コージン=ミレーンの日記 D月Y日 今回の天使像の破壊作戦は人造勇者側に多大な戦力ダウンをもたらした。 合成獣人の生産をストップさせ絶望の匣により少なくとも2個小隊分の獣人たちが消滅した。 そこで俺たちはこの一週間を体力の回復に努めつつ、弐號から情報がもたらされた星骸炉の捜索をするためにグラウンド666周辺に出没を繰り返していた…。 「こんな何にも見えないだだっ広い平地に本当隠してあるんですかねぇ。がーすけの力で視力を強化していますけど、それっぽい構造物は何にも見えませんけど…」 ライトは目を細めながら360度周囲を見回している。 「さすがに奴らの最重要案件だけに野ざらしで置いてるはずはないだろ。となるとここもバルロスの市街地があった場所だから地下施設に隠してるのが当然の考えではあるな」 「スヮリも地下を色々捜索してくれたが、この一帯は破壊が酷くて調査できないってぼやいていた場所だ。入口を見つけるのも一苦労だぞ…」 気の遠くなるような状況ではあるが、ミレーンの心中は以前と比べると多少の余裕が出てきてはいるようである。 「おっと、出てきましたよ」 遠くを監視していたライトが何かを発見する。侵入者を排除しようと向って来た合成獣人である。 「今日は2体です。日に日に少なくなってきますね」 「あんだけ派手に戦力を削がれたんだから、敵さんも懐事情はカツカツってわけだな」 ミレーンとライトの二人は迎撃体勢に移る。 敵獣人を難なく排除すると、深追いは禁物とばかりにライトの飛行能力を使ってグラウンド666から去って行く。 二人は兵員が頭打ちとなった敵を翻弄するかのようにゲリラ的に出没しながら、徐々に戦力を削って行くのをこの一週間繰り返していったのだった。    *   *   *   *   * 翌日ミレーンとライトはバルロス市街を離れ、街を取り囲む山地の北側の街道の峠にいた。 そこは二人がこの地に来る時に通った道でもある。 人造勇者たちの監視の目も大分緩んだので、ここまで難なく辿り着くことができた。 峠の上には一台のトラックが止まっており、その傍らに運転手と思わしき人物が煙草を吸いながら寄りかかっている。 どうやらこれが二人の待ち人のようだ。 「すまない待たせたようだな」 ミレーンが運転手に声をかける。 「いえ、そんなことはありません。約束の時間ぴったりです」 運転手は被っていた帽子を外し挨拶をする。見た目はごく普通の青年のようであるが、物腰や立ち居振る舞いそして眼光はただ者ではないことを伺わせる。 「こちらが約束の物です。二体分確かにお届けしました」 運転手はトラックの幌を開けると、中に載せられている1m四方はある金属製のコンテナのような物を二つ見せる。 「間違いはないと思うが、一応確かめさせてもらう」 ミレーンがコンテナの中身を確認すると、OKの意思表示を運転手に示した。 「わざわざ無理を言って申し訳なかったな。王家親衛隊の一員にこんな場所まで足を運んでもらうとは…」 「いえ、陛下の命令ですからね。俺からしてみれば久々の遠くまでのお使いですから、いい気分転換になりましたよ」 運転手に扮していた男は『破城の銛射スヴェン』。実力者揃いで知られるサンク・マスグラード帝国王家親衛隊の一員である。 「頼んでおいて言うのも何だが、レス兄…いや陛下が本当に貸してくれるとはな…」 貴重なアイテムなのであろうか、ミレーンもいささか恐縮気味な様子である。 「陛下の方は問題無かったんですが、逆に参謀の方はすんげぇ顔で陛下を背後から睨んでましたわ。ウチの技術力だとコピーどころか共食い整備ぐらいしかできないもんですから、持ってても宝の持ち腐れなんで丁度良かったんじゃないんですか」 スヴェンは苦笑しながら内幕のこぼれ話を語った。 コンテナは背負子のようなベルトが付いており、ミレーンとライトはそれを一つづつ担いだ。 その様子を見てスヴェンは軽い驚きの表情を見せる。 「こいつは驚いた。トラックの荷台に載せるのにもハッシュに手伝ってもらったぐらいの重さをリュックでも背負うように軽々持たれるとはねぇ。いや王子さんの方はそのガタイだから分かるんですが、お連れさんの方もとは…」 スヴェンはミレーンの連れであるライトを見て、思い出したかのように声をかける。 「君がライトくんかい?イワンの奴がよろしくなって言ってたよ。退屈だからまた遊びに来てくれとさ」 久々に聞く友人の名にライトは軽く微笑んだ。 「僕ら国外追放になってるんですけど、また入って大丈夫なんですか?」 「まぁ大丈夫なんじゃないの。出て行けとは言われたけど、また来るなとは言われてないでしょ」 「いいかげんだなぁ。そんなんで大丈夫なんですか?」 「いいんだよ。何事にも抜け道というのはあるもんさ。陛下も君らにはまた会いたいと思っているだろうしね。特に王子さんには」 スヴェンはにやけながら、ミレーンの後ろ暗いところを突いてきた。 「そういえばイワンくんやラーバルくんたちは元気でやってますか?」 ライトは他の知り合いの現状について質問をしてみた。 「うんまぁ…相変わらずだよ。本当相変わらず…」 スヴェンは苦笑しながら濁すような言葉で答える。 「相変わらずクソボケのままか…」 ミレーンは弟の悪い意味での成長しなさぶりを嘆いた。 「あそこの班はもう片方もクソボケのまんまですよ」 スヴェンはさらに追加情報を入れる。ナタリアとイワンの方も相変わらずのらりくらりと躱されているらしい。 「女性にもクソボケ罪って適用されるんですかね…」 呆れたようなライトの言葉にスヴェンは微笑みながら 答える。 「さぁね…。ただそんなトンチキな罪でいちいち検挙してたら、陛下はとっくの昔に断頭台の露に消えてるよ」 会話を終え山道を下ろうとする二人にスヴェンは声をかける。 「王子さん、いやコージン第一王子殿下。サンク・マスグラード帝国王家親衛隊はいつでも総動員で出動する準備は出来ております」 その言葉を聞いてミレーンも応える。 「ありがとう。その気持ちだけを受け取っておく。現状奴らは表立ってどこの国や勢力とも敵対はしていない。そこをどこかの国が攻めれば侵略行為として諸国には受け取られる。だからこれはあくまでも俺の私闘ということにしている」 「そして奴らは傭兵稼業を通して様々な国にパイプを持っている。仮にマスグラが攻めて来たら例えばダスタブのようなマスグラと関係の良くない国に、今帝国は兵力をこちらに割いているので攻め時だと情報を与え漁夫の利を狙わせようとする。そうやって一種のバランス外交をするような狡猾な一面もある」 「なので今はただ見守って欲しい。仮に俺たちが死んだら、後どうするかは陛下に任せる」 それは惨號から聞いた彼らなりの独立を維持するための外交戦略であった。    *   *   *   *   * 二人は大荷物を抱えてフリッツ博士のラボにやって来る。中には博士とメトリ、そしてもう一人男がいた。 「よう旦那、首尾は上々そうだな」 声をかけたもう一人の男の名は必中のスナイプ。 かつてミレーンたちと一時的に共闘し、バルロスにある忌器の情報を教えた男。そして元人造勇者の一人でもある。 人造勇者拾弐號に竜化したがーすけが追われた際に、銃撃を放ち回避する手助けをしたのも彼の仕事であった。 「まさかお前がここに来るとはな。アイツらの話を聞くとお前がここに足を踏み入れたくない気持ちは理解できるが…」 ミレーンはかつてスナイプが大尉をナンパした過去やメトリに聞かされた話がいつの間にかスナイプが話したことに解釈され抹殺対象になっている、といった話は可哀想なので彼には伝えなかった。 「まぁ元PTメンバーの頼みだからね。まさかまたここに来る羽目になるとはな…。そういえば他の連中はどうしたの?」 「連絡をしたのはお前とほぼ同時だからもう着いていてもおかしくはない。奴らのことだから合成獣人に倒されるようなことはないだろうが…」 いつものように淡々とした口調のメトリではあるが、若干キレ気味なのは伺える。 「そのメンバーが全員着いたら博士と一緒にここから脱出するというわけか、さみしくなるな…」 短期間とはいえ一緒に死線を潜り抜けて来た仲間でもある、別れにミレーンも多少は感傷気味になる。 「だから出て行った後はお前さんらの好きに使ってくれ。ただ重くて持ち運ぶのは不可能だから、この獣人の姐ちゃんは放置になるが後のことはよろしく頼む」 フリッツ博士もスヮリゲーターの治療が中途半端なまま手を離すのには抵抗があるようだが、逃げれる時に逃げないのは得策ではない。誰しも一番大事なのは自分の命だから。 「で、今日は何しに来やがったんだ?」 余り来て欲しくない客の来訪にフリッツ博士は半ギレ気味に応える。まぁこの塩対応も今や慣れてしまったもんだが…。 「今日は博士ではなくメトリに用があって来たんだ。こいつを見て欲しい…」 俺は持参したコンテナを開ける。中には黒い色をした金属製の甲冑のような物が入っている。 背後からそれを見ていたスナイプは「あん時のアレかよ…」とうんざりした反応を見せた。 まぁお互い命からがらの目に逢ったんだから分からなくもないが。 「こいつはメックスーツといって機械仕掛けの強化服のようなもんだ。知り合いのところで整備はしてもらったんだが、こいつに少しギミックを取り付けたい。お前ならできると思ってな、頼むやってもらえないか…」 「ふむ、ゴーレム技術を応用したパワードスーツといったところか。一から作れと言われたら無理だが、機能の増設ぐらいは何とかなりそうだ。で、どんなのが欲しいんだ?」 俺とライトはギミックの要望をメトリに伝える。最終決戦に向けて準備は着々と進むのであった…。 (続く) ミレーンたちによる天使像の破壊により劣勢を強いられている人造勇者陣営。だが彼らもただ手をこまねいているだけではなかった。 ここは『火の国』の通称で知られるカルデラシア、その象徴である霊峰モエテラの麓に一人の男と一匹のドラゴンがいた…。 「しかし暑い上にあんな高けぇ山をここから登って行かなきゃなんねぇのかよ…。なぁドラシーナよ、途中まで乗っけてくんねぇか?」 噴煙を上げるモエテラの頂上を見上げながらそうぼやくのは、人造勇者漆號レーベン=フィールであった。 彼の傍らにいる巨大な竜はブルルッ!と口鼻を震わせながら拒否の意思表示をする。 この巨竜もまた人造勇者であり拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナという名前がある。 この山には火山王と呼ばれる妖精がおり、この地を踏み入った者に試練を与えるという。 そして漆號たちの目的はその火山王=星姫と呼ばれる存在を討伐し、その死体を持ち帰り星骸炉に入れ星の管理権を奪おうというものであった。 元々は魔王を討伐し星骸炉によって引き出した無尽蔵のマナを用いて攻略する予定であったが、ミレーンたちの介入によって方針転換せざるを得なくなっていた。 まずは星皇になりその上で邪魔者や魔王も討伐すれば良いという、端から見れば至極真っ当な手順を踏まえた段取りとなった。 呼び水として用いる魔王の遺体の代わりは魔王の残滓と呼ばれる物質から抽出したマナを用いる予定である。 起動に足るだけの量があるのかは分からないが、とにかく現状やるしか選択肢はない。 漆號の頼みにドラシーナが拒否するのにも理由はある。火山王は試練として火山弾や溶岩によって行く手を阻むという。 いかにドラゴンという強靭な肉体を持っていたとしても大自然の持つパワーを食らえば命の保証はないのだ。 「しゃあねぇ!いっちょ腹括って行くか!」 漆號は歩みを始める。ドラゴンでも無理な高難度のミッションをクリアできるのは、今の人造勇者陣営には不死身の肉体を持つ彼以外にはいないのだから。    *   *   *   *   * 山道の脇には至るところに溶岩の湧き出るスポットがある。 見た目だけはまるで赤い泉のようであるが、そこから発せられる熱は頂上を目指す人間の体力を容赦なく奪って行く。 暑さに耐え兼ねたのか漆號は上着を脱いで上半身裸で歩み続ける。 煮えたぎる溶岩の中から一人の少女が水面から上体を浮かべる。 それはまるで泉の中で泳いでいるかのような優雅で自然な動きであった。 溶岩の中の少女は漆號の姿に気づくと興味深げに彼を見つめる。 一方漆號は驚きと困惑と恐怖の感情が同時に湧き上がった。何なんだコイツ…、その感情を一言でまとめるならばこうであろう。 だが恐らくこいつが目指す火山王もしくはその関連であることには間違いない。漆號は持っていた大剣を構えたのであった。 臨戦態勢に入った漆號の様子を見た少女の反応は意外なものであった。興味深げに漆號を見るとこう切り出す。 「どこから来たの?」 「何しに来たの?」 「外の話を聞かせてよ」 会敵即発を予想していた漆號にとってはいささか拍子抜けしたが、この様子だと話し合いで協力してもらえる可能性もなくはない。 彼は剣を収めると少女からの対話に応じ始めた。 「俺はバルロスってところから来た。ここにいる火山王って奴を倒して死体を持って帰るためにな。お前は奴の居所を知っているのか?」 漆號の返答を聞くや少女はいたずらっぽく口元をゆがめる。 「へぇー、君はそんなことはできるぐらい強いんだぁ。じゃあ一つ質問するね『汝…勇者なりや?』」 「勇者ねぇ…。まぁ上に人造って付くけど勇者ってことには変わりねぇか。じゃあそうだってことにしといてくれ」 漆號の言葉に少女は薄っすらと笑みを浮かばせる。 「そうかい…。じゃあ君に試練を与えるね。山頂にある『輝く泉』にいるから、余を倒したくばそこまで来るのだな…」 そう言い放つと少女は姿を消した。すると大地が揺れ、地面より湧き出る溶岩流が活性化し火柱を上げて噴き上がる。 そして火山口が轟音を奏でると大量の火山弾が漆號に向って降り注ぐのであった。    *   *   *   *   * 降り注ぐ火山弾を漆號は大剣を振るいながら弾き返す。だが雨あられのように落とされる岩石は容赦なく漆號に着弾する。 腕は砕け、頭が弾け飛び、灼熱の炎により身は焼かれる。だがその都度漆號は再生を繰り返し、一歩一歩頂上へと進み続ける。 これでもう何回死んだのであろうか…、数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる。 さっさと帰りてぇ…。そんな思いも頭によぎるがこれは任務である、決して引くことは許されない。 それに何よりも漆號自身がこんな目に遭わせた火山王に対して、一発ぶっ飛ばしてやらなきゃ気がすまないという気持ちが原動力となっているのだ。 数時間後漆號はついにモエテラの山頂に辿り着いた。そこには巨大なくぼみに溶岩が溜まっており、その光景はまさにオレンジ色に輝く泉のようであった。 その中心にまるで泉の中から突き出るかのように一つの巨大な岩が見える。そしてその上に先程見た赤い肌をした少女こと火山王ラーヴァが待ちかねたように座っていた。 「おらぁ!ここまで来てやったぞ!ぶっ殺してやるから覚悟できてんだろうな!」 漆號は溜まった鬱憤を晴らすかのように威嚇の言葉を放つ。 「じゃあ待っててあげるからここまでおいでよ。心配しないで、意外と浅瀬だから歩いてでも来れるよ…」 ラーヴァは漆號をからかう様に手招きするのであった。 漆號は溶岩溜まりの表層を見つめる。道中色々熱い目にも痛い目にも遭って来たが、しかしそれは死ぬことで苦しみは一瞬で済んだ。 だがこの溶岩溜まりを進んで行けば、人の身では耐えかねないレベルの熱と苦痛が連続して襲い続けることになる。進むべきか進まざるべきか躊躇をする。 しかし彼は進むことを決めた。目的地の岩の上から見えたラーヴァの嘲るような笑顔が非常に腹立たしかったからである。 漆號は右足を溶岩溜まりの中に入れる。言葉ではもはや表現できないほどの熱さと苦痛が彼を襲う。そして左足も入れさらに右足を進めて歩み始める。 まるで流水のように見えた溶岩であるが粘性は意外と高く、一歩進めるだけでもかなりの労力を消費する。 自身の再生速度は間に合うのか…、そんなことを考えながら進んでいると地面のくぼみに足を取られて転倒する。 頭から溶岩に突っ込み全身が燃え上がる、だがそれによって漆號の意地にも火が点いたのであった…。 溶岩溜まりを歩み始めてから30分後、漆號はラーヴァの待つ岩へと辿り着く。 「ようやく着いたぞ…。今すぐぶっ殺してやるからな!」 彼の目の前には散々笑い過ぎたのか、目の端からは涙の跡が見えているラーヴァの顔があった。 「いやぁ~いい物を見せてもらったよ。人間たちが言うリアクション芸人の熱湯風呂ってあんな感じなんだろうね」 「そのお礼ではないけど君の願いを叶えてあげよう。余の首を持って行くと良い。どうせ死とは無縁の存在なのでな、少しばかり職場を放り出してバカンスでもしようじゃないか…」 「最後に一つ質問だ、君たちは余の死体を使って何をするつもりなんだ?」 ラーヴァの質問に漆號は答える。 「この星の管理権を得るためだ。それにはお前の死体を星骸炉にぶち込む必要がある」 漆號の回答にラーヴァは怪訝な顔を見せるとせせら笑いながら言う。 「管理権?あんなつまらない物が欲しいのかい?奇特な連中だね。まぁいい君の情熱的なアプローチには楽しませてもらったよ。余の首を持って行くといい…」 ラーヴァは頭部と胴体を自らの手で分割した。元々そうするはずであったのだが、目の前で思いもよらぬ展開を見せられた漆號は困惑の表情が隠せなかった。 とにかくこれでミッションは完了した。ドラシーナを呼ぶためにズボンのポケットに忍ばせておいた呼子を吹くと、漆號はまるで糸が切れたかのように岩の上に横たわるのであった。    *   *   *   *   * 漆號と拾弐號がカルデラシアから帰還した翌日、某国にある魔王の残滓回収部隊のトラックが司令部へとやって来る。 トラックの助手席のドアが開くと一人の顔色の悪い男が降車した。 彼の名はカイモス=カルディウス准尉、研究員ではあるが番外として人造勇者としての能力を持っている。 カイモスがトラックの幌を開け、中にいる人物へ下りるように即す。 中から出て来たのはとても巨大な人物であった、いや人かどうか自体も怪しい。 身長は約6~7mほど。漆黒のローブのような布とヘルムを纏い、人間の視覚ではまともに姿を捕らえることができぬほどの禍々しいオーラを放っていた…。 突如現れる超常的な存在に人造勇者たちは危険を予知し警戒態勢に入る。 カイモスは件の人物を応接室に入れると、上司である人造勇者壱號アインス大尉へと報告に向かう。 「お前が連れて来たアレは一体何なんだ…」 アインスは困惑と不安の表情を現しながら、カイモスに事情の説明を要求する。 「何と説明したらよろしいのでしょうか…」 事態の当事者であるカイモスも理解不能な成り行きで連れて来た同行者のことをどう説明しようか迷っていた。 「実はあれは数日前、例の酒場にてまた魔王の残滓が出たから回収してきてくれと通報があったので向ったのですが…。現場に着いたところで今まさに残滓を絶賛生産中の方がいらっしゃいまして…」 「とにかく素人でも分かるぐらいのただならぬオーラに、ひょっとしてこれは魔王本人なのかと思って聞いてみたのですが…」 (回想) カイモス「あの…大分お辛そうですが、大丈夫でしょうか…」 ????「すまぬ…少々安酒を飲み過ぎたようだ…」 カイモス「あの…ちょっとご質問なのですが、あなたひょっとして魔王様ですか?」 ????「とんでもねぇ!あたしゃ魔王だよ!」 「---とまぁそんな流れで計画のためにマナが必要なんですという話をしたら、面白い暇だから協力してやろうと言われたので連れて来た次第でして…」 カイモスはどう考えてもありえないような異常な状況についての報告を行う。 「そうか、お前は何を言っているんだ…」 アインスはまともに相手するのを諦めた。    *   *   *   *   * カイモスはアインスを伴って応接室へと向かう。 ドア越しからでも周囲を焼き払いかねないほどの強力なオーラが感じられる。 二人は覚悟を決めてドアをノックし入るのであった。 威圧感のある巨漢がソファに腰かけている。 アインスは逃げ出したくなりそうであったが、星皇を目指す者がこの程度の相手に尻込みを見せるか!と自らを発奮させる。 アインスは巨漢の対面のソファへと座った。 「私はアインス=ドナー大尉、この組織のリーダーをしている者だ。いきなりで不躾ではあるが君は魔王なのか?」 「余は魔王モラレルである。それだけ言えば十分であろう」 謎の巨漢はあっさりと自分の正体を晒す。いや魔王本人だからこその余裕なのであろうか。 何しろ自分自身がある意味世界のルールなのである、わざわざごまかしたり名を騙る必要なのないのだから。 正体を知ってしまえばその存在を必要以上に恐れる必要はない。こいつもいずれ倒す通過点に過ぎないのだから…。 アインスはそう腹を括ると、背筋を伸ばして魔王と正面から対峙する。 「我々の計画についてはあのカイモスから大まかには聞いているとは思うが、そのためには君の遺体が必要である。我々に協力するということは君は死んでくれるということなのか?」 「その必要はない。星骸炉という忌器を起動するためのマナが欲しいだけなのであろう。ならば生身から活きのいいマナを抽出すれば良かろう。余をその忌器の中へ放り込め。貴様らの行く末をショーとして最前列で楽しもうではないか…」 確かに理屈としては通る。だが一度起動してしまえばこの星由来の膨大な量のマナが湧き上がるのである、いかに魔王であろうが中にいて無事でいるはずはない。 待てよ、この起動実験で魔王が死んでしまえば儲けもの。仮に弱らせただけだとしても星皇の力を以てすれば魔王も楽々討伐できるではないか。 つまりこれはジリ貧になった人造勇者陣営に最大のチャンスが訪れたのである。何せ星皇のための素材は全て揃ったのだから…。 「ならば魔王モラレルよ、貴方の協力に我々は感謝する」 アインスが右の掌を差し出す。魔王も彼女の手を取り握手をする。奇妙な協力関係がここに成立したのであった。 握手から手を離すと魔王はアインスに要望を告げる。 「退屈しのぎの酒が欲しい。それも大量にな。キンキンに冷えたストロングな奴を箱単位で用意しろ。余へのギャラはそれで良い」 「わかった…。今すぐ買いに行かせる」 アインスはカイモスへストロングな奴の購入を指示する。カイモスはダッシュで部屋から出て行った。 緊張と緩和、高低差の激しい事態の連続にアインスはため息をつく。するとその傍らに一人の男が立っているのに気づく、それはシュッツガイストである。 『あぁ…素晴らしい…。星骸炉!星姫!そして魔王!星皇のための全てが揃いましたな。これでアナタの…そしてお父上の望んだ最強が手に入りますよ!』 悲願の達成が見え始めたのか、いつも淡々とした傍観者のような物言いの彼とは思えないテンションの高さである。 「ウムッ(何だこいつ…)」 突如現れたハイテンションな不審人物には魔王も若干困惑をした。 シュッツガイストは振り向くと聞こえないようにボソッと呟く。 『(バルロスの心のままに…)』 (続く) コージン=ミレーンの日記 D月Z日 事態は突然に動く。メックスーツの改造をメトリに頼むためフリッツ博士のラボへ押しかけ、そのまま眠りについた翌朝その知らせは届いた。 監視についていたアロからグラウンド666へ動き出すトラックがあるという報告を受ける。 件のトラックはグラウンド666の爆心地近くへ止まると何やら作業をし始める。 そしてトラックから遠隔映像からでも不穏な空気を読み取れるほどの異質な存在の巨漢が降りてくる。 この威圧感、まさに魔王か…。そして俺は察した、奴らは始めるつもりだ廻天計画を…。    *   *   *   *   * フリッツ博士のラボは騒然と化す、とにかく情報の収集が最優先である。 データを分析していたメトリはこう言い放った。 「どうやら奴らは準備が整ったようだ」 まさかあんな荒唐無稽な条件が揃うはずは…と口を挟む周囲にメトリはこう言った。 「あれを見ろ。あんな禍々しいオーラをカメラ越しでも感じ取られる存在をお前は知っているのか」 事実半信半疑な俺もあの映像のインパクトは忘れられない。 カメラの映像越しでも感じられる殺気を纏った異質な空気感。そう…あれは間違いなく魔王だと…。 「とにかく奴らは動き出した。俺たちはそれを阻止するために行動を開始する」 いずれ来る流れとは知っていたが、予想外よりも早い展開にライトもシュウも戸惑っていた。 「わかりました。とりあえず前々から話していた計画通りでいいんですよね?」 メックスーツを手に取りながらライトが答える。 「あぁ。俺たちはこれを着込んで陽動として動き回る。そしてその隙間を縫って、シュウが奴らの元へ忍び込んで始末するという算段だ」 このだだっ広くて何もないグラウンド666。そこに何故奴らは重要機密ともいう忌器を隠したのか? その答えは意外と簡単に解けた。仮にこっそり見つけ出すにしろ使用中を襲撃するにしろ、不審な動きをする者は容易に発見できる。 見つけてしまえば近づく前にいくらでも始末可能なのだから。 「上空からドラゴン、遠方からスナイパー。こっそり近づくには困難過ぎるから奴らも考えたものだな…」 「だから僕らがこうやってこのクソ丈夫なスーツを着込んで、暴れてやる必要があるんでしょ」 メックスーツを着込みながらライトが俺にサムズアップを見せる。 全員が準備完了したところで再度ブリーフィングを開始する。 「予想よりも大分前倒しになったが。これより星骸炉破壊作戦を開始する」 「作戦内容は非常にシンプルだ。俺とライトが陽動として動き回り、その隙にシュウが炉心に近づき現場にいるであろうターゲットを始末するというものである」 「そしてそのために必要な物資として…」 そう俺が言うとフリッツ博士が一枚の布切れを放り投げてくる。 「ほらよ。こいつが必要なんだろ」 やや大き目な重めのブランケットを手渡されたシュウは博士に頭を下げてお礼を言う。 一見ただの毛布にしか見えないがこのブランケットは光学迷彩機能が付いた優れ物である。 姿を見えなくさせるこのブランケットの機能は、フィールドワークにおいて野生の魔獣を研究する博士にとって必需品とも言えるアイテムであった。 「いいか!こいつ結構高けぇんだからな!だからお前らにあげたわけじゃねぇんだぞ。絶対返しに来いよ!直接にだぞ!」 憎まれ口を叩いているように見えるが、この局面を通してみると俺たちの心配をしているのであるのが薄々感じ取られる。 俺自身が認識阻害を使って直接大尉たちの元へ赴くという案もあったのだが、大尉の電撃との相性を考えるとやはりシュウに任せる方が良いのではとなったのが今回の作戦であった。 もちろん何かトラブルがあった暁には俺自身が認識阻害を使って出向くというのがセカンドプランではあるのだが…。 「じゃあついでにこいつも渡しておくよ」 スナイプがシュウに小型の拳銃と弾倉を二つ手渡す。 「ニセ中佐さん、自分の攻撃力はないんだろ。少なくともこれ持っていれば何とかなるだろ。サブアームだから普段使うことはないけど手入れはちゃんとしてあるから安心してくれ」 シュウは彼の申し出をありがたく受け取った。    *   *   *   *   * 「残った戦力を考えると伍號、捌號、拾弐號がどこかしらに張り付いているってわけか…」 スナイプの言葉に俺は頷く。 「おそらく配置を見ると獣人たちや陸號漆號の近接戦闘の要員は人手不足の関係上、展開を見ながら適時投入という感じなんだろ」 俺の読みはこうである。伍號拾弐號で上空監視の目を維持しておきながら、敵に侵入に合わせて合成獣人や人造勇者たちを捌號の力を使ってピンポイントで投入するつもりなのであろう。 ならばどうするか?だったらかき回すしかないだろ。 「要は旦那たちがごちゃごちゃやってる間に、このニセ中佐が近づいて大尉を始末するって寸法ね…」 スナイプがシンプルな解釈を述べる。俺はそれに頷く。 「まぁいいや。俺たちは旦那たちのゴタゴタに紛れて、ここをトンズラする。人員が割かれているから俺たちもすんなり逃げれるってわけだな。よし準備しようぜメトリ…」 スナイプの言に合わせるかのようにライトがこう述べる。 「スナイプさん、一緒に戦ってくれないんですか…」 「勘弁してくれよ。ただでさえここに足を踏み入れるのだって苦渋の決断だったんだぜ。それでなくてもあいつらと戦うなんて考えたくもねぇよ…」 意味深に目を閉じるスナイプの表情を見て俺はライトに耳打ちをした。 「スナイプさん…お願い。私たちを助けて下さい…」 女体化したライトが上目遣いでスナイプに迫る。 「いやぁ!いくらホワイトちゃんの姿になってもやらないからね!命あっての物種ってわかる?!」 TSしたライトの要求もスナイプはあっさり断った。しかしここで意外な助け船を出す者が現れた。 「スナイプ。彼らに協力してやれ」 その声の主はメトリであった。 「ちょお!待ってよ。俺一人の力でどうとなるってもんでもないでしょ。大体逃げる方はどうすんのよ?!」 「お前の言う通りに合成獣人たちが警護に回されてるのなら私と博士だけでも逃げるのは問題ない。だがこの連中が奴らと対峙するなら後衛の能力が圧倒的に不足する」 「それができるのはお前だけだ。頼む協力してやってくれ。せめて自身が逃げ切れるまでの間でいい…」 メトリの言葉にスナイプは頭を掻きむしりながら愚痴をこぼすように呟く。 「わかったよ…協力してやる。だがな…俺は極力手は出さない」 スナイプは荷物袋の中からブリーフケースのような物を取り出すとその中身を俺たちに見せる。 「こいつは俺の試作聖剣だ。残弾数は残り三発。よってギリギリまで撃つことはできない。それでいいなら協力してやる…」 「こいつは一体どういう能力があるんだ?」 俺の疑問にスナイプが答える。 「この試作聖剣は異世界にある何たらバレルってやつの伝聞を元にしたもので。大気中にあるマナを精製して弾丸にするって代物だ」 「理論上は飛距離も威力も弾数も無限って話だったんだが、いかんせんこの世界に漂うマナ濃度だと弾丸を生むまで何か月もかかるってんで失敗作に終わっちまった」 「だが人造勇者を相手にすらならこいつを使わざるを得ない。よってギリギリのギリまであんたらを囮にするし手も出さない。これでいいなら俺はあんたらのバックアップに付く。俺も死にたくはないからな…」 「わかった。協力をしてくれて感謝する」 俺はスナイプに右手を差し出すと彼は躊躇しながらもその手を握り返した。    *   *   *   *   * 「よし。全員準備は整ったな。これより作戦を開始する」 グラウンド666付近の荒野から俺が指示をする。 何もないまさに無毛の荒野の端から黒い弾丸が二条撃ち放たれる。 走り出すと身に纏うメックスーツに礫のような敵意が叩きつけられる。 恐らくこれは敵がロックオンした証であろう。 俺とライトの外装に何度も着弾の衝撃が伝う。だがスーツ自体には変化はない。 おそらくこれは伍號の聖剣の威力よりもこのスーツの強度の方が勝ってたという証なのであろう。 数発直撃した感触があるにせよ全く外装にはダメージの見えない姿に伍號はいらつく。 やはり連射モードでなく単射モードにしておくべきか…。 試作聖剣のモードを連射から単射に切り替える。分かりやすく言えばSTGにおける連射と溜め撃ちを使い分けるようなものである。 実銃で言うところのボルトアクションをいちいち行わねばならないのだが、遠くからちまちま狙うのであれば問題はない。 慎重に狙いを定めて撃った一撃がミレーンの肩アーマーを弾く。 そうそう…これだよこれ…。 伍號の脳内がスナイパーモードになった矢先に周囲から追加攻撃の報告が伝えられる。 「よせ!やめろ!あれは私のだ!」 拾弐號が上空から落とす爆炎にミレーンとライトは足取りを阻まれる。だがそれは同じ標的を狙う伍號にとっては邪魔以外の何者でもない。 「やめろ!お前の炎で敵が見えなくなる!邪魔をするな!」 爆炎で周囲の状況が見えなくなった伍號に捌號から連絡が来る。 「これから合成獣人たちを転移させる。奴等を仕留めるなら落ち着いて狙って…」 ミレーンとライトの前に50体ほどの合成獣人たちが転移される。 これが連中の最後の戦力なのであろう。終わりが見えたと思うとこの物量差も可愛く思えてくる。 ミレーンはメックスーツに備え付けの双剣を抜き、ライトは自身の両腕の刃を生やすと嬉々としてその群に突っ込むのであった。 合成獣人を切り捨てるとアーマーに着弾を食らう。 こういった状況を何度も繰り返すと敵スナイパーの位置が朧気ながらも推測される。 恐らく敵のスナイパーは進行方向から見て左、西側にいる。 スナイプ、早く敵の狙撃手を始末してくれ…。 スナイプは困惑をしていた。 狙撃手の放つ弾丸の方角から自身から見て左側の西方に敵本人はいるのは確実だと。 だが狙撃手の位置は把握できない。彼の持つ鷹の目の力をもってしてもだ。 大体の位置は把握はできる。だが敵も狙撃する度に場所を移動しているのであろう。 鷹の目は遠近だけでなく赤外線やサーモグラフィといった機能も持ち合わせている。 しかしそれを以てしても敵の姿が把握できない。 それもそのはずである。相対する人造勇者勇者伍號が纏うマントには非常に高度なステルス機能が搭載しており、赤外線やサーモで捉えられるような熱源反応も隠してしまうのである。 もちろんこれはヒジンドー機関解体後の時期で生まれた後付けの機能であり、それ以前に抜けたスナイプが知らなくても不思議ではない。 だがこれが狙撃手として決定的な戦力差を生むことになるのであった。 「くっそ…!どうしたらいいんだよ…」    *   *   *   *   * 「始まったな…」 地上から聞こえる爆裂音を聞きながらメトリがこぼす。 「よっしゃ嬢ちゃん。荷物まとまったからケツまくって逃げるぞ」 デカい風呂敷包みを背負ったフリッツ博士がメトリに声をかける。 彼らが秘密のラボの入口を出ようとしたその目前に、一人の男と多数の合成獣人の姿が目に映った。 「申し訳ありません。アナタ方には死んでもらいます。これも上官の命令なので理解してください…」 そこには苦い表情をしたカイモス=カルディウス准将がいたのであった。 (続く) 「申し訳ありません。あなた方には死んでもらいます。これも上官の命令なので理解してください…」 ラボから出て行こうとするメトリとフリッツ博士の前に血色の悪い顔色の男が立ちはだかる。そしてその背後には10体ほどの合成獣人たちも控えている。 メトリと博士は各々武器を構える。だが血色の悪い顔色の男ことカイモス=カルディウス准尉はそんなのは無駄とばかりに手を振りかざしながらそれを制する。 「そこにいらっしゃるのは高名なフリッツ博士でしたか…。お初にお目にかかりまして光栄ですが、ここでお別れとなるのは非常に残念です」 「あなた方のアジトの場所は数日前から捕捉しておりましたが、無駄に強いお仲間たちのせいで襲撃には待ったがかかっておりました。ですが奴等がいなくなった現状なら何の問題もなく始末できます。あなたの頭脳を失うのは非常に残念ですが、敵関係者は全て葬り去れという命令ですので申し訳ありません…」 この難局をどう切り抜けるか…メトリと博士が脳細胞をフル回転させている時、彼らの背後にある治療用カプセルが解放される音が聞こえた。 ヒタッヒタと何かが近づいてくる音がする。予想外の出来事にカイモスは困惑した表情を現す。 すると背後の何者かはこう叫びながら合成獣人たちの群れへと突撃するのであった。 「にょわ~☆」 それは眠りから目覚めたスヮリゲーターであった。 彼女はショルダータックルで最前にいた獣人を吹き飛ばすと、その傍らにいた別の獣人の頭を壁に叩きつける。まるで魔昭和の悪役レスラーのような狂乱ファイトに周囲は息を飲む。 「メトリちゃんにお爺ちゃん☆待たせたにぃ☆ 今からこいつ等み~んなやっつけちゃうにぃ☆」 自分の知っているスヮリゲーターと同じ口調を話す姿を見てメトリは安堵するのであった。    *   *   *   *   * 狙撃手の放つ弾丸がアーマーを弾く。それを見て飛び掛かろうとする合成獣人を俺は切り捨てる。 そこを狙い次弾が撃たれるが俺は瀕死の獣人の体を盾にしてそれを防ぐ。そんなことを一体何度繰り返したのであろうか。 50体ほどいた合成獣人たちも残り10体までに減っていた。 個人的な体感ではあるがその半数を始末したのは伍號の狙撃と拾弐號の爆炎がもたらしたのが実に皮肉な話である。 人造勇者たちは攻めるのは得意でも守りには不慣れなのであろう。この連携の取れなさはまさに致命的である。 この壊滅的な状況を見て捌號はこう言い出す。 「もういい、ボクがやる…。二人とも手を出さないで!」 捌號はすぐそばにあったビルの残骸へと手を当てる。 「ミレーンさん!上!」 ライトが俺に注意を則すと上空から大量の瓦礫が俺たちを狙って落ちてくる。俺たちは獣人や狙撃手の存在を忘れとにかく逃げ回る。 「こいつは捌號の仕業か…」 この悪夢のような状況ではあるが、反面二つのメリットを俺たちにももたらしてくれた。 一つは物陰が出来たことにより伍號の狙撃が収まったこと。もう一つは合成獣人の残存兵力を瓦礫が全て叩き潰してくれたことである。 だがこのまま逃げ回るだけでは何の進展もない。スナイプの奴は一体何をやってるんだ…。    *   *   *   *   * 突如空間が開きそこから降り注ぐ瓦礫の山を見てスナイプは困惑する。 「くそっ!捌號の仕業か…」 当初はミレーンたちを阻む狙撃手である伍號をターゲットとしていたが、より厄介な物理的絨毯爆撃を食らわすこちらの方が排除の最優先事項へと移行した。 スナイプは周囲を見渡す。すると瓦礫が降り注ぐ瞬間、朽ち果てたビルが消えるエリアを発見する。 恐らく敵はそこにいる…。スナイプは試作聖剣と呼ばれるライフルを構え、自身の持つ鷹の目のスキルでその周囲を探る。 「見つけた…」 スナイプの鷹の目に捉えたのは一見女児とも勘違いするような童顔の女性。そう人造勇者捌號キューケン=ピープ少尉であった。 スナイプは引き鉄に指を当てるも一瞬躊躇をする。今撃てば捌號を始末できるが代わりに伍號には自身の位置を知らせることになる。 狙撃手同士の戦いにおいて自身の位置を把握されることは致命的なミスとなるからである。 スナイプは呼吸を整えると意を決する。 「ええぃ!ままよ!」 スナイプが引き鉄を引くと弾丸は捌號のどてっ腹を射貫く。その状況を目撃した漆號は捌號の体を物陰へと移動させる。 「おい!大丈夫か!キューケン! あいつらスナイパーまで仕込ませてたのか!」 捌號への弾着を確認するや否やスナイプの元へ遠方からの弾丸が撃ち込まれる。それは自身の位置を捉えた伍號によるものであった。 「くそっ!だからやりたくなかったんだよ!」 スナイプは必死に逃げながら次善策を絞り出そうとしていた…。 息絶え絶えになりながらも捌號は漆號と陸號を手招きする。 「ごめん…。もうヤバいかもしれないから二人をあっちに送るね…。後は任せたよ…」 捌號が漆號と陸號の肩を抱き寄せると、二人の体は平原に現れた瓦礫の山へと移動する。 そしてその目前にはところどころ破損した黒い甲冑を纏った男が見える。 「「見つけたぜ…。ケリをつけようじゃないか!」」 散々お預けを食っていた漆號と陸號の顔からは、溜め込んでいた怒りと歓喜の表情が浮かぶのであった…。   *   *   *   *   * 遠くに轟音を耳にしながら荒野を駆け抜ける。光学迷彩を施したブランケットを纏いながら…。 「ミレーンくんたちは上手くやっているようだな…。私もそれに応えないと…」 ミレーンたちとは別の場所からグラウンド666へと侵入したシュウであるが、予想外なほど順調に星骸炉へと近づいて行く。 ミレーンたちの陽動作戦が想定以上の成果を見せているようだ。 シュウが現場に辿り着くとすでに星骸炉の中には魔王モラレルがスタンバっており、ストロングな奴を飲みながら退屈そうにしていた。 同行していた技術官がラーヴァの生首を炉心の上部にあるスペースへと安置する。 どうやら事態は思った以上に進行しているようだ。 礼服に着替えたドクトル・パンドラが人造勇者壱號ことアインス=ドナー大尉を呼び寄せる。 「では、これから儀式を始めます…」 炉心へ向かって神妙な面持ちをしたアインスがやって来る。殺るのは今しかない! 「すまないが死んでもらう!」 シュウはアインスたちの道中に現れると持っていた拳銃の弾丸を乱射する。 周囲にいた技術官たちは被弾し、アインスにも3発ほど食らわせている。奇襲としてはこれ以上ない成果ではあるがまだ事態は終わっていない。 アインスは反撃の電撃を射出するがシュウはそれを反転のスキルで返す。 アインスの瀕死の姿を見たあの男が動き出す、そうシュッツガイストだ。 彼は高速の動きでシュウの腹部に膝蹴りを入れる。 『悪いですが。ここはあなたに行かせるわけにはいきません』 シュウが反転の能力で反撃しようとするも、すでにシュッツガイストは背後に回っており更なる打撃を加える。 『ドクトル!早く儀式を済ませなさい!』 パンドラは福音書を開き、大量の血を流すアインスに祝詞を施す。 すると星骸炉が音を立てて動き始める。そしてアインスの脳裏に『いい?準備はできてる?』という言葉が聞こえたと思った瞬間、膨大な量の情報が脳を通過する。 それはまさしく頭が焼き切れるという表現がぴったりの仕打ちであった。だがそれを終えたアインスの姿は一変した。 腹部に受けた傷が自然に治って行く。全身から力が満ち溢れる。 そうこれが星皇誕生の瞬間であった…。 (続く) けたたましい轟音が鳴り出すと周囲の大気がほのかな輝きを見せる。 空気は湿度を増し、どことなくぬめり付くような皮膚感覚すらある。 それは仮に魔力を持たない者であっても何らかの特別な存在を感じ取ることができるであろう。 そうこれは高濃度のマナだ。星骸炉によって湧き出した星のマナが大気に溢れ出しているのだ。 不意打ちの奇襲があったものの儀式を終えた人造勇者壱號アインス=ドナー大尉、いや星皇アインスであったが彼女自身の中では特別な変化が起きた実感はなかった。 ただ体は軽く力に満ち溢れているのは感じている。 何よりも驚きであったのは奇襲によって受けた銃撃のダメージがいとも容易く修復されているのである。 アインスは金属製の左腕を天に向って掲げる。呼吸を整えるとおもむろに上空へと電撃を放つ。 放たれたそれはもはや電撃と言うレベルではない。 太く激しく輝くその一条の光はまるで空を切り裂きながら登る竜のようでもあり、落雷ならぬ昇雷という自然現象のようにも思えた。 「(どう?この星の力を手にした感想は?)」 アインスの頭の中に見知らぬ声が聞こえる。それは少女のような悪戯っぽい響きの口調であった。 アインスは一瞬自分の精神がおかしくなったのかと不安がよぎるが、星皇という誰も辿り着いたことのないステージにいるのだから特別な現象が起っても不思議ではない。 彼女は頭の中の声に対話を試みた。 「お前はいったい何者だ?」 「(余はラーヴァ。一応情報は全て君の頭にインストールさせたけど、使いこなせるようになるには時間がかかるだろうからね。それまでのナビゲーター役ってやつさ…)」 「(星の管理者の仕事は文字通りこの星の管理さ。それをきっちりやってもらわないとみんなが迷惑するからね…)」 ラーヴァの話によると星の管理とはこのようなものである。 ・火←→水 ・天←→地 ・光←→闇 この世界を構成する6つの基礎エレメントの内、相克するこの3組のバランスを調整することだという。 「(例えば水のエレメントが増え過ぎたらどこかに雨を降らせたり、地のエレメントが増え過ぎたらどこかに地震を起こす。簡単でしょ)」 さらにそれはエレメント単体だけでなく組み合わせることで多彩な自然現象をも生む。 「(さっき君が使った雷は天と光の複合。水と天を合わせれば雪や氷になるし、火と地の組み合わせでマグマが吹き出す…)」 つまり電撃だけでなくあらゆる属性の能力を使いこなせるということか。 そして溢れかえらんばかりのマナによる身体の強化、もはやこれは勇者や超人を通り越して神の領域にまで達したのかもしれない…。 アインスの心の高ぶりを知ってか知らずかラーヴァは忠告する。 「(いいかい。君が力を使えばその反動はどこかに現れる。だから力の行使は慎重にするんだよ。俗に言う大いなる力には大いなる責任が伴うというやつさ…)」 そんなラーヴァの忠告もアインスは心ここにあらずで聞き流すのであった…。    *   *   *   *   * 「待たせたなぁ!コージン=ミレーン! お前たちのせいで仲間は大分減っちまったが、もうすぐ大尉は星皇になる。だがお前を始末するのは大尉じゃない、クソみてぇな因縁も俺がここで終わりにしてやる!」 人造勇者漆號レーベン=フィール軍曹は背中に下げていた大剣を構えると、上空を飛んでいた人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナに向って叫ぶ。 「いいか!ドラシーナ!手を出すんじゃねぇぞ! お前の炎はデカすぎるから戦闘の邪魔なんだよ!解ったらさっさとここを離れて周りを哨戒してろ!」 漆號の言葉を聞いて人造勇者陸號ことザット上等兵も拾弐號に向って言う。 「おーい!ドラシーナ! 僕も援護はいらないよー!」 二人の援護無用の申し出を受け、拾弐號はこの一帯を離脱する。拾弐號が離れて行く姿を見ながら陸號は小声でこぼす。 「ようやく彼と殺り合えるんだから、爆炎で焼き殺すなんてそんなつまらないオチにはさせないよ。最後の一滴までその血を吸わせてもらうからね…」 メックスーツ02を着込んだライトは両腕の刃を生やす。 刃が装甲の中から容易に外部へ露出できるよう隙間を作らせたのがメトリへ頼んでいた改造であった。 一方やや離れた場所で漆號と対峙しているミレーンはメックスーツ01に備え付けてある双剣を抜いて構える。 元々剣士であり腕に覚えはあるものの双剣を使った戦闘の経験は少ない。 だが剣術ではなく従来の徒手格闘における手の延長だと考えれば、効果的な使い方も何とか見えてくる。 周囲を囲む瓦礫によって狙撃手の目からは逃れ、上空を飛び回るドラゴンは去らせた。 今はこの漆號との1対1の真っ向勝負である、目の前の敵にだけ集中すれば良いのだ!    *   *   *   *   * 「(なんてことだ…)」 目の前で起る光景をシュウは口惜しそうに睨む。 星骸炉起動の儀式の直前、光学迷彩ブランケットを纏い密かに侵入し拳銃にてアインスを奇襲するとこまでは上手く行った。 しかしシュッツガイストの介入によってアインスへの止めを刺すことは阻まれた。 今から考えるとアインスを射殺することに若干の躊躇があったのも否定はできない。 ヒットした箇所はいずれも腹部でありヘッドショットは避けていた。 それは単純に確実に着弾させるためなのか、それとも自身の遺伝子の大元であるイナッテン中佐の意思なのか…。 しかしそのせいで最悪の展開を呼びこんでしまった。残るは反転の能力を使って少しでもアインスにダメージを加え続けることである…。 拳銃の弾倉を交換するとシュウはアインスへと銃を乱射しながら向かって行く。 弾丸は着弾するも彼女には何のダメージも与えられない。 だがこれでいい…。あくまでもこれは自分自身に注意を向けさせるためだ。 最大威力で電撃を放て、俺はそれを返してやる! アインスは左腕をシュウの方向へとかざす。呼吸を整えるや否や激しい閃光がその手より放たれる。 シュウはタイミングを合わせて反転のスキルを仕掛ける。電撃は見事に反転しアインスに直撃する。 だがその反動は凄まじく、シュウの全身へと強烈な電気ショックが通り抜けて行く。 シュウの持つ反転のスキルの弱点として反動でダメージを食らうというものがある。 相手の放った攻撃を返す代わりにそのコンマ以下~数%ほどのダメージが自らの身に戻ってくるのである。 ちなみに大自然の起こす落雷の威力は電圧は1億ボルト、電流は千~20万アンペア。 これが仮に数%どころかコンマ以下のパーセンテージであっても人間の肉体には耐えられるような電撃ではないのだ。 電撃が貫通したことによりシュウの全身は大火傷と黒い焦げに包まれる。 だが荒い呼吸音を立て瀕死の状態ながらも未だに生きているのは、人造勇者として強化された影響なのであろうか。 反転のスキルにより電撃を食らう羽目となったが、当のアインスの方は着衣が多少焦げただけでその身は全くの無事であった。 アインスはシュウの元へ近づいて見下ろす。 父と同じ顔をした男が自分を殺そうと仕掛け、そしてそれを返り討ちにする。 何ともひどい因縁ではないか…、この父子には結局殺し合う運命しかなかったのだと。 そう思うとアインスの口からは乾いた笑いだけがこぼれるのであった…。   *   *   *   *   * 「くっそ!場所選びを間違えたぜ…」 スナイプは約20層はある高い廃ビルの中を必死に逃げ回る。 戦場となるグラウンド666及びその周囲を俯瞰で捉えるために、自身の配置を高い場所から見下ろせるこの場所にした。 狙いとしては正攻法なのであるが人造勇者捌號キューケン=ピープ少尉を狙撃した際に、敵狙撃手の人造勇者伍號トラウアーゲサング少尉に自身の位置を把握されてしまった。 そういった場合即座に撤収し違う場所へと向わねばならないのだが、山の中や森林といった場所では縦だけでなく横の移動も可能なのだがここは高層ビルの内部である。 周囲には同等の高さの建築物がないため移動は上下のみ、つまり敵からしてみれば狭いエリア内を上か下に行くだけの実に狙いやすい状況となっているのだ。 「ハァハァ…ちょっと休憩するか…」 スナイプが腰を落して壁にもたれかかると、体を預けていた外壁が突如破壊される。 その位置はスナイプの頭上10cmほど上、完全にヘッドショットを狙っていた。 伍號の試作聖剣は現在威力を高める単射モードかつ対物仕様へと最大級に強化している。 これはコンクリートのビルの中に籠る敵を外壁ごと撃ち抜くためであるが、そのため命中精度はかなり落ちている。 「しかしどうやって壁越しの位置を把握しているんだよ。旧式のくせに俺の鷹の目よりも優れているってのか…?!」 そんなスナイプのぼやきがまるで聞こえているかのように伍號はつぶやく。 「機械というのはアップデートが簡単にできるんだよ…。私の目も装備もお前の知っていた頃とは全然比べ物にならないのさ漆拾漆號!」 (続く) 「機械というのはアップデートが簡単にできるんだよ…。私の目も装備もお前の知っていた頃とは全然比べ物にならないのさ漆拾漆號!」 人造勇者伍號トラウアーゲサング少尉がそうつぶやくと、右目に装着されたカメラアイにある多種多様なセンサーの一つから人間の耳には聞こえない特殊な超音波が発射される。 それは現在スナイプが潜む遠く離れた場所にあるビルに当たると反響で返って来る。 この仕組みは潜水艦などに使われる反響音を受信して物体との距離や方角を探るアクティブソナーという探知装置に近く。 伍號の使う装置はさらに高性能で、反響音を解析し状態をビジョンとして見せることができる。 これは元々音楽家だけあって聴覚が鋭敏な彼女の特性を利用した物であり。 高出力の試作聖剣でビルに大穴を開けてたのは、内部の様子を探るための超音波の通り道を作っていたのだ。 一方本来性能が上であったはずの後期型人造勇者でもあったスナイプは追いつめられつつあった。 「こいつはもう技術とか経験とかの問題じゃない。明らかに何か違う高性能なアイテムを使っているようだな…」 座して死を待つかそれとも一矢報いるか…。 とにかく必死に逃げ回るという手もあるが、あの執念深い連中がどこかで自分を見つけたら、その時は確実に最期を迎えることになるだろう。 一矢を報いるにはまず敵の正確な位置を見つけなければならない。 もちろん今まで散々撃たれてきたおかげで大まかな方角やエリアは特定出来ているが、潜んでいる当人の姿は全く陰も形も見えないのだ。 足の爪先程度でも構わない、ほんの少しでも姿が見えてくれたら…。なら誘き出すしかないな…。 スナイプはプランを考える。こちらが仕掛ける前に撃たれてしまっては意味がない。 とにかく敵を混乱させ躊躇させ、こちらが探りを入れる時間を長く作れるようにする。 そして見つけ次第即発射できるように準備を済ませておくことだ。 自分とて軍人ではなくなったが、冒険者としていくつもの死線を潜り抜けてきた男である。 格上の相手に当たるための引き出しはいくつか持っている。 スナイプは試作聖剣のモードを連射に切り替える。残弾は残り二発、敵を見つけ次第一気に勝負をつける腹だ。 道具袋の中からドリンク缶サイズの金属の塊を取り出す。そして安全ピンを抜くと窓側にある部屋の中に目がけて投げ入れる。 するとそれは破裂し、轟音と閃光そして煙幕が広がる。これは目くらまし用のアイテムでスタングレネードと呼ばれる物である。 突然放たれた閃光により伍號の視覚に強烈なノイズが入る。 さらに轟音はソナーの音波を掻き消し、煙幕は物理的に内部の様子を見えなくさせている。 恐らくこの隙に逃げるつもりか…、伍號はそう判断し出口のありそうな低層階を索敵する。 だがスナイプはその裏を掻いた。煙幕の中から飛び出ると試作聖剣のライフルをこちらに構える。 奴め何を考えているんだ…、正気なのか…、いややけくそになっただけか…。 予想外の行動に伍號は数秒ほどフリーズするが、すぐに彼女の試作聖剣のモードを対物用から対人用に威力を下げ命中精度を上げた。 スナイプは伍號がいるであろうエリアを鷹の目の力をフルに使い必死に探る。すると奇跡が起きる。 時間の経過と共に太陽は動いていた、すると伍號の潜んでいる高層ビルに日差しが差す。 その時高性能なステルス機能を持つマントの隙間から覗く銃口が陽光によって反射したのである。 見つけた…。スナイプは心の中でそう叫ぶと引き鉄を引く。伍號もほぼ同時に発射する。 さらに二つ目の奇跡が起る。二人の放った銃弾が中空にて衝突して弾け飛んだのであった。 まさかのアクシデントに伍號は戸惑うも冷静にボルトハンドル引こうとした瞬間、試作聖剣に着弾がある。 連射モードに切り替えていたスナイプの試作聖剣の間髪入れぬ射撃により、伍號の試作聖剣は破壊されたのだった。 想像もできぬ展開に伍號は冷静さを欠き、ステルス機能のマントから顔が覗き見えていた。そして三つ目の奇跡が起きたのだった。 「これだけの高濃度のマナが漂っているんだ、まさかとは思っていたが新しい弾丸がこんなにも早く生成されるとはね…」 「やっぱり幸運の神様ってのは女神のようだな。機械仕掛けの女よりも色男の方が好みみたいだぜ!」 スナイプは狙いを澄まして引き鉄を引く。弾丸は伍號のカメラアイに着弾し、彼女はそのまま倒れるのであった。 敵狙撃手の排除を確認するとスナイプは糸が切れたように倒れ込み、そして床に寝転がる。 「とりあえずノルマ達成か…。俺はもうこれ以上仕事なんかしねぇぞぉ…」    *   *   *   *   * グランド666の平原では降り注がれた瓦礫の合間で二組の剣戟が繰り広げられていた。 一組は黒い甲冑を身に纏った双剣の男と軍服を着用した大剣の持ち主、コージン=ミレーンと人造勇者漆號レーベン=フィール軍曹である。 漆號は大振りの重量感ある剣を高速で振り回す。 「どっかから妙なアイテムを持って来やがったみたいだが、聖剣を破壊できるのは聖剣だけだ! そんな頼りねぇ刃物なんざ一発でへし折ってやらぁ!」 そう叫ぶ彼の上段からの一振りをミレーンは双剣をクロスさせて受け止める。 「確かにそうみたいだな…。だから俺も持って来たよ聖剣ってやつを。こいつは捌拾弐號という奴から奪い取った鹵獲品だ、これで対等な条件で斬り合えるな!」 ミレーンは交差した刃を力任せに跳ね上げると左腕の剣でガードをしつつ、右腕の剣で漆號の腹部を斬り上げる。 漆號は一歩後退し距離を取ると瞬く間に傷口が塞がる、再び構えを取ると猛烈な勢いで今度は横なぎに斬りつける。 ミレーンは左手に持った剣でそれを受け止めると手首の返しでそれをいなし、追っかけで漆號の胸元に強烈な突きを食らわせる…。 こんな斬り合いをもう何度続けたのだろうか、終わりの見えない膠着状態にミレーンは徒労を感じていた…。 ミレーンたちの戦いから瓦礫の山を一つ隔てた場所では、同じく黒い甲冑ことメックスーツを纏ったライトが人造勇者陸號ザット上等兵と交戦している。 二人とも主武器は両の腕から生やした刃。高速で動く二人の争いは撃剣と言うよりも徒手格闘の演舞のような素早い展開が繰り広げられていた。 「せっかく君の血を吸えると思ったのに、そんなつまらない物着こんじゃってさぁ。空気読めない奴とかって言われない?」 陸號はライトに向かって軽口を叩く。装甲の固いメックスーツに試作聖剣の刃が届かないせいか、若干のいらつきも感じ取れる。 「悪いけど君の相手だけをしてるわけにはいかないんだ。それに君だって随分丈夫になったじゃないか、恐らくスヮリさんの血を吸ったおかげだろ。感謝をしたら彼女に心の底から謝まるんだね…」 ライトの斬撃が何度か決まるも硬化した皮膚によって想定よりも手傷を負わせることができず、その上高い回復力によって瞬く間に傷が修復されて行く。 「すごいな簡単に傷が治って行く! レーベンさんいつもこんな気分で戦ってるんだな。そりゃ何も恐れるものなんてないよね」 「それに気づいちゃったけど君のそのスーツ、固いことは固いけどそこみたいに被弾した場所だったら少しダメージを加えたら剥ぎ取ることはできるみたいだね! さすがトラウアーさん!いい仕事してくれてるよ!」 陸號が放った不意打ちの斬撃で、被弾によるひび割れを生じていた左肩のアーマーがはじけ飛ぶ。 攻めどころをようやく発見した陸號の表情に不気味な笑みが浮かぶのであった…。    *   *   *   *   * 星皇となった人造勇者壱號アインス=ドナー大尉は空を見上げながら、心にぽっかり開いた空虚さをこれからいかにして埋めるべきか考えていた。 この星に満ちた溢れんばかりのマナを管理権と言う力で思う存分に扱うことができる。 単なる武力や魔力として使うどころか、歴史上現れたいかなる勇者や魔王ですらも抗うことのできなかった大自然ですら自分の意のままに操れるのだ。 理論上はもはやこの星に自分を超える者はいないであろう。父娘の悲願であった最強の力を手に入れたのである。 だがその力を以って何を為すべきなのか、その答えは彼女の中に何もない。 自身の目の前にいる魔王を討ち取るべきか、それともこの星の覇者として君臨するべきか…。いずれも容易く実現可能であろうが意欲は何一つ沸いてこない。 多くの仲間や部下そして肉親を犠牲にしてまで得たはずの力であるのに…。 『おめでとうございます。これで悲願が達成されましたね…』 アインスの元に黒仮面の男シュッツガイストが現れる。彼はアインスにこれからの方針はどうするのか質問をした。 「正直何も浮かんでこない。あれだけの犠牲を出してまで追い求めた力だというのにな。あらゆることを容易くできてしまうということが、こんなにも空しい物だとは思わなかったよ…」 彼女の返答を聞いてシュッツガイストは頷きながら提案をする。 『そうでしょうな。あなたは野心などとは無縁の真っすぐな御方ですからね…。でしたらこの私めが星皇あなたの行先をプロデュースしましょう』 「例の正義による完全なる統治というやつか? 実現は容易いだろうが結局は次の魔王と呼ばれる存在にしかなれんよ、却下だ…」 アインスの脳裏にミレーンが同様のセリフを吐き捨てるように言った光景が思い浮かぶ。 『安心して下さい。そんなつまらない事はさせません。星皇殿、あなたにはこれから宙へと行ってもらいます。そしてそこにいるバルロスと一体化するのです…』 (続く)