「リディア・アルフェルト並びにレオ号に任務を言い渡します。この封書を速やかに届けなさい」 「了解いたしました!」 「クァ!」 これが俺たちのグリフォンライダー便として初仕事だ。 とは言っても、封書を工房に送り届けるだけの仕事だ。 俺たちなら問題なくこなせるだろう。 出発の準備をしていると上司に呼び止められた。 どうやら俺に話があるらしい。 「レオ君……君は頭のいいグリフォンだ。リディア君も優秀だが……ちょっと抜けているところがあってね……」 ああ……うん……。 「リディア君に何かあったら相棒の君が助けてやってくれ。……頼むよ」 「クァー……」 言いたいことはわかる。すごいわかる。 訓練中どころか日常でもあいつがやらかしたあれやそれやが頭に浮かぶ。 俺と上司は二人でちらっとリディアの方を見る。 「レオー準備できたよー!」 と当の本人であるリディアが屈託のない笑顔でこっちにむかって手を振っていた。 俺は上司に一礼してからリディアの方へと向かい、リディアを背に乗せると大空へと飛び立った。 大空はいい。 特にリディアを乗せて大空を飛ぶのは最高だ。 グリフォンの本能だとか刷り込みのせいなのだろうか? 人間だった時には無かった感覚だ。 トラックに轢かれて気づけばグリフォンとして転生していた。 殻を破って一番最初に見たのは、俺が孵ったのを見て泣きそうなくらい喜んでいたリディアの姿だった。 それからというもの、いきなり知らない世界に知らない姿に転生した俺を、リディアは献身的に世話をしてくれた。 本当に感謝している。 まぁ……今世話をしてるのはどちらかというと俺の方なんだが……。 「レオーそろそろ着陸準備おねがーい!」 「クァー!」 思い出に浸っていた頭を仕事モードに切り替える。 「初仕事、絶対うまくやろうね」 「クァ!」 初仕事をうまくこなしたいのは俺もリディアと同じ気持ちだった。 目的地までもうあと少し。 俺は工房に向かって降下した。 目的の工房の前に着地した。 到着タイムは30分ちょいか、また世界を縮めてしまったな……。 グリフォンになってから、どうも速さに拘るようになってしまった。 今回が初仕事の新参とはいえ、グリフォン便最速は俺だ。 もっとみんな俺の速さを褒め称えてもいいと思う。 「ありがとうね、レオ」 リディアが俺の頭をぽんぽんと撫でてから俺の背から降りた。 うーん褒められるのはいいんだがもうちょっと速さを褒めてほしいよなぁ。 そんな微妙な物足りなさを感じながらリディアが呼び鈴を鳴らすのを見守っていた。 チリンチリーン。呼び鈴がなる。 「は!?もう郵便来たのか!?早すぎるぞまだ準備出来てねえぞ!」 そうそうそういう感じの称賛が欲し……ん? 「バカ、大きな声だすな……準備できてねえけどやるしかないだろいくぞ」 なんか……郵便受け取るにしては変なやりとりが奥から聞こえたな……? ガチャ、と扉が開く。 中から大男が2人と、眼鏡をかけた男が息を切らして飛び出してきた。 「お……お待たせしました……郵便屋の方ですね?話は伺ってます……」 ……こいつらなんか変じゃない? 「お忙しい所すみません!封書をお届けに参りました!」 リディアは息を切らしているのを忙しいと解釈したみたいだ。 俺はこいつら怪しいと思うけど……さっきのやりとり聞こえてなかったんかな……俺の耳いいし……。 「ええ、ありがとうございます。では早速その設計図をこちらに渡してください。」 ……やっぱり怪しくない? なんか妙に急かしてるというか、封書の中身設計図だったんだ……。 「ええ、では印章をお願いします」 「印章?」 明らかにしまったって顔をしてる。 「はい、印章です。封書を渡す時は印章をもらうのが決まりになっていまして」 「ちょっと待っててくださいね。どこに印章があったか探してきますので」 慌てて3人は工房に戻る。 「おい聞いてねえぞ印章なんて」 「うるせえ俺だって知らなかったんだ郵便なんて利用したことねえんだ」 どたばたと印章を探す音に混じって明らかに怪しい会話が聞こえてくる。 なあこいつら絶対おかしいって!封書渡さないほうがいいって! 怪しいと判断したら即配達中止!訓練でそう習っただろ! そんなことを考えていると 「あ、印章が無かったら直筆のサインでも大丈夫ですよ!」 こいつ助け舟だしやがった! そうじゃないだろ!こいつら怪しいんだって!中止しようって配達! 「す、すみません……助かった……じゃあサインでお願いします」 まずいこのままだと明らかに怪しい奴に大事な封書がわたってしまう。 「はい、サインありがとうございます。アルバート・グリン様ですね」 「あれ……?名前少し間違ってますね?アルバート・グレン様では?」 「……」 ……。 「その……なんだ……書き間違いです……」 んなわけあるか!自分の名前だぞ!100%アウトだって! 「あー書き間違いですか。そういうこともありますよねー」 あるかー!こいつ人を疑うってことを知らないのか!?……知らないやつだったわ! 昔リディアが知らない奴の言葉を信じて誘拐されかけ……ってそうじゃないそれどころじゃない! 「では念のため改めてもういちどサインを……」 いかん、俺が封書を守らないとだめだ! 慌ててリディアと怪しい奴らの前に立ちふさがる。 「レオ?」 俺はリディアの前に立ち、怪しい3人組相手に威嚇をする。 「くそ、なんだこのグリフォン……」 「レオ何かあるの?そこにいたら配達できないよ?」 なんとか封書を渡すのは防げたが根本的な解決になってない。 どうすれば……と考えていると 「んんーーーーーーーっ!!」 と工房の奥からくぐもった叫び声が聞こえてきた。 …………。 「…………」 「…………」 沈黙が流れた。 全員の視線が工房の方へと向かう。 これ……本物の受取人が奥で捕まってるんじゃ……。 「あ、あの大丈夫ですか奥から苦しそうな声が聞こえ」 「畜生予定変更だ!封書を奪うぞ!」 ほらー!やっぱり! 男たちは魔道具を取り出してこちらに襲いかかってきた。 「まずはグリフォンの方を狙え!足を潰すぞ!」 やばい俺が狙われてる! 急いで応戦しようと身構えた次の瞬間 キン! と金属音が響いて3人とも倒れていた。 え?何? 「大丈夫、レオ?」 心配そうにリディアが駆け寄ってきた。 「レオはあいつらが怪しいって気づいてたんだね。ごめんねレオ気づけなくって」 え?これリディアがあいつら倒したの?この一瞬で? 「奥に捕まってる人いるよね、助けに行くね」 そう言ってリディアは工房の奥に剣を携えて入っていった。 リディアが強いのは知ってたけど……まじで強いな……。 「――以上が今回の配達の報告になります!」 あの後は本物の工房の人を助けたりだとか警察呼んだりとかで大騒ぎだった。 それでも封書そのものは無事に送り届けることができて、俺達の初仕事は無事……無事か?とにかく終わったのだった。 上司はその報告を聞いて頭を抱えてる。 そりゃあそうだろう初仕事でいきなり心配してたことが実際に起きたからな……。 「言いたいことは山ほどあるが……とりあえず配達ご苦労だった。これからも頑張るように」 「はい!」 「クァー……」 疲れてるせいですごい気の抜けた鳴き声がでた。 リディアはあんなことがあったのにすごい元気だな……体力お化けか? 報告を終えて戻ろうとしたときに上司に呼び止められた。 「レオ君……今日は本当によくやってくれた。これからもリディア君のことを頼むよ……」 えぇ……今日みたいなことを頼むの……俺はリディアの保護者じゃないんだけど……。 「そうですね、今日は本当にレオに助けられました。ありがとう、レオ!」 リディアは屈託のない笑顔でそう言って俺の頭を撫でた。 いや本当に今日のはマジで疲れた……まじで勘弁してくれ……。 でも嬉しそうに俺を撫でるリディアを見ると……こいつの保護者……いや、相棒でいるのも、悪くはないかな。 そう思えた。