それはいつもの、お定まりの画角から始まる。真っ青に染まった画面はやがてゆっくりと、 少しずつその全体を映し出すように引いていき、差し込む光に艶めく生地の立体感、 丸々とした形状が、克明に描き出される――ついで画面はさらに上へ上へ。 やはり同じく青い生地に包まれ、しかし本来の丸みを失った二つの山を通り超えたのち、 撮影する手を止めない悪漢を、あるいは画面越しににたつく銀河中の下衆に向けて、 女はその碧い瞳に、殺意をありありと浮かべて睨む――だが却って滑稽なだけであった。 被写体である彼女からは確認できないが、画面の右側には常に二つの数字が表示されている。 分子にあたる一つは、彼女がここに囚われている年月とおおよそ一致する――ある数を指し、 もう一つ、分母の側は、それよりも遥かに大きな数を、何食わぬ顔で表している。 両者が一致せねば、女の苦難の終わることはないのだが、ここ数年のうちに、 分母の数は十数は増え――分子は、年数と同じ程度か、時に二つ三つ増える程度だった。 そしてその数字二つの下には、彼女の身体のある部位を立体的に投射した図形と、 中にあるものを、その身じろぎまでもつぶさに、かつ即時に反映する図形の、 合わせて二つが描かれている――やがて割り振られるべき数字と共に。 いくら睨んで見せたとて、今更彼女に恐怖や脅威を感じるものはいまい。 銀河最強の賞金稼ぎ、というかつての異名は、客寄せのための文句にこそなれ、 それだけの力を保持していない――あるいは行使できない――現状においては、 彼女を自ら貶めるものにしかならない。だというのにご丁寧に、撮影者たちはその肩書と、 彼女がこれまで銀河の平和のために成し遂げてきた偉業の数々を画面の端に描き連ねている。 そしてその末尾に、今の彼女の立場をもっともらしい書きぶりで並べているのだ。 着せられているのは、かつて賞金稼ぎとして活躍していた頃の装備――の外見だけを模した、 機能性において全く比肩するところのない、陳腐な偽物である。 “本物”はここに留まらざるを得なくなった当初に自ら放棄し――破かれているのだから、 彼らはわざわざ、この女を辱めるという目的のためだけに、それを用意していることになる。 それも一着限りではない――当然の帰結としての、体型の変化に合わせたものが何十枚と。 撮影後、身体を洗い清めたのちにそれに袖を通す彼女の気持ちはいかばかりか。 投げ銭の勢いが落ち着いて、下卑た期待に満ちた投稿がずらずらと並び始めた頃、 ようやく一つの命令が降りる――赤い文字に宇宙共通通貨で四桁五桁分の金額の書かれたもの、 どこかの誰かが投げた要望に応えるために、彼女は腰掛けている椅子から腰を浮かせた。 そして先程まで今にも掴み掛かりそうな勢いで睨んでいた撮影機材の丸い硝子に向けて、 とうに誰からも忘れ去られたような深夜に流れていた何某の魔法少女の真似をさせられたり、 両手を頭の上に掲げてうさぎのようにぴょん、ぴょん、と跳ねさせられたり、 もっと直接的に、自身の大きな乳房を麺麭でも捏ねるかのように、手で揉まされたりする。 そのたびに、青い生地に包まれた両乳房はその柔らかさと重さを十全に発揮して暴れ回り、 より大きく、重たく前に突き出した腹部に当たっては、べちん、だるんと垂れるのだった。 最も人気のある要望は、彼女に己の腹部について自覚させるような動作をさせるもの―― 生地の上からもぷっくり飛び出した臍を、かさぶたでも掻くのと同じに指先で擦りながら、 腰との境目の、盛り上がって前へ前へと流れていく流線を手の全体でなぞらせる。 また、下腹部のずっしりした張りを掌で受け止めさせて――小さな円を描くように撫でさせ、 子守唄の一つでも歌わせようものなら、更なる投げ銭の雨が降るのは間違いなかった。 その間、女は努めて営業的で引きつった笑顔を崩しはしないのだが――ふとした折に、 それでも、胎の子に対する愛着の漏れるような瞬間が出てしまう。 すると視聴者たちは競ってその瞬間を切り抜き、電子の海に放流してしまうのである。 この一連の媚びを売る動作の間は――画面外に無数に設置された銃口の動作は停止する。 だがそれだけなら、強引に鎧を着込んで反撃するぐらいのことを、彼女はやってのける。 それをしない――できないのは、部屋に連れてこられた、一人の裸の男が原因であった。 男は女に向けて、にへら、と申し訳なさを踏み倒したようなへつらいの笑顔を見せた。 彼の背中には、でかでかと数字が刻印されている――ちょうど、分母の数字より一つ大きい。 肌艶はいくらか落ちているが、最低限の栄養は与えられているのだろう、肉は落ちていない。 そして何の遠慮も見せず、彼女の乳房を服の上からがしりと鷲掴みして、捏ね回し始めた。 息を噛み殺しこそすれど――完全に、肉体の熱を消してしまうことはできない。 少しずつ声が上ずっていくのも、しっかりと録音されて聞き分けられるようにされていた―― やがて男はそのまだら禿の頭を、彼女の乳房にぐっと埋めて鼻先をぐりぐり押し付けたのち、 乱暴に、その青い服を引き裂いていく――人の握力と膂力で容易に裂ける生地は、 撮影者である宇宙海賊達の銃弾にも数発耐えるような、本物の堅さには到底敵わない。 引き裂かれた隙間からは、彼女の持つ白く透き通るような肌がちらちらと覗き、 次第にその面積が大きくなるに従って、また画面越しの好事家達は興奮を高めていく。 投げ銭も、投稿も、男自身の興奮と比例するように加速していき――最高潮に達するのは、 彼女の乳輪、真っ黒に染まって色の落ちなくなって凹凸が下品なまでに強調されたそれが、 生地から解放された乳房の暴れるのにつられて、ぼろんと飛び出した瞬間である。 そしてその勢いに従って黒い乳頭から溢れる母乳の白い雫は、また切り抜きの種となるのだ。 男は皺のいった口元で、自分の半分以下の年齢の女の乳首にしゃぶりつき――舌で弄ぶ。 無論、それは彼のためにあるものではない。だが、彼が出るようにさせたのは確かだ。 その権利を主張するかのように、男の唇は乳腺内部の液体を全て吸い上げんばかりに動く。 するとやはり、女の喉からは、どうしても甘い声の漏れるのは仕方なかった―― 雄としての本能をとことんまで充足された今、男は彼女を辱める言葉をつい吐いてしまう。 だがそれは一層滑稽なのであった――彼は宇宙海賊に拉致された単なる人質に過ぎず、 彼らを救うために、彼女は自らの身体を、子宮を差し出しているのだから、 その当人を侮辱することは、何より己の愚かさを示すことに他ならない。 けれどもこうしてあてがわれた男のほとんど全員が、彼女に心ない言葉を投げ掛ける。 人質の数と同じだけの子を産まねば、解放されることはないという彼女の苦難を無視して、 極上の雌を思うがままに汚せる悦楽に、彼らは溺れずにはいられないのである。 まして、種付け役は人質自身――己の子の命でもって己の命一つを賄う。 仮に生還できたとて、銀河連邦の高官としての座に戻れるわけもない醜態を晒しながら、 しかし彼らは、あたかも彼女自身の任務を手伝ってやっているかのような口ぶりで、 自分が孕ませた女を弄び――身重であろうと、臨月であろうと、容赦なく全身を汚す。 女は、彼の勃起した――萎びた男性器に進んで口を添え、舌で包んでねぶり回す。 そうして少しでも無駄打ちさせれば、直接的に抱かれる可能性は下がるからだ。 もちろん、観客たちはそれを良しとしない。“次”は前の穴で受けろとの命令が下れば、 女は自ら、彼の上に跨って、大きな乳房と胎の重みに耐えながら、腰を振らねばならない。 ただでさえ、破水も陣痛も始まっているというのに――撮影時間はまだまだ長い。 女は邪魔っけな、下腹部に巻きついた布切れを自身の手で剥ぎ取った。 するとそこには、彼女の既に達成した分子の数が――同じだけの赤子の形の入れ墨で示され、 目標数、分母の数と同じ個数が輪郭だけを先に刻まれている。 それを全て黒く塗り潰すのが、今の彼女に課せられた使命なのだ―― 画面右側に表示されている立体は、無論彼女の腹部の形状を完全に再現したものであり、 同じく常に更新され続けているのは、胎児の姿と――出産までの残り時間である。 男は自分が何のためにそうしているのかも忘れて、孕み女の胎を撞く。 射精と共に――成分によって子宮の収縮が促されて、出産予定時刻が前倒しになっていく。 それを秒数まできちんと当てるのが、視聴者たちにとって最も刺激的な娯楽だ。 そのために、あるものは産むのを我慢しろと画面に向けてがなり立てるし―― また逆に、さっさと産んでしまえと目を血走らせるものもいるであろう。 そしてその予想の的中率を高めるために、お産を促進させるような性交を男に命じ、 少しでも早く、彼女の胎内から賭けの対象物を掻き出してしまえと騒ぐのである。 出てしまえば、後はもう、分子の数が増えるだけの要素にしかならない。 赤子はほとんど塵のように転がされて、また次の種を付けるために、別の人質が呼ばれてくる。 その背中には、彼女の産んだ赤子の数よりも一だけ大きな数字が刻印され、 出産の疲労で半失神にある彼女の下腹部にある入れ墨が、また一つ黒く塗り潰される。 後産もまだというのに――無責任な観客たちは、彼女のひくつく肉穴、 まだ数十はひり出さねばならぬ産道の滑りを、画面越しに見て興奮している。 そして産んだばかりでべっこり凹み、たるんだ腹の皮を摘むよう人質の男に命じ―― 戦士としての生き様を失った彼女を嘲笑う。女としての生き様をも侮辱された彼女を。 泣き喚く赤子を横目にちらりと見て、男は彼女の膣内に性器を挿入する。 そうせねば、自分が殺される。彼女が“妊務”を果たせねば、全員が殺される。 だからこれは、仕方のないことなのだ――否、正しいこと、なのだ。 言い訳を拵えてしまえば、後はもう止まらない。女の恨み言も、男は聞かぬふりをする。 最奥に熱をぶちまけながら――その熱に、彼自身、どこまでも溶けていくのだった。