コージン=ミレーンの日記 D月Y日 今回の天使像の破壊作戦は人造勇者側に多大な戦力ダウンをもたらした。 合成獣人の生産をストップさせ絶望の匣により少なくとも2個小隊分の獣人たちが消滅した。 そこで俺たちはこの一週間を体力の回復に努めつつ、弐號から情報がもたらされた星骸炉の捜索をするためにグラウンド666周辺に出没を繰り返していた…。 「こんな何にも見えないだだっ広い平地に本当隠してあるんですかねぇ。がーすけの力で視力を強化していますけど、それっぽい構造物は何にも見えませんけど…」 ライトは目を細めながら360度周囲を見回している。 「さすがに奴らの最重要案件だけに野ざらしで置いてるはずはないだろ。となるとここもバルロスの市街地があった場所だから地下施設に隠してるのが当然の考えではあるな」 「スヮリも地下を色々捜索してくれたが、この一帯は破壊が酷くて調査できないってぼやいていた場所だ。入口を見つけるのも一苦労だぞ…」 気の遠くなるような状況ではあるが、ミレーンの心中は以前と比べると多少の余裕が出てきてはいるようである。 「おっと、出てきましたよ」 遠くを監視していたライトが何かを発見する。侵入者を排除しようと向って来た合成獣人である。 「今日は2体です。日に日に少なくなってきますね」 「あんだけ派手に戦力を削がれたんだから、敵さんも懐事情はカツカツってわけだな」 ミレーンとライトの二人は迎撃体勢に移る。 敵獣人を難なく排除すると、深追いは禁物とばかりにライトの飛行能力を使ってグラウンド666から去って行く。 二人は兵員が頭打ちとなった敵を翻弄するかのようにゲリラ的に出没しながら、徐々に戦力を削って行くのをこの一週間繰り返していったのだった。    *   *   *   *   * 翌日ミレーンとライトはバルロス市街を離れ、街を取り囲む山地の北側の街道の峠にいた。 そこは二人がこの地に来る時に通った道でもある。 人造勇者たちの監視の目も大分緩んだので、ここまで難なく辿り着くことができた。 峠の上には一台のトラックが止まっており、その傍らに運転手と思わしき人物が煙草を吸いながら寄りかかっている。 どうやらこれが二人の待ち人のようだ。 「すまない待たせたようだな」 ミレーンが運転手に声をかける。 「いえ、そんなことはありません。約束の時間ぴったりです」 運転手は被っていた帽子を外し挨拶をする。見た目はごく普通の青年のようであるが、物腰や立ち居振る舞いそして眼光はただ者ではないことを伺わせる。 「こちらが約束の物です。二体分確かにお届けしました」 運転手はトラックの幌を開けると、中に載せられている1m四方はある金属製のコンテナのような物を二つ見せる。 「間違いはないと思うが、一応確かめさせてもらう」 ミレーンがコンテナの中身を確認すると、OKの意思表示を運転手に示した。 「わざわざ無理を言って申し訳なかったな。王家親衛隊の一員にこんな場所まで足を運んでもらうとは…」 「いえ、陛下の命令ですからね。俺からしてみれば久々の遠くまでのお使いですから、いい気分転換になりましたよ」 運転手に扮していた男は『破城の銛射スヴェン』。実力者揃いで知られるサンク・マスグラード帝国王家親衛隊の一員である。 「頼んでおいて言うのも何だが、レス兄…いや陛下が本当に貸してくれるとはな…」 貴重なアイテムなのであろうか、ミレーンもいささか恐縮気味な様子である。 「陛下の方は問題無かったんですが、逆に参謀の方はすんげぇ顔で陛下を背後から睨んでましたわ。ウチの技術力だとコピーどころか共食い整備ぐらいしかできないもんですから、持ってても宝の持ち腐れなんで丁度良かったんじゃないんですか」 スヴェンは苦笑しながら内幕のこぼれ話を語った。 コンテナは背負子のようなベルトが付いており、ミレーンとライトはそれを一つづつ担いだ。 その様子を見てスヴェンは軽い驚きの表情を見せる。 「こいつは驚いた。トラックの荷台に載せるのにもハッシュに手伝ってもらったぐらいの重さをリュックでも背負うように軽々持たれるとはねぇ。いや王子さんの方はそのガタイだから分かるんですが、お連れさんの方もとは…」 スヴェンはミレーンの連れであるライトを見て、思い出したかのように声をかける。 「君がライトくんかい?イワンの奴がよろしくなって言ってたよ。退屈だからまた遊びに来てくれとさ」 久々に聞く友人の名にライトは軽く微笑んだ。 「僕ら国外追放になってるんですけど、また入って大丈夫なんですか?」 「まぁ大丈夫なんじゃないの。出て行けとは言われたけど、また来るなとは言われてないでしょ」 「いいかげんだなぁ。そんなんで大丈夫なんですか?」 「いいんだよ。何事にも抜け道というのはあるもんさ。陛下も君らにはまた会いたいと思っているだろうしね。特に王子さんには」 スヴェンはにやけながら、ミレーンの後ろ暗いところを突いてきた。 「そういえばイワンくんやラーバルくんたちは元気でやってますか?」 ライトは他の知り合いの現状について質問をしてみた。 「うんまぁ…相変わらずだよ。本当相変わらず…」 スヴェンは苦笑しながら濁すような言葉で答える。 「相変わらずクソボケのままか…」 ミレーンは弟の悪い意味での成長しなさぶりを嘆いた。 「あそこの班はもう片方もクソボケのまんまですよ」 スヴェンはさらに追加情報を入れる。ナタリアとイワンの方も相変わらずのらりくらりと躱されているらしい。 「女性にもクソボケ罪って適用されるんですかね…」 呆れたようなライトの言葉にスヴェンは微笑みながら 答える。 「さぁね…。ただそんなトンチキな罪でいちいち検挙してたら、陛下はとっくの昔に断頭台の露に消えてるよ」 会話を終え山道を下ろうとする二人にスヴェンは声をかける。 「王子さん、いやコージン第一王子殿下。サンク・マスグラード帝国王家親衛隊はいつでも総動員で出動する準備は出来ております」 その言葉を聞いてミレーンも応える。 「ありがとう。その気持ちだけを受け取っておく。現状奴らは表立ってどこの国や勢力とも敵対はしていない。そこをどこかの国が攻めれば侵略行為として諸国には受け取られる。だからこれはあくまでも俺の私闘ということにしている」 「そして奴らは傭兵稼業を通して様々な国にパイプを持っている。仮にマスグラが攻めて来たら例えばダスタブのようなマスグラと関係の良くない国に、今帝国は兵力をこちらに割いているので攻め時だと情報を与え漁夫の利を狙わせようとする。そうやって一種のバランス外交をするような狡猾な一面もある」 「なので今はただ見守って欲しい。仮に俺たちが死んだら、後どうするかは陛下に任せる」 それは惨號から聞いた彼らなりの独立を維持するための外交戦略であった。    *   *   *   *   * 二人は大荷物を抱えてフリッツ博士のラボにやって来る。中には博士とメトリ、そしてもう一人男がいた。 「よう旦那、首尾は上々そうだな」 声をかけたもう一人の男の名は必中のスナイプ。 かつてミレーンたちと一時的に共闘し、バルロスにある忌器の情報を教えた男。そして元人造勇者の一人でもある。 人造勇者拾弐號に竜化したがーすけが追われた際に、銃撃を放ち回避する手助けをしたのも彼の仕事であった。 「まさかお前がここに来るとはな。アイツらの話を聞くとお前がここに足を踏み入れたくない気持ちは理解できるが…」 ミレーンはかつてスナイプが大尉をナンパした過去やメトリに聞かされた話がいつの間にかスナイプが話したことに解釈され抹殺対象になっている、といった話は可哀想なので彼には伝えなかった。 「まぁ元PTメンバーの頼みだからね。まさかまたここに来る羽目になるとはな…。そういえば他の連中はどうしたの?」 「連絡をしたのはお前とほぼ同時だからもう着いていてもおかしくはない。奴らのことだから合成獣人に倒されるようなことはないだろうが…」 いつものように淡々とした口調のメトリではあるが、若干キレ気味なのは伺える。 「そのメンバーが全員着いたら博士と一緒にここから脱出するというわけか、さみしくなるな…」 短期間とはいえ一緒に死線を潜り抜けて来た仲間でもある、別れにミレーンも多少は感傷気味になる。 「だから出て行った後はお前さんらの好きに使ってくれ。ただ重くて持ち運ぶのは不可能だから、この獣人の姐ちゃんは放置になるが後のことはよろしく頼む」 フリッツ博士もスヮリゲーターの治療が中途半端なまま手を離すのには抵抗があるようだが、逃げれる時に逃げないのは得策ではない。誰しも一番大事なのは自分の命だから。 「で、今日は何しに来やがったんだ?」 余り来て欲しくない客の来訪にフリッツ博士は半ギレ気味に応える。まぁこの塩対応も今や慣れてしまったもんだが…。 「今日は博士ではなくメトリに用があって来たんだ。こいつを見て欲しい…」 俺は持参したコンテナを開ける。中には黒い色をした金属製の甲冑のような物が入っている。 背後からそれを見ていたスナイプは「あん時のアレかよ…」とうんざりした反応を見せた。 まぁお互い命からがらの目に逢ったんだから分からなくもないが。 「こいつはメックスーツといって機械仕掛けの強化服のようなもんだ。知り合いのところで整備はしてもらったんだが、こいつに少しギミックを取り付けたい。お前ならできると思ってな、頼むやってもらえないか…」 「ふむ、ゴーレム技術を応用したパワードスーツといったところか。一から作れと言われたら無理だが、機能の増設ぐらいは何とかなりそうだ。で、どんなのが欲しいんだ?」 俺とライトはギミックの要望をメトリに伝える。最終決戦に向けて準備は着々と進むのであった…。 (続く)