時間は少し前に巻き戻る。 認識阻害を使ってグラウンド666の中心にある星骸炉へと急ぐコージン=ミレーンであったが、突如起こった地震や地の裂け目から吹き出す溶岩などに先を阻まれていた。 やっとの思いで星皇アインス=ドナーと霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケとの戦闘の場へと近づくと、彼は現状を把握すべく物陰に隠れて様子を伺う。 するとアインスが彼女の協力者であるドクトル・パンドラを連れてくると、彼女に何かをするように命じている。 「あのデカブツを倒すには聖属性の力しかない。今この場でそれができるのはお前だけだ。魔力が足りないというのなら私がマナを供給する。やらなければお前も私も世界中の人間も奴に滅ばされることになるんだぞ!いい加減腹を括れ!」 アインスたちと対峙する巨大な敵ゲヴィッターヴォルケの弱点は聖属性なのか…。 パンドラと同じく聖属性の魔力を持つ俺の脳裏に、この戦いの勝算が朧気ながらに見え始めたのだった。 パンドラが祈りを唱えるとゲヴィッターヴォルケが動揺する動きが見える。どうやら効いてはいるようだ…。 そう思った次の瞬間、パンドラは顔面の穴という穴から血を流して絶命した。 一体彼女に何が起こったのか?聖魔法は効かなかったのか?遠くから眺めているだけでは何も解らない。 俺は計画していたいくつかのプラン通り、星骸炉の破壊場合によっては星の管理権の奪取をすべく雷撃の乱れ飛ぶ戦場へと足を踏み入れるのであった。 『(炉の上部中心にある飾りに空洞があります。星姫の亡骸は恐らくそこです…)』 俺の脳内にいる聖女から情報が提供される。 彼女らも元はパンドラと同じく「忌器封殺機関」の一員であったので、星骸炉に関しての知識は持ち合わせていたようである。 認識阻害のおかげで邪魔はされずスムーズに取りつくことができた。 炉の上部にあるケースを開けると物凄い熱と圧力が吹き出る。これがこの星から湧き出るむき出しのマナというやつなのだろう。 その中に鎮座されている生首に俺は語りかける。 「お前が星姫か? 奴等を止めるために俺に協力して欲しい。星の管理権とやらを俺に渡してくれ」 だが俺の提案への星姫の返答はあっさりしたものだった。 「君はいきなり現れて一体何様のつもりなんだ? 余がそう簡単に管理権をホイホイ渡すような尻軽女だとでも思っているのか? 不愉快だこの泥棒猫が」 星姫はケースの扉をぴしゃりと閉める。そうこうしている内に戦況に変化が訪れる。 「反転」という耳慣れた声が聞こえると膨大な量の雷光がゲヴィッターヴォルケへと返って行く。 そしてその声の聞こえた方向に目をやると、アインスが黒焦げになった男の亡骸を抱えて涙を流している。 「シュウ…」 俺は仲間を死なせることになった自身の不甲斐なさを嚙み締めた。 しかし奴はなぜ敵であるアインスを庇ったのか? ひょっとしたら彼の遺伝子の元であるアインスの父イナッテン=ドナー中佐の記憶がもたらしたのかもしれない。 そう思うと俺はシュウは自分のやらねばならぬ事を成し遂げたのだと割り切る他なかったのだった。 俺も決意を固めると背後にいる星姫に向けて語りかける。 「俺も行ってくる。しっかりその目で見ていろ、お前を手に入れるのに相応しいかどうかな!」    *   *   *   *   * 「遺伝子によって紡がれた絆。時に独善的な悲劇を生むこともあるが、それ以上に何者にも代えがたい沢山の無償の愛を生む…。人…それを…“親子”と言う!」 『何者ですか?! 名を名乗りなさい!』 「貴様に名乗る名などないッ!」 俺はそう言い放つと認識阻害を使ってゲヴィッターヴォルケへと攻撃を仕掛ける。 「“サンダーハリケーン”!!!」 「“マジンボンバー”!!!」 「“トルネードキック”!!!」 強力な一撃一撃にゲヴィッターヴォルケは体が揺らぐほどのダメージを受ける。 姿が見えないため保証はないのだが、多分全部飛び蹴りなのだと思われる。 『大したことはないとはいえ、こうチクチクやられると鬱陶しいですね。ならばこれでどうですか』 ゲヴィッターヴォルケは全身に高圧の電流を纏わせる。下手に打撃を加えようものなら即感電死ということになる。 飛び道具的な技やアイテムを持たない俺にはどうすることも出来ない、何か手立てはないのかと思った瞬間であった…。 強力なブレスがゲヴィッターヴォルケに叩きつけられる。 それを放ったのは空中より遅ればせながら参戦したライトであった。 「すみませんミレーンさん!待たせました!」 「お前、あのドラゴンは倒せたのか?」 「はい!ついでに陸號の奴もきっちり倒してきました。最後の敵はこいつですか?!」 「ライト!しばらくお前に任せておく! 奴を足止めしといてくれ!」 俺の指示にライトは頷くとゲヴィッターヴォルケへと向って行った。 俺は星骸炉の上で認識阻害を解くと再び星姫へと語り掛ける。 「おい、状況はそこからでも見えるだろ。俺が奴を仕留めるから俺に力を貸してくれ…」 俺の問いかけに星姫はケースの扉を開けると高温高圧のマナを俺へと叩きつける。 「全く…。余の力が欲しいというのなら態度で示せと言ったであろう。その身に纏う無粋な鎧は何だ? 余を本当に求めているのなら、それ相応の姿と言う物があるだろ。彼らの使者は裸一貫で火の山の試練をくぐり抜けて来たぞ…」 なるほど態度で示せとはそういうことか…。俺は纏っていたメックスーツを全てパージする。 「この状況だ、火の山の試練をやっている暇はない…。だがキツさはこれも似たようなもんだろ…」 俺は両腕を高温高圧のマナで煮えたぎる星骸炉の中へと入れる。そして星姫の頭部を掴むとこう言った。 「捕らえたぞ星姫…。そして絶対に逃がさん! お前は今から俺と一緒に奴を倒すんだ!」 煮えたぎるマナで両の前腕部は焼け爛れるどころか燃え尽きかけようとしている。急がねば…。 「発動せよ!捕らえろ『魂魄縛りの禍石』よ!」 俺は星骸炉上で振り返り、ゲヴィッターヴォルケを見据え、そして軽く呟いた。 「聖魔法『ホーリーリジェネ』」 焼け落ちたはずの両の前腕部がキレイに再生される。 通常ならば魔力切れで倒れてもおかしくはないはずだが、むしろ力は溢れかえっているほどであった。 「(全く君って奴は本当に強引なんだね…。だがそういう情熱的なアプローチ余は嫌いではない。こうして取り込まれてしまったのなら仕方がない。この星の管理権を君に移行しよう。あの鬱陶しいデカブツを倒そうではないか…)」    *   *   *   *   * ミレーンが星姫ラーヴァと交渉をしている間、ライトは足止めをすべくゲヴィッターヴォルケと交戦をしていた。 だが人間の姿では奴に大したダメージを与えるような攻撃はできない。 どうする?再びがーすけに竜の姿へと変身してもらうか?しかしここまで何度も変身しているから人格の消滅の恐れが…。 迷走するライトの思考を察してかがーすけの方から提案が出された。 『(先程の部分竜化の姿を見て思いついたのだが、我が友の人格に支障を来さない程度まで部分竜化するというのはどうであろうか。もちろん完全変身するほどではないが、人間の姿のままでいるよりも遥かに大きなパワーを引き出せる)』 そんな手があるのならやってくれ! ライトの返答に応えるかのように彼の姿は変化をする。 両の手足はパンプアップし純白の鱗と鋭い爪が生える。浸食は胴体や顔の一部にも及ぶ。目は赤く血走り、額からは2本の角が生える…。 鏡がないため変化した姿を確認はできないが、全身から溢れ出るようなパワーは明らかに自分が段違いに強くなっているのを感じさせる。 『(これが我が友に影響を及ぼさぬギリギリの竜化だ。名付けるなら竜人モードとでも言ったところかの…)』 「凄いよ!これならアイツとでも戦える。一緒にやろう!がーすけ!」 ライトはゲヴィッターヴォルケの方へと向いながら、右腕の刃に魔力を溜め込む。 ゲヴィッターヴォルケの側でそれを横方向に振るうと、彼の体が上下に両断される。 暗雲よりゲヴィッターヴォルケに雷光が落ちると分割された体が復活する。 それを見たライトは今度はブレスを数発放つ。収束力を高めた貫通力の高いそれは敵の体を穴だらけにする。 「凄い、これならあのデカブツも破壊できる…」 だが破壊はできてもすぐに修復され復活する。 この泥仕合のような状況をどうすればいいのか、ライトは必死に考えるのであった…。 (続く)