大講堂と呼ばれている建物の地階、倉庫のような場所にミレーン、ライト、シュウそしてブリッツクリークの四人がいた。 皆はブリッツの能力を使って建物内に無事侵入できた様子である…。 「本当に凄い能力だな俺たち三人を一気にここまで運んでくるなんて…」 俺はブリッツの見せた能力の凄さを素直に感心していた。 「一応言っておくけど、私の能力って別に瞬間移動ってわけじゃないんだからね…。時間を操るだけだからアンタらをわざわざここまで運んで来てあげてんだよ…。あの距離三人なんてもう死ぬわ…。その無駄にデカくて重たいムキムキマッチョ本当迷惑なんだけど…」 ブリッツは倉庫の壁面にもたれかかりながら、息を切らしぶっ倒れている。 「君に無理をかけたようで申し訳ない。感謝する。だがここは一体どういう場所なんだ?」 この薄暗くだだっ広い空間の詳細をブリッツに質問した。 「ここは大講堂の地階にある倉庫…。こんな大量の机や椅子なんてもう使うことないから誰も来ないんで、一人でこっそり隠れる時に便利なのよ…」 疲れのあまり呼吸を荒くしながらブリッツが答える。 「じゃあもう帰らせてもらうわね。早くトンズラ決めないと私の身がやばいし…」 5分ほど経ち、落ち着いてきたブリッツがこの場を離れようとする。だがそこに声をかける者がいた。 「驚いた…。まさか本当に裏切っていたなんて…」 一同が声のする方向に目をやる。そこには一見女児かと見間違えるような小柄な女性が立っていた。 人造勇者捌號ことキューケン=ピープ少尉である。 「キューケン…。何でここが…?」 ブリッツは顔を会わせたくない相手と遭遇してしまったため、実にばつの悪い表情を見せている。 「いつもかくれんぼしている君を見つけ出すのはボクの役目でしょ。君のいそうな場所なんてすぐ分かるのさ」 「それにしても本当に裏切っていたなんて…。ボクは最後まで信じていたんだよ」 深く信頼をしていたがゆえの裏切りだけに、いつもにこやかな捌號の表情が怒りに満ちていた。 「待って!キューケン!人の話を聞いて! 確かに今はこいつらと行動を共にしているけど、みんなを裏切ったつもりは一切ない!」 「あの変な仮面野郎に唆されて妙な計画を始めて、仲間だった人たちも獣人に変えちゃったりしてさぁ! みんな頭おかしくなっているよ!だから私は止めに来たの!」 ブリッツは必死に弁解をする。 「でもそれがアインスの願いだから…。彼女はボクたちのリーダー。仮に間違っていたとしてもその命令に背くようなら仲間であっても始末する!」 「もちろん、中佐あなたもね…」 捌號はシュウに目くばせをする。 なぜだか分からないがシュッツガイストの奴は、他の人造勇者たちにシュウが中佐の偽物だということは伝えていないようだ。 捌號は傍らにあった机の山に手を置く、するとそれらは一瞬にして消えてしまった。 それを見たブリッツが俺たちに叫ぶ。 「みんな気を付けて!上!」 ブリッツの言に従い上を見ると、上空から大量の机が降って来る。俺たちは皆必死に避ける。 俺は降って来た机を一つ捕らえるとそれを盾代わりにしてしのいだ。 「あれが…例の捌號の能力か…。聞いてはいた通りだが、こんな厄介な使い方があったとはな…」 生き残った人造勇者たちの能力に関してはブリッツからはすでに聴収済みではあるが、その使い方や戦法についての対策は実戦の中で見つけるしかない。 周囲を見るとライトやシュウもどうやら無事な様子ではある。 「でも降って来るのが机や椅子だからまだいいよ。岩や瓦礫が降ってきたら厄介さはこんなものじゃ済まない…」 ブリッツが俺たちにアドバイスをするや否やのタイミングで捌號が動き出す。 そして別の机の山に触れると第二波第三波が俺たちに襲い掛かる。 避けられず机が肩にぶつかりダメージを受けたライトを俺は机の傘の中に呼び入れる。 シュウは避け切れなかった机を反転で返すが、反動のダメージが地味に蓄積されて行く。 早く何とかしないと俺たちの体力は削られて行くばかりだ…。 「仕方ない…。やり合いたくはなかったけど…。彼女のことは私に任せて。二人ともこの場から離脱する。後の事は頼んだわよ」 ブリッツがそう言い放つと、一瞬で彼女と捌號の姿が視界から消える。それと同時に降り注ぐ机や椅子の攻撃も収まったようだ。    *   *   *   *   * 俺はホーリーヒールでライトとシュウのダメージを治癒させる。そして天使像のある中央大講堂まで移動する。 その間警備にいるはずの合成獣人たちとは一度も鉢合わせにならない。メトリたちの偵察ではあれだけの数がいたのにだ。 何らかの罠なのか…、仮にそうだったとしても今の俺たちはそれに乗っかるしかない。 天使像のある大講堂に入るとそこには弐號・肆號・漆號の人造勇者三人とパンドラが待っていた。 もちろんこれも想定内ではあるがパンドラまでいたのは意外であった。 「下でガタガタ騒ぎが起きていたんでお前らだと分かってはいたが、まさか本当にブリッツの奴が裏切っていたとはな…」 漆號ががっかりしたようにため息混じりで言う。 「それに…マジで中佐だよ…」 漆號は疑心暗鬼の表情でシュウを見つめる。他の人造勇者たちも同様であった。 なぜシュウの正体がバラされていないのか疑問ではあるが、とりあえずこの流れに便乗しよう…。 「久しぶりだなアイゼンヴァント中尉にレーベン軍曹そしてフォルタ伍長…」 シュウは相手の名前を階級も交えて語りかける。 これは生前の中佐の言い回しであり、前回のようなヘマをしないためにブリッツから聞き出していたのだった。 「中佐殿、あなたは死んだはずなのでは? なぜこの場にいるのですか?」 弐號がシュウにごく当たり前の疑問を問いかける。 もちろんこういう展開は想定済なので回答もちゃんと用意してある。 「あの時死んだのは密かに用意していた私の影武者だよ。誤った方向に進む組織を私は危惧し、正そうとしたがアインス大尉には理解してもらえなかった。そこで私は地下に潜り、聖剣チップを埋め込みこの反転のスキルを身に着けた」 「そして私は再び帰って来た。皆を正しい方向へ戻すためにな。全てはあのシュッツガイストのせいである。奴を排除して部隊を健全な物に取り戻そう。ブリッツクリーク一等兵は裏切ったのではなく、理解してもらえたのだと受け止めてもらいたい…」 澱みのない見事な弁舌だ。正直使うかどうか分からないのに散々練習してきた甲斐があった。 人造勇者連中もかなり動揺している、もう一押しだな…。 シュウの言に応えるように弐號が反応をする。 「まさか本当に中佐でありましたとは…。正直頭の中が整理できておりません。長い間我々との交流を断たれておりましたが、奥様はまだ息災でいらっしゃいますか? あの方には大分お世話になりましたので…」 見知らぬ情報が入ってきたのでシュウは動揺をする。 少し考えたあげく今のところ上手く行ってはいるのだから乗っかっておこうと判断した。 「あぁ彼女は元気だよ。安心してくれ…」 シュウの発言を聞いた弐號はククク…と押し殺したような笑いを漏らす。 「馬脚を現したなこの偽物が!中佐の奥方は部隊の設立前にはとうの昔に亡くなっている! リサーチが甘かったようだな」 そんな個人のプライバシーのことまで聞いてる暇なんかねぇよ!  俺は自身の詰めの甘さを悔やむと共に、下らない小芝居を続ける必要がなくなったことに胸をなで下ろした…。    *   *   *   *   * 場所は変わりラボと呼ばれている建物内にある倉庫区画、そこには多数の忌器が無造作に安置されていた。 中には軍服を着た男女がそれぞれ1名ずつ待機している。人造勇者伍號ことトラウアーゲサング少尉と陸號ことザット上等兵である。 トラウアーの持つス魔ホに連絡が入る。 事前の予想通り侵入者が大講堂に現れたので段取り通り二人は現場に急行して、逃げられないように周囲を固めろとのことであった。 「やっぱあっちに来ちゃったか、彼の力を吸い取りたかったんだけどなぁ。フォルタさん派手に負けてくれないかなー。そうしたら僕と選手交代ができるのに…」 陸號ががっかりしたかのようにぼやく。 「めったなことを言うもんじゃない。それに肆號がダメになりそうでも他のメンバーがフォローを入れる。前に敵の合成獣人の血を吸ったせいでそのキモイ外見になってるんだから、これ以上得体のしれない力を吸収すると今度は人の姿を維持できるかも分からんぞ」 陸號の言を伍號が窘める。 「彼、女の子の時の姿は可愛かったから今度の見た目はイケメンに変わるかもしれませんよ。あーせっかくのチャンスもったいないなー」 伍號の忠告を陸號はまるで冗談かのように軽口で受け流す。 彼は自身の未来を全て諦めたかのような節があり、強くさえなれれば我が身や命がどうなっても構わない言動が目立っていた。 二人はラボの屋上へと上がる。 「結構距離があるから、こんなとこ来ないで早く行かないとまずいんじゃないんですか」 陸號の疑問に伍號が答える。 「大尉からは足として予備役を送ったから、ここで待っていろとのことだ」 「予備役?! ウチにそんなのいましたっけ?」 「いるだろ。それも飛びきりの戦力がさ…」 伍號がそういうと西の空に何やら飛行する物体が見え始める。 それは徐々に大きくなり、巨大な生物だということが判明する。 「久しぶりだね。今やS級冒険者様だったな!」 巨大なドラゴンが屋上に降り立つと伍號はそう言った。 「予備役って君のことか! 久しぶり!ドラシーナ!」 陸號も仲間との久しぶりの再開に嬉しそうに挨拶をする。 この全長12mもある巨大なドラゴンもまた人造勇者である。 人造勇者拾弐號ことツヴォルフ=ドラシーナ。 初期型メンバーの一人でありバイオテクノロジー型の強化実験を繰り返した結果、巨竜の姿と力を手に入れたのだった。 バルロス事変の際、バルロス起動の衝撃波で吹き飛ばされ機関員たちと離れ離れになった彼女は、紆余曲折の結果ギルドでS級冒険者にまで成り上がっていた。 風の噂でその情報を聞きつけたアインスはドラシーナと連絡を取り、事情が事情だけに離脱した件は不問にするが予備役として非常の際には部隊に合流するよう話をつけた。 そして今がその非常時なのである。 「まずは我々を大講堂まで運んでくれ。では行動を開始する!」 伍號の命令に陸號と拾弐號は了解の返事をしたのであった。 (続く)