「──術式完了。もう指一本動かせないだろう。頚椎を分断したからね」 人道に背く悍ましい研究を続けてきた姉。 せめて私の手で止める事が、血縁者としての使命だと思っていた。 私達の手は人の命を助ける為のもので、奪う為のものじゃなかった筈なのに── 「心配はいらない。脳の錯乱と一緒に治してあげよう。あぁ、でも脳の施術中は覚醒下での経過確認が必要だね。 では言語機能だけまずは治すとしようか」 あらゆる生命を弄び、血や体液の生臭さがこびり付いた穢らわしい手が私の喉元に伸びる。 「……っ!!この人でなし!!殺してやる!!お前を殺して私も死ぬ!!」 「愛する妹。命とは尊いものだ。せっかく助かった命を捨てるなんて医者が言ってはいけないよ。 まあ、無理もない。さっきまで異形の化け物だったのだから。早速施術に入るから、適宜感想を教えてくれ」 そう言ってセフィーは両手で私の頭を掴んだ。 痛みは無い。だがあいつの指が私の頭部に侵入してくる感覚だけが感じられてとても気持ちが悪い。 「やめっ……あっ これ以上罪を重ね……ああっ」 「言語機能に異常は無し。まずは扁桃体を摘出するとしよう。」 ずりゅん、という音と共にセフィーが手を動かし、自分の中からすっぽりと何かが抜け落ちる。 さっきまで抱いていた敵意も警戒心も、全て嘘のように消えてしまった。 「あっ……セフィー……一体何をしたの……?」 「存分にリラックスするといい。暴れると危ないからね。でも経過を確認したいから常に喋り続けるように。いいね?」 「あー……頭の中、ぐちゃぐちゃになって気持ち悪い……怖い……セフィー…… 嫌……いや……?やだ……やめないで……もっと……きもちいい……」 「側頭葉改造完了。経過も順調。じゃあ最後に嫌な事は忘れてしまおう」 「やだ……私セフィーのこと忘れたくな──」 「大丈夫、すぐに思い出すよ。私達は愛すべき家族なのだからね」 ──ぷつん。 「君の名前は?」 「……なまえ?分かりません……」 「成程。じゃあ姉の事は分かるかな?」 「あなたは……どくとる……私のたった一人のお姉ちゃんで病気をなおしてくれるせんせい……」 「そう、周りからはドクトル、と呼ばれている。君は自分の大切な妹だ。 えーと……ポチでいいか。ポチ、名前を呼び合うのは人として大切な事だ。君も姉のことはドクトルと呼ぶといい」 ドクトル。私の大切で大好きなお姉ちゃんの名前。私はポチ。どくとるの妹。 「どくとるっ♡どくとるぅっ♡」 「よしよし、そんなに尻尾を振ってポチは可愛い子だ。 あそこの仲間達と沢山遊んでくるといい。身体も完全に治った事だしね」 愛しい妹の治療は後遺症も含めて完了し、より完成した生命へと進化した。 枝のように痩せ細っていた四肢も逞しくなり、本数も増やした。 人として当然の事をすると気分が良い。これで安心して次の真理へと進める──