グラウンド666の上空に一体のドラゴンと一人の人間が対峙している。 一方は赤い巨竜の姿へと身を変えた人造勇者陸號ザット上等兵、もう一方はライトが翼と刃を生やして待ち構えている。 「君みたいな他人の力頼りの三下が、僕の友達の力を奪おうだなんて100万光年早いんだよ。宣言するよ!君はこの小さくて弱っちい人間にこれから敗北する」 ライトの挑発の言葉も言い切らぬ内に陸號はライトに向って大口を開けて突っ込んでくる。 「秒で終わるのは君の方だよ! ちょこまか逃げられないようにしっかり噛み砕いてから血を吸い取ってやる!」 ライトは慌てず目くらましの真空波を陸號の顔面に数発放つ。ダメージは大したことは無かったが反射的に目を瞑ってしまい、その隙にライトは陸號の視界から逃れる。 「“ライトニングボルトスクリュー”!」 慌てて周囲を見回す陸號の頭上からライトの声が聞こえる。 すると落下速度プラス翼の加速で威力を付けた飛び蹴りが陸號の顔面にヒットする。 再び陸號の視界からライトの姿が失われると、今度は背後から叫び声と共に背中に射貫かれるような衝撃が刺さる。 これはがーすけが人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナ相手に見せた、収束を高めた貫通力重視のブレスをライトが真似てみたものであった。 陸號は手足や尻尾を振るい豪火を吐いてライトを捕らえようとするも、一行に捕らえることはできない。 力や破壊力は圧倒的になるはずのサイズ差も、スピードが同レベルやそれ以上ならば非常に厄介になる。 人間が素早く動き回る蜂やハエを手で捕まえることが難しいのと同様だ。 「(やっぱりだ…。彼はまだこの姿に慣れていない…)」 この無謀とも言える作戦ではあるがライトには確信があった。 ライトは一度がーすけに頼んでドラゴンの体を操作させてもらったことがある。 その時感じたのは人間の体との各種感覚が想像以上に違うということであった。 首は胴体よりもかなり離れ、手足は短く、可動域は狭く背後に手足を回すこともできない。尻尾を空中で振ればバランスは崩れ、格闘戦など以ての外である。 一言で言うなら操作性最悪のクソゲーといったとこだろう。 恐らくがーすけと戦った拾弐號は慣れるまでに相当の訓練を要したであろうし、今さっきなったばかりの陸號が上手く扱えるとは思えないという判断であった。 とはいえこの人間ボディのままでは火力不足は否めず、陸號を倒すことは難しい。 じきにドラゴンの体の操作にも慣れてくるかもしれないゆえ、早めに始末をしたいところだ。 「(アイツを倒すだけの火力を持たせなければならない…。がーすけ、体の一部分だけを竜化させることはできるかい?)」 『(むろん可能だ。我が友が今生やしている羽や刃も一部分の竜化にすぎない。してどこを変化させる?)』 「(右腕を頼む。渾身の一撃を叩き込むから、腕力も耐久力も最大限が欲しい…)」 ライトの右腕が全身のサイズからは不釣り合いなほどパンプアップされると、その表面に純白の鱗が生えてくる。指からは固く凶器のような鋭さを持った爪が生える。 その姿はかつて邪竜教団によって改造手術された時のような、歪な半竜人の姿のようにも見える。 「この姿には慣れたもんだよ!」 ライトは陸號から逃げ回りながら右手の拳に魔力を溜める。まだだ…もっと力を蓄えろ…。 拳は赤熱化し余剰の魔力がアークのようにスパークする。 ライトは陸號の背後に回ると翼と翼の間の背骨の辺りに強烈な一撃を叩き込む。 「“魔浸拳”!」 これは濃密に溜めた魔力を敵の体内に浸透させ、時間差で体内の中心にてスパークさせるというライトの必殺技である。 スパークさせた魔力は衝撃波を生み体内をズタズタに破壊する。 だが相手は巨竜の肉体を持ち、恐らく合成獣人由来の回復力再生力を持ち合わせているはず。 ライト自身の全力を以って叩き込まねば復活されるのがオチであろう。 故にライトは覚悟を決めていた。仮に陸號が死ぬことになっても構わない、その罪も恨みも全部被ろうじゃないかと…。 敵ではあるが幾度となく戦った相手だからこそ抱いた奇妙な思いであった。 陸號の全身が痙攣したかのように震えると、全身の穴という穴から血を吹き出して墜落する。 ライトは陸號の生死を確認するために近寄る。するとまだ息はあるようでライトの姿を見ると恨み節のように呟いた。 「血…血だ…血を寄こせ…。こんなとこで…僕は…終わりたく…ない…」 陸號がまだ生きていることにライトは驚きと不安そして多少の安堵が生ずる。 ライトは刃を震わせた高周波振動ブレードで陸號の両手の親指に生えている試作聖剣を切断すると、その聖剣の刃をドラゴンの手足の可動域では届かない背中へと突き刺した。 「そんなに血が欲しかったら自分の血でも吸いなよ」 奇妙なことに刃は陸號の血を吸い上げるとその根元から血を吹き出す。その血の中にはキラキラと光る粒子のような物が混じっている。 これは一体何なのか?魔力なのかそれとも他者から吸い取った生命力なのか? しかし今この場では知る由もない。 ライトはミレーンを追って星骸炉へと急ぐのであった。    *   *   *   *   * 星皇アインス=ドナーと霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケの戦いは一向に進展を見せなかった。 アインスが様々な属性を使って攻撃を放ち、ゲヴィッターヴォルケはその度に破壊されるも天空から降り注がれる雷光を浴びることで復活する。その繰り返しであった。 その様子を観察していたラーヴァはアインスの脳内に語り掛ける。 「(どうやら奴の本体は目の前のアイツじゃないわね。あれだけ修復を繰り返してるんだから中身があるならリソースの変化が少しはあってもいいでしょうし…)」 「ならば奴の本体はどこにあるんだ?」 アインスの質問にラーヴァは答える。 「(恐らくアイツの頭上に渦巻いている暗雲よ。嫌な気配がずーっとすると思ったら、上の方から来るのを感じる…)」 「上か…」 アインスは上空を見上げると風のエレメントを使って強力な竜巻を起こす。それをゲヴィッターヴォルケの頭上にある暗雲へと叩き込む。 暗雲は竜巻に巻き込まれるように吸い込まれるが、竜巻が空を突き抜けると再び上空へと広がる。 『私の本体に気づくとはさすがです。ですがアナタの力では私を倒すことは不可能です。せっかくですからアナタの悪足掻きを見届けてあげましょう。私は一切手を出しません』 アインスはありとあらゆるエレメントを組み合わせて試してみる。炎、氷、雷、光、闇、毒、マグマ…etc。 アインスの攻撃が万策尽きかけたところ変化が起きる。ゲヴィッターヴォルケでもその本体である暗雲でもなく周囲の状況がである。 大地が激しく揺れ地割れが起こる。 それが収まると地の裂け目からマグマが噴き上がったと思ったら、空からは滝のような豪雨が降り注ぐ。 そして雨は雪に変わりグラウンド666をクールダウンさせる。 まさに天地がひっくり返ったような現象に困惑したアインスの脳内でラーヴァは伝える。 「(あちゃ~やっちゃったわね…。反動が起こったわ。バランスの管理もせずにバンバンとエレメント使いまくったからしょうがないわね。今頃世界中こんな感じよ…)」 その瞬間世界中で天変地異とも言える気候の変化や自然現象が起こる。 それは人界魔界問わずの光景であった。 大地は揺れ火山は噴火を起こし、巨大なハリケーンが風雨で都市も山も洗い流す。 ウエスやセーブナの沿岸部では大津波が押し寄せ、コメトレルデの平野では大竜巻が村も田畑も吹き飛ばす。 エジンナイルやサラバ砂漠には猛吹雪が吹き荒れ、強烈な日差しはサムーイテツクの氷河を溶かし洪水となる。 真昼の空に暗雲が立ち込め、太陽を遮り闇へと包み込む。これは世界の終わりだ…、誰もがそう思ったという。 「バランスの管理だと!そんなことぐらいサポートするのならやっておけ!」 アインスはしでかしたことの大きさから逃避するかのようにラーヴァへ逆ギレする。 「(管理してたわよ!それが追いつかないぐらいエレメントをバカバカ使う方が悪いんでしょ!)」 「くっ!」 ラーヴァの言も正論ではあるが、星の管理など後でいくらでもフォローは効く。今は目の前の敵を倒さねば管理もクソもない。 その混乱する世界を見てゲヴィッターヴォルケは笑い出す。 『見事ですよ星皇。アナタの力で世界は破滅へと突き進んでおります! さしずめこの星の初期化への前奏曲といったところでしょうな。私もアナタに好きなだけ撃たせた甲斐がありました』 進むも地獄引くも地獄、八方塞がりとなったアインスに、起死回生となるかもしれないアイデアをラーヴァは囁く。 「(ひょっとしてアレなら効くかも…)」 (続く)