無機質な空間が広がっていた、0と1で構成された世界。人を拒みデータだけがそこにあるはずの世界。  人がいた、男が1人、女が1人、少年が1人だ。  男が声を上げる。 「おい、Fゥ!居るんだろぉ?こんなんじゃ始めらんねぇぜ?」  不満をぶつけるように上げた声、反響する様に声が戻った、若い男の声だ。 『慌てるな』  同時、世界が変わった、0と1にテクスチャが貼り付けられていく。形が出来上がってきた、広い空間だ、構成されていく、コロシアムが。 「ふぅん?ま、戦うって言うならこれくらいの方が盛り上がるんじゃなぁい?」  男の軽口、口笛を吹くような気軽さ。 「……別に僕は何処でだって緩和ないんだけど……」  少年が少しだけ口を尖らせた、折角楽しい時間が来ると思った矢先にお預けを貰った犬のようだった。男は笑い、宥める。 「まあ待てよ、焦らされてからぶっ放すのもオツなモンだぜ?」 「ふーん?そんなものかな」  男が少年に笑いかけるが、少年は得心言っていないようだ。  代わり、男は女に顔を向ける。 「なあ、お嬢さん」 「……私に言われても困るんだけど」 「おいおい…匂い立つ闘争心、まき散らしてそれは釣れないぜ?」 「別に釣った覚えもないんだがね」 「くく、今はそう言う事で構わないぜ――何せ始まっちまったらぶちまけるほかないんだ」  男は髪を軽くかきあげ、息を吸う。声を上げる。 「さて、改めて自己紹介させてもらおうか――俺は斡旋屋、本名は持っちゃいない、ただ戦うのが好きなだけの人間さ!」 「ふぅん…焚竜だよ、覚えなくていいよ」 「……はぁ……惠魅だ、同じく覚える必要はない。 「あらら……まあいいさ、じゃあ」  男――斡旋屋が左腕を掲げた、同時、光の奔流が巻き起こる。  構えに対応する様に焚竜と惠魅も構える、デジヴァイスVVが光る、黒い炎が焚竜の体を包む。  笑み、斡旋屋の口角がつりあがる。 「いいねえ!最近楽しい戦いって奴が出来なくてフラストレーションがたまってたんだ――昔は色々手ぇ出してたんだが、強者との戦いほど心躍るものはねえ」  斡旋屋のパートナー、トループモンを包む光が爆ぜる、現れた、人の形、背中からは翼、赤い面。 「レイヴモン――カスタム、さて、楽しい楽しいバトルロワイヤルだ、いっちょ派手にヤり合おうぜぇ!!」  風が舞う、一つではない、すぐにその風は奔流であることがわかった。奔流は粒子と共に形を作る、増えた、レイヴモンが。 「へぇ、なかなか面白い手品だね」  焚竜が笑う」 「なかなかいいだろ!なかなか楽しい戦いだぜ――さあ、いけ!」 「あは……はぁはははは――斡旋屋さんだっけ?やっぱり同類だねえ!」 「だろぉ!!」  烏の群れが焚竜に飛び掛かる。  その姿を横目に眺めながら、斡旋屋は惠魅に相対する、警戒を隠そうともしない視線を斡旋屋は楽しそうに見た。 「……お前は」 「……いーパートナーだねえ、ゴリモンとタンクモンか、練り上げられてる、練度が見える、究極体を隠してるなぁ」 「――」 「お、あたりッてところかね……隠してもわかるぜぇ、強い奴の力ってのは」 「……犬かよ、お前」 「戦争の犬さ、じゃあ行くぜ」  一迅の風が走る。 〇  焚竜の心に歓喜が沸き上がった、心が躍ると言うのならばまさに今だ、斡旋屋が言うように楽しい遊びだ、これは。 「はははあ!楽しいなあ!」  痛みが肉体を駆け巡る、レイヴモンは究極体だ、分身であろうともその力は陰らない。  しかし焚竜のアグニモンはただのアグニモンではない、ブラックアグニモン、より闘争に特化(チューニング)されたアグニモンだ、たかが究極体であることはハンデにすらならない。 「いいな、数があるってことは色々試せるってこと!やってみたいこと色々あったんだ!!」  腕に火をまとい放つ、体に火をまといぶつかる、後方から奇襲、体を炎に変える、フレア、或いは、今想像できていた全てを行うことができた、体が打ち震えている。この瞬間、肉体の全てのデータが降ってわいた幸運を味わいつくそうとしていた。 「っ射ァ!!」  後方から飛んできたレイヴモン、その背後を取り大きく踵を落とした、音ともにレイヴモンの頭がつぶれ粒子に戻る。  と、 「お?」  囮だった、意識の集中を逆手に取られていたらしい、四肢に、胴体にレイヴモンが組み付いてくる。流石のパワーだった、分身体とは言え究極体である事実は覆しようがない。 「はは……あははははは!!!じゃあ、こうしようか――噴ッ!!」  焚竜は己の体を爆ぜさせる、燃え上がるのは自らの肉体、そのままに黒い火炎が天を埋め尽くす。熱が方々を迸る。いいじゃないか、全部全部、 「燃えちゃいなよぉっ!!!」  連鎖するよう天を埋めるレイヴモンを焼き尽くし―― 「ガッ!?」  脇腹に激痛が来る。刃が腹に突き刺さっている。 「へぇ……凄いっ……ここまで戦う気があるんだ!いいな!いいよ!とってもいい!!」  すべて消し潰したはずのレイヴモンがまた増えている、からくりはわからないが無限か或いはそれに近しい増殖を行えるようだ、ゲームの無限残機のようなものなのかもしれない。それがまた喜ばせる、まだ遊べる、と。だから、 「ねー、斡旋屋さーん!もっと何かないのー?」  ん、と、斡旋屋が顔を向けてきた、楽しそうに笑った、 「じゃあちょっとギア上げていこうかあ!」  指を打つ音、共にレイヴモンの体を再度光が包む、光が爆ぜると同時、黒かった肉体は白く変わる。そして本来ありえないはずのものがついている。右腕、そこには巨大な砲、背中にパイプが回り、何らかの機器と繋がっている。 「レイヴモン:バーストモード――オーバードウェポン・“VERDICT DAY”、さあ、楽しい遊びはまだまだ続く――見せてみな……お前がやれると言うのなら!」 「うん、見せてあげるよ!僕をっ!!」  バーストモードと化したレイヴモンが飛ぶ、力が集まるのがわかった、焚竜は笑う、あれは当たればひとたまりもないものだ。それがどうしようもなくゾクゾクとさせた、血潮という物があるなら、いままさに沸き立っている。 「じゃあ、ぼくもやるよぉ!」  炎を出そうとし、しかしそれは現れない、違う、現れると同時にレイヴモンに吸われている。 「ありゃー?」 「ははは!スゲェだろ?データそのものを吸って弾丸にしちまうのさ、俺のレイヴモンは!」 「すっごーい!そんなことができるんだ!」 「そうなるように超えたのさ!限界を!」 「限界を超える」 「そうさ」 「――そっかぁ」  今のままだと何をしても炎は吸いつくされるだけだ、ならばやることはただ一つだった、 「じゃあぼくも限界――こえるねっ!」  肉体が溶ける感覚がする、炎そのものになっているように思えた、でもそれでよかった、今のぼくは原初、宇宙(ソラ)を開いた終焉の炎だから! 「もーえーちゃーえぇーー!!」  軽い気持ちで己の限界を踏み越える。  それは世界を終わらせる炎、星の命が尽きる時に産まれる超大の灯。 「今……ぼくは――超新星爆発だっ!!!」 〇  惠魅は固唾をのむ、眼前の相手の隙を探る、隙がない。 「どうしたいお嬢さん、ブルっちまった?」 「心にもないことを」  どうしようもなく沸き立つ、己の中に閉じ込めている衝動が暴れている、戦えと獣が叫ぶ。 「姐さん、ありゃ簡単には行かんぜ!」 「どうした!命令してくれ惠魅!いつもみたいに戦えって命じるウホ!!」  わかっている、と、声を上げかけて飲み込んだ、ここは抑えなくていい場所とわかっている、わかっていて、同時になぜか解き放つのをためらった。  理性が叫んでいるのだ、今思うがままにやれば、それはあれと同類になるぞ、と。  嗅覚が言っている、あれは悪党だ、今まで何度も傭兵として戦って磨り潰し続けたはずの、だが今までの敵に戦いを楽しむのはどれだけいたか、多く相手になるのは欲にまみれた相手、暴走した相手、戦いを求める手合いとは少ない。  今それの極限の存在と相対している。  じぶんはまともだと思っている、だからこそアレと同じ側に行くのをためらう、ためらって、同時にヒステリックに叫ぶ自分もいる。戦いたいのだ、あらゆる全てより戦いが欲しいのだ、あれと戦えば手に入るとわかっているのだ。だからこそダメだと理性が雁字搦めに己を縛る。 「んー、期待外れか?ついてくるってことは戦いを求めてると思ったんだが」 「……ちっ」 「……もしかしてぇ……我慢しちゃってるぅ?」 「姐さん!言いっぱなしにさせるってか!?」  タンクモンの叫び、わかっている、同じように苛立っているのだから。 「ふぅ――行くぞッ!!」 「いーや、無理だね」  疾風が来た、あ、と、 「がっ!?」 「ウホッ!!」  タンクモンとゴリモンの体が飛んだ、巨体が風に舞う羽のように吹き飛び、揉まれた。 「おいおいおい、レイヴモンは究極体だぜ?舐められたもんだ、成熟期で勝てるってか?」  ――ああ、駄目だ、魅せつけられた。 「我慢してたんだ、折角、こんな日だからって」 「ふぅん」 「ダメじゃないか――呼び起したら!!」 「嫌だね、俺は我儘なのさ、本気を呼べ、極限を迸らせろッ!!」 「言われずともッ!!」  そこまで言うならできるのだろう、お前は、いなして見せろ。  デジヴァイスVVを掲げて叫ぶ。 「ゴリモンッ、タンクモンッ――究極体、行くぞ!!」 「姐さんッ!!」 「任せろウホッ!!」 「進――化ッ!!!」  完全体を飛ばす、光が来る、同じ土俵に行ってやるさ、だから刮目すればいいと眼前を見る。斡旋屋は笑っていた、興味深そうに。 「ゴリモンーー進化ッ!!――ジャンボガメモンッ!!」 「タンクモン――進化ッ――アルティメットブラキモン!!」  巨体がコロシアムを埋め尽くす。  斡旋屋の顔に歓喜が張り付いた。 「はは!それがお前の本気かぁ?」 「ああ」 「ダメだね」  巨悪の笑みが戻ってくる。 「まだだ――まだ足りねえぜ、それが本気?それがアンタの底?――違うよなあ!!」  レイヴモンの刀に闇がまとわりつく、赤く、黒く、底冷えするような。 「レイヴモン―不死殺し―」  直感が言った、あれはまずいものだと。 「2人ともッ!全力でぶっ飛せ――!!」 「この世界ぶっ壊れちまいますぜっ!?」 「いいから早くしろぉッ!!」  切り替わる、ジャンボガメモンとアルティメットブラキモンの破壊の一撃が飛び――『斬り捨てろ』 「あ――」  薄い声を聴く、斡旋屋の言葉と同時にレイヴモンが刀を振るう。  攻撃が消えた。違う、もっとおぞましい何か。 「――何が」 「俺のレイヴモンは不死を殺すのさ」 「……戯言だね」 「事実さ、因果ってわかるか?ある行為の始まりから終わりまでのそれ、不死として生まれちまったらどうするべきかって考えなきゃいけなくてさぁ……考えて考えて、不死になる事実をのものをぶっ殺しちまえってさ」 「……は?」 「言葉の通りさ、ある因果が起きる起点そのものを切りすてる、そっちのデジモンの攻撃はさあ、そもそも攻撃をしていないことになった、俺のレイヴモンが――お前の攻撃そのものを殺したからさ」 「イカれめ」 「そう言うお前の顔、笑ってんぜ?」  手で口元を抑える。口元の筋肉が動いているのがわかった、確かにこれは口角が上がっている、笑っている、楽しんでいる。  何故こうなのか、何故笑っているのか――今、考えていることは一つだった、眼前に立ちはだかる自称を攻略することだけ。それはあまりも楽しい、なら、いいのだろうか、枷を外し本当にただただ全力を出してしまっても。 「ッ……はぁ――!!」  今、少しだけ線を踏み越える。 「言い訳はしない――今楽しんでいる」 「いいことだあ!で、どうするんだい――」 「越えるさ」  デジヴァイスVVを握る手に力がこもる。 「行こうか」  心が力に変わる感覚、今凌駕する。  因果をさかのぼり切るならば、作ればいい、因果そのものを。 「ジャンボガメモン、アルティメットブラキモン、やるぞ」 「出すんだな惠魅!!」 「合点承知ッ!!」  やれるかやれないかではない、やるのだ、 「行けるさ、高々世界を創造するだけだ」 「いいね、それくらいブっ飛んでくれてなきゃ俺もやる意味がない――レイヴモン『斬り捨てろ』」  また、あれが来る、因果そのものを殺す一撃が、こいと思った。  いこう、今踏み込える。 「いっ、けえぇ!!!」  惠魅の言葉と同時、ジャンボガメモンとアルティメットブラキモンの一撃が放たれる、世界を燃やし尽くす一撃と枷をはめていたそれの本気――違う、まだ見ぬ本気のその先に、届けるのだこの手を。圧倒的な力の奔流、破壊と破壊がぶつかり合うほんのわずかな間に産まれる創造が、再度エネルギを生み出していく。 「行けよ――天地創造を――」  今、たとえ命が全てこれに吸いつくされたとしても後悔はない――だから生み出させてほしい、結末を。  まばゆい光が眼前を包む。これがあらゆる因果を作り出す―― 「……お見事」  声、斡旋屋の者。  見る、レイヴモンの上半身がすべて消えていた。 「はは……たまらないな、全力は」 「だろう?」 「……まあ、な」  こんな悪党に同意をするのは少しばかり尺ではあり―― 「あ、終わったー?」  黒い炎が地に降り立つ、先ほどまで暴れていた焚竜――ブラックアグニモンが楽しそうな声を上げた。 「よぉ、どうだったよ」 「うん!ちょっと限界超えてきちゃった!」 「お、いーねえ、こっちはボロボロでさあ!」  嘘つけ、と思う、そもそもボロボロなのはこちらのパートナーたちも同じだ、全力を越えた全力なんてものを放った肉体は確かにむしばんでいる。晴れやかな顔と同時に満身創痍。  だが、それをあざ笑うかのように斡旋屋は笑った。 「じゃあウォーミングアップはここまでってことでいいよな」  え、と、間抜けな声を上げていた。 〇 「ウォーミングアップ?」  斡旋屋は焚竜の言葉に頷いた、そうだとも、折角楽しい時間なのだからまだまだ楽しまないといけない。  プログラム起動、圧縮データ解放、即座にレイヴモンが再起動。分身プログラム解除、演算を全て戦闘プロトコルに統合。 「さてひとまず半分」  えー、と声が聞こえた。 「ズルいや!まだそんなの隠してたなんて!」 「へへ、絶望しちゃう?」 「違うよー!また超える限界が見えちゃったじゃないか!」 「はは!いいねえ!!」  苛立つ声が来る、惠魅のもの。 「こちらには全力でって言っておきながら、そう言うことするんだ」 「まあまあ、と、これ使いな」 「これは……回復プログラム……」 「イエース、お楽しみはまだまだこれからなんだからさ」  そうだろう、と天を見上げた、そこにいるのはわかってるんだ、 「レイヴモン進化――バーストモード:オーバードウェポン――VERDI……いや、駄目だ――そうだろう、今俺の前で限界を超えた2人がいた、俺がそそのかした、その言いだした俺が限界を超えて見せないでどうするって言うんだ?そうだろう――超越(こ)えろ――強く強く強く――超越(こ)えろ――!!」  進化の光――来る、 「レイヴモン進化――リバイバル――進化をも超越した進化を見せろ――レイヴモン:バーストモード――"Frenzied Flame"」  光、世界そのものを溶かし否定し焼き尽くす。 「Fクゥゥウゥウウウン!!!!あーそびまーーしょぉぉぉおおおお!!!」  光が飛ぶ、空間そのものを焼き、切り裂き破壊し―― 「よう」 「引きずりおろしに来たぜ?」 「ああ、丁度良かった、俺が出る理由が出来た」 「愉快なピクニックのお誘いさ、受けてくれるかい?」 「ああ、やろうか」  降り立つのは青年、飄々とした雰囲気をまとい、そして背後には黄金の騎士を控えさせている。  アリーナの最強。 「んじゃ、行こうぜ――第二幕さ」  斡旋屋の声に応じるように2種の声。 「あはははは!いいね!もっともっと楽しもうよ!!」  焚竜が笑った。 「まったく――行きつくところまで行かせてもらおう」  惠魅の獰猛な声が。 「そうか――いいじゃないか」  応じる、Fが。 「圧は感じていた、うずうずしてたんだ、折角目の前で催し物が起きていても俺は入り込めない……だが――最初から全力だ」 「ひゃはははは!!こいよ、お前はもうチャンピオンじゃねえ!チャレンジャーさ!!」  斡旋屋が叫ぶ。  戦端が開かれた。