「申し訳ありません。あなた方には死んでもらいます。これも上官の命令なので理解してください…」 ラボから出て行こうとするメトリとフリッツ博士の前に血色の悪い顔色の男が立ちはだかる。そしてその背後には10体ほどの合成獣人たちも控えている。 メトリと博士は各々武器を構える。だが血色の悪い顔色の男ことカイモス=カルディウス准尉はそんなのは無駄とばかりに手を振りかざしながらそれを制する。 「そこにいらっしゃるのは高名なフリッツ博士でしたか…。お初にお目にかかりまして光栄ですが、ここでお別れとなるのは非常に残念です」 「あなた方のアジトの場所は数日前から捕捉しておりましたが、無駄に強いお仲間たちのせいで襲撃には待ったがかかっておりました。ですが奴等がいなくなった現状なら何の問題もなく始末できます。あなたの頭脳を失うのは非常に残念ですが、敵関係者は全て葬り去れという命令ですので申し訳ありません…」 この難局をどう切り抜けるか…メトリと博士が脳細胞をフル回転させている時、彼らの背後にある治療用カプセルが解放される音が聞こえた。 ヒタッヒタと何かが近づいてくる音がする。予想外の出来事にカイモスは困惑した表情を現す。 すると背後の何者かはこう叫びながら合成獣人たちの群れへと突撃するのであった。 「にょわ~☆」 それは眠りから目覚めたスヮリゲーターであった。 彼女はショルダータックルで最前にいた獣人を吹き飛ばすと、その傍らにいた別の獣人の頭を壁に叩きつける。まるで魔昭和の悪役レスラーのような狂乱ファイトに周囲は息を飲む。 「メトリちゃんにお爺ちゃん☆待たせたにぃ☆ 今からこいつ等み~んなやっつけちゃうにぃ☆」 自分の知っているスヮリゲーターと同じ口調を話す姿を見てメトリは安堵するのであった。    *   *   *   *   * 狙撃手の放つ弾丸がアーマーを弾く。それを見て飛び掛かろうとする合成獣人を俺は切り捨てる。 そこを狙い次弾が撃たれるが俺は瀕死の獣人の体を盾にしてそれを防ぐ。そんなことを一体何度繰り返したのであろうか。 50体ほどいた合成獣人たちも残り10体までに減っていた。 個人的な体感ではあるがその半数を始末したのは伍號の狙撃と拾弐號の爆炎がもたらしたのが実に皮肉な話である。 人造勇者たちは攻めるのは得意でも守りには不慣れなのであろう。この連携の取れなさはまさに致命的である。 この壊滅的な状況を見て捌號はこう言い出す。 「もういい、ボクがやる…。二人とも手を出さないで!」 捌號はすぐそばにあったビルの残骸へと手を当てる。 「ミレーンさん!上!」 ライトが俺に注意を則すと上空から大量の瓦礫が俺たちを狙って落ちてくる。俺たちは獣人や狙撃手の存在を忘れとにかく逃げ回る。 「こいつは捌號の仕業か…」 この悪夢のような状況ではあるが、反面二つのメリットを俺たちにももたらしてくれた。 一つは物陰が出来たことにより伍號の狙撃が収まったこと。もう一つは合成獣人の残存兵力を瓦礫が全て叩き潰してくれたことである。 だがこのまま逃げ回るだけでは何の進展もない。スナイプの奴は一体何をやってるんだ…。    *   *   *   *   * 突如空間が開きそこから降り注ぐ瓦礫の山を見てスナイプは困惑する。 「くそっ!捌號の仕業か…」 当初はミレーンたちを阻む狙撃手である伍號をターゲットとしていたが、より厄介な物理的絨毯爆撃を食らわすこちらの方が排除の最優先事項へと移行した。 スナイプは周囲を見渡す。すると瓦礫が降り注ぐ瞬間、朽ち果てたビルが消えるエリアを発見する。 恐らく敵はそこにいる…。スナイプは試作聖剣と呼ばれるライフルを構え、自身の持つ鷹の目のスキルでその周囲を探る。 「見つけた…」 スナイプの鷹の目に捉えたのは一見女児とも勘違いするような童顔の女性。そう人造勇者捌號キューケン=ピープ少尉であった。 スナイプは引き鉄に指を当てるも一瞬躊躇をする。今撃てば捌號を始末できるが代わりに伍號には自身の位置を知らせることになる。 狙撃手同士の戦いにおいて自身の位置を把握されることは致命的なミスとなるからである。 スナイプは呼吸を整えると意を決する。 「ええぃ!ままよ!」 スナイプが引き鉄を引くと弾丸は捌號のどてっ腹を射貫く。その状況を目撃した漆號は捌號の体を物陰へと移動させる。 「おい!大丈夫か!キューケン! あいつらスナイパーまで仕込ませてたのか!」 捌號への弾着を確認するや否やスナイプの元へ遠方からの弾丸が撃ち込まれる。それは自身の位置を捉えた伍號によるものであった。 「くそっ!だからやりたくなかったんだよ!」 スナイプは必死に逃げながら次善策を絞り出そうとしていた…。 息絶え絶えになりながらも捌號は漆號と陸號を手招きする。 「ごめん…。もうヤバいかもしれないから二人をあっちに送るね…。後は任せたよ…」 捌號が漆號と陸號の肩を抱き寄せると、二人の体は平原に突如現れた瓦礫の山へと移動する。 そしてその目前にはところどころ破損した黒い甲冑を纏った男が見える。 「「見つけたぜ…。ケリをつけようじゃないか!」」 散々お預けを食っていた漆號と陸號の顔からは、溜め込んでいた怒りと歓喜の表情が浮かぶのであった…。   *   *   *   *   * 遠くに轟音を耳にしながら荒野を駆け抜ける。光学迷彩を施したブランケットを纏いながら…。 「ミレーンくんたちは上手くやっているようだな…。私もそれに応えないと…」 ミレーンたちとは別の場所からグラウンド666へと侵入したシュウであるが、予想外なほど順調に星骸炉へと近づいて行く。 ミレーンたちの陽動作戦が想定以上の成果を見せているようだ。 シュウが現場に辿り着くとすでに星骸炉の中には魔王モラレルがスタンバっており、ストロングな奴を飲みながら退屈そうにしていた。 同行していた技術官がラーヴァの生首を炉心の上部にあるスペースへと安置する。 どうやら事態は思った以上に進行しているようだ。 礼服に着替えたドクトル・パンドラが人造勇者壱號ことアインス=ドナー大尉を呼び寄せる。 「では、これから儀式を始めます…」 炉心へ向かって神妙な面持ちをしたアインスがやって来る。殺るのは今しかない! 「すまないが死んでもらう!」 シュウはアインスたちの道中に現れると持っていた拳銃の弾丸を乱射する。 周囲にいた技術官たちは被弾し、アインスにも3発ほど食らわせている。奇襲としてはこれ以上ない成果ではあるがまだ事態は終わっていない。 アインスは反撃の電撃を射出するがシュウはそれを反転のスキルで返す。 アインスの瀕死の姿を見たあの男が動き出す、そうシュッツガイストだ。 彼は高速の動きでシュウの腹部に膝蹴りを入れる。 『悪いですが。ここはあなたに行かせるわけにはいきません』 シュウが反転の能力で反撃しようとするも、すでにシュッツガイストは背後に回っており更なる打撃を加える。 『ドクトル!早く儀式を済ませなさい!』 パンドラは福音書を開き、大量の血を流すアインスに祝詞を施す。 すると星骸炉が音を立てて動き始める。そしてアインスの脳裏に『いい?準備はできてる?』という言葉が聞こえたと思った瞬間、膨大な量の情報が脳を通過する。 それはまさしく頭が焼き切れるという表現がぴったりの仕打ちであった。だがそれを通過したアインスの姿は一変した。 腹部に受けた傷が自然に治って行く。全身から力が満ち溢れる。 そうこれが星皇の誕生の瞬間であった…。 (続く)