――4/10 9:00  ロビンの言葉と同時に勝負は始まった、勝負と言うにはあまりにも稚拙であるが颯乃にとって良かった。クラスの皆は思い思いに動いている、勝負を避ける者、或いは受ける者、颯乃は成功に賭けた。  別に宿題の免除を求めているわけではなかった、ただ勝負だったから受けた、それだけだった。おそらく中学と言う場においてそれはあまりにも意味の分からない光景だ。 「なんだ…お前たちも賭けるのか」  横を見る、明日子と有無もまた10連続成功の賭け位置に立っていた。2人が笑う。 「だってぇ、友達が面白い方向に賭けてるなら乗るのが当然じゃなーい?」 「そっすよーハっちゃん♪いちれんたくしょーってことですねー」 「だーれが友達…ま、今更言うまい…精々後悔しないといいがな」  結局のところ人の答えに賭けて自分の答えを放棄したのと同じだ、或いは人の答えの乗ることが2人の答えなのかもしれない。 「よーし、じゃあうちきりだぞ、さて、じゃあコイントス行くぞ……」  ロビンが拳を握り親指の上にコインをおく、軽い音共に弾かれ空に舞う、幾度かの回転と共に自由落下それに合わせて左手の甲に乗る、同時に右手でコインを抑えた。ゆっくりと右手が開かれる。 「……表」  最初の1回は表だった。勝ちに賭けていた皆が一様にと息を吐いた。   颯乃はそれをにらむ、茶番だ。これは自分たち中学生の理解力の低さを前提の勝負。そもそもこの賭けは賭けになっていない、10回連続で成功させると言う言葉は信じるに値しない、信じるならばこれは相手がイカサマを一切していないこと前提だ、しかし相手の言葉を信じるならばロビンは賭博に精通している、イカサマ合戦をしたと本人がその口で言っていた。これは相手の、相手が作った勝負の場だ、飲まれている、皆。自分もまたデジタルワールドでの戦いを経てなければ同じように飲まれ勝負を放棄していただろう。  さらに前提として一つ大きく賭けているものを颯乃は理解していた。  コインがまた空で回転する、そしてそのたびに面を出し続ける。成功に賭けている生徒は顔が明るくなり、失敗に賭けている生徒は顔色が悪くなっている。  9回目が来る。 「さて9回目だ」  ロビンがまた指に力を入れるのを見た、合わせ颯乃もポケットから何かないかと探し、声、 「ハっちゃん、何か探してるっすか?」 「……ああ、何でもいい、かるくなげこめるものを」 「んじゃ消しゴム使います?」 「なんで持ってるんだよ…まあいい、借りるぞ」  小さい消しゴムを明日子から借り、親指の上に乗せる。同時にロビンのコイントスが始まった、合わせて颯乃の指から消しゴムが飛ぶ。軌道は一直線に偏差撃ち、コインに消しゴムが当たり、位置が入れ替わる。コインが颯乃の手の上に入り込む。 「悪いな、先生」 「ほう」  あ、と誰かの声が聞こえた、男子か女子か或いはどちらもか。その声を無視しロビンに視線を向ける。楽しそうな笑みが顔に張り付いていた、以外な状況だと思っているのかイレギュラーを楽しんでいる。 「で、何のつもりかな神田颯乃」 「もう名前を覚えてくれてるとはね……さて先生、一つ話したいのですがよろしいでしょうか」 「結構、言いな」 「まず第一に賭けになっていない賭けを仕掛けた事実、そもそも賭けという舞台にはあまりにアンフェア」 「どこがだ」 「あなたのベットがないよ、先生」  賭けと言うのであればそれは胴元と勝負する側が必要だ、或いは今ロビンが胴元を兼ねているといってもいいだろうが、だとしても或いはギャンブルの胴元ですら何らかの損失がありえる。今の状況はロビンの作る勝敗の上で踊らされてるだけに過ぎない。 「宿題を半分にするか倍にするか、この言葉だけで一瞬浮足立つ、学生にとって宿題が減るのはとても大きいことだ」 「そうだな、で?」 「賭けと言うなら、胴元も失うものが必要だよ先生、あなたも乗るべきだ、賭けの立場に」  周囲は何を言っているのか、と、そんな顔をしている、気づいているのは有無だ、 「あー、そっかそっか!んー、私もまだまだ脇が甘いなー」 「ウーちゃんどういうことっすか?」 「アっちゃん要するにだね、これはロビン先生だけが楽しい舞台なんだよ」 「んー?」 「コイントスって2分の1でしょ、それを10連続ってことは分母を10乗、えーっと…スマホ…………1024分の1だね、これを通す賭けをしている雰囲気だけ作ってたのさー!でもこの賭けって、私達だけが乗って先生はなーんにもリスクを受けてない!」 「……最初から掌の上ってことっすか!?」 「そういうこと」  声にロビンが笑みを深める、やはりあたりだった、 「いつから気づいた」 「私も一瞬賭けのそれに乗った時は気づかなかった、でもコイントスが始まる頃に気づいた……それに先生、あなたは自分で言っていたじゃないか、イカサマ合戦をしたって」 「おいおいそれはカードだけの話かもしれないぜ」 「……指の動きだ」 「……」 「あなたの指の動きは常に精密に動いていた、シラを切るなら結構だが……コイントスでもできるんでしょうイカサマを」 「は!?なんすかそれ!?」 「言っての通りだ、私でも出来る――見てろ」  言って、指の先にコインを置き弾いて見せる。  1度表を出し、2度3度と立て続けに表の面を出し続けた。 「おお……」  有無が声を漏らす、少しだけ満足しながら弾いたコインを平手で掴み握って、 「重心と指先のコントロールさえできるなら練習次第で誰でもできる」 「――くくっ……ばれちまったか」 「あー!認めたっすね!イカサマ野郎はお縄っす!!」 「そうだそうだー!」  騒ぐ明日子と有無を手で制し、 「ギャンブルには通じてないけれど…肉体の動きには通じているのでね…先生、これは賭けじゃない……直感ではあったけど、それでもだ…あなたが結果を決めて私達が右往左往するのを見るだけのゲーム」 「……ハっちゃんそれに勘付いたから成功する方に乗ったんだ」 「それのが勝負勘って奴にならないっすか?」  明日子と有無の感嘆、合わせロビンも小さく笑った。 「なるほど…年下だと思ってぬるいことをやっちまったか」  あからさまに上機嫌な姿に少しばかり颯乃は苛立ちを覚える、それだけではなかった、周囲もまたロビンが何をしたかはともかくイカサマを仕掛けたこととそもそも生徒側を弄んだことがわかり怒気にあふれ始めている。颯乃はコインを投げ返す。 「さて……先生勝負をしよう」 「くくっ…続けるのか」 「ハっちゃん!?何考えてるんすか!?」 「何か面白いこと考えてる?」  明日子と有無の声を一度無視し、視線はただ相対する男にだけ向いていた、今2人の言葉に応えてしまえば集中が途切れてしまうからだ。 「ここからは種を割った、また種を出すなら私が割る――ここからは5分5分と行こうよ先生」 「……俺に勝負を挑むか?」 「そうだよ先生まだ戦いは終わってない」 「おいおいイカサマを割ったんだ、漬け込む筋もあるだろう?」 「戦いにイカサマを割ったから終わりなんてあるんですか、先生」 「……良いぜ、ラストゲームなんだから気張って張りな」 「ラスト?…まだ9回目は終わってないはずですが」 「イカサマ割られた勝負は負けも同然、表カウントでアンサーだ」 「潔いことで」 「矜持さ」  さて、と、 ロビンは1度髪をかき分け、 「本当に運否天賦だ……先に提示された通りここで裏が出たならば宿題は2倍量表が出たなら半分……だが先生の賭け金がまだ上がっていない……だからさあ賭けよう先生、あなたも何かを乗せるべきだ」 「――何を賭けろって?」 「あなたは相手にベットの枚数を決めさせるのかな、先生……ギャンブラーなら自分が賭けるものを自分で決めるのでは?」 「言うねえ……いいだろう」  ロビンの顔から笑みが消えた、先ほどまでずっと浮かんでいたものがなくなり真顔になる。本当の意味で勝負の場にロビンが立った、或いはまだ本気ではないのかもしれない、相手が本気になるのは颯乃側はあまりにも未熟だった、それでもなお本気の一端を引きずり下ろすことができたのだ、今。 「内申点、甘くつけてやる」 「俗なものだが……」 「だが嫌じゃあないだろう?」  コインが中空に舞う。  誰もが固唾を飲んだ。 〇 「――ふん」 「颯乃ちゃん勝った割になんか不機嫌っすね」 「……別に」  結局あの茶番劇は10連続成功という形で終わった。  終わった後で気づいた、5分の勝負に持っていったと思っていたがあの場からいくらでもあちらはやりようがあった。或いはあの本気の顔すらポーカーフェイスなのかもしれない。詰め切れなかった実力差という物を感じさせられた、或いはあの状況すらも想定の内だったのかもしれない――。 「だからって放課後まで不機嫌になる必要はないと思うんだけどなー」  有無がどこか呆れたようにそんなことを言う。そしてそれはわかっていた、内心では。わかっていようがそれを割り切れるかどうかは別の話だ。 「今更っすけどド級負けず嫌いっすねえ……」 「それがいいところでもあるんじゃなーい?…ボク達が負けたのはこの勝負強さってところはあるし」  明日子と有無は顔を合わせて頷き合っている、デジタルワールドでの話だろう、悪行を働こうとしているところを見つけ成敗したときのことでも思い出しているのかもしれない。 「あ、颯乃ちゃーん、明日子ちゃーん、有無ちゃーん、ロビン先生呼んでるー!」 「先生が?」  クラスメイトの呼びかけに顔を向けた、帰宅前にかと思いつつ教師からの呼び出しだ、行かなくてはならない。明日子と有無は嫌そうにしているがそれでも生徒である以上無視するわけにはいかない。 「あーだっる、なんで今なんだよー」 「先生空気読めない侍っすねー」  とことん文句ばかりが出るのを聞き流し颯乃は職員室に行く。2階の教室を出て廊下を進む、そのまま一番奥突き当りに職員室はある。失礼しますと声をかけて扉を開いた、広めの部屋に業務用の机がいくつも建ち並ぶ、机の上には書類の他PCが置かれていた。ロビンは奥にすすみ左手側に配置された机の前に座っていた。存外真面目に書類仕事をしている。 「先生」 「お…来たか」 「呼ばれましたので」 「んじゃちと外すか…空いてるところは…視聴覚室だな、最近は使われないんだってな視聴覚」 「は……はあ?」 「まあ話すことは話すさ、すぐわかる」  教室に居たときのおちゃらけた雰囲気は一切感じさせないまま職員室を出る、それについて行く、視聴覚室は3階にあった。今は使われることもなく物置のような形で利用されていた。  ロビンが大きな机に腰を掛けた、行儀が悪いというのにどこかそれを当然のように感じさせるのはロビン自体が元賭博師というアウトローに属する人間だからか。 「さて、と、神田颯乃、三条明日子、末堂有無……いや、こう言おうか、デジタルワールドの冒険者たち」 「ロビン先生……あなたは……」 「こう言う事さ」  どこからか取り出したそれは見慣れたもの、一見玩具にしか見えないガジェットだがある世界においては部類の力を示す、 「どうも後輩、俺も元はデジタルワールドの冒険者……紋章持ち、希望の紋章の元所持者にして…運命のデジメンタルの所持者さ」 「……そうだったか……」 「なんだ、あまり驚かないな」 「なんでだろうか……直感ですね、あなたを見たときに何か…関係ある人間の気がして」 「テイマー同士のあれこれってことかね」  まあいいさ、と、ロビンはあくびをしつつ、 「俺がここに来たのはまあ…腐れ縁の女に下っ端使いされてな、忠告さ」 「忠告?」 「ああ、お前らデジタルワールドに今は戻らない方がいい、ってな」 「……理由は」 「言えない、大人の事情って奴だ」 「酷い話だ」 「ああ、酷いのさ、大人ってのは」  そのままに伸びをする姿を見る。 「色々と金が要るから誘いに乗って教師なんて身分に偽装した、1年間は担任だよ、あんまり手を掛けさせないでくれ」 「……あなたが言うのか」 「当然だろ、何、立場が違えば言う事も変わる、そう言うものだよ人生ってのは」  じゃあ、と、 「いうことも言った、だから後は解散…それと、夜はあんまりで歩くな、子供は寝る時間に寝るものだ」 「……先生、それも忠告の内っすか?」 「そうだ三条明日子」 「ふーん、内容も言わずに触りだけってむしろ興味を引くやり方だと思うんだけどなー」 「天邪鬼だな末堂有無……ま、忠告はした、それだけだ、嵐が過ぎ去るまで何も知らないってのも賢いやり方だぜ、じゃ、俺も仕事に戻るから」  言いたいことだけ言って出ていくロビンを明日子、有無と共に見送った。 「んじゃ2人とも、夜見回りにいこーぜ!」  ロビンが教室から出た瞬間に良い笑顔で有無が言った。 「っしゃー!YO↑A→SO↓BI↑!!」  明日子もそれに同意するように乗った。 「馬鹿かお前ら」  颯乃は返す、頭を抱えて。分かっていた、2人が簡単に言うことを聞くような人格をしていないことを。むしろロビンの言い方では興味ばかりを引いてしまう。 「えー!気になるでしょ!」 「そうだそうだー!」  口をとがらせながら有無と明日子が講義をしてくる、溜息、 「いや、教師の言うことは聞くものだろ」 「くっそ良い子ちゃんめ!」 「くぅ~~!若者の悪い事離れっす!」 「それで私に取っ捕まっておきながらなんて言い草…」 「ちぇー!……でもさ、実際気にならない?」 「何が」  有無が指をたて、 「デジモン専門の辻斬り、タイミングよくあられた忠告者で古い世代の選ばれし子供、なんか出来過ぎてるっていうか」 「……それはそうだが」 「ボクこういう時の嫌な予感って結構外さないタイプなんだよね、厄介ごとに首突っ込んでると鼻が利くんだ」 「お、ウーちゃんの厄介ごとセンサー」 「いえーす…ほっとくとヤバいぜこいつは!って感じで!」  悩む、どう考えても適当な言い訳を並べてるに過ぎないだというのに妙な説得力があった。 「ま、ハっちゃんが来ないってならボクは1人でやるぜー」 「まてーいウーちゃん1人にさせたり何ってしないっすよ!」 「アっちゃん!」 「ウーちゃん!」  わざとらしいやり取りにため息、どう考えても気を引くためのやり口なのが分かりやすい。 「……見て回るだけだぞ」  折れた、折れずにはいられなかった。 「さっすがハっちゃんっ!!話が分かるぅッ!!」 「よっ!剣術美少女ッ!!!」 「わざとらしいんだよ…ついでに言うとお前たち2人を野放しにしておくほうがよっぽど怖いからだ」 「おっとこれは厄介ボムみたいな扱いになってないかなー?」 「してるよ」 「セメントッ!」  別に言いたくて言っているわけではない。    〇  ――4/10 23:00  見回りを始めるのは目撃談があったとされる夜中、23時を回る程度だった。 「ん-、やっぱ家抜けだして夜歩くのって背徳的☆」 「悪いことって楽しいっすよね!」 「馬鹿……」  颯乃はため息をはき天を仰いだ、今日何度目のになるのだろうか、俗説でため息は幸せを逃がすというがならば今日だけでどれだけの幸運が逃げて言っていることだろうか。  夜の街は静寂の内にあった、一切の音など聞こえない、思い過ごしかあるいはすでに辻斬り犯はどこか別の場所に行ったのかもしれない、これならばあまり見回りに労力はいらないと思えた。本当にただ見て回るだけだからだ。 「にしてもあれっすねー、流石にこの時間だと何もないっていうかー」 「ある方がおかしいだろ」 「そっすかねー?おーう出てこい幽霊!不貞デジモン!不審者~!」 「自分からトラブルに突っ込もうとするんじゃない」  癪ではあったがついてきてよかったと思った、この2人だけなら何をしでかすか分からない。 「ん――?」  歩いて数分程度、気付いた音がする。 「どうかしたっすかハっちゃん?」 「お、もしかしてヤバいの見つけた?」 「ヤバいかもしれない」  聞き覚えのある音、金属音だ。それも刃物同士がぶつかり合う。 「――こっちか!」 「あ、ちょ!ハっちゃん!?」 「人に言う割に暴れ馬っすよ!?」  2人の言葉を跳ねのけ走った、音の方へ。  路地裏だった、見る、いた、女が2人斬り合っている。 「あ…」  見覚えがある、見覚えがない、片方はセーラー服を纏う長髪の女、片方は―― 「先輩……」  見覚えがある、見覚えしかない、宮本楓が斬り結んでいる。それも竹刀ではなく真剣だ、すでに両者薄皮1枚の傷が出来ている、服も切れて血が滲んでいる。  一瞬呆けた、光景に唖然としたというのもあるがそれ以上に美しかったからだ。 「ちがっ!?」  理性がすぐに状況を把握させる、理解を取り戻し、 「何やってるんですか!先輩ッ!!」  あ、と声が漏れたのを聞く、剣劇が失せた、 「――無粋が入ったわ」 「――然様」 「決着はまたの機会に、楓」 「ああ…殺子」  セーラー服の女が飛ぶ、残るは楓だ。 「せんぱ――」 「……」  視線、冷徹なそれはきらめく刃の用だ。 「文句は言えない、でも止めてくれなければよかったのに」 「なにを」 「疼きが乾きそうだったあの瞬間、また満たされる前に消えてしまった」 「……」 「じゃあね」  楓が走る、颯乃も追いかけ見失う、撒かれてしまった、 「――何を……」  後はただ唖然と立ち尽くすだけだった。  その日は満月の晩だった、美しき。   〇  ――4/11 12:40 「よ、ぼーっとしてんじゃないっすか」 「寝不足ってわけじゃなさそうだねえハっちゃん」 「……」  翌日の学校で授業を聞き流しながら夜中の事を思い出していた、楓の事、そして斬り合っていたもう1人の剣士の事を。  最初に考えたことは何者かではなかった、自分はあれに勝てるかどうかだった。答えは分からなかった。その後にようやくあれは何かと考え付く、聞こうと思った、朝早くに鍛錬に励んでいる楓に直接問いただそうとして道場へ向かった、いなかった、保護者たちが顔を真っ青にしてむしろどこにいるか聞かれてしまった。  想像はるいた、デジタルワールドだろう。 「クソ……」 「おおういきなり悪態ってのっぴきならないっすねー」 「クールビューティが崩れてるよー 「なんだそれ…まあいい」  恐らくかかわるべきことではないことを理解していた、理性が。しかしいかねば何かもっと悲惨なことが起きるとも思った。かつての自分なら踏み込まなかった、ならば今踏み込もうとしているのはおろかになっているのだろう、それでも良かった。 「時間をかけれないのはもどかしいな」 「……お、ハっちゃん何か決めたんっすね」 「この感じだとデジタルワールド?」  横にいる2人が楽しそうに聞いてきた。 「お前たちには関係ないことだ」 「いーやあるっすね」 「いえーす!」 「なんだっていうんだ」 「そりゃもフレンドが行くってならついて行くに決まってるじゃん!」 「そーだそーだ!」  どこまで言っても馬鹿な答えだ、なら、と、 「勝手にしろ」 「うん、勝手にする」 「っしゃあ!女道中デジタルワールド3人旅っすねえ!」  目的を達する前に胃が壊れるかもしれない、意訳の準備だけはしておこうと颯乃は決めた。