レッシェン・ジーク号内ビュッフェスペースの一角にその一団の姿はあった、多種多様な面子が招待されている船内にあっても人種も格好も様々に社会人と子供が混在するどこか異質な集まり。 今回の招待に危険な匂いを感じ取り、想定される事態への対応に乗り込んできた王水麗と彼女に雇われた猟犬達。 船と乗客の簡単な調査を終えた犬達の報告を聞いた水麗はカトラリーを置いて次の指示を下す。 「船自体にそこまで仕掛けはなさそうだし調査は続行しつつ様子見かな、龍飛とクラリッサはどうせ暇なんだしシアターや図書館行って勉強してきな、とりあえずローマの休日は見てこい」 円形のテーブルを囲む者の中で有事の戦闘以外の役を持たない少年龍飛と少女クラリッサ、水麗の丁度向かいに座る二人は子供扱いが気に入らないのか露骨に眉間にシワを寄せた。 「何で仕事中に勉強しなきゃいけねえんだよ、ガキ更生させる教師ごっこなら他所でやってんだろ?俺等にまで構うなよ児相のババァか」 龍飛が嫌悪感を隠さず吐き出した次の瞬間、突然の衝撃が頭部を襲い、その顔を空になっていた皿にダイブさせた。 「次舐めた口聞いたらぶつからね」 「ぶってから言うんじゃねえよ!?つかなんでそこから届いた!?」 痛む鼻に手を当てながらの龍飛の抗議に水麗は軽くため息を吐き、先程の指示の意図を語り出した。 「別にセーフティネットから落ちたがるのまで掬おうって程善人じゃないよ私は、あんた達がその形で生きたいならそれでいい」 ただ、とテーブルを指で軽く叩いて、自分に注目させながら水麗は続ける。 「仕事相手への注文はある、まともな人間の振る舞いを出来るようになれ、今は子供だから見逃されてるだけでいつまでも野良犬じゃ使い辛い」 今回は無差別な招待でどんな人間が来てもおかしくない環境だから一目で不良と分かる者も目立たずに済んでいるだけ、善良な人間として振る舞えるようにならなければ回せる仕事も少なくなる。 言われた事は理解しながら、残る納得行かない部分に龍飛は噛み付く。 「まともな人間の振る舞いがローマの休日?休みに名作見るだけでまともになれたら苦労しなくね?」 「教養を身に着けておけば色んな人と会話が出来るし、輪の中に入りやすく素性を怪しまれず好かれやすいという話よ」 答えたのは横で成り行きを見守っていたインド人のスウィートだ、医者にプログラマーと複数の顔を持ち重宝される彼女は自身の言葉の正しさを証明している。 「言いたい事は分かるよ、どんだけアウトローぶっても世間から逃げられないし猫被れってつまんない話」 心底飽き飽きしている世界の事だと、頬杖を付いて不満を示すクラリッサには横のイタリア人ロベルトが答える。 「人間は他者に好まれる仮面を付けて繋がりやすくして生きる社会的生き物だからね、それを外せば簡単に孤立という危険に投げ出されてしまう、避けられる厄介事をわざわざ抱えたがる相手と仕事はしたくないだろう?」 君達はつまらない意地で無駄な危険を冒し苦しみたい愚かな人間なのか、そうニヤニヤと笑う姿に苛立ちながらも事実つまらない意地を張る最中の二人に返す言葉はない。 「別に感想文やら出せとまでは言わない、今回の仕事に含める気もない、でもアンタ達の力は今後も頼りにしたいしその為に必要なの」 無理強いはしない、水麗はそう切り上げ立ち上がるとデザートのコーナーに向かった。 沈黙が訪れた丸いテーブルで龍飛がスウィートに顔を向ける。 「……ローマの休日って面白いか?」 「そうね、スペイン広場でジェラートを食べるのが禁止になるくらいには」