神々が天界より地上へと舞い降り、泡沫の如き人の子らと甘美な戯れを繰り広げる迷宮都市オラリオ。その巨大なる白亜の巨塔バベルが天を穿つ威容の足元へと、またひとつ、無防備で浅ましい魂が迷い込んでまいりました。 トラックの轟音に抱かれ、現世のくびきから解き放たれたその魂の名は、マコト。二十代半ば、現世ではただただすり減るだけの日々を送っていた哀れな元社畜の男でございます。死の刹那に味わった戦慄の蜜月を脱ぎ捨て、異世界の土を踏んだ彼が真っ先に滾らせたのは、まあ、あられもないこと。己の承認欲求と肉欲を余すところなく満たしたいという、剥き出しの熱情でございました。 「ついに来た……! 来ちまったぞ、迷宮都市オラリオ! 異世界転生、マジであったんだ! ここで俺も、剣を片手にダンジョンへ潜り、凶悪なモンスターをバッサバッサと切り伏せて、可愛いサポーターの女の子や美少女エルフを両手に抱えてハーレムを築いてやるんだ!」 鼻息を荒くし、腰のあたりを蠢かせるようにして拳を握りしめるマコトの姿は、知性という名の衣服をすっかり脱ぎ捨ててしまった獣のよう。見ているこちらの下腹の奥まで疼いてしまいそうなほど、滑稽で愛らしい無垢さに満ち溢れております。 しかし、甘美な妄想に濡れそぼっていたマコトの前に、冷酷な現実という名の硬い壁が立ちはだかりました。 この迷宮都市で力なき人の子が英雄への階梯を登るには、どうしても神の恩恵が必要不可欠。神々の血肉によって魂の奥底を開帳され、背中に神聖文字を刻まれなければ、ただのひ弱な餌として迷宮の汚濁に呑まれるだけでございます。 「とはいえ……どのファミリアに入ればいいんだ?」 マコトは露店で買い求めたじゃが丸くんを口に含み、もぐもぐと咀嚼しながら、賑わう大通りをトボトボと歩き始めました。 「ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアみたいな最大手は、門前払いを食らうのがオチだろうしなぁ。特にフレイヤ・ファミリアなんて、あの美の女神様に魂を覗き込まれたら、快楽と恐怖で廃人にされちまう。ヘスティア・ファミリアはベル君っていう絶対的な主人公がいるから邪魔したくないし、タケミカヅチ様やミアハ様のところは台所事情が苦しそうだ。どこかに、優しくて、面倒見が良くて、チートみたいなスキルをポンとくれて、美少女の先輩団員がたくさんいる、都合のいい神様は転がってないもんかねぇ……」 己の身の丈も弁えず、他力本願の甘露に溺れようとするその怠惰な思考。まったく、どれほど卑しい欲求を孕んでいればそこまで都合のよい妄想に浸れるのか、その浅ましさこそがたまらなく愛おしく思えてしまいますわ。 そんな身勝手な煩悶を抱えながら、マコトが商業区の喧騒からふらりと外れ、人気のない静かな裏路地へと足を踏み入れた、その時のことでございます。 ふと、周囲の空気がねっとりと重く肌に絡みつくような、異様な重圧感へと変貌いたしました。まるで神聖なる大聖堂の静寂と、背徳的な牢獄の暗がりが混ざり合ったかのような気配。そしてどこからともなく、荘厳極まりないパイプオルガンと男性コーラスの重厚な旋律が、幻聴のように耳朶を震わせ始めたのです。 「な、なんだ……? 急にBGMが重厚になったぞ……?」 困惑するマコトの視線の先、路地裏の逆光の中に、すっくと立つひとつの影がございました。 その姿を目にした瞬間、マコトの呼吸は喉の奥で凍りつきましたわ。 そこに佇んでいたのは、オラリオの神々が好む古代風のトーガでも、瀟洒な神官服でもございませんでした。異様なまでに完璧な仕立てを誇る、現代日本のベージュの三つ揃えスーツ。きっちりと結ばれた真紅のネクタイ。さらさらと風に揺れるライトブラウンの髪に、彫刻のように整いすぎた美貌。 何より異彩を放っていたのは、その立ち姿でした。顎を極端なまでにグッと引き、鋭利な刃物のような切れ長の瞳で上目遣いにこちらを凝視しながら、右手を顔の半分に添えて、激しい影を顔面に落としているのです。 「……は? なんでオラリオの路地裏に、バブル期の超エリート就活生みたいな奴がいるんだ……?」 マコトが呆然と呟いた、その刹那。男は右手をスッと天へと掲げ、流麗すぎる所作で一歩を踏み出しました。 「見つけたぞ……退屈という名の澱みに沈みかけたこの迷宮都市で、ひときわ濁り、そして抗いがたい可能性の熱を帯びた、清らかなる魂を」 無駄なほどに艶やかで、鼓膜を濡らすようなバリトンボイス。 「え、あ、俺……?」 マコトが指を自分に向けると、男は大股でツカツカと距離を詰めてまいりました。パーソナルスペースなどという概念を完全に蹂躙し、吐息が触れ合うほどの至近距離でマコトの肩をガシッと掴みます。その手のひらから伝わるのは、狂気にも似た尋常ならざる熱量。 「君はダンジョンへ潜りたいんだろう? モンスターを屠り、莫大な富と名声を得て、愚かな大衆から崇められたいんだろう? だが……それで満足なのかい? そんな矮小で下卑た快楽のために、君はその命を蕩かすというのかい!?」 「ひっ!? いや、満足っていうか、普通に女の子にモテて楽して暮らしたいだけで……!」 「フッ……照れるな。隠す必要はないよ。僕のこの目は誤魔化せない。君の瞳の奥底、その暗がりで疼いている悪への怒り、世界を正したいという熱き渇望をね!」 「全然疼いてない! 疼いてるのは下半身の邪念だけです!」 マコトの悲鳴のような拒絶など、男の耳には露ほども届いておりません。人の言葉を受け入れる器をとうの昔にかなぐり捨てた男は、突然マコトの肩を突き放すと、ドラマチックに背中を反らせ、両腕を大きく広げて天を仰ぎました。その背後には、オラリオの青空を裂く幻の雷鳴が轟いているかのよう。 「僕は、新世界の神となる男……いや、すでにして天より降り立ちし正真正銘の神! ライト・ファミリアの主神、ライト神だッ!!」 カッと見開かれた琥珀色の瞳から放たれる、凄まじい眼力。男は喉も張り裂けんばかりの高笑いを路地裏に響かせ、歓喜に打ち震えながら叫びました。 「**僕こそが、新世界の神ィ!!!!**」 「**夜神月じゃねえかァァァァァァァッ!!!!**」 マコトの魂の底からのツッコミが、狭い路地裏の壁をビリビリと震わせました。 どう見ても、どう聞いても、前世の日本で社会現象を巻き起こしたあの伝説のサスペンス漫画の主人公そのもの。神を自称する男のその立ち振る舞い、ポージング、自己陶酔の極致に至る表情筋の躍動まで、完全にあの新世界の神でございます。 「な、なんで!? なんで夜神月が神様やってんの!? あんた人間だっただろ! なんでオラリオに神として君臨してんだよ!?」 取り乱し、後ずさりするマコトに対し、ライト神はフッと冷笑を浮かべ、親指の爪を唇に当てながら知性的な流し目を送ってまいりました。 「何を怯えているんだい? 僕は神だ。天界で退屈に飽いた神々が下界に降りて遊んでいると聞き、僕もこの地に舞い降りた。だが、見渡せばどうだ? 街は欲望に塗れ、冒険者どもはモンスターの魔石を奪い合って浅ましい争いに明け暮れている。神々もまた、自らの眷族を愛でるだけで世界の歪みを正そうとはしない。腐っている……この街は、根本から腐りきっているんだよ!」 熱っぽく語るライト神の瞳は、爛々と危険な光を放っております。己の正義に一片の疑いも持たぬその姿は、ある意味でどんな邪神よりも背徳的で、ゾクゾクするような危うさを孕んでおりました。 「だからこそ、僕が粛清する。このオラリオを、僕の理想とする清らかな新世界へと創り変えるんだ。そして君は、僕が直々に選んだ最初の使徒……栄えあるライト・ファミリアの団長となる男だ!」 「嫌すぎる!! 思想が重い! 重すぎて胃に穴が空くわ!! ていうか最初の使徒ってことは、団員一人もいないじゃねえか!!」 「フフフ……計画通り。団員が少ないのではない。僕の崇高な正義を理解できる選ばれし魂が、今までこの街にいなかっただけの話さ」 「ただの嫌われ者じゃねえかよ!!」 マコトの叫びを涼しい顔で受け流しながら、ライト神はおもむろにスーツの内ポケットへと手を差し入れました。その指先が引きずり出したのは、禍々しいほどの漆黒の表紙を持つ、一冊の手帳。 表紙には銀色の流麗なフォントで、こう刻まれておりました。 『**DEUS NOTE**』 「ヒッ……!?」 マコトの股間がキュッと縮み上がりました。そのノートの形状、醸し出す死の気配、すべてがあの悪夢のノートそのものでございます。 ライト神は万年筆のキャップを歯で器用に引き抜くと、妖しく目を細めてマコトにそのノートを差し出しました。 「さあ……ここに君の真実の名を書くんだ。顔を思い浮かべながら、一文字一文字、丁寧にね」 「**絶対に書かねえええええええええッ!!**」 マコトは全力で首を横に振りました。 「死ぬ! それに名前書いたら四十秒後に心臓麻痺で死ぬ!! 俺は異世界転生してこれから人生楽しむはずだったのに、路地裏で即死とか冗談じゃねえぞ!!」 すると、ライト神の表情からふっと温度が消え去りました。 ゴゴゴゴ……と不穏な影が彼の顔面を真っ黒に塗り潰し、見開かれた瞳の奥に狂気の焔が揺らめきます。彼は万年筆を握る手にギリギリと力を込め、低く湿った声でマコトの耳元に囁きかけました。 「なぜ……拒むんだい? これはただの、ギルドに提出するためのファミリア登録台帳だよ? それとも君は……僕に何か隠し事でもしているのかな?」 「ひ、隠し事……?」 「そう、例えば……僕を欺き、隙を見てギルドに通報しようとしているとか。あるいは、ロキ・ファミリアのスパイ……いや、まさか君は、あの忌々しい『L』の差し金かッ!?」 「Lって誰だよ!? ここオラリオだぞ!! エルフのLか!? 誰もあんたのことなんて監視してねえよ!! 被害妄想が過ぎるだろ!!」 自意識過剰の極みのような頭脳戦を一人で繰り広げるライト神の姿は、見ている分にはあまりに滑稽で、胸が締め付けられるような愛おしさを覚えますが、当事者のマコトにとっては生きた心地がいたしません。 ライト神はギロリとマコトを睨みつけ、フッと鼻で笑いました。 「まあいい……疑うのは僕の悪い癖だ。君がスパイでないというのなら、今すぐ僕の眷族になってもらおう。神の恩恵を授けてあげるよ」 「えっ、あ、ファルナはくれるんですか? でもファルナって、背中に神様の血を垂らしてステータスを刻む儀式ですよね……?」 「無論だ。さあ、その粗末な服を脱ぎたまえ。背中を僕に晒すんだ」 少しだけ安堵したマコトが、恐る恐る上着を脱ぎ、背中を向けました。どんなに狂った神であっても、神は神。ファルナさえ貰ってステータスを開花させてしまえば、あとは隙を見て逃げ出せばいい――そんな浅はかな計算がマコトの脳裏をよぎった瞬間でした。 ガサリ、と乾いた袋の音が背後で響きました。 「……ん? なんの音です?」 マコトが振り返ろうとすると、ライト神の鋭い叱責が飛んできました。 「動くな! 集中を乱すなと言っているんだ!」 恐る恐る首だけを傾けて背後を盗み見たマコトは、自らの目を疑いました。 ライト神が左手に持っていたのは、神聖な神の血の小瓶などではなく――なぜかこの異世界にあるはずのない、赤と緑の鮮やかなパッケージ。コンソメ味のポテトチップスの袋でございました。 ライト神は流れるような動作でポテトチップスを一枚摘み上げると、口の中へと放り込み、パリリと軽快な音を響かせました。そして右手の万年筆を空中で素早く旋回させ、異様なまでのスピードと美しさでマコトの背中へ向かってペン先を走らせ始めたのです。 「**僕は……右手でファルナを更新し、左手でポテトチップスを食べるッ!!!**」 「**背中にポテチの油が飛ぶだろォォォォォォォッ!!!!**」 マコトの絶叫が路地裏に木霊しました。 「ていうか万年筆で背中をガリガリ引っ掻くな! 痛い! 普通に痛い! 針じゃなくてペン先で突くなよ! 血はどうしたんだよ、神の血は!?」 「フッ……神の血などという不衛生なものを人の肌に垂らせるかい? このインクには、悪を許さぬ僕の正義の魂が濃縮されているんだよ!」 「ただのインクじゃねえか!! それステータス更新じゃなくてタトゥー彫ってるだけだろ!!」 「黙りたまえ! おかげで素晴らしいスキルが発現したぞ……見ろ、この燦然たるステータスを!」 ライト神が満足げに掲げた羊皮紙には、恐ろしい文字列がびっしりと並んでおりました。 マコト・日野 Lv.1 力:I(0) 耐久:I(0) 器用:I(0) 敏捷:I(0) 魔力:I(0) 発展アビリティ: 【新世界秩序】 スキル: 【悪即斬殺(デス・ジャッジメント)】 ・悪人と認識した対象の顔と名前を覚えることで、四十秒後に心臓麻痺を誘発する。 「**余計なスキルを生やすんじゃねえええええッ!!**」 マコトは羊皮紙を引ったくり、地面に叩きつけそうになりました。 「こんなスキル持ってたらギルドに即刻しょっぴかれて処刑されるわ! なんで冒険者用のステータスに心臓麻痺の暗殺スキルが入ってんだよ! 俺が欲しいのはファイヤーボルトとか剛力とかそういうやつなんだよ!!」 怒り心頭で喚き散らすマコトに対し、ライト神は急にすんとした顔になり、ぽつりと呟きました。 「……気に入らないのかい?」 その声のトーンの落差に、マコトは思わず息を呑みました。 「え?」 見れば、先ほどまであれほど尊大に新世界の神を気取っていた男が、心なしか肩を落とし、万年筆を握った手を所在なげに彷徨わせているではありませんか。 「気に入らないのかい……? 僕が丹精込めて、君のために構築した完璧な正義のステータスが……」 「い、いや、気に入る気に入らない以前に、オラリオの法律的にアウトというか……」 「なぜだ……!」 ライト神は突然、ガクリと地面に両膝をつきました。スーツの膝が路地裏の泥で汚れるのも構わず、濡れた瞳で地面を強く叩きつけます。 「なぜなんだ……! 僕のこの類まれなる知性、神々の中でも抜きん出た美貌、そして完璧に計算された新世界秩序の構想を……なぜこの街の連中は誰も理解してくれないんだッ!!」 「あ、あの……ライト様……?」 「あっちのヘスティアとかいう童顔巨乳の女神は、青い紐一本を胸の下に巻いているだけで男どもが群がっているというのに! あっちのガネーシャとかいう神に至っては、象の被り物をして『我こそがガネーシャ!』と叫んでいるだけで民衆から大喝采を浴びているというのにッ!!」 ボロボロと大粒の涙を零しながら、ライト神は悔しそうに唇を噛み締めました。 「なぜ……僕のようにスーツを着こなし、理知的に、論理的に、悪を滅ぼそうと訴えかける正統派の神が……ギルドから『街の治安を乱す危険思想の不審神』としてマークされ、冒険者たちからは『関わったら厄介な宗教勧誘』みたいな目で見られなきゃならないんだぁぁぁぁッ!!」 その姿は、あまりにも哀れで、あまりにもみっともなく……そしてだからこそ、背徳的な甘美さに満ちておりました。己の完璧さに溺れ、高みから見下ろしていたはずの美青年が、下界の理不尽に打ちのめされて地べたに這いつくばる姿。まあ、なんてゾクゾクするような情景なのでしょう。これぞまさに、神が人の身となって味わうべき、最上の屈辱という名の蜜でございますわね。 マコトもまた、あまりの情けなさに毒気を抜かれてしまいました。 「(うわぁ……なんか、すげえ面倒くさい奴だけど、根っこはただの構ってちゃんなのか……?)」 少しだけ同情の念が湧きかけたマコトは、そっとライト神の肩に手を置こうといたしました。 「あ、あのさ……ライト神。気持ちは分からなくもないけど、やっぱりやり方が極端すぎるんだよ。いきなり新世界の神とか叫ばれたら誰だって引くし、まずは普通に、モンスター退治の依頼を受けたりして地道に信頼を……」 しかし、マコトのその優しさは、完全に墓穴を掘る行為でございました。 パシィッ! ライト神が跳ね起きるようにしてマコトの手首を掴み取ったのです。その顔には、先ほどまでの涙の跡など微塵も残っておらず、ギラギラとした狂気の笑みがこれでもかと張り付いておりました。 「やっぱり……僕を理解してくれるのは君だけだッ!」 「ひえっ!?」 「君のその言葉で確信したよ! 君こそが、僕の理想を具現化する唯一の理解者……我が新世界の伴侶だッ!!」 「伴侶って言うな! 語弊がありすぎるだろ!!」 ライト神は満面の笑みで、掴んだマコトの手首を離そうとはいたしません。その握力は神のそれであり、ひ弱な元社畜の腕力ではビクともいたしませんでした。 「さあ行こう、マコト! まずはギルドへ乗り込み、あの無能な職員どもに僕たちの崇高な理念を叩き込んでやる! そしてダンジョンへ潜り、最下層に僕たちの新世界の王座を築くんだ!! フハハハハ、アハハハハハハッ!!」 高らかに響き渡る高笑い。完全にブレーキの壊れたダンプカーのような暴走っぷりに、マコトの顔面は真っ青を通り越して土色へと変色いたしました。 「誰か助けてえええええええッ!! 狂神だ! ここにヤバい神様がいるぞォォォォッ!!」 マコトは必死に腕を振りほどき、脱兎のごとく路地裏から大通りへと駆け出しました。 「待つんだ、マコトォォォォッ!! 僕から逃げられると思っているのかい!?」 背後を振り返れば、スーツの裾をバタつかせ、異様な前傾姿勢で爆走してくるライト神の姿。その手にはしっかりとポテトチップスの袋とデウスノートが握られております。 「逃げるなァ! 僕と一緒に新世界の頂点へ立つんだぁぁぁぁッ!!」 「嫌だぁぁぁぁ! 俺は普通の! ごく普通のハーレム冒険者になりたいだけなんだよォォォォッ!!」 夕暮れに染まるオラリオの美しい街並みに、絶叫と高笑いが木霊してゆきます。通りを歩く冒険者や神々は、「ああ、またライト神が暴れている……」「目を合わせるんじゃないぞ」と憐れみの目を向けながら、さっと波のように道をあけてゆくのでした。 己の欲望のままに英雄を夢見た哀れな転生者と、神の座にありながら人の狂気を煮詰めたような新世界の神。 二人の奇妙で背徳的な狂騒曲がどのような結末を迎えるのか……それはまだ、白亜の巨塔の神々のみぞ知る、甘美な喜劇の幕開けに過ぎないのでございます。