おまけ キュアット探偵事務所には探偵と妖精がそれぞれ4人ずつ住み込んでいるが、個人部屋は4つしかない。 すなわち離れにあるあんなとみくるの個室、事務所にあるジェット先輩の研究室と、るるかとくれあの相部屋である。 ジェット以外の妖精たちに個室が無いのは、彼女達には必ずしも必要無いからだ。 人間達は最低限の寝床がなければ生活するのが困難だが、妖精たちは体が小さいため、人間用のベッドが無くても眠ることはできる。 彼女達からすればソファや椅子でも十分手足を伸ばして寝転がれる広さがあるし、なんなら人間用の枕やクッションをそこらに置くだけでも何とかなるのだ。 ジェットも基本的に寝る時は妖精の姿に戻るため、研究室にはソファがあるだけでベッドは用意されていない。 妖精たちはお気に入りの場所こそあるものの、決まった寝床を持たず、その日の気分や状況次第で事務所や離れのソファに寝たり、人間たちのベッドに入り込んで寝たりするのだ。 くれあのおとも妖精、シュシュタンももちろん例外ではない。 彼女はその晩、くれあのベッドを間借りして眠りたい気分だったようだ。 「……シュ。くれあ……読み終わったでシュ?」 「うん。なんだかすごい展開になってきちゃったわね……」 くれあは胸の上で読んでいた本を閉じると、ベッドサイドのテーブルに置いた。 タイトルは探偵エリーの事件簿、彼女の愛読する探偵小説である。 「ここにきてどんでん返し……まさか猫がこんなことになるなんて」 「……続き読んじゃうでシュ?」 「んん……でも1日1章って決めてるから……」 「……それにここでやめないと、たぶん最後までノンストップでシュ」 シュシュタンはくれあの隣で顔を寄せ、自分も本を覗き込んで読んでいた。 彼女も小説を好んで読むため、くれあが本を開く時は隣で一緒に楽しむのが昔からの習慣となっていたのだ。 くれあは軽く伸びをすると、枕に頭を下ろして毛布を引き上げる。 「……じゃあ気になるけど、そろそろ寝ましょうか。興奮して目が冴えちゃったけど……」 「わかる……エリーの夢見そうでシュ」 「シュシュタンは今日ここで寝るの?」 「……いいでシュか?」 シュシュタンはくれあの肩に両手を添え、少し上目遣いに顔を覗き込んで言った。 くれあは彼女の前髪を軽く撫で、にっこりと笑って答える。 「もちろん。おやすみなさい、シュシュタン」 「シュシュ〜! おやすみでシュ〜!」 シュシュタンは嬉しそうに微笑み、より体を密着させた。 その頭上から、不意に彼女とよく似た声が降ってくる。 「……ちょっと待って」 ふたりが目を開けて見上げると、ベッドの脇には彼女達の同居人──るるかが憮然とした顔で立っていた。 彼女のベッドは部屋の反対側に用意されているが、ふたりの話を聞いて抜け出してきたようだ。 「なんであなたがそこで寝るの?」 「シュ〜? くれあのおとも妖精なんだから当然の権利でシュ?」 「……質問を変える。なんで人間の姿のまま寝ようとしてるの」 平然と返すシュシュタンを、るるかは少しむっとした表情で指差した。 シュシュタンは本来の小動物のような妖精の姿には戻ろうとせず、人間の姿のままくれあに寄り添っている。 彼女達の見た目はぱっと見分けが付かないほどにそっくりで、何も知らない者がみれば双子か何かだと思うだろう。 シュシュタンはるるかが絶対にしないような皮肉っぽい笑顔を浮かべ、手をひらひらと振りながら答える。 「何か問題が? 人間がふたり寝るのに十分な広さのベッドでシュけど?」 「妖精に戻った方が広く使える。狭苦しく寝るより良いでしょう」 「私は別に、そこまで狭くは感じないけど……」 「ほーら、くれあもこう言ってるでシュ」 「……そうだとしても、人間の姿になる必要性がない」 食い下がるるるかに対して、シュシュタンはやれやれと首を振りながらため息をついた。 「はぁ……最初から毛皮が無い人間にはわからないでシュよねぇ。この姿の素晴らしさが……」 「……どういうこと?」 シュシュタンはくれあの手を取ると、手首に軽く頬擦りしながらうっとりとした顔で答える。 「人間同士は肌が直接触れ合って、体温や感触をよりはっきりと感じられるんでシュ……毛皮越しに触れるのとはわけが違うんでシュ……」 「へぇ……妖精の姿だとそんなに違うものなの?」 「人間で言えば、全身どこを撫でても頭を撫でられてるような感覚でシュ」 「なるほど……」 「……わかったから、私の顔で変態みたいなことするのやめて」 「ははーん? るるかは嫉妬してるんでシュ〜?」 うんざりとした表情のるるかを楽しげに見つめながら、シュシュタンはこれ見よがしにくれあにくっついて言った。 「この前のこともずいぶん怒ってたし、ナイスバディになったシュシュタンにくれあが取られると思って焦ってるんでシュ!」 「もう……あの時のこと話すのはやめてよ、恥ずかしいから……」 「大丈夫、何をしたのかるるかには秘密でシュ♪」 「…………」 数日前、まさにこのベッドの上で行われた誘惑について、るるかは詳しいことを聞き出したわけではなかった。 気にならないと言えば嘘になるが、シュシュタンとも和解した手前根掘り葉掘り問い詰めるのも失礼かと遠慮したのである。 しかしだからこそ、るるかの中にはまだモヤモヤとした感情が溜まったままになっていた。 耳を赤くしながらシュシュタンをたしなめるくれあの横顔を見て、るるかの中のモヤモヤが再び渦巻きだす。 そしてそのせいか、彼女らしくもない悪態が口をついて出る。 「……ほとんどドラえもんみたいなプロフィールのくせに」 「なっ……!?」 未来からやってきた青いたぬきであるシュシュタンは、がばっと起き上がってそれに噛みつく。 「ドラえもんはねこ! シュシュタンはたぬき! 一緒にしないで欲しいでシュ!!」 「その視点からの怒りはなんか新鮮ね……じゃなくて。ふたりとも喧嘩しないの、もう」 「……ふん! るるかはさっさと自分のベッドに戻るでシュ。くれあはシュシュタンと寝るんでシュ!」 「…………」 むくれたシュシュタンを不満げに見下ろしながらるるかは少しの間考え込んでいたが、やがて覚悟を決めたような表情でひとつ息をついた。 そして彼女は自分のベッド──ではなく、くれあのベッドに膝をのせて毛布を持ち上げ、おずおずとその中に潜り込んだ。 「シュ……?」 「え? ……る、るるか!?」 「……私にだって、このベッドで寝る権利は、ある……!」 驚くふたりに対して、るるかは顔を真っ赤にしながら言った。 「こっ……恋人だから……」 「……!!」 キメたつもりが思い切り噛んでしまったことの恥ずかしさで、るるかの顔はさらに耳まで赤くなる。 対するくれあも、ほんのりと頬を染め、驚いた表情で固まっていた。 それは普段の大人びた雰囲気とは異なる、少し幼い印象の顔だった。 「……ふーん」 シュシュタンはどこか嬉しそうに目を細め、くれあの耳越しにるるかを見つめながら言う。 「そういうことなら良いけど。私も退く気はないでシュよ?」 「……別に良い。でももう少し詰めて、さすがに狭い」 「あ、ちょっと、るるか……」 るるかはくれあの懐に入り込むように、体を押し付けてベッドの中央へ寄せた。 「やーでシュ。こっちもあんまり動くと落ちちゃいそうでシュ……」 「……あっ、シュシュタン……!」 シュシュタンの方も対抗して体を寄せる。 くれあはふたりの体に挟まれるようにして、ベッドの中央でぎゅうぎゅうと押し潰された。 胸元にはるるかの顔が押し付けられ、淡い色の髪から甘く芳しい香りがふわりと漂う。 背中からはシュシュタンの体の柔らかい感触が伝わり、特に胸のあたりの弾力が、敏感になった背筋を刺激する。 「あっ……」 「う……シュシュタン、蹴らないで……!」 「脚が毛布からでて寒いの。もうちょっとそっち行くでシュ……!」 「ね、ねえ……ふたりとも……」 文句を言うるるかの口がもぞもぞと動くたび、くれあの喉元を温かく湿った吐息が逆撫でしていく。 足元ではシュシュタンのひんやりとした足がパジャマからはみ出した脚に絡みつき、柔らかいふくらはぎをすりすりと擦り付けてくる。 そして彼女のお尻には、前後から挟み込むようにしてふたりの腰が押し付けられていた。 「あっ……るる、か……っ……」 「……ごめん、苦しい……?」 顔を赤くして呻くくれあを上目遣いに見上げ、るるかは少し不安げに言った。 くれあがそれに答える前に、シュシュタンが彼女の肩に顎を乗せるようにして、るるかの顔を覗き込む。 「そう思うなら、自分のベッドに戻ったら良いでシュ?」 「……それは、嫌」 「はぁ……相変わらず頑固でシュ」 「……っ……!」 シュシュタンの胸がさらに背中に押し付けられ、ため息が耳の裏をくすぐっていく。 くれあはその感触に身悶えしながら、肩越しに言い合うふたりの声をどこか遠くに聞いていた。 ──彼女がシュシュタンの同衾に無頓着だったのは、あくまでおとも妖精だと認識していたからに他ならない。 いくら見た目がるるかとそっくりに成長したからといっても、その甘えたな言動や仕草は可愛らしい豆狸の面影をどこかに残していた。 白るるかとして恋人を演じていた時ならばいざ知らず、内心を素直に曝け出している今ならば性愛の対象になどなり得ない……と、そう思っていたのだ。 しかし、るるか本人が同時に居るとなれば話は変わってくる。 シュシュタンの肉体はるるかと見分けのつけようがないほどにそっくりで、それどころか肌の感触や柔らかさも、汗の香りさえも全く変わらない。 ふたりの体温と匂いはくれあを包んでひとつに溶け合い、彼女はまるで全身がるるかの中に埋もれているような錯覚を覚えていた。 「……あ……っ……はぁ……っ」 くれあの息遣いは段々と荒くなり、金色の瞳は熱に浮かされたようにふらふらと揺れている。 鼻腔はほんのりと甘い百合のような香りに埋め尽くされ、頭の中はぼんやりと霞がかっていく。 普段の彼女を知的で大人びた上品な女性たらしめている理性の籠が、少しずつその扉を開き始めていた。 そんなくれあの様子に気付かないまま、るるかとシュシュタンはまだ子供じみた小競り合いを続けている。 「……だいたいるるかは口下手過ぎるんでシュ。さっきのはなんでシュか? こっ……!って」 「なっ……! べ、別に良いでしょ……! あなただって、ですってちゃんと言えないじゃない……!」 「……私はやろうと思えば普通にしゃべれるけど? もう大人ですから」 「えっ? ……じゃあいつもあえて幼児語で話してるの?」 「るるかと区別を付けやすいように、わざとそうしてるんでシュ! 仕方ないでしょ、おんなじ顔なんだから」 「それはそうだけど……でも」 「……暑い」 ぼそりと呟かれたその言葉に、るるかとシュシュタンは思わず同時に口を噤む。 それは小さな声で口調も穏やかだったが、何故かふたりを黙らせるのに十分なほどの迫力があった。 くれあは硬直しているふたりの間からゆっくりと身を起こし、ベッドの上に座り込む。 そして彼女は無言のまま、パジャマのボタンを上からひとつずつ外していった。 「……く、くれあ……?」 恐る恐る声をかけたシュシュタンを振り返りながら、くれあは上着をするりと肩から落とす。 彼女はふたりににっこりと微笑みかけ、もう一度同じ言葉を繰り返した。 「……暑いよね?」 その右眼がぎらりと光ったように見え、シュシュタンは息を呑む。 一方惜しげもなく晒された白い肌と下着から思わず目を逸らしたるるかは、その一瞬の隙を突かれて一息に距離を詰められる。 くれあは彼女を押し倒すような形で覆い被さり、その少し汗ばんだ首筋に指先を沿わせながらそっと囁く。 「るるかも脱いだら? ……あんまり汗かくと寝冷えしちゃうわ」 「え……? えっ……と……」 「今更恥ずかしがることないでしょ……?」 「……で、でも……」 るるかは横目でシュシュタンを見ながら言い淀む。 先ほどは恋人などと大きく出たものの、さすがにおとも妖精の目の前で“そういうこと”に及ぶとは思わなかったのだろう。 くれあは顔を赤くして固まっているシュシュタンに視線を移すと、くすりと微笑んだ。 「……シュシュタンも脱ぐよね?」 「……シュ……!?」 「え……!?」 驚くふたりをよそに、くれあはズボンも脱ぎ捨てながら今度はシュシュタンの方へとにじり寄る。 「肌が直接触れ合うのが……好きなんでしょ?」 「あ……く、くれあ……?」 慣れた手つきで彼女の服を脱がせると、柔らかな肌に細長い指をそっと這わせる。 びくっと震えて縮こまるシュシュタンの体を解きほぐすように、そしてその感触を味わうように、くれあはゆっくりと彼女の体を愛撫した。 「ひっ……あ……」 「その気持ち、わかるなぁ……」 「……んっ……!?」 開いた腕の中に滑り込むようにして、くれあはシュシュタンの細い体を抱き締める。 露出した肌が擦れ合い、彼女は思わず喉の奥から声を漏らした。 少し冷たい指先が触れた時とは違い、温かく脈打つ胸や腹は溶け合うように彼女の体を包み込む。 シュシュタンは全身から力を抜いて体を預け、弛緩した口から甘えた声を出して主人の名前を呼ぶ。 「……くれあ……♡」 「ふふっ、良い子ね……あら?」 「…………」 くれあが満足そうにシュシュタンの髪を撫でていると、その後ろからもうひとりのパートナーが寄り添って来る。 背中に押し当てられた胸の感触が布越しではないことに気付き、彼女は嬉しそうにくすくすと笑って振り返った。 「どうしたの……?」 「…………」 るるかは不満そうな顔で何か言おうとしたが、結局何も言えずに口を閉じる。 そして彼女は文句を言う代わりに、くれあの頭に手を添えて自分の方へ引き寄せながら、可笑しそうに微笑む唇に自らの口を重ねた。 ささやかな嫉妬をぶつけるように舌を伸ばし、小さな口の中へ押し入って行く。 その可愛らしい独占欲がくれあの母性と劣情をさらに掻き立て、ふたりの舌の交わりは段々と激しさを増していった。 「あ……」 一方くれあに寄り添うシュシュタンは、目の前で始まった行為から視線を逸らせずにいた。 るるかをからかっている時は色々と大きな口を叩いているものの、彼女にとって主人はあくまで主人。 恋人だと思っているわけではない。 もしくれあがるるかとふたりだけの時間を楽しみたいのであれば、自分は妖精の姿に戻って枕元に控えていよう……と、それくらいの心積もりでいたはずだ。 しかしマコトジュエルを通じて何度も繰り返し刻み込まれたるるかの記憶がそうさせるのか、あるいは肉体の成長に伴ってその情緒も変化しているのか──シュシュタンは動くことができないまま、ただくれあの横顔を見つめていた。 「……はぁっ……んっ……るるか……っ」 覆い被さったるるかの髪の隙間からちらちらと覗く彼女の表情は、シュシュタンがこれまで一度も見たことのないものだった。 穏やかな優しい少女の顔でも、冷静で思慮深い探偵の顔でも、凛々しく勇ましい戦士の顔でもない、どこか獰猛な印象の笑顔。 長い時間を緩やかに生きる妖精とは違い、短い生涯のなかで激しく命を燃やす人間の、本能的な歓びに満ちた顔。 マコトジュエルが見せる記憶の中、るるかが部屋の灯りを落として瞼を閉じたその向こうで、くれあがそんな──女の顔をしていたことを、シュシュタンはその時初めて知ったのだ。 「……っ……?」 彼女は体の奥の方で、何かが疼くのを感じた。 それは決して不快ではなく、むしろもっと感じていたくなるような──それでいてどう掴めば良いのかわからずもどかしくなる、そんな感覚。 シュシュタンはふたりから目を離せないまま、ベッドの上でもぞもぞと身を捩る。 するとくれあは、視線だけを彼女の方へちらりと向けた。 そのどこか物欲しそうな顔を見て、嬉しそうに目を細める。 「……ごめんね、るるか。ちょっと待ってくれる?」 「え……?」 くれあはるるかの顔が離れたタイミングで手を持ち上げ、人差し指で彼女の鼻をつんと突いた。 思わず怯んだ隙にするりと身をかわし、くれあは身を起こしてベッドに座り込む。 そして彼女はシュシュタンの肩に手をかけると、その体を優しく抱き起こした。 力が抜けていたシュシュタンは、抵抗できずにくれあの胸へ背を預ける。 「シュ……!?」 「……どうしたの?」 「そういえば、さっき喧嘩してたなぁ……と思って」 困惑するふたりに対し、くれあは薄く微笑みながら言った。 「私、るるかとシュシュタンには仲良くして欲しいなぁ」 「そ、それは……」 「……だから、もっとお互いのことを知るために。あなたの身体のこと……この子に教えてあげたらどうかな、って」 「……!」 言い淀むるるかをよそに、くれあはシュシュタンの肌を撫でながら意味深な言葉を投げかける。 天才と謳われた名探偵であるるるかはそれだけで何かを察したようだったが、シュシュタンはピンと来ない様子でされるがままになっていた。 そんな彼女に答えを示すため、くれあは彼女の下着に指をかけてゆっくりと引き下ろす。 「……あっ……!」 その布地と肌の間に引かれた透明な粘液の糸を見て、シュシュタンは頬を朱く染めながら小さな声を上げた。 それが何なのか、知識の妖精である彼女はもちろん知っている。 だが知識として知ってはいても、まだ実感を伴ってはいなかったのだろう。 咄嗟に隠そうとした手を優しく退けながら、くれあはシュシュタンの耳元でそっと囁く。 「恥ずかしいことじゃないのよ。人間の身体は期待するとこうなるものなの」 「ち、違っ……期待なんて……」 「大丈夫、怖がらないで。……あなたも一緒に気持ちよくなりましょう?」 くれあの手がシュシュタンの脚を広げると、彼女は真っ赤になった顔を手のひらで覆った。 くれあは彼女の髪を愛おしそうに撫でながら、じっとりとした視線をるるかへ向ける。 「私達に任せて。……あなたの身体のことは、るるかがよく知ってるから」 るるかはその言葉を聞いて、くれあが何を言いたいのか──そして何をしたいのか、改めてはっきりと理解した。 それに従った結果自分がどうなるのかを思うと、正直あまり乗り気にはなれないだろう。 だが彼女はどんな時でも、くれあの望みを断ることはできないのだ。 るるかは鏡に映った自分のような姿のシュシュタンに無言のまま近付くと、右手の中指を彼女から滴る液体の中に差し入れた。 「ひぅっ……!?」 「……じっとしてて」 びくっと体を震わせたシュシュタンに囁きながら、るるかは指を動かし始める。 初めは粘液を指に纏わせるように、小さく円を描くような動きで鞘に包まれた部分を触っていく。 そして人差し指と中指の先が十分に濡れると、今度はそれを挟み込むようにして刺激する。 そうしてるるかが指の使い方を変えながら動かすたびに、シュシュタンは小さな嬌声をあげて体を痙攣させた。 「ふふっ……私も手伝うね?」 くれあはその様子をじっと観察しつつ、両手をシュシュタンの胸に這わせる。 るるかの動きにリズムを合わせ、先端を指先で優しく弾いたり、全体をじっくりと揉みほぐしたり、繊細な手つきで弄ぶ。 「もっとリラックスして……そう。身を任せていいの……」 くれあはシュシュタンの耳にそう囁くと、舌をその縁に這わせた。 妖精の姿のときはもふもふとした耳を持つ彼女にとって、未知の感覚がその体を襲う。 「───っ!!」 背を反らせ、声にならない声をあげる彼女を見てるるかは思わず息を呑む。 だがその指の動きはさらに激しさを増し、ついに奥まった場所にある敏感な部分にまで手が伸びる。 「……っ! あ……だ、だめ……そこ……」 くれあはシュシュタンの耳を甘噛みしながら、それまでとは違った反応を示す彼女を見て瞳をきらめかせた。 視線を落とし、るるかの指をじっと見つめる。 「な……何か、来そう……! 待って、るるか……っ!」 「……大丈夫。わかってる……」 「や、やだ……やだやだ、だめ、来ちゃう……!」 シュシュタンの言葉を無視して、るるかは指を動かし続けた。 すると間もなく、彼女はくれあの腕の中で背中を丸め、2、3度大きくその身を震わせる。 同時に、ぽんっという小さな破裂音が部屋に響く。 「……あら?」 くれあが驚いた顔で目をしばたたかせる。 シュシュタンはるるかと瓜二つな人間の姿を保ったままだったが、その頭頂部には白くて丸いふわふわとした耳が現れていた。 そしてそのお尻からは、青い毛皮に覆われた大きな尻尾がもこもこと生えてくる。 「わ、とと……!」 伸び続ける尻尾に体を押され始め、くれあは慌てて彼女の体をベッドに横たえた。 シュシュタンは丸めた体を時折痙攣させながら、身の丈ほどもある尻尾を完全に露出する。 「気持ち良くなるとこうなっちゃうのね……ふふ、可愛い……」 くれあは朦朧としている彼女の頭をそっと撫でて言った。 そして今度はるるかの方に視線を向け、にっこりと微笑む。 「……あなたはどうなるのかしら?」 「……っ!」 下着を脱ぎ捨ててにじり寄ってくるくれあを見つめながら、るるかは今自分が置かれている状況に思いをはせる。 先ほどくれあが言った通り、彼女はシュシュタンの体のことを知り尽くしていた。 どこをどう触れば一番気持ち良く感じるのか、隠れて見えない場所まで含めて何もかも。 それはもちろん、ふたりの身体がほとんど同一の物だからだ。 初めて触るはずのシュシュタンを簡単に絶頂まで導いたのも、いつも自分を慰めるときのやり方をそのままやってみただけに過ぎない。 そしてその結果、彼女達は性感帯に至るまでそっくり同じ場所にあるということが証明された。 つまり今るるかがくれあの目の前でしたことは、彼女がどこをどう触るとどのように鳴くのか、みずから洗いざらい白状したようなものなのだ。 おまけに誰よりも共感しやすい鏡写しのようなシュシュタンの姿は、彼女の身体を期待で温めきっていた。 「……ずるい」 さっきとは逆に押し倒されながら、るるかは小さく不満を漏らした。 くれあはきらきらと光を反射する金色の瞳で彼女を見下ろし、笑いながらそれに答える。 「……わかってたでしょ? あなたなら」 「…………」 るるかは返答の代わりに、口を小さく開いて彼女の舌を受け入れた。 くれあの長い指先が蕩けた恥部に這い寄り、溢れ出す粘液を絡め取るようにくるくると動く。 彼女の確かな観察眼と器用な指先は、るるかがシュシュタンに対して行ったことを正確に再現し、同じ大きさの快楽をその身体に返していく。 先ほどと違うのは、口を塞がれて嬌声をあげられないことくらいだろう。 しかし人間の身体とは不思議なもので、自分の写し身を見ることで散々期待に焦らされた彼女の感覚は、実際に与えられたものよりもさらに大きな快感を意識へと伝えていた。 くれあが顔を離すと、るるかは大きな声をあげて背筋を反らしベッドの上で跳ね上がる。 彼女はいっそ苦しそうにも見える表情で喘ぎながら、涙をたたえた瞳でくれあを見上げていた。 その顔には、名探偵としての自信や矜持など欠片も残っていない。 「可愛い……♡」 先ほどと同じ言葉を呟き、くれあは満足そうに笑った。 だが不意にその表情から余裕が消え、彼女の喉からも声にならない声が漏れる。 「んっ……!? ───っ!!」 「……?」 るるかには彼女に何が起きているのかわからなかったが、くれあ自身はわざわざ目を向けなくともその理由に気がついていた。 彼女のお尻には誰かが両手を添えている感覚があり、そのちょうど中間で這いずる舌の感触が、興奮で感じやすくなっていた体を頭の先まで貫いてきている。 それがついさっきまで丸くなって転がっていたシュシュタンであることは、もう確認するまでもないだろう。 彼女はいつの間にか目を覚まし、るるかに夢中になっていたくれあを背後から攻め始めていたのだ。 ……いや、攻めるという表現はあまり正しくないかもしれない。 それがあくまで主人に対する奉仕の心から来る行動であることは、繊細で丁寧な舌使いからくれあにも伝わっていた。 いつも彼女の言葉を素直に聞いているシュシュタンが、起きた時目の前に居た主人の様子を見て“期待”していると受け取っても無理はない。 実際に経験したことはなくとも、知識の妖精である彼女の頭にはそういった奉仕のやり方に関する知識も収まっていたのだろう。 だからくれあはシュシュタンの行いを止めるようなことはしなかったし、かといって自分の手を止めるつもりもなかった。 腰が砕けそうなほどの快感に耐えながら、その指先は淀みのない動きでるるかを愛し続ける。 そうしている内に、くれあはむしろ今までにない満足感に包まれ始めていた。 ふたりの性別のせいもあって、くれあとるるかの行為は非対称なものになることが多い。 もちろんくれあはそれを不満に思ったことはなかったし、自分の腕の中で悦ぶるるかを見られれば十分満足だった。 しかし相手と同じ気持ちでいられることが、嬉しくない恋人達など居るはずもない。 「あっ……くれあ……っ! ……すき……っ」 「……んっ……ふふ。……私も好きよ」 珍しく名前を呼びながら伝えられた想いに対し、くれあは汗ばんだ頬に微笑みを浮かべて返す。 シュシュタンの動きが段々と慣れてきたのもあり、自分にも既に余裕がないことを察すると、くれあはるるかの一番弱い部分へと指を伸ばした。 「るるかっ……一緒に……!」 「───っ……!!」 再び唇を重ねながら、ふたりはほとんど同時に絶頂する。 脱力したくれあはるるかの上に覆い被さるようにして力尽き、しばらくそのまま余韻に浸っていた。 やがて彼女の隣にシュシュタンが這い寄ってきて、そっと顔を覗き込む。 くれあはそれに気が付くと、ごろんと仰向けになって彼女に視線を向けた。 「くれあ、気持ち良かったでシュ?」 脇に寄り添って無邪気な笑みを浮かべるシュシュタンに、くれあは優しく微笑み返す。 「うん。ありがとう、シュシュタン」 「シュシュ! ……ご褒美に、もっと甘えても良いでシュ?」 「? もちろん良いけど……」 「シュ……」 シュシュタンはくれあの胸へおもむろに顔を近付けると、乳首を口に含んで吸い始めた。 しかしそこから何かをするでもなく、きっと純粋に甘えたかったのだろう。 目を閉じ、満足そうな顔で一心不乱に吸い続けている。 「ん……あらあら。赤ちゃんみたいねぇ」 くれあはくすくすと笑いながら、シュシュタンの頭を優しく撫でた。 そしてふと横を見ると、るるかがその様子をじっと見つめていることに気付く。 「……るるかもやってみる?」 「えっ……わ、私は……」 るるかは予想外の誘いに戸惑いつつも、はっきり断れずにしばらく逡巡していた。 しかしシュシュタンの幸せそうな横顔が羨ましくなったのか、やがて恥ずかしそうに顔を赤らめながらもう片方の乳首を口に含む。 くれあはふたりの顔を愛おしそうに眺めながら、両手でそれぞれの頭を撫で始める。 「……なんだか双子のお母さんになったみたい。ふふっ」 るるかはその言葉に何か言い返そうと目を開いたものの、結局何も言わずに再び目を閉じた。 きっと、思いの外快適だったのだろう。 そうして静かになったふたりの部屋で、人間と妖精たちの夜は緩やかに更けていった。 終わり