「機械というのはアップデートが簡単にできるんだよ…。私の目も装備もお前の知っていた頃とは全然比べ物にならないのさ漆拾漆號!」 人造勇者伍號トラウアーゲサング少尉がそうつぶやくと、右目に装着されたカメラアイにある多種多様なセンサーの一つから人間の耳には聞こえない特殊な超音波が発射される。 それは現在スナイプが潜む遠く離れた場所にあるビルに当たると反響で返って来る。 この仕組みは潜水艦などに使われる反響音を受信して物体との距離や方角を探るアクティブソナーという探知装置に近く。 伍號の使う装置はさらに高性能で、反響音を解析し状態をビジョンとして見せることができる。 これは元々音楽家だけあって聴覚が鋭敏な彼女の特性を利用した物であり。 高出力の試作聖剣でビルに大穴を開けてたのは、内部の様子を探るための超音波の通り道を作っていたのだ。 一方本来性能が上であったはずの後期型人造勇者でもあったスナイプは追いつめられつつあった。 「こいつはもう技術とか経験とかの問題じゃない。明らかに何か違う高性能なアイテムを使っているようだな…」 座して死を待つかそれとも一矢報いるか…。 とにかく必死に逃げ回るという手もあるが、あの執念深い連中がどこかで自分を見つけたら、その時は確実に最期を迎えることになるだろう。 一矢を報いるにはまず敵の正確な位置を見つけなければならない。 もちろん今まで散々撃たれてきたおかげで大まかな方角やエリアは特定出来ているが、潜んでいる当人の姿は全く陰も形も見えないのだ。 足の爪先程度でも構わない、ほんの少しでも姿が見えてくれたら…。なら誘き出すしかないな…。 スナイプはプランを考える。こちらが仕掛ける前に撃たれてしまっては意味がない。 とにかく敵を混乱させ躊躇させ、こちらが探りを入れる時間を長く作れるようにする。 そして見つけ次第即発射できるように準備を済ませておくことだ。 自分とて軍人ではなくなったが、冒険者としていくつもの死線を潜り抜けてきた男である。 格上の相手に当たるための引き出しはいくつか持っている。 スナイプは試作聖剣のモードを連射に切り替える。残弾は残り二発、敵を見つけ次第一気に勝負をつける腹だ。 道具袋の中からドリンク缶サイズの金属の塊を取り出す。そして安全ピンを抜くと窓側にある部屋の中に目がけて投げ入れる。 するとそれは破裂し、轟音と閃光そして煙幕が広がる。これは目くらまし用のアイテムでスタングレネードと呼ばれる物である。 突然放たれた閃光により伍號の視覚に強烈なノイズが入る。 さらに轟音はソナーの音波を掻き消し、煙幕は物理的に内部の様子を見えなくさせている。 恐らくこの隙に逃げるつもりか…、伍號はそう判断し出口のありそうな低層階を索敵する。 だがスナイプはその裏を掻いた。煙幕の中から飛び出ると試作聖剣のライフルをこちらに構える。 奴め何を考えているんだ…、正気なのか…、いややけくそになっただけか…。 予想外の行動に伍號は数秒ほどフリーズするが、すぐに彼女の試作聖剣のモードを対物用から対人用に威力を下げ命中精度を上げた。 スナイプは伍號がいるであろうエリアを鷹の目の力をフルに使い必死に探る。すると奇跡が起きる。 時間の経過と共に太陽が動く、すると伍號の潜んでいる高層ビルに日差しが差す。 その時高性能なステルス機能を持つマントの隙間から覗く銃口が陽光によって反射したのである。 見つけた…。スナイプは心の中でそう叫ぶと引き鉄を引く。伍號もほぼ同時に発射する。 さらに二つ目の奇跡が起る。二人の放った銃弾が中空にて衝突して弾け飛んだのであった。 まさかのアクシデントに伍號は戸惑うも冷静にボルトハンドル引こうとした瞬間、試作聖剣に着弾がある。 連射モードに切り替えていたスナイプの試作聖剣の間髪入れぬ射撃により、伍號の試作聖剣は破壊されたのだった。 想像もできぬ展開に伍號は冷静さを欠き、ステルス機能のマントから顔が覗き見えていた。そして三つ目の奇跡が起きたのだった。 「これだけの高濃度のマナが漂っているんだ、まさかとは思っていたが新しい弾丸がこんなにも早く生成されるとはね…」 「やっぱり幸運の神様ってのは女神のようだな。機械仕掛けの女よりも色男の方が好みみたいだぜ!」 スナイプは狙いを澄まして引き鉄を引く。弾丸は伍號のカメラアイに着弾し、彼女はそのまま倒れるのであった。 敵狙撃手の排除を確認するとスナイプは糸が切れたように倒れ込み、そして床に寝転がる。 「とりあえずノルマ達成か…。俺はもうこれ以上仕事なんかしねぇぞぉ…」    *   *   *   *   * グランド666の平原では降り注がれた瓦礫の合間で二組の剣戟が繰り広げられていた。 一組は黒い甲冑を身に纏った双剣の男と軍服を着用した大剣の持ち主、コージン=ミレーンと人造勇者漆號レーベン=フィール軍曹である。 漆號は大振りの重量感ある剣を高速で振り回す。 「どっかから妙なアイテムを持って来やがったみたいだが、聖剣を破壊できるのは聖剣だけだ! そんな頼りねぇ刃物なんざ一発でへし折ってやらぁ!」 そう叫ぶ彼の上段からの一振りをミレーンは双剣をクロスさせて受け止める。 「確かにそうみたいだな…。だから俺も持って来たよ聖剣ってやつを。こいつは捌拾弐號という奴から奪い取った鹵獲品だ、これで対等な条件で斬り合えるな!」 ミレーンは交差した刃を力任せに跳ね上げると左腕の剣でガードをしつつ、右腕の剣で漆號の腹部を斬り上げる。 漆號は一歩後退し距離を取ると瞬く間に傷口が塞がる、再び構えを取ると猛烈な勢いで今度は横なぎに斬りつける。 ミレーンは左手に持った剣でそれを受け止めると手首の返しでそれをいなし、追っかけで漆號の胸元に強烈な突きを食らわせる…。 こんな斬り合いをもう何度続けたのだろうか、終わりの見えない膠着状態にミレーンは徒労を感じていた…。 ミレーンたちの戦いから瓦礫の山を一つ隔てた場所では、同じく黒い甲冑ことメックスーツを纏ったライトが人造勇者陸號ザット上等兵と交戦している。 二人とも主武器は両の腕から生やした刃。高速で動く二人の争いは撃剣と言うよりも徒手格闘の演舞のような素早い展開が繰り広げられていた。 「せっかく君の血を吸えると思ったのに、そんなつまらない物着こんじゃってさぁ。空気読めない奴とかって言われない?」 陸號はライトに向かって軽口を叩く。装甲の固いメックスーツに試作聖剣の刃が届かないせいか、若干のいらつきも感じ取れる。 「悪いけど君の相手だけをしてるわけにはいかないんだ。それに君だって随分丈夫になったじゃないか、恐らくスヮリさんの血を吸ったおかげだろ。感謝をしたら彼女に心の底から謝まるんだね…」 ライトの斬撃が何度か決まるも硬化した皮膚によって想定よりも手傷を負わせることができず、その上高い回復力によって瞬く間に傷が修復されて行く。 「すごいな簡単に傷が治って行く! レーベンさんいつもこんな気分で戦ってるんだな。そりゃ何も恐れるものなんてないよね」 「それに気づいちゃったけど君のそのスーツ、固いことは固いけどそこみたいに被弾した場所だったら少しダメージを加えたら剥ぎ取ることはできるみたいだね! さすがトラウアーさん!いい仕事してくれてるよ!」 陸號が放った不意打ちの斬撃で、被弾によるひび割れを生じていた左肩のアーマーがはじけ飛ぶ。 攻めどころをようやく発見した陸號の表情に不気味な笑みが浮かぶのであった…。    *   *   *   *   * 星皇となった人造勇者壱號アインス=ドナー大尉は空を見上げながら、心にぽっかり開いた空虚さをこれからいかにして埋めるべきか考えていた。 この星に満ちた溢れんばかりのマナを管理権と言う力で思う存分に扱うことができる。 単なる武力や魔力として使うどころか、歴史上現れたいかなる強者や賢者ですらも抗うことのできなかった大自然ですら自分の意のままに操れるのだ。 理論上はもはやこの星に自分を超える者はいないであろう。父娘の悲願であった最強の力を手に入れたのである。 だがその力を以って何を為すべきなのか、その答えは彼女の中に何もない。 自身の目の前にいる魔王を討ち取るべきか、それともこの星の覇者として君臨するべきか…。いずれも容易く実現可能であろうが意欲は何一つ沸いてこない。 多くの仲間や部下そして肉親を犠牲にしてまで得たはずの力であるのに…。 『おめでとうございます。これで悲願が達成されましたね…』 アインスの元に黒仮面の男シュッツガイストが現れる。彼はアインスにこれからの方針はどうするのか質問をした。 「正直何も浮かんでこない。あれだけの犠牲を出してまで追い求めた力だというのにな。あらゆることを容易くできてしまうということが、こんなにも空しい物だとは思わなかったよ…」 彼女の返答を聞いてシュッツガイストは頷きながら提案をする。 『そうでしょうな。あなたは野心などとは無縁の真っすぐな御人ですからね…。でしたらこの私めが星皇あなたの行先をプロデュースしましょう』 「例の正義による完全なる統治というやつか? 実現は容易いだろうが結局は次の魔王と呼ばれる存在にしかなれんよ、却下だ…」 アインスの脳裏にミレーンが同様のセリフを吐き捨てるように言った光景が思い浮かぶ。 『安心して下さい。そんなつまらない事はさせません。星皇殿、あなたにはこれから宙へと行ってもらいます。そしてそこにいるバルロスと一体化するのです…』 (続く)