今回の怪文書ではメイドさん=志伸藍/しのぶ あおい プリキュア先生=亜久里安寿/あぐり あんじゅ 風土ちゃん=科戸花嵐/しなと からん と名前をつけています 【野球部を立て直せ/小さな大型助っ人】 Episode 1 「…参りましたね」 「参ったわね…」 全身から刃を生やした恐るべき魔女をなんとか2人で打倒したものの、私─志伸藍と、先生─亜久里安寿はほとほと困り果てていた。 戦いに関しては時間こそ要したが、概ね順調であった。先生が刃を受け止めながらそれを殴り折り、それによって生まれた隙に私が砲撃を加える。 相手のタフネスこそ目を見張るものはあったが、物理攻撃が軸では先生の硬さに太刀打ちできるものではなく…最終的には全身の刃を折った上でトドメに私が先生を弾丸として打ち出し、頭を撃ち抜いて殺した。 魔女を倒した。それは良い。わずかでもこの街は清潔に、平和になるだろう。 だが奴の結界には少なからぬ人数が囚われており、その中には… 「まさか高等部の野球部、そこの監督が混じっているとは思いませんでした。…数日前から病欠と聞いていましたが?」 参京院高等部、野球部の監督が被害者の中に含まれていた。見る限り命に別状はないようだが… 「…病欠というのは表向き、実際は無断欠勤よ そういう人じゃなかったから私も怪しいと踏んでいたのだけれど」 「状態は良くないわね、死ぬことはないでしょうけど衰弱してるわ …しばらくは入院よ 他の人は?」 冷静だ。学校ではその体躯ゆえに甘く見る生徒もいないではないが、彼女はやはり『大人』である。人は見かけによらぬとはこの事であろう。 加えて魔法少女仲間でもその風体や年齢をあまり快く思わぬ者もいるが、少なくとも男の私より変ということもないだろう。 「他の方も監督と同じようなものです、すぐに救急車を手配します!…魔女共め…クソッ!」 被害者は全員病院に収容され、まず一段落…ではない。参京院高等部の部活動に関わってくるものであるからだ。 「…野球部はどうなります?監督もあの様子では2,3ヶ月はかかるでしょう」 「そうね。ウチの野球部は中等部もだけど部員はギリギリ。監督も1人で野球部を管理してたわ」 「生徒を放っておくわけにも行かないけど、これについては学校と話して決めるしかない案件よ」 「やはりそうなりますか、何か出来ることがあれば私にも伝えてください。見てしまえば助けたいのが人情でしょう」 「そうね…今日はもう遅いわ、とりあえず今日は解散しましょう。」 「志伸君のせいじゃないんだから、あまり気負わないこと!いいわね?まずは大人に任せなさい」 「…ありがとうございます、そう言っていただけるだけで気が軽くなりますよ」 Episode 2 後日、参京院教育学園の中庭 「ああは言ったけど、どうするべきなのかしら…野球部は休部とはならなかったけど、代わりの指導者は見つからないし」 「いきなり監督がいなくなって不安がってる生徒達を放っておくのは心が咎めるし…こうやって放課後に中庭で考えていても解決はしないのだけど…」 「やぁ先生、悩みでもあるのかい」 「柊さん!どうもこんにちは。…そうね、悩みよ」 「野球部の監督の話だろう?僕も聞いたよ、監督も不運だったね」 「やっぱりあなたにはお見通しね…上にも掛け合ったけど野球経験があって手の空いている先生っていないのよ、今は」 「生徒を放っておけないといわけだね。先生に経験はないのかい?」 「まさか!…私が?…そうか!そうよ!私がやればいいじゃない!」 「え?でも先生は経験がないんだろう?」 「ない!けど覚えるわ!中等部に行って色々教えてもらったり、自分で勉強すればいいもの!これも生徒のためよ!」 「むふっ…まったく先生らしいや」 「こうしちゃいられないわね、すぐにでも実地研修よ!それじゃあ柊さん、ごめんなさい!」 「帰ってしまったか…また誘えなかったね。彼女は少なからず僕のことを理解できる人だ、機を見つけて色々話しておかなくちゃね…むふっ」 Episode 3 同時刻、高等部の教室 「うわ~んでやんす!志伸君!助けてほしいでやんす!」 「オレからも頼む!野球部に入ってくれ、頼む!今度ばかりは監督の件もあって本当にピンチなんだ…!」 「野球部に人がいないのは前から知っているが…寺田はともかくキャプテン直々に頼みに来るとはな」 野球部の勧誘である。 来たのは瓶底眼鏡の投手の寺田、それに捕手のキャプテンだ。2年生の部員はいないので今の部員は1年生のみ…それも3年生の引退後は8人だけ。キャプテンも無論1年生だ。 4月から3年生引退後の事を考えてか時折声をかけられていたが、端的に言えばそれどころではない日々が続いていたので断るしかないものであった。 だが今は幾許か余裕があるし、何よりも…監督の件がある。この期に及んで放っておくのは男でないだろう。 「有名人のアンタが来てくれれば部員も増えるはずなんでやんす!何よりアンタの体捌きは只者じゃないとオイラの勘が言っているでやんす!球技大会の活躍を忘れたとは言わせないでやんすよ?それに!」 「…それに、何だ?あまりいい予感はしないが」 「野球部で公式戦に出ればちあが~るに応援してもらえるでやんす!うちのチア部は美人ばっかりでやんすよ!」 「…寺田くん?オレは野球部存続のために真面目な話をしにきてるんだけど?」 「オイラも至って真面目でやんす!志伸君!アンタだって可愛い女の子の前でいいとこ見せたい欲望があるはずでやんすよね…!?」 それは勿論あるが今回の主題はそういう話ではない。人助けだ。 無論、相手に余裕があるなら働く分の何かは貰い受けることが前提であるが。 「…野球部の件は受けてやってもいい。今は時間があるし、監督の件も聞いてしまったからな」 「おお!受けてくれるのか!?」 「だがスパイクだのグラブだのユニフォームだの練習着はどうする、流石に自前で買ってこいとは言うまいな?馬鹿にならん金額だぞ」 「それについては安心してくれ志伸君!全然部員が来ないから…新入部員に用具を支給するために取っておいた部費が…凄く余ってて…君の分一式ぐらいなんでもないっていうか…ハハ…」 弱々しい語気だ。このようにうちの学校はケチ臭くなくていいのだが、人がいないのではどうにも使い道はないだろう。殊更気の毒になる。 「服のサイズは後で携帯で送る、そいつで注文しておいてくれればいい…私は用具が届き次第練習参加だな」 「やったでやんす~!志伸君がいれば百人力でやんす~!さすが天才!」 Episode 4 そして後日、放課後… 「志伸君!君の練習用具一式が届いたぞ!」 「届いたか…なら今日から練習参加だな、だが監督は入院中なんだろ?生徒だけで練習するのか?」 「ああ、昨日まではそうだったんだけど…」 「昨日までは?外部コーチでも頼んだのか?」 「それがでやんすね…」 「キャプテン君!寺田君!今日から副顧問扱いで練習に参加するからよろしくお願いね!志伸君も今日から練習参加するんでしょう?」 この聞き慣れた子供のようで大人の魅力と落ち着きが詰まった声は…まさか…? 「亜久里先生こんにちはでやんす。まさか先生が野球部を見てくれるとは思ってなかったでやんすよ」 「オレもびっくりだなぁ。先生、野球できたんですね」 「実際には未経験よ。けど猛勉強したし練習もしたから、ルールは全部頭に叩き込んで…もう軽いノックぐらいなら出来るわ」 「「「えっ!?」」」 キャプテン、寺田、私の全員が驚きの声を上げた。それも当然である。野球のルールもさることながらノックと言うのはかなりの高等技術のはず、それを短期間で覚えた? …それに彼女の言葉は出任せではない。事実だ。つまり実際出来るというわけで…どういう人なんだ?彼女は? Episode 5 そこからは嵐のような日々が過ぎていった。 既存部員はまず徹底的な走り込みと基礎トレーニングによる地固めが始まり… 「走りすぎて死にそうでやんす…」「オレも死にそう…確かにオレ達は1年生だし身体も仕上がりきってないから基礎特訓をするのは理に適ってるけど…」 「辛いでしょうけど、ここで投げちゃダメよ。砂地の上に城が建つと思う?」 「あっ先生…砂上の楼閣ってヤツですね…」 「そういうこと。何より下半身がブレていると守備も打撃も送球も全部に影響するわ、怪我の原因にもなるしね」 「う~ん、まごうことなき正論でやんす」 「汗が引いたら次は全員でボックスジャンプ!終わったらスクワット!こういう基礎が後で効いてくるわよ!」 「「ヒィィ~!!」」 体力に関して問題ない私は硬式球の扱いに慣れるところから始まり、硬式球に一通り慣れた後は人が足りていないポジション…三塁手の特訓に移った。 「志伸君ノック行くわよ!まずライナー!」 「はい!お願いします!」 ライン際への打球!…早い!だが魔女の攻撃に比べれば大したものではない。馴染んできたグラブを伸ばしてボールを受け止め反転、そのまま一塁へ送球! 「はい次!手元でバウンドするわよ!」 「お願いします!」 続けて高速打球!…強いゴロ!体を屈めてグラブに収め再び一塁へ送球! 「バント行くわよ!三塁線ギリギリ!」 「はい!」 ファウルライン上に弱い勢いで落ちるボールを掴む!送球先は一塁か二塁か…!? 「二塁間に合うわよ!二塁送球!」 身体を反転させて二塁送球!二塁手の胸元のグラブに吸い込まれるように着弾! 「ナイス送球!次は三塁とレフトの間!三塁手が下がって取るフライよ!」 定位置に戻った次の瞬間に緩いフライ!確かにレフトは間に合わない浅いフライだ!ボールを目で追いながら半身で走り… 「三塁だ!私が取る!」「任せた!」 レフトへの声掛けで交錯を防ぎつつ捕球! 「二塁ランナー飛び出してるわよ!二塁送球!」 「はい!」 二塁送球!再び胸元へ! 「志伸君も仕上がってきたわね!これなら試合に出ても恥ずかしくない出来栄えよ」 「ありがとうございます!」 先生の腕は実際問題がないどころか、元の監督とは別方面で目を見張るものであった。 基礎練習ののちに守備練習を徹底的に行う手堅い内容は、全員1年生で技術的にはまだまだ未熟な当部のメンバーにはかなりフィッティングした指導だった。 打撃練習などは人手が足りないため、中等部マネージャーの夏希、その親友の花嵐などの人手を借りてどうにかそれらしく回す有様であり…私が打撃投手まで覚える羽目になったりもしたが、それでも進歩を感じられる日々であった。 「いやぁ…大したもんでやんすね2人とも。先生はほんとに監督の仕事ができるし、志伸君はあの短期間でひとかどの三塁手、打つ方もリードオフマンとして文句なしでやんす」 「ああ、これなら来週の練習試合もいい感じに戦えそうだよ。9人しかいないからランナーコーチとかスコアラーは上手いこと回すしかないけど…贅沢は言えないからね」 「次!キャプテン君!高いキャッチャーフライ!」 「あ、はい!」 「…ナイスキャッチ!次は寺田君!ピッチャー横強めのゴロ!」 「ハイでやんす!」 Episode 6 そして…練習試合の日が来た。天気は晴天、気温も高すぎず低すぎず、風も無風ではないが打球に影響を与えない程度の最高のグラウンドコンディションだ。 メンバー9人全員の調子も良好。どこまで戦えるかは分かったものではないが、やるだけやってみようではないか。…命の取り合いというわけでもないのだ。 練習試合の相手は市外の高校。あちらは部員に困っているわけではないが、1年生の特訓も兼ねて実戦を経験させたいとのことで今回の練習試合の申し出を受けたと聞いた。 …1年生だけで不自由なくチームが組める人数がいるというのは、なんとも羨ましいものだ… (向こうの先生ちっちゃいな…ほんとに大人か?でも胸はそれなりに…)(中等部の空穂は凄いって話だが、高等部はそういうヤツいるのか?)(主将と寺田はそれなりにやるって聞くけどよぉ) (うわっ!高校生探偵の志伸藍じゃん!あいつ野球部なの!?)(美形だ…)(妹も美人だって言うぜ!紹介してもらえないかなぁ?) …………実に高校1年生らしい会話だ。考えてみれば私も同じ年頃の男なのだから、こういう話を常日頃していてもいいはずなのだが…周囲にいるのは大人か異性のほうが多い。 立場上、そういうわけにも行かないのだ。かと言って鹿目はこういう会話を好まんだろう。 「はい整列!そろそろ試合よ!みんな怪我しないように十分気をつけて試合すること!いいわね?」 先生の呼ぶ声で我に戻る。これから初の実戦だ…無失策で切り抜けるぐらいのことはやって見せたいが、どうなるやらだ。 「ではこれより試合開始!」 「「「よろしくお願いします!!!」」」 試合展開は想像以上にスムーズであった。こちらは練習の成果か守備の乱れや失策もなく、それなりに安打は打たれつつも投手が崩れることもなかった。 しかしながら攻撃面は苦戦しており、140kmに乗る速球を持つシニア上がりの腕利き投手の前にあと1発が出ない状況が続いていた。 そして9回裏。1対0の1点ビハインド。先頭打者は1番の私からだ。 Episode 7 「(早いだけの球ではないが…!目は慣れた!取ったぞ!)」 苦労した快速球を正確に捉え、センター前に落として2本目のヒットを放つ。4打席3打数2安打1四球、最初のヒットはほぼラッキーヒットの内野安打だが…これでマルチヒットだ。 しかし、実戦で人間の投げる球というのはこうも捉えられないものかと思った。世の中はやはり広い、上には上がいると実感する。 「(天才などとおだてられて驕っていたとは言いたくないが…もっと精進しなければなるまい、ついこの間本格的に野球を始めたというのは言い訳にもならんからな)」 そして後続の2番はバント成功、更に続く3番の寺田は深い外野フライとなりタッチアップ。最終的に2死3塁の状況で4番のキャプテンの打席が回ってきた。 バッテリーミスがあれば労せず同点のチャンスではあるが…残念ながらその気配はない。あちらのバッテリーも1年生ながらかなり鍛えられているのが見て取れる。 最終的にキャプテンの打撃に期待せざるを得ない状況だ。魔女との戦いであれば自分が突破口を開くなり、全て自分で始末を付けるなりで片付けて来た身として…こういう場面は何とももどかしい。 無論連携で仕留める場面なども数え切れないほどあるが、まんじりともせず信じて待つしかない状況というのはなんとも言えぬ心持ちになる。 そんな事を考えているうちにカウントは3-2、フルカウントまで追い込まれていた。ベンチで見ている先生の顔にも汗が浮かんでいる。無理もない。 向こうに敬遠の気はなく勝負の構えだが、仮にフォアボールならば後続を切られて終わる可能性は大いにある。要は大ピンチであるということだ。 「…信じるぞ…!お前が打たなければ勝ちの目はほぼない!折角なら勝って終わりたいだろうが…!」 そして、そこからポールギリギリまで飛ぶファウルが2球、3球と続き、試合を見守る全員の緊張が限界まで高まった瞬間、高い快音が響いた。 センターが下がる。走る。走る。走る。そして走って…グラウンドを仕切るフェンスまでたどり着き、それでもまだ打球の落下地点には届かない。 時間がゆっくりと流れる中で、フェンスの向こうに白球が落ちた。 Episode 8 ─中庭─ 「やぁ先生、やっぱり中庭に来ていたのかい…チーム初勝利おめでとうと言っておこうかな」 「柊さん!ありがとう!」 「まさか本当に監督として成功するとはね…むふっ、やっぱり先生は他の人とは違う才能があるようだ」 「私じゃなくてみんなの才能よ、私はそれを伸ばす手伝いをしただけ…私はそこまで凄い人間じゃないわよ」 「…謙虚だね。先生はもう少し自分の才能を誇ってもいいんじゃないのかな?」 「いくら優れていたって、これ見よがしに振る舞う人間に人はついてこないものよ 教師なんて立場なら特にね」 「優れていたって、か… それなら少し僕の話を」 (おーい!先生ー!ニュースでやんすー!)(監督がきょう退院して学校に来たんですよー!先生にお礼が言いたいってー!入部希望の生徒も新しく来ましたー!) [ごめんなさい柊さん!呼ばれちゃった!話ならまた今度じっくり聞かせてもらうから…さよなら!気をつけて帰るのよー!] [それじゃあね、先生 僕は気にせず行っておいでよ] [むふ…まったく、間が悪いことだ そろそろこうやって学校へ来る時間もなくなるっていうのにね」 ─蒼海幣 事務所─ 「試合のこと聞いたヨ、お前野球の才能もあたネ?」 「才能もそうだが、教える側が良かったのが大きいだろうな」 「ふぅん?お前が褒める先生、どういう人か直接会てみたいヨ」 「見てくれは随分可愛らしいが、私の知ってる先生の中では頭1つ抜けた名教師だぞ 黙っていても悩みに気づいてくれるような人だしな」 「可愛らしい~?…まさか、向こうが本命で…ワタシとは遊びだたカ?」 「人聞きの悪いことを言うな!…何より向こうは1回りも年下の子供をそういう目で見る人でもない!」 「へぇ~?それ聞いて安心したヨ、冗談はこれくらいにして野球の話聞いたらワタシも興味出てきたヨ 今度お前が野球してるとこ見せてくれるカ?」 「今度中央の野球部と練習試合があるから、その時に学校に来ればいい…ホームランは見せてやれないだろうが、ヒットぐらいは見せてやるぞ」 そして2年後、参京院野球部は高校野球界の話題となり、企業になった蒼海幣も自前の野球クラブを持つことになるのだが… それについては、まだ先のお話。