シュウこと人造勇者終號はその日夢を見ていた。それは懐かしい夢であった。 生命活動を始めて間もない彼にとっての懐かしいとは何か? それは自身の遺伝子の元となった男の記憶であった…。 それは遠い昔の嵐の夜から始まる。暴風雨の中、彼は幼い少女を抱えて逃げまどっていた。そして視線を横目に見ると、そこには稲妻を纏った金属製の巨大な人型の物体があった。 それはゴーレムのようであったが、漂うオーラは人工物ではない異質さを感じさせた。男は直感的に判断した、これは魔王だと…。 彼の住んでいた村にはある伝説が残っていた、それは社に奉納されている剣のことである。 かつて魔王と呼ばれる邪悪な存在を討ち果たした勇者が残した物であり、天地が乱れるような災いが起きた時には新たな勇者がそれを以って安寧を取り戻すと。 だが伝説はあくまでも伝説にしか過ぎなかった。翌日避難先から村へ戻ると、そこには一面の破壊された家屋と多くの人々の死体が映る。 そして聖剣が奉納されていた社だけは無事に残っていた。 何が勇者だ何が聖剣だ、役に立たない物はいらない。魔王を倒す真の勇者は神ではなく自分が作ると彼は決意したのだった。 数日後彼は妻子を連れてバルロスへと辿り着く。 村には誰も残っていないので奉納されていた役立たずの聖剣も持って来た。 心折れそうになった時に気持ちを発奮させるための材料とするためであった。 エンジニアの端くれでもあった彼は、真の勇者を作るために優れた技術を擁するこの地で活動することを選んだ。 彼は軍に入隊し技術部門に配属を希望する。軍へ入った理由はただ一つ、最強の戦士を作る研究を最も必要とされる場所は軍であるからだ。 機械系のエンジニアであった彼の選択したプランは、機械を体内に埋め込み強化する所謂サイボーグであった。 高出力かつ体内にも入れることが可能な小型サイズのジェネレーターとそこから生み出される電力で動く強化された腕、さらにはその電力を超高圧で放出する電撃兵器。 無意識ではあるが彼の抱く最強のイメージはあの日見た鉄の魔王だったのかもしれない。 彼は軍の仕事と並行しながら文字通り寝食を忘れて開発に励む。幼い娘の世話や家庭のことは全て妻に任せていた。 彼女は体が弱く床に伏せがちであったが、それ以上に根を詰める彼のことを心配した。 彼はそれに気づいてはいたが、感謝をしつつも自身の目的のために目を瞑っていた。 今製作しているコイツが完成したら少しは余裕ができる、その時は人を雇って妻の側にいる時間を作ってやろうと…。 ジェネレーターの試作品が完成し、軍の上層部へとプレゼンを行う。 だが結果は想像よりも逆風であった。上層部からの判断は実にシンプルである。 「それ人間でやる意味ある?ゴーレムで良くね」 彼は上層部へ必死に訴えた。 戦場に置ける迅速な判断や対応は人間の方が上であり、手足を失った傷病兵のリサイクルにも繋がる、そして何より魔王を倒す存在は人間でなければいけないのだと。 だが上層部の判断は変わらなかった。彼のプランは却下され、これ以上の開発を進めるならば自費で行わねばならなくなった。 さらに悪いことは立て続けに起る。妻が病を拗らせ帰らぬ人となった。 彼は泣いた。様々な気持ちで心はぐちゃぐちゃになっていた。 なぜ無理をさせてしまったのか、なぜもっと気遣ってやれなかったのか、彼女の言うことをもっと聞いてやれば良かった…。 その一方でこの犠牲に報いるためにも、今進めている最強戦士製造プランこと人造勇者計画を成功させねばならないと心に誓った。 開発には軍からの給料だけでは間に合わず、借金を重ねることとなった。 子供に粗末な食事しか与えられず贅沢もさせてやることができない恥ずかしい父親であると嘆く彼に、娘は「お父さんの夢のためだから我慢する」と言ってくれた。 そしてついに電撃兵装付きの義手も完成し小型ジェネレーターと併せて準備は整った。 後は被験者に取り付けて実働試験を行うだけである。 だが正式な軍の研究ではないため被験者の提供は断られた。 関知していない研究の実験で仮に事故が起った場合に、軍に責任が追及されるのは迷惑だからである。 計画は再び頓挫しかけた、だがその時一人の女性が被験者にと手を挙げた。それは彼の娘である。 彼は当然ながら反対をする。母さんの産んでくれた五体満足の体を粗末にしてはいけない、仮に成功したとしても試作品の不良のせいで死ぬことになるかもしれないと。 しかし彼女はこう言って譲らなかった。これは父さんだけの夢ではない、母さんの夢でもあり私の夢でもある。 さらにもし実験が失敗して見知らぬ被験者が死んだら、その人の家族や恋人はとても悲しむであろうと。 彼は娘の決意に感謝すると共に心を鬼にした。彼は娘の左腕を切り落し左目を抉り取り胸を切り開き、それぞれに開発したパーツを移植する。 そしてついに彼の悲願の第一歩が完成した、人造勇者壱號である。    *   *   *   *   * 人造勇者の実働試験が行われる。移植したパーツと肉体には拒絶反応はなく適合率は上々。 続いて試作聖剣の試験が行われる。試作聖剣、彼はメイン兵装のことを武器の種類に関わらずこう呼んでいた。 10mほど離れたターゲットに向けて電撃を放ち、見事命中する。 続いて出力と距離をどんどん上げて行きながら限界値を目指す。いよいよ最大出力での試射を行うと異変が起きた。 ジェネレーターの生み出す電力が体内の耐電処置の限度を超えてしまい、内臓に強大なダメージを与えてしまうのだ。 壱號は心臓が停止しかけ、血を吐いて倒れた。 応急処置が間に合ったおかげで最悪の事態は免れた。 彼は自分の見通しの甘さに嘆く、同時にもう戻ることはできないと覚悟を決める。 最大出力での発射は諦め、体内に負担がかからないようにリミッターを取り付ける。 電撃の精度は上がり、義手のパワーは魔熊のどてっ腹を撃ち抜くほと強烈であった。 後は人造勇者の披露をする機会を得ることだけである。 その機会は意外な程早く訪れた。 山に現れた魔獣を討伐するために、戦闘用ゴーレムを連れた分隊を送りこんだものの壊滅しかかっているという話であった。 彼は自身の開発した人造勇者壱號に討伐を任せるよう志願する。 難色を示す上官に対し「人造勇者は私の娘であり。何があっても軍に責任は求めません」と宣言し念書も書いて見せた。 そこまで言うのなら…と上官も折れ、あくまでも生存者の救護という名目で現場への介入を認めた。 壱號は山に入る。そこで見たのは食いちぎられて散らばった人間の体の一部分と破壊されたゴーレムだった。 生存者を探して周囲を捜索すると腕を失った一人の兵士を発見する。それは壊滅した分隊の隊長であった。 壱號は彼に自分は救援部隊であることを告げ、他の兵士はどこにいるのか質問する。 分隊長は部下は全員殉職し自身もこの様だと口惜しそうに言う。 壱號は分隊長に早く山を降りて治療をしようと言うと、彼を立たせ肩を貸した。 山を下る途中で抜き身のような生々しい殺気を感じる。それは分隊を襲った魔獣であった。 その魔獣は四つ足で頭を二つ持つ犬型の生物、オルトロスである。 壱號は分隊長を離すと左腕を構え電撃を放つ。 だが野生の勘なのか危険を察知したオルトロスはそれを避けると、素早い動きで翻弄しながら壱號に襲い掛かる。 どうやら兵士だけでなくゴーレムもこのスピードに付いて行けず敗北してしまったのだろう。 壱號は左腕の義手を盾代わりにしながら必死に耐える。飛び道具が当たらないのなら近接するワンチャンスを狙うしかないと。 壱號が左腕を伸ばすとオルトロスはそれを食いちぎろうと噛みつく。だがそれを彼女は待っていた。 オルトロスが食らいついた瞬間にリミッター限界値の電撃を放つ。オルトロスは黒こげになって死んだ。 壱號は分隊長を連れて帰還する。 その父親である彼は安堵すると共にボロボロになった娘を見て懺悔の念を抱くのであった。    *   *   *   *   * この一件がきっかけとなり人造勇者計画は軍の正式な研究として認められることになり、一人の被験者を得ることとなった。 それは壱號に救助された分隊長アイゼンヴァントである。 彼は部下を守れなかった自身の弱さを恥じ、壱號のような強さを求めて失った両腕の代わりを得ることを望んだ。 『特殊兵装実験部隊第四分隊』と名付けられた新設された部署には、彼の他に2名の研究者が配属される。 生物工学専門のグート博士と魔導工学専門のモーゲン博士である。 彼らもまた自らの技術を用いて強力な兵士を作ろうとしている者であった。 グート博士の研究は一部の人間が持つ特別なスキルを強化させるということである。 彼は被験者として誰も捕まえることができないという少女を抱えていた。彼女には人造勇者候補として惨號の番号が与えられた。 異なる分野を持つ研究者たちであったが、お互いの知識を融合して最強の勇者を作ろうと関係は良好であった。 部隊が誕生して1ヵ月ほど経ったある日、人造勇者たちに出動の命令が下される。 バルロス盆地の外れにある街に魔王軍の部隊が現れたのでその排除を行うというものであった。 惨號はまだ実戦には使えないため壱號と完成したばかりの弐號が向かうこととなった。 たった二名の戦力ではあったが戦果は見事なものであった。 弐號に取り付けたジェネレーターは壱號の物よりも出力は劣るものの安定性があり、両腕の義手はパワータイプの魔族を抑え込めるほどの剛力を発揮した。 壱號も前回の経験を生かして射撃と近接戦で電撃の使い分けを巧みに行い、魔王軍の部隊長の討伐を成功させた。 まだ成果は少ないが我々のやろうとしていることに間違いはない。彼はそんな手ごたえを感じていた。 初出動の際に壱號が重傷を負った生存者の少女を連れて帰って来た。 壱號は開発中の試作聖剣の義手義足を彼女に取り付けるように嘆願する。 だがその接続には非常な苦痛を伴うため、彼は少女の身では耐えられないと拒否をする。 現に3人もの被験者がそれに耐えきれずショック死をしていたほどであった。 その会話を聞いていた生存者の少女は自分は無痛症だから大丈夫だと訴える。 彼はその言葉に望みをかけ移植手術を行い、そして成功をした。こうして誕生したのが人造勇者肆號である。 その後も部隊には様々な形で被験者が増えて行く。 伍號と陸號は機械化部門の漆號と捌號はスキル強化部門のメンバーとして部隊入りする。 だが部隊として考えてみると、目立った成果のないまま人員だけが増えてることになる。 特にスキル強化部門は結果をまだ見せてはおらず、機械化部門もジェネレーターの出力を抑えている関係で性能が頭打ちになっているのだ。 上層部からは成果をせっ突かれる中、上官からある一人の男を紹介されたのであった。 (続く)