヤバい奴が来ちゃったにぃ☆ 早くこの子を倒してあっちの応援しないとにぃ…☆)」 飛び道具を使う敵に対しては逃げるぐらいしか対処方のないスヮリだけに、もし味方であるシュウがやられたら一巻の終わりであることは理解していた。 目の前の肆號を倒してシュウの加勢に行くことが真っ先にやらねばならぬことであると。 スヮリは徐々に動き出し、建物の壁が背後に来るように位置取った。 「勝手に追いつめられた。お前、何考えてる」 肆號は意図の読めないスヮリの動きに警戒する。 「にょわ~☆ スヮリ~んローリングアタック☆」 スヮリは軽くジャンプをし、勢いよく壁面を蹴る。さらに全身を丸めるように折り畳み強烈な回転を加え、高速の弾丸と化して肆號へと襲い掛かった。 肆號はそれを何とか避ける、だがスヮリは着地するや否や再び同じ技を仕掛ける。先ほどとは反対に肆號は背後が建物の壁面になる位置へと追いつめられる。 後ずさりする肆號は壁に体が当たったことに気づく。逃げ場がない…そう思った瞬間、スヮリの高速の弾丸が肆號へと命中した。 「人造勇者ちゃんはこんぐらいじゃまだ終わらないはずにぃ☆ そろそろスヮリのフェイバリット決めちゃうにぃ☆」 スヮリはふらふらになった肆號を立たせると、思い切り全身に捻りを溜め高速で回転する。 「ドラゴンテールボンバーだにぃ☆」 スヮリの巨大な尻尾が肆號の喉元に叩きつけられる。 スヮリのごん太の尻尾を使った要はラリアットだが、そのサイズから胸元や顔面にも強烈なダメージが加えられる。 「合成獣人、負けない。私、特別製…」 痛みを感じないにせよ、ダメージの蓄積により疲労の感覚はあるはずである。 だが肆號は立ち上がった。自分は選ばれし存在であり、こんな合成獣人ごときには負けるはずはないと…。 その様子を見て陸號は決意する。 「やりましょう大尉。早いとこフォルタさんを助けに行かないと…」 壱號が頷くとシュウに向けて全力の電撃を放つ。 シュウは反転を使いそれを返す。 そして高速の動きでシュウの死角へと回った陸號が、右腕の刃で顔面を切り裂こうとする。 シュウは必死に避ける。 陸號の切っ先はシュウの着けていた気ぶり仮面に接触し破壊をするが、顔面の肉を捉えることはできなかった。 そして人造勇者たちは意外な物を見ることとなった。 「えっ?! あれ、ひょっとして…?!」 三人の人造勇者たちは目の前の光景に困惑した。 仮面を外した男の顔に三人は見覚えがあった。何せ彼らの元上官であるイナッテン=ドナー中佐に瓜二つなのだから。 「見間違いではなかったか…」 壱號は最初の乱闘で見た仮面の男の正体が、自分の勘違いでなかったことに困惑する。 何せこの男と同じ顔をした人物は上官なだけでなく、自身の父親でありすでに故人だからである。 シュウの仮面の正体が晒されると、周囲はまるで時間が止まったかのようにフリーズする。 スヮリはこの好機を逃さなかった。 長く太い尻尾で肆號の全身を巻き込み締め上げる。 肆號は剣を振って逃げようとするが手足が全く動かせないので斬りつけることができないのだ。 さらにスヮリは両腕を使って肆號の首をスリーパーホールドで締め上げる。 「スヮリゲーター・デスロール☆ いくら痛くなくても締め落としちゃえば同じだにぃ☆」 これで一丁上がり…そうスヮリが確信した時であった。背中に激しい痛みと何やらとても熱くなる感覚がある。 スヮリは背後から刃で刺された。やったのは陸號である。 スヮリのフォローをすべきであるシュウは壱號の電撃を返すので精一杯であった。 何度も何度も反転させたので双方ボロボロになっていたが、このワンチャンスを物にしたのは数に勝る人造勇者サイドであった。 スヮリはどうすべきか必死に考えた。その結論は肆號の首をへし折って始末し、敵の数を一人減らすことであった。 スヮリは締め上げている腕へ必死に力を入れる。だが自分のイメージしているよりも力が抜けて行っている。 「な…何でだにぃ…」 「君の血と生命力を吸わせてもらうよ…」 これが陸號の持つ聖剣の力であった。 スヮリの力が全身から抜けて行く。 肆號の首をへし折ろうとした腕だけでなく、全身を締め上げている尻尾も緩みだす。 肆號に施していた拘束は解けたのであった。 「陸號、支援感謝。借り、返す」 肆號は右足に仕込んでいた『共感』をスヮリに突き刺す。スヮリは全身に激しいダメージを叩きつけられ沈んだ。 「いや~美味しかった~。合成獣人だって馬鹿にしてたけど、実に味わい深かったって感動したぁ…。あれ?ひょっとしてもう死んでる?」 陸號が倒れたまま動きの止まったスヮリの体を突く。肆號はそうだなと言わんばかりに頷いた。 「え~っ!せっかくの美味しい生命力だったのにもったいなーい! ねぇフォルタさん頼むよ、ちゃんと始末するからさぁ。ほらもう一回!もう一回!」 「お前、私助けた。今回だけだぞ」 肆號は左足に仕込んである聖剣『天寿』でスヮリの体を突く。すると動かなくなっていたスヮリが息を吹き返したのだった。 陸號がスヮリを見下ろしながら言う。 「君の血すごく美味しかったよ。でもまだお腹いっぱいになってないから、今度は命尽きるまで吸いつくさせてね」 陸號の刃が再びスヮリの体を刺そうとした時であった。 強烈な斬撃のようなものが戦いの輪の中に斬り込んでくる。ライトの放った全力の真空波であった。 ライトはすでに男の姿に戻っていた。 元々囮作戦の関係上、仮面は着けていなかったので正体を晒す事になっていたがそんなことはもう関係ない。 「へぇ…君、本当は男だったんだ。でもそっちの方が美味しそうな臭いがぷんぷん漂っているよ。この獣人を助けに来たんでしょ。もう飽きたから君の血と交換で返してあげるよ」 陸號の軽口に若干キレ気味になっていたが、ライトは感情をクールダウンさせる。 「行くよ、がーすけ。最大限まで力をくれ…」 スピード型の肆號と陸號が総がかりで襲い掛かる。ライトはそれを冷静に避けてスヮリの元へと行く。 無造作な動きのように見えるが攻撃を避ける度にブチッブチッと何かが切れる音が聞こえ、その度にライトは顰めるような表情になった。 肆號と陸號は何が起こったのか理解できなかった。だが敵は自分たちの全速の奇襲を軽々と躱したのである。 ライトはスヮリを抱えるとシュウにも撤収を命じる。人造勇者たちがあっけに取られている間に翼を広げて飛んで行った。 壱號は周囲の者に追手を差し向けるように命ずるが、多分捕まえることは難しいであろう。 人造勇者サイドとしては今回の忌器防衛戦にて敵側の正体が見えてきたが、反対に見逃せない大きな謎を残すこととなった。 「二人とも、今日見たことを他言することは禁ずる。まだ不確定要素が大きい。くだらん勘ぐりで皆に動揺を与えてはいけない」 イナッテン=ドナー中佐と瓜二つの人物。彼はいったい何者なのだろうか? (続く)