霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケの本体である暗雲に、あらゆる属性の攻撃を加えるも一向に効果はなく。 反対にエレメントの浪費によるバランス異常で、世界中に天変地異をもたらすことになってしまった星皇アインス=ドナー。 対処策の見つからぬ状況の中、アインスの中にいるラーヴァが起死回生になるやもしれぬプランを思いついた。 「(ひょっとしてアレなら効くかも…)」 ラーヴァの呟きにアインスは藁をも縋る様な気持ちで尋ねる。 「それは一体何なんだ?! 今すぐ答えろ!」 「(それはね聖魔法よ…)」 「聖魔法だと…?!」 ラーヴァの言にアインスは拍子抜けする。魔力持ち全てが使えるという訳ではないが、ヒーラーや神職などレベルに差はあれど冒険者PTには必需品的な存在であり希少性はさほど高くはない。 アインスが今までゲヴィッターヴォルケに放ってきたような戦術級の攻撃でも効かない相手に、治癒や浄化など加えても何の意味があるのだろうか。 「(特に根拠はないわよ。ただ聖属性というのは管理者が扱える自然のエレメントとは違った場所から来ている力なの。要は試してない最後の手段はこれぐらいって意味よ)」 星の管理者=星姫が扱えるのは火×水・天×地・光×闇の相克を持った6つの基礎エレメントであり、氷や雷といった他の属性はそれらを組み合わせただけに過ぎない。 しかし聖属性は星姫たちが認知している自然エレメントとは違う場所が由来であり、それがどこから来るのかは彼女たちでも解らない。 神と呼ばれる者が本当に存在してその力を借りているのか? 人間の信仰というものが別次元の力を呼び出しているのか? この星の外部よりもたらされた力なのか?  理屈は知らないが、効くか効かぬかは試してみなければ判らないのである。 「そうか…、ならばやってみよう。聖属性の力はどのように出せばいいんだ?」 ラーヴァは呆れたように答える。 「(だから言ったでしょ私たちが扱える力じゃないって。試してみたいのなら、どこかから使える人でも探して来なさいよ)」 くそっ!ぬか喜びさせやがって…。アインスがそう吐き捨てようとした時、視界の隅にドクトル・パンドラの姿が映る。 最後の最後で切り札が見つかったじゃないか…。アインスは深刻な表情を見せながらパンドラの元へと近づいて行く。 「ドクトルあなたの力を借りたい。聖魔法の力が欲しい。奴を倒すために祈れ。いいな!」 アインスの無茶ぶりにパンドラは激しく動揺する。 「あばっばっばっ…、むっむっむっ無理ですぅ! 私みたいな落ちこぼれ聖女のしょぼい魔力じゃあんなバケモノを倒すのは無理ぃ…」 アインスはパンドラの腕を掴んで強引に引きづり出させる。 「あのデカブツを倒すには聖属性の力しかない。今この場でそれができるのはお前だけだ。魔力が足りないというのなら私がマナを供給する。やらなければお前も私も世界中の人間も奴に滅ばされることになるんだぞ!いい加減腹を括れ!」 アインスの説得にパンドラは不安ながらも祝詞を読み上げる。それはゴーストや邪気を祓う聖魔法の物である。 効果は微弱ながらもゲヴィッターヴォルケに動揺を与えている。これは行ける!だが出力はやはり足りない、ならばもう一押しだ! そう確信したアインスはパンドラの両肩に手を置き、魔力の波長を同化させる。波長のシンクロを確認すると一気に大量のマナを彼女に流し込む…。 すると変化が起こる、ゲヴィッターヴォルケにではなくパンドラの方にだ。 彼女は高圧の電流にでも触れたかのように激しく小刻みに震えだすと、目鼻口耳の穴から血を流し倒れそしてそのまま息を引き取った。 予測不能の展開にアインスは動転する。 「(あんたアホなの? その体は管理者権限で強化されてるから、バカみたいな量のマナを体内に蓄えても放出しても大丈夫だけど。普通の人間に流したら耐えられるわけないって気がつかない?)」 「そっ、そんな話は聞いてないぞ! お前が事前にちゃんと言わないのがっ…」 知らなかったとはいえ、協力者でありこの場においての唯一の切り札であったパンドラを始末してしまったことにアインスは混乱している。 もっとも責任をラーヴァに転換しようとしたところで状況は何一つ変わらないのだが…。    *   *   *   *   * 『どうやら万策尽きたようですね。確かに今の聖魔法には驚きましたが少々ピリピリした程度で、それよりも勝手に自滅したのには少し笑ってしまいましたよ』 『悪足掻きはもうこの程度でよろしいでしょうか。では星皇アナタに諦めがつくまで、思う存分殺り合いましょう』 ゲヴィッターヴォルケの背中に設置されているコイル状のパーツに励磁音が響くと、周囲から電流がバチバチ音を立て始める。 そして彼が両腕を構えると濁流のように電撃がアインスへと向って流れ出る。 それに対抗するようにアインスも左腕を掲げると、そこからうねる光の大蛇のような雷光を放ちゲヴィッターヴォルケの電撃に打ち当てる。 何の属性を用いても奴には効かない、ならば自分の得意なやり方でぶつけるしかない。 今まで自らの力だけでのし上がってきたアインスである、考え方も大分脳筋なのは否めない。 激しい電撃のせめぎ合いは10分以上も続く。アインスの様子を見てゲヴィッターヴォルケは彼女にこう告げた。 『さすがは星皇、電撃勝負で私とここまで渡り合えるとは驚きです。ですがもう限界ではないのですか?』 「はったりカマして私を動揺させるつもりだろうが、このように私はまだ疲労すら感じてないぞ!」 アインスの返答にゲヴィッターヴォルケは鼻で笑いながら宣う。 『確かにアナタはそうかもしれませんね。ですが私が言ってるのはアナタの左腕の話ですよ。その造り物のね』 何っ?アインスが視線を左腕に送ると、彼女の左腕はビキッビキッと音を立てそしてパーツの継ぎ目の辺りから外装が吹き飛んだ。 アインス自身は星骸炉から湧き出るマナを使って肉体は強化されているが、機械式の腕にはマナの影響は及ばない。 彼女の左腕はもはや工業品としての耐久限界を超えてしまったのだ。 「あっ!あぁぁぁぁぁー!!!!!」 アインスは起こった事態の衝撃と動揺の余り、壊れた左腕を押さえながら喚き散らす。 その隙を突いてゲヴィッターヴォルケの電撃はアインスに直撃し衝撃で吹き飛ばされた。 今の彼女の能力は星の管理権がもたらしている物なので、右腕だろうが目からだろうが攻撃を放つことはできる。 だが長年の戦闘経験から攻撃は左腕から放つものという固定観念ができており、臨機応変な対応ができなくなっているのだ。 『これでもう終わりです。ゆっくり眠って下さい星皇。次会う時はバルロスの中です』 ゲヴィッターヴォルケの背中のコイル状のパーツが先程よりも大きな励磁音を放つ。 吐き出された特大の電撃にアインスは終わった…と直感した。だがその時だった。 「反転…っ…」 アインスの前に男が立ちはだかる。男は両手を前に掲げるとゲヴィッターヴォルケの放った電撃を返した。 ゲヴィッターヴォルケは自身の最大出力をもろに食らってしまい少しの間フリーズをする。 だが代償は大きく男は焼け焦げた臭いを放ちながら地に倒れる。 アインスは男の元へと膝を這って近づく。男の正体はアインスとの戦いで破れ、虫の息であった元人造勇者終號ことシュウであった。 なぜ彼は敵であるはずの自分を守ったのか?動けるぐらいに回復したのであれば戦線離脱するなりあったではないか? 自身の父と同じ顔をしている男の不可解な行動に、アインスはどうしても確認しなければならない気持ちが生じた。 「貴様なぜ私を庇った? 何をしようとした? お前は一体何者なんだ?」 ただでさえあの状態から動けたのも奇跡的ではあるが、もはや限界なのであろう。 高圧電流で黒焦げとなったシュウは虚ろな目をしながら息を荒くして何かを言おうとしている。 「すま…な…か…った……ア…イ…ンス…」 この言葉を言い切るとようやく言えたという達成感と安堵感からか、彼は満足そうな顔をして息を引き取った。 敵であるはずのこの男がなぜ私の名を知りなぜ謝るのか、そしてなぜ死を恐れず私を守ったのか。 この男の不可解な行動に、アインスの心の中にひょっとしたらあれは本当に父なのではという疑念が生まれる。 アインスは慟哭した。理由はない。とにかく溢れ出る涙と叫びを止めることができなかったのだ…。    *   *   *   *   * 悲しみに暮れるアインスの前にゲヴィッターヴォルケが立ちはだかる。 『これで気は済みましたか?もうアナタを縛り付ける物はありません、そして助けも現れません。しばらくお眠りなさい』 再びゲヴィッターヴォルケのコイル状のパーツが唸りを上げる。その時であった。 「“レンハートボンバー”!!!」 何者かがゲヴィッターヴォルケの背後より強烈な飛び蹴りを入れる。 姿の見えぬその敵に彼は周囲に探りを入れるが、今度は「“ブラストキック”!!!」と正面より飛び蹴りを食らう。 その見えない刺客は奇襲を仕掛けた後、星骸炉の上に乗って姿を現す。 「遺伝子によって紡がれた絆。時に独善的な悲劇を生むこともあるが、それ以上に何者にも代えがたい沢山の無償の愛を生む…。人…それを…“親子”と言う!」 『何者ですか?! 名を名乗りなさい!』 「貴様に名乗る名などないッ!」 その刺客は認識阻害を使って姿を消していたコージン=ミレーンであった。 (続く)