『星皇殿、あなたにはこれから宙へと行ってもらいます。そしてそこにいるバルロスと一体化するのです…』 黒仮面の男シュッツガイストの発言に星皇アインス=ドナーは我が目いや耳を疑った。 「お前は何を言っているんだ…?」 冗談とも妄言とも愚弄とも取れる不可解な発言の真意をアインスは頭の中で推察した。そして出た答えはこのようなものであった。 「なるほど…。バルロスを倒して機体を奪い取り、この滅び去った街の仇を取れということか…」 アインスの答えを聞いたシュッツガイストは右手を顎に当てながら小首を傾げる。 『う~ん惜しいですね。では少しアナタ方が機工竜バルロスと呼んでいる物の話をしましょう』 『機工竜バルロスは数百年とも数千年以上前とも言われている、先の人魔大戦の際に作られた竜型のゴーレムと伝えられています。ですがそれは間違いです。正確には機神竜バルロスという名を持ち、はるか宙の彼方から降りて来ました』 『その目的はこの星を初期化すること。無軌道に増えた多種多様な生物を選別することです。もちろん人間もその排除される側に含まれていましたが、当時魔王と呼ばれる存在が率いていた勢力は圧倒的に強く。もはや滅亡の危機にまで人間は追いつめられていました』 『そこでバルロスは状況を判断します。弾き出された結論はより高い脅威判定としてまず魔王や魔族たちを滅ぼし、人間や他の生命は後回しにするというものでした』 『人間には一瞥もくれず魔族たちを倒して行くバルロスの姿を見て人はこう思います、あれは神が遣わした人類の味方だと。そしてバルロスの行動に合わせて人間たちも反撃を開始します。その結果長きに渡る先の人魔大戦は人類側の勝利に終わりました』 『次のフェイズでは人類の敵に回るはずのバルロスでしたが、当時の魔王の力はとても凄まじく機体だけでなくエネルギーの損耗も限界に来ていました。永久魔力炉と呼ばれているジェネレーターが損傷のため機能停止をしたからです。そこでバルロスは眠りにつきナノマシンによる修復を目論みます。それがアナタ方がよく知る機工竜バルロス伝説の真実です』 『ではここで話の時系列をほんの数年前まで戻しましょう、例のバルロス事変です。バルロスは圧倒的な戦力でこの街を蹂躙するエビルソードの存在を感知した時、元々インプットされていた緊急回避プログラムが発動。非常用の予備動力を使いこの街より離脱しますが、その動力もすでに使い尽くし現在は所謂宇宙空間という場所にて待機しております…』 何とも荒唐無稽な長話を聞かされたアインスに呆れ顔の表情が映る。得体の知れない恐ろしい存在ではあるが現状は無害な物ではないか、そんな物を捕らえて一体何をするのだと…。 『そしてここからが本題です。星皇アナタにはバルロスの内部にある永久魔力炉と一体化してもらい、この星のマナを使ってその動力源となってもらいます』 シュッツガイストの発言にアインスはカチンと来る。 「お前は私を虚仮にしているのか…。この私にあのデカいだけの機械竜のための薪や種火代わりになれとだと?! 大体その本体を動かすのは誰だと言うのだ?」 『バルロスを動かすのはバルロスの心ですよ。そしてその源は大いなるホロビタルリングの意思によるもの。この星を初期化するためにしっかりと働いてもらいますよ星皇…』 「お前は一体何者だ?何のために動いている? 答えろ!シュッツガイスト!」 アインスの問いにシュッツガイストは右手を心臓の上に置く丁寧な挨拶の姿勢を取りながら答える。 『私はバルロスにより生み出された端末の一つ。私の目的はバルロスと同一。その原理はホロビタルリングの意思。全てはバルロス復活のための種火を生み出すためですよ星皇…』 『この件に関してはアナタの意向は一切反映されません。このまま私と一緒に宙の上まで行きます。もちろん拒絶をすれば力ずくで拉致するだけです』 「ふざけるな!この姿は全てお前に踊らされた結果だというのか! 私は私の意思で今まで道を切り開いてきた!自らの力でな!」 アインスはシュッツガイストを目がけて自然の落雷クラスほどある高圧電流を放つ。シュッツガイストの姿が消えた思うと、アインスの背後へとすでに回り込んでいた。 『恐ろしい威力ですが、当たらなければどうってことないという言葉もあります』 シュッツガイストはアインスの後頭部を手刀で叩きつける。アインスは一瞬意識が飛んだかのように苦悶の声を出す。 大量のマナによって強化されたアインスの肉体にも関わらずダメージを与えられるのは、シュッツガイストはスピードのみならずパワー自体も非常に強力なのであろう…。 アインスが電撃を放つ、シュッツガイストがそれを避けて死角から打撃を食らわす。 こんな一方的な攻防が続くとさすがのアインスにも疲労の色が見え始める。 すると何かを思いついたのか彼女は目を瞑り全身の力を抜いた自然体に体を構える…。 『何かの策があるのか、それとも諦めてしまったのか。いずれにしても私はアナタをバルロスの元へと連れて行くだけです。安心して下さい、殺しはしません。少しばかり眠っていただきます!』 目を閉じたアインスの全身にシュッツガイストの移動音と気配を感じられる。 手に届く範囲まで敵が近づいた気配を感じると、アインスは全周囲360度の球体状の範囲に電撃を放つ。 『グワッ!』 獲物が網に捕らえられた音が聞こえる。アインスは目を開けその方角に手を伸ばす。 「近づいて来るのが分かっているのなら、その瞬間全方位に攻撃を広げてやればいい。以前の私なら思い付かなかった豪華な電撃の使い方だよ。気づかせてくれてありがとう、そしてさよならだ…」 アインスはシュッツガイストの首を掴んだ左腕から渾身の電撃を放つ。 黒焦げになった彼は完全に息絶えたかのように見えたのだが…。    *   *   *   *   * 「ほらほら!少しづつ殻が取れて来てるよ! そろそろ食べに行く時間だね!」 人造勇者陸號ザット上等兵の高速の刃がライトの纏うメックスーツの外装を弾け飛ばす。 だがそんな状況でもライトは冷静に陸號の動きを分析する。 陸號はアーマーを失ったライトの左肩を狙って突きを入れる。 するとライトは身を反時計回りに捻らせながらそれを避け、そのまま回転し陸號の横っ面にバックブローを叩き込む。 顔面を強打された陸號であるが怯むことなくさらに攻撃を仕掛ける。 フェイントとして素早い斬撃を数発入れる、スウェイしながらそれを避けるライトの胸元のガードが下がる。 陸號はそれを待ってましたとばかりに、斜め上に振り上げた右手の刃をそのまま軌道を折り返して斬りつける。 だがライトはそれも予測していたかのように体を捻りながら倒れ込むと左足を軸にして右足を振り切る、所謂水面蹴りという技だ。 なかなか思う様に行かず苛立ちを見せる陸號へライトは煽るように話しかける。 「君の動きはとても早いよ、おそらく肆號よりも上なんじゃないのかな。でもね動きが単純すぎるんだよ。はっきり言おうか、君は肆號よりも弱い」 それは両者と戦った経験から導き出したライトの率直な感想である。 単純なスピードだけなら陸號の方が早いが、彼の攻撃は主に両腕の試作聖剣のみである。 柔軟性を活かした多彩な蹴り技を持つ肆號と違い、攻撃の来る方向は上半身だけを注視すれば良い。 試作聖剣自体も血を吸われることで自身の能力がコピーされるのは危険ではあるが、戦闘に影響する多彩なギミックを持つ肆號と比べればとにかく当たらなければ良い。 それに加えて彼はライトの血を狙いアーマーの剥がれた箇所だけを目標としている。守る側はその場所だけ警戒していれば良いのだから、脅威度は大いに下がるのだった。 「わかったよ…。正直この手はあまり使いたくはなかったんだけどね。どんどん人間離れしちゃうから…」 再度陸號は両腕の試作聖剣を振るいながらライトへ近接する。 何らかの次手を持っているのか…、ライトは警戒しながら攻撃を避け冷静に捌く。するとライトの本能に何かが来る予感がする。 それは陸號の方から感じられる。両腕の刃は今躱して捌いた、両足は蹴り出す気配がない、一体どこから来るんだ…。 事実その予感は当たった、思いもよらない方向からである。 陸號の両足の間から何か太く長く柔軟性のある物が振り上がり、ライトの纏うアーマーの前面部へと強烈に叩きつけられる。 ライトは衝撃で1mほど吹き飛ばされる。その破壊力はメックスーツにも亀裂が入るほどであった。 その攻撃の原因は陸號から生えてきた尻尾であった。 「そうか…スヮリさんの力を吸収してるから、その手も使えるよね…」 陸號は斬撃に加えて尻尾による鞭打も織り交ぜる。 試作聖剣による斬りつけはライトの血を狙おうと的確に体が露出する箇所を狙い、反対に尻尾はそれ以外の箇所へと叩きつけられる。 ライトは必死に避けるがいかんせん手数の多さに加えて、尻尾のリーチ差は逃げ回るライトへ確実にヒットする。 尻尾の衝撃でヘルムに付いたダメージのせいで一瞬視界が閉じられる。ライトは大急ぎでヘルムを脱ぐとそこには陸號の姿は消えていた。 次の瞬間ライトの全身が拘束される。背後に回った陸號が尻尾でライトの全身を巻き付けたのであった。 「これは言うならザットデスロールって感じだね。この尻尾でがっちり締め付けてるから逃げられないよ。じゃあこれから君の血と生命力そして能力をいただくとするよ。今見えてる箇所だと首がいいかな、喉元を切り裂いて頸動脈から吸い取ってあげる…」 陸號は両腕を広げると二つの試作聖剣をライトの首へと向かわせる。だが次の瞬間であった。 グァアアアアア!!!! 咆哮と共にライトの口から強烈なブレスが試作聖剣の刃を目がけて放たれる。至近距離から放つブレスは二つの刃を欠けさせると陸號の腕も弾き飛ばす。 衝撃に加え聖剣の損傷は陸號を非常に動揺させる。それはライトを拘束していた尻尾が思わず緩むほどであった。 ライトはそれを見逃さない、フルパワーで全身を広げさらに翼も展開し勢いを付ける。そのまま前方に飛び出すと見事にザットデスロールを外すことに成功したのだった。 「ふざけんなぁ!何で聖剣でもない物が僕の聖剣を壊せるんだよぉ!」 自身のアイデンティティでもある試作聖剣が破損したとあって、いつも笑みを絶やさず飄々とした物腰の陸號が感情的になる。 人造勇者たちの言う「聖剣は聖剣でしか壊せない」。これはあくまで生半可な武器では壊せないという強度を示す言葉であって絶対的な原理ではない。 現にライトは肆號戦で得意の高周波振動ブレードを使って肆號の持つ『従順』の聖剣を破壊した実績がある。 陸號は両の剣を揃えてライトの頭部を狙って降り下ろす。 ライトは両腕の刃を震わせ、陸號の剣を十字受けのような形でガードする。両者の鍔迫り合いは拮抗をする。 だが陸號は尻尾による一撃を虎視眈々と狙っているのはライトにも容易に思いつく。仕方ない…アレを使う時が来たか…。 ライトは手首を使って右手の甲を上に向けて曲げ、アーマーの手首の箇所に付けられているスイッチのような物へと触れる。 すると右前腕部アーマーの下面から鎌のような大きな刃が回転しながら生えてくる。振動して赤熱化した刃は陸號の両腕の手首を捉え切り裂いたのであった。 この刃は元はライトの着ているメックスーツ02の専用武器として用いられていた、高周波振動ブレード付きの折り畳み式大鎌である。 ライト自身が長物武器の取り扱いが不慣れなため、もしもの場合の隠しギミックとして刃の部分だけを外してスーツに取りけるようメトリに改造を依頼した物であった。 武器を失くして動揺する陸號に向ってライトは一気にラッシュをかける。 両腕、両足、そして尻尾。各パーツを細切れにすると、陸號は手足のない所謂ダルマ状態となったのだった。 ライトは仰向けになる陸號に向って彼の落した聖剣付きの両手首を見せつける。すると先端に付いている聖剣同士を激しくかち合わせ粉々に砕いたのだった。 「スヮリさんと同じ能力なら、その内手足も生えてくるんでしょ。でも君の聖剣は完全に破壊したからもう何も怖くはないよ。殺さないでおいてあげるから、少しは頭を冷やすんだね」 ライトは捨て台詞を吐くとミレーンたちの交戦場所へと向って歩み出す。 背後からは陸號の怒号とも嗚咽ともつかない叫びが聞こえるのであった。 (続く)