主人公 シルド・ガーディニア 「俺」「お前」「○○」「オーサさん」 性格敵にはスマイル80%+ペコ20%。スマイルほど魔法(卓球)が嫌いではなく、魔法に対するワクワク感はペコのものを拝借する。 師匠 オーサ・ペンドラゴン 「アタシ」「アンタ」「坊や」「シルド坊」卒業後は「シルド」 性格的にはピンポンのタムラのおばば。 グランベル王国 王都グランディール ルティナの町 町長の息子はガストン グランディール王立魔法学院 第7位階:七級魔導士(見習い) ── 基礎魔法を覚えたて。町長息子のガストンなどはこのレベル。 第6位階:六級魔導士(初級) ── 一般的な冒険者や兵士。 第5位階:五級魔導士(中級) ── 一人前の魔法使い。王立学園の一般的な生徒レベル。 第4位階:四級魔導士(上級) ── 学園のエリート生徒や教員レベル。 第3位階:三級魔導士(特級) ── 王国騎士団の幹部や、一国の精鋭レベル。 第2位階:二級魔導士(宮廷・賢者級) ── 国家最高峰の戦力。 第1位階:一級魔導士(大魔導) ── 【オーサの階位】 全世界に数人しか存在しない天災級の領域。 タイトル 攻撃魔法ゼロの落ちこぼれ少年、大魔導師の十年間【超級魔法】に耐え抜いたら『全魔法を反転させる』最凶の防壁使いになっていた キャッチ 「炎は氷に、毒は薬に」――攻撃魔法が使えない少年は、あらゆる魔法を打ち消し反転させる『絶対防御』で王都を震撼させる! ※ここから本文 1.攻撃魔法「が」使えない 「ようシルド! 今日もボクチンの魔法特訓に付き合ってくれるよな?」 金髪おかっぱのデブガキがパパから買ってもらった宝石付きの高級魔導杖を手に、俺に迫る。 こいつは町長の息子――ガストンだ。 年齢は俺と同じ五歳だった。まあ、俺が五歳っていうのも語弊があるけど。 「なあガストン……本当にやるのか?」 「あったりまえだろ? ボクチンの強さを町の全員に知らしめるんだからさ! ほら、構えろよ! 木偶人形! ボクチンがグランディール王立魔法学院に入学するまで、毎日ボコボコにしてやるから!」 最近始まった「特訓」は、町の教会前にある噴水広場で行われた。 行き交う人達の目にさらされる。 憂鬱だな。 「じゃあ、いっくぞおお! ボクチンが考案した超級破壊魔法……原衝魔球《アルカイック・オルブ》 !!」 杖の先端に魔法力の光が灯ると、俺目がけてそれは放たれた。 仰々しい名前だが、単に魔法力をぶつけるだけの魔法だ。 「避けたら練習になんないからな! ちゃんと当たれよシルド!」 俺の胴体に着弾。衝撃波とともに身体が後方に吹き飛んだ。まるで背中にロープをくくりつけられて、屈強なマッチョ二十人に同時に引っ張られたみたいだ。 「あーっはっはっは! ほら立てよ! 次! 行くぞ!」 ったく……しゃあないな。普通のガキなら死んでてもおかしくないぞ。 次々と放たれるデブガキの攻撃魔法を、受けては立ち上がりを繰り返す。 「どうだ? 効いてるんじゃないか?」 「いたたたた。もうやめてくれよ」 「お前の取り柄なんて、ただ頑丈なだけだもんな? そら! もう一発だ!」 撃たれる。吹き飛ぶ。痛がる。立ち上がる。エンドレス。 最近は、痛がる「フリ」にも慣れてきた。 そもそも、俺は特別頑丈なわけじゃない。 全部寸前のところ(・・・・・・・・)で防壁魔法で弾いている。 そしてデブガキは自分の攻撃が防がれていることにすら、気付いていない。 たぶん前世の死因の影響だ。 交通事故だった。大型トラックに轢かれたのだ。居眠り運転だった。 死の間際、自分の身を守る力があればと願った結果、俺は生まれながらに防壁魔法が使えるようになっていた。 七発目でデブガキは魔法力切れを起こして肩で息をした。 「ぜぇ……はぁ……今日はこれくらいにしておいてやるよ! 明日も同じ時間に来いよシルド! でなきゃパパに言いつけて、孤児院へのお金を減らしてもらうからな!」 鼻息荒くデブガキは通りの向こうへと歩き出す。 地面にうつ伏せになりながら、その背中が完全に消えるのを待った。 俺がボコボコにされても、町の人間達は冷淡だ。 誰も助けようともしない。 孤児院のガキと町長の息子じゃ、そら、そうなるわな。 そろそろいいかな。立ち上がろうとした時―― 「アンタ……どうしてやり返さないんだい?」 顔を上げると老婆が首を傾げて、俺を見ていた。 紫の髪に魔導師風の出で立ちだ。声には年輪を感じさせる重みがあった。 「やり返さないんじゃない。やり返せないんだ」 婆さんはそっと手を差し伸べた。 「どうせ独りで立てるんだろうけど、ほら」 「あ、ありがとう」 手を取った瞬間―― 「ほぅ……こりゃすごい……いや、なんでもないよ」 なんだか嬉しそうに婆さんは笑うと。 「アタシはオーサ・ペンドラゴン。アンタ、名前は?」 「シルドだ。ガーディニア孤児院の……シルド」 「まだガキのくせに大人っぽい感じがするねぇ。で、どうしてやり返せないんだい?」 知らない相手に言うことでもないのだが、なんとなく……これまで相談できる人間はいなかったし。 「俺が町長の息子……ガストンの相手をしないと、院の他の子供をあいつが標的にしかねない。それに、院の予算を削られるかもしれないから」 婆さん――オーサは満足そうに目を細めた。 「なるほど、気に入ったよ。これから時間あるかい?」 「えっ? ま、まぁ」 「ウチに来な。茶くらいは出してやるよ。甘い菓子もね」 孤児院じゃお菓子なんて滅多に口にできなかった。 うう、こういうときは前世の記憶が足かせになる。転生して意識がハッキリしてくると、娯楽に飢えている自分に気付く。 せめて本くらいはあればよかったが、院にあるものは全部読み尽くしてしまったし、だいたいが童話の類いだ。 誘われるまま、彼女についていくと―― 街外れに貴族の屋敷みたいな大邸宅が俺を待ち受けていた。金持ちなんだな、この婆さん。 2.いきなり大ピンチ 屋敷の中庭に着くなり、オーサが杖を抜く。 「じゃあさっそく試験といくかねぇ」 「試験って……急になんだよ? お茶は? お菓子は?」 杖の先端がリズミカルに左右に揺れた。 「アタシの極炎天獄《イグニス・ヘル・レギオン》 から生き残ったら、いくらでもごちそうしてやるよ」 オーサの杖の先端に炎の魔法力が凝縮した。 話が違う! お茶とお菓子に命を賭けろなんて横暴だ! 背筋が震える。冷や汗でびっしょり濡れる。 バカガキガストンの衝撃弾なんて比較にならない。 ただの炎じゃなかった。まるで……小さな太陽だ。熱核融合よろしくプラズマ化した炎が火球の表面で吹き上がる。 プロミネンスの波打つ姿はまるで龍だった。 嘘だろ。あんなもん……防げるわけがない。 「さあ、得意なんだろう? アンタの防壁魔法を見せてくれるかい?」 「じょ、冗談だよな」 「さっさと構えな。でないと死ぬよ」 どうする? 受けるか……この挑戦。 いや、冷静になれ。どう考えても無理だ。 俺は両腕を上げた。 「降参する。助けてくれ」 オーサは目を細めた。 「それがアンタの答えだね?」 「ああ。死にたくない」 老婆の杖の先端に灯った火球がスッと消えた。 「合格」 「はい?」 「どうにも魔法の才能があるガキってのは嫌いでね。自分が特別だと思ってイキりちらかすバカばっかり。その点、アンタは見込みがあるよ。領分ってものを理解《わか》ってる」 杖をしまうとオーサは屋敷の玄関を開けて手招きした。 「おいで。約束通り、渋いお茶と甘いお菓子をごちそうしてあげるから」 どうやら助かったみたいだ。おっかない婆さんだな。 屋敷の中は至る所に書棚があった。まるで図書館だ。 応接室でソファーに座り、お茶と焼き菓子をごちそうになる。 対面でオーサがティーカップ片手に俺に訊く。 「で、いつ魔法の力に目覚めたんだい?」 「気付いたら出来るようになってた」 「防壁魔法だけじゃないんだろ? 町長の息子にわからせてやりゃあ良かったのに」 「そんなことしたら、院に迷惑がかかる……それに」 この世界の魔法の事を、俺は良く知らない。なんとなく雰囲気で防壁魔法を使っている。 なにより―― 「俺、攻撃魔法が使えないんです」 「なんだって? そりゃ本当かい?」 黙って頷くとオーサは目を丸くしたまま。 「ずっとアンタがバカガキに撃たれたフリをしてたのをみてたけど、アンタのやってる防壁魔法は三級魔導師相当の技術だよ。アレができて攻撃魔法が使えないわけないじゃないか?」 「三級……なんかたいしたこと無さそうな……」 「あーね。ずぶずぶの素人ちゃんなのね。三級は王国魔導師団レベル。国家の精鋭だよ」 「それってすごいのか?」 「こんな田舎町《ルティナ》にゃ、いないだろうねぇ」 知らなかった。なにげに凄かったんだな、俺の防壁魔法って。 というか、三級で国家資格レベルだとするなら、二級や一級はどんなんなんだ? 「坊や、歳は?」 「五歳」 「決まりだね。今日からアタシの弟子だよ」 「えっ!? か、勝手に決めないでくれよ!」 「けどアンタ、目が輝いてるじゃないさね」 自分じゃ気付かなかったけど、俺自身、こんな展開を心のどこかで期待していたのかもしれない。 オーサは本物の魔導師だ。屋敷自体が書庫みたいに本がある。 自分の能力について指導を受けて、ちゃんとした知識を身につける。 絶好の機会だった。 「素直になんな。持て余してたんだろ? けどね、力ってもんは正しい使い方とセットで運用するもんなんだよ。アタシならアンタを至高に導ける」 「けど、俺……月謝とか払えないし」 「アタシも歳でね。家事を手伝ってくれりゃいいよ」 「院にはなんて説明すれば……」 「里親になってあげるさね。食い扶持が減れば孤児院だって助かるだろ?」 「そんな! 今日会ったばかりなのに?」 「アンタが孤児院を守ろうとしなかったら、アタシの目にはとまらなかった。坊やが自分で切り開いた道の先に、たまたまアタシがいたのさ」 俺を引き取って育ててくれるのか? 孤児院には世話になった。けど、俺が出ていったらガストンの嫌がらせが……。 「心配ないよ。町長もそのガキもアタシにゃ絶対に逆らえないんだ」 「え? なんで?」 「グランディール王立魔法学院の入学試験を受けるには、三級魔導師の資格者以上の推薦状が必要なのさね」 オーサはニヤリと笑う。 三つ、わかったことがある。 オーサは三級以上ってこと。 この町にはオーサ以外に推薦状を書ける人間がいないってこと。 ガストンのバカはグランディール王立魔法学院に入学したがってるってこと。 「じゃ、今から町長の家に殴り込みにいこうかね」 「え? 今から!?」 「帰りに孤児院で自分の荷物をまとめるんだよ。明日からは住み込み弟子だ。いいね。それからアタシのことは師匠って呼ぶように」 「は、はい! よろしくお願いします! オーサ師匠!」 魔法使いの弟子になるというのが、どういうことかはまだ理解できていないけど、俺が孤児院から出ることで、ガストンを黙らせられるなら良い取り引きに思えた。 何より、この屋敷には読み切れないほどの活字がある。 転生してから文字に餓えていた俺にとっては、オーサの提案はあまりに魅力的すぎた。 3.ガストンざまぁの果てに地獄の特訓が開幕!? 偉そうなハゲデブ中年町長が、デカい図体を縮み込ませた。 豪勢な調度品の並ぶ、成金趣味丸出しの町長の家。 応接室のソファーでオーサが足を組み直し、ふかしたタバコの煙を町長と息子《ガストン》に吹きかけた。 「なんでもシルドを魔法の実験台にしてるって話じゃないさね?」 「そ、それはその……そうなのかガストン?」 「ち、違うよパパ! 遊びだよ遊び! 子供同士の! たまにちょっとやり過ぎちゃうこともあったけど、ちゃんと手加減できてるし! ほら! シルドだって全然ピンピンしてるじゃんか!」 ガストンがオーサの隣にちょこんと座る俺を指さした。 毎回全力を出し切って、肩で息して帰るくせに。 何が遊びだ、手加減だ、やり過ぎちゃうだよ。俺でなきゃ怪我人どころじゃ済まないぞ。 オーサは目を細める。 「ふぅん……たしかガストンはグランディール王立魔法学院を目指してるんだってねぇ?」 「そ、そうだぞ! ボクチンの才能に相応しい学院だ! オーサは早くボクチンを弟子にした方がいいぞ!」 「これ、やめんかガストン! 大変失礼いたしましたオーサ様」 町長がヘコヘコするなんて、オーサって何者なんだ? まあ、俺もいきなり、とんでもない火球魔法を見せつけられたんで、凄腕なのくらいはわかるけど。 町長が頭を下げたまま続ける。 「ですが、その……うちの息子は魔法の才能があります! どうか推薦状をいただけませんでしょうか! 一級魔導師……大魔導オーサ様!」 一級!? つい、俺はオーサに訊く。 「一級なのか?」 「おや、坊やにゃまだ言ってなかったねぇ。アタシを含め一級はこの国に七人しかいないんだよ」 たった七人のうちの一人……それってすごくないか? タバコの煙をぷかぷかさせると。 「当然、アタシから推薦状をもらうってのが、どんだけの価値があるか町長はわかってるみたいだねぇ」 「も、ももももちろんですとも! グランディール王立魔法学院の中でも、一級推薦者のみが集められるエリートクラスへの入学が許されるんですよね!」 「そういうこった」 「でしたらガストンが十五歳になった暁には、是非!」 「見返りは?」 「も、もちろん、お金でしたらご用意いたします」 「ま、考えておいてやってもいいけどね。ただ、魔法の訓練と称して弱い者イジメをするような人間は、お世辞にも推薦できないんじゃあないかい?」 凄みのあるオーサの声にガストンがブルリと震えた。 「うっ……弱い者イジメなんて……ボクチンしてないし」 オーサの視線が町長に向く。 「なんでも孤児院の予算を削ろうって腹づもりらしいねぇ。アタシへの献金の足しにでもしようってのかい?」 「そ、そそそそんな! 滅相もありません!」 と、言いながらも町長は図星を突かれたように、苦虫をかみつぶした顔をした。 ああこれ、親子揃ってクズなんだな。 「アタシはあと百年は生きるからね。目が黒いうちは、孤児院に手出しすることも、孤児院の他のガキをイジメることも止めるこったね」 言うなりオーサは立ち上がった。 「ほら、行くよシルド」 「は、はい! オーサさん」 「オーサさんじゃいだろ?」 「オーサ師匠!」 瞬間―― ガストンが目を丸くした。 「な、な、なんでシルドが!? お、お前ずるいぞ!」 「いや、成り行きで……」 「うわああああああああああん! 悔しいよおおおお! ちっくしょおおおおお!」 駄々っ子(まあ五歳なんだし当然か)のように床に背をくっつけて、ガストンは手足をジタバタさせた。 町長も唖然としたまま。 「ほ、本当ですかそれは!? だって、そのガキ……し、シルド君は孤児院出身の、何の取り柄もないといいますか……」 「見る目が無いねぇ。それで町長が務まるなんて、ずいぶん楽な仕事じゃないかい。ガストンをグランディール王立魔法学院に入学させたいなら、今日から心を入れ替えて真面目になるこったね」 「ぐぬぅ……」 オーサと一緒に屋敷を出る。町長の方はわからないけど、少なくともガストンは俺をずっと恨めしげににらみ付けていた。 自分こそが選ばれると思い込んでいた奴だ。いい気味だな。 4.地獄の特訓なんて聞いてないよ ガストンをざまぁしたあと―― オーサと一緒に孤児院に戻ると、あってないような私物をまとめた。 孤児院を運営するシスターに、今日まで世話になったお礼を言う。 他の子供達にも別れの挨拶を告げた。 といっても、オーサの屋敷は町のはずれとはいえ、そこまで遠く離れたわけでもない。 シスターが最後に俺に言う。 「シルド君……お礼を言いたいのはこっちの方よ。オーサさんから聞いたわ。みんなと孤児院を守るために、一人で立ち向かってくれてたのね」 「俺は自分にできることをしただけです」 「きっとあなたなら、すごい魔導師になれるわよ」 俺の手を両手で包むようにしてシスターは涙ぐむ。昔から感動屋で良い人だった。院の子供達の性格がガストンみたいにひねくれなかったのも、この人のおかげだ。 俺が守りたいと思った理由の一つでもあった。 「あのシスター先生……名前なんですけど」 「はい?」 「名字を名乗る時に、孤児院の名前を使ってもいいですか?」 「ええ、そうね。もちろん構わないわ。むしろ、もらってちょうだい」 ガーディニア孤児院出身だから、シルド・ガーディニア。 俺が有名になれば、孤児院の名も上がるかもしれない。まあ、上がってどうこうなるものでもないだろうけど。 院の他の子供達からも「たまには顔出せよ!」「寂しくなったらもどってきてもいいんだよ!」「また遊んでね!」「読み書き教えてね!」と、名残を惜しまれつつ、俺は慎ましやかな引っ越しを済ませた。 思えば、五歳児ながら中身は大人だったこともあって、子供のくせにシスターの手伝いやら、子供(年上含む)の面倒やら世話を焼いてきたもんな。 感謝とともに送り出された俺は、再びオーサの屋敷へ。 中庭をぬけた玄関先でオーサが振り返る。 「さて、これからたっぷりと修行をつけてやるからね。覚悟しな」 「うっ……はい。お手柔らかにお願いします師匠」 「ところで、アンタはどうなりたいんだい?」 「どう……って言われても」 成り行きで弟子になったけど、その先の事は考えていなかった。 「ま、生きてるうちに目的なんて、勝手に生えてくるもんさね。けど、当面の目標みたいなものは決めておいて損はないよ」 「じゃあ……俺……魔導師になりたいです」 「どんな魔導師だい?」 「そこまでは……全然イメージできないですけど……」 「ハンッ! そこからだね! まずはどんな魔導師になりたいか、ウチの本でも読んで勉強しな!」 渡りに船とはこのことだった。とりあえず、本は好きだ。 不安も無くはないけれど、まずはやれるだけやってみるか。 と、思ったのも束の間―― 修行二日目にしてオーサが激怒した。 「こんだけ教えて、なんで超初級の微火火種《イグニス・スパルタ》 が出来ないのさね!?」 中庭で訓練するのだが、一級魔導師による正しい指導の下で俺の才能は……開花しなかった。 指先ほどの火球を放つ、簡単な攻撃魔法が発射できない。 指に魔法がひっついて離れず、火傷してしまった。 「師匠! 俺、ちゃんとやってますって!」 「とんだ見込み違いだったのかねぇ。たしかに、アンタの手を取った瞬間にビリビリっと猛烈な魔法力を感じたんだけどねぇ」 困り眉でオーサは腕組みしたまま唸る。 ふと思った。 「俺にも杖を使わせてくださいよ! そうしたら上手く魔法を飛ばせるかも!」 「手で飛ばせないものが杖があったってできるもんじゃないんだよ!」 そういうものなのか。残念。 「俺……クビですか?」 「正直、攻撃魔法に関しては教える価値無しレベルだよアンタ……ああ、まったくどうなってるのかねぇ」 薄々自分でも気付いてはいたけど、俺は攻撃魔法が極端に苦手なのかもしれない。 単にやり方が悪かっただけで、習えば出来るようになると思っていたのに。 オーサは杖を抜いた。 「ったく。しょうがないね。じゃあアンタの得意な防壁魔法の練習でもしてもらおうかね」 「わ、わかりました! がんばります!」 とりあえず苦手は一旦脇に置いて、長所を伸ばすことに注力しよう。 ああ、いつか攻撃魔法が使えるようになったらいいな。 オーサが杖から微火火種《イグニス・スパルタ》を放つ。 俺は防壁で弾いた。オーサが「ほぅ……やっぱり良いねぇ」と呟くと、彼女は杖ではなく自身の指先に微火火種《イグニス・スパルタ》を灯した。 それ、有名なあの魔法じゃないか? 「五連発だよ。受けきれるかい?」 「やってみます!」 俺は防壁を五枚、ミルフィーユのように層を重ねるイメージをした。 五連発、全て弾ききると。 「こりゃ……たまげたね。並の三級魔導師なら、一発は防ぎ漏らすもんなのに完璧じゃないさ」 オーサは目を丸くした。どうやら、上手くできたみたいだな、俺。 「これじゃ教える基礎がなくなっちまうよ。けどね……腹ぁ括ったよ。アンタが攻撃魔法が使えないってんなら、世界一の防壁使いにしてやる。こっからは少し本気出すよ。死ぬ気で防ぎな!」 「えっ!? ちょ、ちょっと待って師匠! お師匠様!?」 杖の先端に氷や雷、風に土、毒に光に闇やらなんやら、様々な魔法力が灯る。 「大魔導の名にかけて! 全力でアンタを仕上げてやるからね!」 この世のありとあらゆる属性魔法が、俺に牙を剥いたのは、師匠の宣言のすぐあとのことだった。 死ぬかな、俺。 5. 地方の町にある孤児院の出身。町の裕福なガキにイジメを受けているが、転生者なのでガキに付き合って「やられたふり」をしている。魔力弾の攻撃をピンポントで防御している主人公。しかも杖をもっていない。それを大魔導師オーサに見られる。なんでやり返さないのか訊かれる。転生者であることがバレるとやっかいだと考えていた主人公は誤魔化そうとするが、その場でオーサに致死レベルの極炎魔法をぶつけられそうになる。流石に観念して事情を説明。ガキは町長の息子で、自分は身寄りの無い孤児。自分が逆らえば院の他の子供達が危ないので、サンドバッグを続けていたという。転生者であることは伏せる。オーサは主人公を気に入り引き取ることに。突然、町長の息子の嫌がらせが無くなる。オーサの家に遊びに行くようになった主人公。本がずらり。読んでいいというので、色々と読みふける。時々「子供じゃないみたいだねぇ」とオーサに疑念を抱かれるも、ごまかし続ける。本は魔導書だった。一通り読み尽くすと、オーサから将来を訊かれる。強いてあげるなら、もっと本が読みたい。するとオーサから魔導師になることを勧められる。一級魔導師になれば、王都代図書館の全ての本を読むこともできるという。自分には無理だと主人公が固辞すると、オーサは「一級魔導師のあたしが言うんだ。あんたならできるよ」と、正体を明かす。町長のガキが大人しくなったのも、魔導学園試験を受けるための推薦状を書いてやらないとオーサが言ったためだった。こうして大魔導師の弟子となった主人公は、オーサに魔法の修行をつけてもらうことになる。主人公は攻撃魔法が苦手だった。代わりに防御魔法に関しては類い希なる才能があると見抜いたオーサ。修行と称して様々な種類の攻撃魔法で主人公を攻撃し、主人公はそれら全てを防御しきるという特訓を十年続ける。結果、全ての魔法を防げるようになった主人公。卒業記念としてオーサから特別な杖「反転式魔導杖」を贈られる。この杖で弾き返した魔法は属性が反転するのだ。炎は氷に。風は土に。毒は薬に。そして、魔法とは属性に特化して育てる方が効率的というのが、この世界の常識だった。一方、得意な属性ができるほど、反対にある属性が弱点になってしまう。最後の試験として、出会った時にオーサが放とうとした極炎魔法を主人公は反転式魔導杖で打ち返した。炎は氷属性に反転し、夏にも関わらず町が大雪に見舞われるという珍事を引き起こすのだった。無属性攻撃だけは反転できないため気をつけるようオーサに言われる主人公。オーサの試験に合格し、魔導学園の入学試験を受けるための推薦状を書いてもらって、旅立つことになった。 ここでオーサが寿命。遺言で屋敷はシルドのものに。推薦状と一緒に手紙。シルドが読むと、学院長にシルドをお願いする旨と、シルドへは「最初で最後の弟子だよ。良い人生の終わり方に付き合ってくれて、あんがとね。自由に生きなさい。けど、アタシがいないからって、気を抜いて防御を下げるんじゃないよ。常に鉄壁であれ。最強の防壁使いとしてね」とメッセージ。 ※エピソード案 猛毒のヒドラを退治することになったシルド。毒を防ぐ手段が魔法しかないのだが、どんな魔導師も防御を壊されてしまう。反射系防御ではヒドラが自身の毒でパワーアップする始末。シルドの反転防壁で「毒」を「薬」に変えると、癒やされたヒドラの正体が癒やしの聖女と判明。救ってもらったお礼にと、シルドの仲間になる。