新進気鋭のPTキブリーズのリーダーである「あなた」は女性メンバーを召集した。 「ナチアタ以外全員揃ったぜ、ボス」と、メンバーを代表してジーニャが告げると、厳しい顔をして腕を組んでいた「あなた」が重々しく口を開いた。 "昨日はバニーの日だったのは知ってるか?" 「いや、知らないし」 ハナコのツッコミを流して「あなた」は話を続ける。 "現在わがPTにはマーリンの馬鹿が珍しくギャンブルで勝った景品のバニー衣装があるんだが…" 場に緊張が走った。皆が固唾をのんで「あなた」の言葉を待つ。 "どうやら昨日誰かが着たような形跡があった!" 「「「「「「「「な、なんだってーーー!?」」」」」」」」 テントに麗しき女性たちの叫び声が響いた。 「あなた」は注意深く動揺する女性陣を観察する。 「え、え!?ええっ!?」 あたふたと目に見えて動揺してるのはイザベラ。昨晩クリストに『きょ、今日はバニーの日だから』とアピールしたのか?うーんいじらしい。 「な、ななんでそんな断定的に!」 竹を割ったような性格のユイリアが珍しく動揺している。もしや昨日ハルナに負けじとマーリンにアピールしたのだろうか? 「ば、馬鹿馬鹿しい!誰がそんなこと」 ぶっきらぼうな口調と裏腹にジーニャの頬が赤く染まっている。若い二人、ラーバルとバニーで盛り上がったのだろうか。 「いるわけないでしょっ。何かの間違いだって!」 ハルナが手を振って否定した。その態度には余裕が見える。確かに彼女がマーリンにしている光景は想像しにくいが、もしハルナもそう考えての行動だとしたら? 「わ、私はちがうわよ!?私はっ」 真っ赤な顔でハナコが叫んだ。でも「あなた」は知っている。「ギルもこういうの好きなのかしら」と呟きながら武器屋で危ない水着グッズを眺めていたことを。 「……私は戻る」 プイッとスパーデが背を向けた。その顔に、微かに動揺が走っているのを「あなた」は確かに見た。ヤンに見せたか?彼に効果は薄そうだが。 「え、私も疑われてる!?」 珍しくアリシアが狼狽えてる。フレイとバニーでカジノごっこ……ありと「あなた」は心中で頷いた。 「ね、姉さまは”あの人”に見せたりはしてないですよね!?」「あらあら…」 頬を赤く染めるネーサにオトーが抱き着いた。姉さま「は」?ネーサのその照れた反応は?「あなた」は訝しんだ。 ******************** 「まあ聞いてくれよクリスト!確かに今日堪ったツケをお前に返す予定だった!だが今の俺は素寒貧だ。ああ。魔競馬で外した。そこは言い訳しねぇ。だがなぁ!俺もあのバカ馬がゲートで立ち上がると知ってれば賭けなかった!なあ!?情状酌量の余地ありだろイザベラ!だからその手に集めた禍々しい魔力を解いてくれ!話せばわかる。俺たちには言葉があるんだから!あ、こらハルナてめぇ!ユイリアを連れていくんじゃねぇ!ユイリアも素直についていくな!…あ、ギルの旦那そのパイルバンカー素晴らしいデザインえへへだからその射突ブレードを俺に向けるの止めてください!怖い!あ、こらハナコてめえなにあっかんべーしてんd「ハナコゆーな!」!そもそも聞いてくれよ金を返さなくて俺は詰められてるわけだけどよ、金は「信用」って言うだろ?紙幣、あれ自体はなんて事のない紙だが皆それを金と認識して使用する。これってなぜかっていうと人が金を発行する中央銀行、更に言えば国を信用してるから紙幣は回ってるんだ。つまり何を言いたいかって言うと、クリストは俺を詰めてるが、俺は金を返さないんじゃない。今は返せないんだ。つまり返す意思はある!今回は外したが次は必ず当てる!そんな哀れな債務者である俺を問い詰め詰るクリストくん!君は聖職者だ!そんな君が哀れな一文無しの俺を制裁したとなるとおめぇの株はストップ安!まるでフレイが持ってる魔キオクシアの株のように…ってわりい、言いすぎた俯くなフレイ!ごめんなさいアリシアさん銃突きつけんのやめて!…ごほん、とにかく俺を制裁することで俺はむしろクリストに世間から負うマイナスイメージを俺は心配してるんだぜ!あの、ヤンさん「こういう大人にはなるなよ」って言ってるの聞こえてんぞ!ラーバルとスパーデも頷くな!へ?『話は終わったか?』って…怖いじゃねぇかジーニャ。へへっ……。スプドラート!なに生暖かい視線送ってんだ。は?『こいつと同じポジションだな』……は?俺アル=コールと同じポジ!?なんか言えよアル=コール!酒飲んでんじゃねぇ!おいオトー!"あなた"!ネーサの耳と目塞いでんじゃねぇ!地味に傷つくだろてめー……って吹き出すなバカヤローおめーらやっぱ仲いいだろ「「仲良くない!!」」うるせぇ!こうなりゃしかたねぇ…。大将!キブリーズリーダーの大将からもこいつらに何とか一言言ってやってくれよ!なっ!?」 "ツジカイ。やれ" 「了解!ナチアタねーちゃん!マーリン兄ちゃんにハエたたき!!」 「(こくっ)」 「アイエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!???」 ******************** スプドラートは酔いを醒ますためマスターの店を出た。店の壁に背中を預け夜空を見上げると、彼を追いかけてきたアル=コールが声を掛けた。 「愉快な人たちですね」 「ああ…」 S級冒険者ネーサ・マオを始めとして、ヤン・デホム、ユイリア、イザベラ、クリスト、サーヴァイン、ラーバル、スパーデ、クリスト、ハルナ、アズライール、アリシアと、名だたる冒険者を従えしキブリーズ。その頭の「あなた」がスプドラートたちに"仲間に加わってほしい"と言った時、スプドラートはこう答えた。「冗談だろ」と。 当初スプドラートは首を横に振った。己のような落伍者は不要だと。だが、「あなた」は諦めなかった。 "俺には貴方の力が必要なんです" 「まさか、私まで加えるとは思いませんでした…ぐびっ」 「お前は強い。平時はともかく…」 酒瓶を煽りながらアル=コールが驚きを漏らした。名の知れ渡ったスプドラートに比べ、アル=コールはどちらかと言えば厄介者として見られる傾向が強い。 この話が来た時、アル=コールは彼とのタッグもこれで終わりか、と瞬間的に思った。だが、「あなた」の言葉に彼女は目を丸くした。 "二人同時に加入してほしいんです" 「どうです?ここでは続けそうですか?…げふっ」 「…今までと変わりはない。雇われれば相応の仕事はする……が…」 スプドラートが空を見上げる。思い返すは、自分を説く「あなた」の熱意に溢れた視線。 スプドラートは思う。かつての己もあのような目をしていたのだろうかと。最早自分があの時のような熱を取り戻すことはないだろう。 (でも…) 「あの者が俺のようにならないように、力を貸してやりたいと思った」 「そうですか……うぷっ」 青い顔をしながらアル=コールが2杯のコップをスプドラートに渡す。酒を注ぐと、片方を受け取り、アル=コールはコップを掲げた。 「キブリーズのために」 スプドラートが驚いた顔を浮かべる。暫しの戸惑いのあと、躊躇いがちにコップを持ち上げる。 「…「あなた」のために」 「お~い!主賓がいつまで外居るんだ~!?」 「ああ…今戻る」 マーリンの声に応えたスプドラートがアル=コールに背に向ける。その背にアル=コールがそっと祈りの言葉を捧げた。 「『主に望みをおく人は新たな力を得、鷲のように翼を張って上る』……ここでの出会いと交わりが、貴方の新たな一歩を歩む力とならんことを」 ~おまけ~ "スプアルキテル…" 偽マ「大将、アレホントにキテんのか?」 ヤン「キテるとはなんのことだ?」 ジーニャ「正直スプドラートがアル=コールの介護してるようにしか見えねぇ」 (フレイ、無言で頷く) "キテル!!" クリスト「二人に信頼関係があるのは認めます。ですが男女の仲とまでは…」 "だからキテルって!!" ヤン「キテルってなんなのだ?」 ネーサ「リーダー。男女のペアを見つけるとすぐ恋愛事に結び付けるのはどうかと思うわ」 "物心ついたころから気ぶってきた俺の目に間違いはない!” ツジカイ「ナチアタねーちゃんが惚れた腫れただけが男女の関係じゃないって言ってたよ!」 "ツジカイ少年!男たるもの他人の意見の受け売りはどうかと思うぞ!" ヤン「だからキテル…ってなんなのだ!?」 ******************** 今日はキブリーズの休息日。宿の一室でフレイがクリストに勉強をみてもらっていると、ツジカイが部屋に飛び込んできた。 「フレイ!遊びにいこーよ!」 フレイがじっとクリストの顔を見つめる。 苦笑しながらクリストが頷くと、ぴょんと椅子を飛び降りてフレイが駆けだす。その背にクリストが声を掛けた。 「戻ったら続きをしますからね!」 宿の外ではラーバルが二人を待っており、合流したフレイたちは宿泊している里の広場へと向かう。 道中酩酊して千鳥足のアル=コールと、彼女を介抱するスプドラートとすれ違った三人は、「酒飲みにはならないようにしよう」と頷き合った。 野球を遊び終えるとフレイたちは解散する。ラーバルはジーニャと稽古。ツジカイは里の外で過ごすナチアタの体の清掃に行くらしくモップとバケツを用意していた。 ふと思いついたフレイは公園に足を運んだ。そこには予想通り、ギルが武器のメンテナンスをしていた。フレイは彼の傍に寄り、メンテナンスを続けるギルの様子をジーッと見つめる。 初めは黙々とメンテナンスを続けていたギルだが、やがて小さな声で「アイツには内緒だぞ」と棺の中から何かを取り出してフレイに渡した。 それは「私の!」とアズライールの字が書かれているお菓子の袋だった。 お菓子を頬張りながら宿に戻ったフレイは出た時とは違う一室に入る。部屋の中ではマーリンが爆弾のチェックをしていた。 「お、来たか坊主」 フレイの姿を見たマーリンは片付けを終えると、フレイを椅子に座らせる。 フレイはこの時間を気に入っていた。マーリンの手品や、武勇伝(?)はフレイの好奇心を非常に刺激するのである。時折混ざるクリストやハルナへの愚痴も面白味があり、聞いててフレイはクスクス笑ってしまうのであった。 「…あ」 「げっ」 フレイとマーリンが同時に声を上げた。ずかずかとクリストとアリシアが部屋に入ってきて、三白眼で二人を睨むのであった。 「マーリン……今の話はハルナさんに伝えておきますからね…」 「待ってくれよクリスト~!!」 「フーレーイ―、遊んでかいた汗も拭かずに何してんの」 「わっ、ア、ア、アリシアじゃあね!」 形勢不利と見たフレイは持ち前の逃げ足を駆使して逃げ出した。宿の中庭に足を運ぶとそこではヤンとスパーデが稽古をしており、キブリーズリーダーの「あなた」がそれを眺めて「ヤンスパキテル…」と呟いていた。 ******************** 「嘆かわしいことだ…」 所用でギルドを訪れていたイザベルが苦い顔で呟いた。彼女の後に続くビジョン・オーサンとメトリも無言で頷く。 "エクレール君!君には素質を感じるっ!ぜひお話を聞かせてくれ!あといい仲のいい女の子連れてたりしない!?" 「うわぁぁ助けてくれー!」 彼女たちの視線の先には今売り出し中のキブリーズリーダーが勇者エクレールの勧誘(?)の真っ最中だった。 「我らがボスはお疲れのよう!新入り!速やかにボスをお連れしろー!」 オトーの指令に頷いたスプドラートとアル=コールが、手際よく「あなた」の手足を抱えて持ち上げる。 "放せー!まだ話は終わってないんだぁぁ!" ジタバタもがきながら退散していくあなたを見送ったイザベルは深いため息を吐いた。 「はぁ…ギルドの風紀も乱れたものだ…」 イザベルは憂える。ギルドの規律を弛緩させ、信頼を失わせようとするボーリャックの策略がここまで進行しているとは。 イザベルが懸念を口にするとビジョンは歯噛みして悔しがる。 「早く、ボーリャックを討たねばなりませんね…」 イザベルが嘆息する。 「クリスト達にも伝えねばな。あのようなPTに関わってはならんと」 「へっくしっ」 「どうしたクリスト。風邪か?」 「あはは…だれか噂してるのですかね…ところでギルさん。次吊るのはイザベラ様でいいですか?」 「うむ、あの生存意欲ぶりはどう見ても人外。残せんな※」 ※二人が行ってるのは「汝は人狼なりや?」で、二人の役職は共有です 「コンプラ全盛の世にああいう者が跋扈すると、益々我ら真っ当なギルド登録者まで息苦しくなる」 「はい、気ぶりなどといって他人の色恋に首を突っ込むのは明らかにハラスメント。ハラスメントは駆逐せねばなりませんイザベル様」 メトリの言葉に強く頷いたイザベルが、ふと話題を変えた。 「そういえば二人はヘルマリィ殿の恋愛沙汰について、何か新しい情報は入っているか?」 二人は首を横に振る。 「いえ、イザベルさん。ヘルマリィさんは仕事一筋な方。恐らく浮いた話は未だ…」 「そうか……やはり我らが動かねばならぬか…。ヘル家の令嬢ともあろう方が独り身で世を過ごすなど、あの方に恩を受けた身として見過ごせん」 厳しい面持ちで考え込んでいたイザベルが、意を決した様子で二人に指示を出した。 「メトリ、魔族の名家でこれはという婿候補のリストを作ってくれ。ビジョンはメトリの手伝いを」 「「承知いたしましたイザベル様(さん)」」 ~おまけ~ クリスト「今日の指名はイザベラ様で。イザベラ様、お覚悟を」 イザベラ「…クリスト、私を吊っちゃうの?🥺」 クリスト「うっ」 イザベラ「そう、私吊られちゃうんだ…でもいいよ、クリストの手にかかるなら🥺」 クリスト「ううっ」 イザベラ「せめて縄はクリストの手でかけてほしいな。あとお墓は海の見える場所にしてね…🥺」 クリスト「うううっ……!」 ギル(クリスト!RPに惑わされてるんじゃないっ!)←人狼に噛まれ死亡 ******************** キブリーズリーダーの「あなた」が、ウァリトヒロイの実質影の国王、とまで評される辣腕政治家、王都大臣イーンボウの館の門を潜った。 「クク…来たか」 権勢に似合わず質素な館だ、と思いながら館の内部を見渡していると、館の主のイーンボウが現れ、「あなた」を出迎える。 堅苦しい挨拶もそこそこに、イーンボウの執務室に案内したイーンボウは、いかにも高価そうな椅子にドカッと座り、頬杖をついてニヤリと笑う。 (なるほど、いかにも悪人面だ)と「あなた」は感心する。……彼の座るデスクの上に山積みとなっている政策の資料や分厚い書籍、それに彼の決裁を待つ書類がなければもっと良かったのだが。 「それでどうだった。陛下の晩餐会に参加した感想は」 「あなた」の全身に緊張が走る。今、目の前にいる男は、それまでの空気を一変させている。まさしく政界という魑魅魍魎の住む魔界で生き抜き、勝ち残った大物政治家のみが発せるオーラだった。 "決してその場逃れのごまかしは許されない"そう察した「あなた」はイーンボウの目を見据え、口を開いた。 "今回の会の参加者に、女王陛下とキてる殿方は、残念ながらいませんでした" 「ククク……クソォ!」 ******************** 新進気鋭のPTキブリーズに所属する傭兵アリシア。凄腕のガンナーである彼女は、今悩みを抱えていた。それは……。 「クリストさん。ここの計算教えて?」 「はいはい。…ああ、ここの因数分解はですね……」 フレイがキブリーズの男性陣にだいぶ懐いているのである。 「マーリン。ポーカーの新しいイカサマ教えて」 「そうだな……。よしっ!前回セカンドディールについて教えたから今回はボトムディールをやってみっか」 「うん!」 PTに加わる前と比べて明るくなったし、年相応の振舞もするようになった。そこはアリシアも歓迎する所である。 「(じーーーーーー)」 「……はぁ。アズライールには内緒だぞ?フレイ(棺からとりだすハナコのお菓子)」 「有難うギルさん!」 ただ、ときおりフレイを取られたような気分になる。これが弟の姉離れというものなのだろうか。いや、フレイは弟ではないが。 「…リシア、アリシア!」 「うわ。どうしたのフレイ!?」 考え込んでいたアリシアがフレイの声に飛び上がった。その反応が可笑しくフレイがクスクス笑う。その笑みを見ると、アリシアも嬉しくなって「まあ、いっか」と思っちゃうのだった。 ******************** 新進気鋭のPTキブリーズの野営のテントの一つ。その中でアル=コール、スパーデ、ハナコが談笑していた。 「今夜の我らの守護者は誰だったか?」 ハナコの疑問にスパーデが答える。 「サーヴァイン殿、スプドラート殿、そしてわが師、ヤンだな。あと普通に喋れ、面倒だ」 その時アル=コールが、左側を下に横向きに寝転がりながら、一つの疑問を口に出した。 「あの、三人。どんな会話してるんでしょうか…」 ハナコがアル=コールの疑問に首を捻った。スパーデも起き上がって腕を組んで考え込む。 やがて、二人ともあきらめ顔で首を振った。 「思いつかんな」 「我も…」 「なんの会話もしてないかもしれませんね」 アル=コールのの言葉に、二人の少女がクスクス笑う。 「そう、ねえ。ギルは口数も少ないうえ、やたら距離を置きがちだから。まあ、仕方ない面もあるけど」 「わが師ヤンもだ。口を開けば父上へのアイドル活動への恨み言ばかり……全く、その執着さえなければ優れた勇者なのだが」 ちらっとハナコと、スパーデが(スプドラートは?)という視線をアル=コールに向ける。二人の視線に気づいたアル=コールが、青い顔をしながら口を開く。 「あの方は、二人に何か助言を出来るだけの知見も経験もあると私は見ています…うぷっ………けど…」 「「けど?」」 「できないでしょうね……。あの人の過去は知りませんが、己にその資格はないと固く思い込んでるように見えますから……うぷっ」 分かったような分からないような顔でハナコとスパーデが頷く。暫し無言の空間が続くが、やがてハナコが明るい顔で二人の顔を見渡した。 「つまり、ギルには私のような女が居ないのとダメってことね!うん!」 次いで、スパーデが口元を緩めて身を乗り出した。 「ヤンのような男に付き合えるのは私のような女しかいないというわけだな、うむ!」 アル=コールは呆れ、次いで感心した。このように前に引っ張っていくエネルギー溢れる女性がいるとは。愛は偉大と次ぐづく感じ入った。 無言で二人の顔を眺めるアル=コールをハナコが小突く。 「あんたもそうよ。その後ろ向き男なスプドラートを変えるのは、あんたの役目でしょうが。しっかりなさい」 「私、ですか……そうですね。頑張りますか……うぷっ」 その後も三人の、ギルとヤンとスプドラートをネタとした談笑は夜遅くまで続いた。 「「「へっくし!」」」 ******************** 「マーリン、どうしたのですか?」 「ん、ちょっとな」 新進気鋭のPTキブリーズ、その一味の自称頭脳担当、魔術師マーリンはユイリアの声に曖昧に返す。彼が今切り株に座りながら覗いてるのは手帳のカレンダー。明日は競馬の日。正直マーリンのギャンブル好きの血が疼いて堪らない。 だが、今マーリンはギャンブル禁止令を課され自重中。さらには頼みのクリスト銀行も、ギルとイザベラに死ぬほど詰められ、口座凍結の憂き目にあっている。 ユイリアに土下座すれば貸してもらえるだろうが、流石にそこまで落ちぶれられない。ハルナに頼んでも出るのは金ではなく苦無だろう。 「となると、大将を落とすしかねぇか…」 手帳を仕舞いマーリンは不敵に笑う。そう、彼は舌先三寸で世を渡ってきた男。ぺろりと舌を出すと【あなた】と直談判すべく腰を上げた。 "つまりだ、競馬は公共性が高いスポーツだと" 「そうだ!他のギャンブルと競馬を一括りにしちゃいけねぇ。まず一つ。強い競走馬を産み出し、育て、繁殖させ血を残すことは、馬の畜産の改良に繋がる」 なるほど、と【あなた】が頷く。 「二つ、競馬は非常にエキサイティングなスポーツだ」 マーリンは力説する。激しいレースは様々な伝説を残し、観客を沸かせてきた。賭け事抜きに。 「三つ、レース通じて馬への愛着が湧き、馬と人への距離感が近くなるはず」 ここで【あなた】が口を懸念を口にする。 "だが、治安はどうだ?例えばツジカイやフレイを連れて行って変な輩に絡まれたりしないか?" 「今は競馬場も家族連れを意識しててな、競馬新聞持った酔っ払い親父なんてのはもう絶滅危惧種だ!」 "なるほど…よし、競馬してみるか" 【あなた】の言葉に、内心マーリンはガッツポーズした。 「騙されたー!」 "何言ってるんだい?確かに競馬だろ" そう言って白馬に跨る【あなた】が高らかに笑った。キブリーズの仲間たちも口々に【あなた】の賛同の意を唱える。彼等も、皆立派な馬に乗り、高揚したような顔を浮かべている。 「ゴールはキャンプ地で待つナチアタ。スタートはこの林檎が地に落ちた時。1位には褒美があるわ!」 言い終えると葦毛の馬に乗るネーサが林檎を掲げた。 未だぶつくさ言うマーリンの背を、クスクス笑いながらハルナが馬を寄せて叩いた。 「勝てばいいだけだよ。できるなら、だけど」 「やってやろうじゃねぇか!」 【おまけ】 ①スプドラート/②アル=コール/③ニセユウシャユイリア/④ハルナ/⑤マジュツシマーリン ⑥シッコクノユウシャイザベラ/⑦シーフノフレイ/⑧ヨウヘイアリシア/⑨ネーサノアナタ/⑩キブリーズノアナタ ⑪セイジュンノクリスト/⑫サーヴァインヴァーズギルト/⑬スパーデディレンハート/⑭ネーサマオ/⑮オトーコギラウィン ⑯ツジカイ/⑰テンギャクノマセンシアズライール/⑱サンクマスグラードノクンレンヘイジーニャ/⑲ラーバルディレンハート/⑳ヤンデホム diceの結果……1着は⑮オトーコギラウィン ******************** 「はぁ……おじゃましま~す……」 疲れた様子でサトーが買い物袋を手にギャンの家を訪れた。リビングに入るとこれまた疲れた顔つきで「よぉ…」とギャンが声を出した。 どさっ、と買い物袋をテーブルに置くと、そのままサトーは崩れ落ちるように椅子に座り、テーブルに突っ伏した。 「なんだったんですかあれ…」 「災難だったなぁ今日は」 苦い顔をしたギャンがギャンが瓶ビールをコップに傾けながら回想する。あれは、本来なら何でもない巡回中の筈だった。 "ちょっと、そこの頼もしき警部さん" 『はい?』 一人の男が背後からサトーに声を掛けた。年頃は若く、一旦平凡な印象だが佇まいには幾つもの修羅場を潜り抜けた者特有の隙のなさを感じられる。 "ちょっと警部さん、いや、婦警さん?まあ、どっちでもいいことだ!" 男の勢いが、凄い。サトーが顔を引き攣らせ一歩後ずさる。 "あなたたち、「キブリーズ」に興味はありませんか?" 『は、はい?』 "世界の平和のため私のPT、キブリーズに参加しませんか!?" サトーの手を握りしめ、ブンブン振りながら熱く訴る男に、完全に気圧されたサトーが青ざめながらギャンに助けを求める視線を送った。 さすがに放っておけぬと判断したギャンが渋々割って入る。 『おいおいお前さん、気ぶりだがキウイだが知らねぇが、警察をナンパとかいい度胸じゃねぇか』 "とんでもない!" 男が激しく頭を振る。その勢いに若干ギャンは引いた。 【私は貴方もセットで欲しいのです!というか二人でなければ意味がない!悲恋NTR失恋BSS、これ等は親の仇も同然!" 『お、おう……』 "ぜひキブリーズに加入を!共に全国の愛と平和を護りましょう!そしてもしよければお二人の披露宴を最前列で" 『ハナコ、やれ』『とうっ!』"へぶぅ!" いつのまにか男の背後に立っていた棺を背負う、顔に傷ある男の一声で、黒髪の少女が男に延髄斬りを放った。 どうっと倒れた男の両腕を二人が掴む。棺の男はギャン達に「悪かったな」と一声詫びると少女を促し、二人はズルズルと男を引きずって去っていった……。 「なんか今日は疲れました……。夕飯は簡単なもんでいいですか?」 「おう、なんでもいいぞ…」 その晩サトーが作ったのご飯は焼きそばと野菜スープだった。 「これ…なんか昼食みたいじゃねえか?」 「はぁ~~?なんでもいいって言ったのはギャンさんでしょ!」 ******************** 新進気鋭のPTキブリーズ、そのリーダーである【あなた】は一つの決断を下すと、ラーバルとジーニャを呼んだ。 直ぐに馳せ参じた二人に【あなた】は”サンク・マスグラードに忘れ物を取りに行く”と告げる。 「「忘れ物…?」」 にっこりと笑った【あなた】が忘れ物の名を告げると、若き二人は顔を見合わせ、直後嬉しさに顔を綻ばせた。 「直ぐに向かおうぜ!ボス」 「大賛成だ、リーダー!」 イワンがちゃっ、と剣を構える。相対するスプドラートは抜いた剣をぶら下げたまま静かに佇んでいる。長い静寂を、先に破ったのはイワンだった。 「うぉぉぉぉ!」 長身を躍動させイワンが斬りかかる。豊かな体格から繰り出される激しいイワンの斬撃を、表情も変えずにスプドラートは受け流す。それは強風に揺れる柳を彷彿とさせる。 「ほぉう、受け流されてるとは言えあの戦闘能力は流石だ。ヒナドリ隊の名は伊達ではないか」 二人の立ち合いを見ていたヤン・デホムが愉快気に笑った。 そのころ、ナタリアはクリストとアル=コールに己の回復魔法を披露しようとしていた。クリストが、持っていた短刀を手首に当て、鋭く引いた。途端に、彼の腕から血が噴き出す。 「さあ、この傷を治してください」 「はい」 緊張した表情のナタリアが精神を集中させ神に祈りの言葉を捧げる。すると瞬く間に傷口は塞がれていき、やがて出血は完全に収まった。 ナタリアの魔法を観察していたアル=コールが感嘆の声を上げる。 「治癒魔法については上々。初めてマスグラードのヒーラーと会いましましたが、素晴らしい効力ですね…グビッ」 「まさか、ナタリアとイワンを連れて行こうと思ってたとは」 二人の団員との触れ合いを嬉し気に眺めるジーニャの言葉に、【あなた】は"長く考えていた"と答えた。 "あまり引き入れるのもあの国に迷惑だと思って悩んだが、あの二人には可能性を感じてな" 「いいと思うぜ!」 【あなた】が二人の新郎新婦の姿を幻視してるとは知らずにラーバルが闊達に笑う。 「いや、その言葉を言うのはアタシだろ。出身的に」 唇を尖らせたジーニャが笑いながらラーバルを小突く。 「おっ、どうやら立ち合いが終わったようだぜ」 ジーニャがラーバルに告げると二人は揃って駆けだしていく。二人の視線の先には大の字になって荒い息を吐くイワンと、腰を屈めてイワンに手を差し伸べるナタリアの姿があった。 「どうだ?キブリーズは」 息を整えるイワンに、ラーバルが尋ねた。 「凄いな…世界にはこんな強者がいるのかって正直ぶったまげた」 正直なイワンの感想に三人が噴き出した。 「なんだよぉ…」 「ふふ、ごめんね。でも…驚いたのは私も本当」 拗ねたイワンに謝罪しながらナタリアがラーバル、次いでジーニャの顔を見渡す。 「クリストさん、アル=コールさん、イザベラさん……このPTには優れた魔法の使い手がたくさんいる。ここにいれば、私はもっと成長できる!」 控えめに握りこぶしを作って決意に満ちた表情を浮かべるナタリアに、ジーニャが優しい表情で頷く。 「ああ、この機会を逃しちゃならねぇ。アタシたちは陛下のご恩に報いるため、見聞を広げ、研鑽を積まねばいけねぇ」 最後に手を叩いてラーバルが声を張り上げた。 「そして、全員で成長した姿を陛下に見せる!がんばるぞ皆!」 応ッ!と三人が拳を掲げた。暫し立った後、ハッと何かに気づいた様子のジーニャがラーバルを小突いた。 「だからそれを言うならアタシだろッ出身的に!」 ******************** 現在のキブリーズのメンバー 【あなた】/イザベラ/クリスト/偽マーリン/ユイリア/ハルナ/ハナコ/ギル/ツジカイ/ナチアタ/スパーデ/ヤン/ネーサ/あなた(ネ)/オトー/フレイ/アリシア/スプドラート/アル=コール/ラーバル/ジーニャ/イワン/ナタリア 計23名