タイトル:巫女忍者ミオ 〜霊装スーツの甘い罠〜 第1話「誇り高き退魔師」 タグ:変身ヒロイン、ヒロピン、ぴっちりスーツ、退魔師、巫女、敗北、快楽堕ち、悪堕ち、オリジナル *** 篠原澪、26歳。代々退魔を生業としてきた篠原家の末娘で、くノ一の血を引く巫女忍者——それが私だ。 退魔の依頼は、いつも夜に来る。 その日も、神社の社務所に一通の文が届いたのは日暮れ時だった。山間の旧家・黒沢邸に、夜な夜な淫魔が現れる。邸の主は衰弱し、女中たちは次々と辞め、残されたのは寝たきりの老当主と、孫娘一人。——よくある依頼文だった。だが封を切った瞬間、指先にぴり、と痺れが走った。文面にまで魔力が滲んでいる。相手は雑魚ではない。 私は支度を整えた。 烏の濡れ羽色の髪を高く結い上げ、緋の紐で結び、鈴を編み込む。この鈴はただの飾りではない。魔を祓い、己の心の乱れを知らせる、篠原の女の証だ。心が乱れれば、鈴は鳴る。……少なくとも、今夜まではそう信じていた。 白の小袖。その下に纏うのは、霊力を編み込んだ黒の霊装スーツ。代々受け継がれてきたこの装束は、着用者の霊力を増幅し、魔の干渉を弾く結界そのものだ。光沢のある生地が全身に密着し、体の線を余すことなく描き出す様は、確かに扇情的ではある。だがこれは戦闘装束だ。動きを妨げず、霊力を流し、身を守る。その実績が、私の誇りを支えてきた。 短い緋の袴。黒の手甲、足袋ブーツ。刀は一刀、緋の鞘。 鏡の前で最後に姿を確認する。切れ長の紫の瞳、目の下の泣きぼくろ。凛と結んだ唇。——うん、今夜の私も、いつもの私だ。 仕上げに、いつもの日課を行った。両掌を丹田に重ね、霊力を静かに巡らせる。霊装スーツの回路に霊力を流し、結界の張りを確認する儀式だ。霊力が回路を一周するたび、生地が微かに光を帯び、全身を清らかな温かさが包む。この感覚が、私の安心だった。装束と私は一つ。私の霊力が満ちる限り、この結界は絶対だ。 ……その「絶対」が、内側から裏返る日が来るとは、このときは知る由もなかった。 「行ってきます、お祖母様」 仏壇の位牌に手を合わせ、私は夜の山道へ消えた。 山道は暗く、静かだった。獣道を踏み分ける足取りは、子供の頃からの鍛錬で体に染みついている。 歩きながら、私は祖母の言葉を思い出していた。 『澪。霊装スーツはな、ただの戦装束ではないよ。着る者の心を映す鏡だ。心が澄んでいれば、あれは最強の結界になる。……だが、心に隙があれば——』 そこで祖母はいつも、言葉を切った。続きを聞いても、はぐらかされた。『あんたが大人になれば分かる』と。 26になった今も、私はその続きを知らない。隙のない心で魔に臨む。それで十分だと、思ってきたからだ。篠原の女は代々そうしてきた。誘惑に負けた退魔師など、家の歴史に一人もいない。 ——この夜までは。 黒沢邸は、想像以上に「澱んで」いた。 門の前では、孫娘が提灯を持って待っていた。二十歳前後の、痩せた娘だった。目の下に深い隈。眠れていないのだろう。 「篠原様……お爺様は、奥の間で眠っています。夜になると……うめき声がして、女の人の笑い声も、家の中から聞こえるんです。私、もう、この家に一人でいるのが……」 「もう大丈夫です。今夜で終わらせます」 私は静かに言った。退魔師の言葉は、依頼人にとっては祈りと同じだ。断言しなければならない。娘の肩の力が、少しだけ抜けたのを見て、私は母屋へ入った。 門をくぐった瞬間、空気が変わる。湿って、重くて、甘い。花の香りにも似た、しかし奥に獣の匂いを隠した芳香が、肺の奥にまで入り込んでくる。女中が辞めたという庭は荒れ放題で、母屋の窓はすべて閉ざされ、灯りは一つもない。 孫娘の話では、淫魔は座敷に現れるという。私は気配を殺し、廊下を進んだ。足袋の足音はしない。呼吸も殺す。——忍びの基本だ。 座敷の襖を開けた瞬間だった。 「あらぁ……来たのね。待っていたわ」 声が、した。部屋の中央、月明かりの落ちる場所に、女が一人、寝そべるように座っていた。長い髪、豊満な肢体を薄い衣一枚で包み、濡れた唇を舌で舐める。その瞳は人間ではない色をしていた。魔力を帯びた、紅い瞳。 淫魔、ヴェルゼ。情報では「下級の淫魔が巣食っている」とだけあった。だが目の前の存在は、格が二段も三段も上だった。情報が、古い。いや——意図的に、間違っていたのかもしれない。 「美味しそうな退魔師さん。……ふふ、そんな格好で現れるなんて、誘っているのかしら」 「下郎が。口を慎め」 私は刀の柄に手をかけた。ヴェルゼは笑う。値踏みするような目で、私の体を頭の先から爪先まで、ゆっくりと舐め回す。 「霊装スーツ……篠原の秘宝ね。霊力を編み込んだ、世界に一つだけの戦闘装束。……ねえ、知ってる? 霊力を"編んだ"服って、魔力を吸うと、どうなるか」 「どうもならない。貴様を斬って終わりだ」 ——斬る。問答は無用だった。抜刀と同時に踏み込み、袈裟に斬り下ろす。空気が裂け、刀身が月光を弾いた。 ヴェルゼの体は霧のように分かれ、私の一刀は虚しく畳を裂いた。背後——気配。振り返りざまに受け太刀。だが彼女は斬撃の届かない位置に、舞うように下がっていた。 「あら、速い。さすがは篠原の末娘」 「次は外さん」 二の太刀、三の太刀。私の刀は的確にヴェルゼの急所を狙い続けた。だが当たらない。彼女は戦っていない。避けて、笑って、私を「見て」いる。まるで品定めのように。……いや、違う。あれは「測って」いたのだ。私の動きを、霊力の流れを、スーツの結界の綻びを。 そのことに気づいて、私は戦法を変えた。攻め急がない。相手の出方を待つ、受けと崩しの構え。篠原の剣は本来、守りの剣だ。魔が人に手を出す、その一瞬を斬る。 「あら、慎重になったのね。……でも、つまらないわ」 ヴェルゼが溜息をついた。 「あなたの剣筋、綺麗だけど、堅いのよ。教科書通り。師匠に言われた通りにしか動けない。——ねえ、そのスーツも、そうでしょう? "代々受け継いできた"から着ているだけで、自分の意志で選んだことは、一度もないんじゃない?」 「……何が言いたい」 「型に守られて生きてきた女って、型が崩れたとき、脆いのよ。……ふふ、楽しみだわ」 「黙れ!」 挑発に乗るな、と頭では分かっていた。だが言葉は的を射ていた。私の剣も、装束も、人生も、篠原の型の中にあった。それを誇りにしてきた。——揺らぐな。斬れ。私は再び踏み込んだ。今度は速さよりも深く、彼女の退路を断つ角度で。 そして四度目の踏み込みの後、大きな隙が生まれた。斬り下ろした刀が畳に食い込み、一瞬だけ、体勢が崩れた。 「——もらった」 ヴェルゼの手が伸び、私の脇腹に、そっと触れた。 たったそれだけ。爪を立てたわけでも、魔力を叩き込んだわけでもない。愛撫のように、柔らかく、掌がスーツの上を滑っただけだった。 なのに。 「……っ!?」 触れられた場所から、霊装スーツに魔力が流れ込んだのが分かった。 黒い生地が、波紋のようにうねる。そして——私の肌に、吸い付くように密着度を増していった。今までもスーツは体に沿ってはいた。だがこれは違う。第二の皮膚どころか、まるで生きたものが体に巻き付き、締め付けてくるような。 「何を、した……!」 「あなたのスーツに、私の魔力を一滴、注いだだけよ」 ヴェルゼは指先を舐めた。 「霊力を編んだ服はね、魔力を吸えば"魔の装束"に作り変わるの。最初はほんの少し。密着が増して、感度が上がって……持ち主の体を、快楽に弱く、弱く、作り替えていく。結界が、内側から裏返るのよ。……素敵でしょう?」 「……ふざけるな!」 斬りかかった。だが二の太刀は、明確に鈍っていた。 スーツが、呼吸のたびに体を擦る感覚が、さっきまでと全く違うのだ。肺が膨らみ、胸が持ち上がるたびに、乳房を包む生地が乳首を刺激する。踏み込めば太腿の内側を柔らかい圧迫が這い回り、刀を振るえば胸の揺れがそのまま甘い痺れになって返ってくる。動くたびに、戦うたびに、集中が削がれていく。 「んっ……く……!」 「あら、もう声が漏れてる。強い女の忍び声って、たまらないわ」 ヴェルゼは相変わらず戦おうとしない。私の周囲を舞うように旋回し、指先で、吐息で、スーツの上から私の体に触れていく。そのたびにスーツは魔力を吸い、蠕動し、密着を増し、私を内側から溶かしていく。 ——思い返せば、この戦法こそが彼女の「狩り」だったのだろう。殺す気はない。傷つける気もない。ただ触れて、着せたまま、持ち主ごと装束を堕とす。退魔師の誇りも、結界も、全部まとめて。 「(落ち着け、篠原澪。感覚に流されるな。……斬れば終わる。斬れば!)」 私は一度、大きく距離を取った。深呼吸。鈴の音で心を整える——はずだった。だが息を吸うたび、スーツが胸を締め、乳首が尖る感覚が意識に割り込んでくる。ちりん、と鈴が鳴った。心の乱れを知らせる鈴が。戦いの最中に、自分の鈴が、自分の乱れを告げている。 「聞こえた? あなたの鈴、ずっと鳴ってるわよ。……体は正直ね」 「黙れ……!」 三度目の変質は、音もなく訪れた。 スーツの内側で、何かが「目覚めた」のだ。臍の下あたりから、細い熱の糸が伸びていくような感覚。霊力の流れ道——経絡そのものに沿って、ヴェルゼの魔力が這い進み、私の体の「感じる場所」と「感じる場所」を、勝手に結びつけていく。脇腹を風が撫でれば、秘部が疼く。指先が冷たい空気に触れれば、乳首が跳ねる。全身が、際限なく性感帯へ作り替えられていくのが分かった。 「やめ……っ、私の体で、勝手な真似を……!」 「勝手なのは、どっち? ほら、あなたの体はもう、正直よ」 彼女の指が、私の胸の尖りを、スーツ越しに軽く弾いた。 「——あ゛っ!!」 情けない声が出た。弾かれただけなのに、電流のような快感が背筋を駆け上がり、膝が崩れそうになる。スーツの中で、秘部が熱く疼き、蜜が溢れているのが分かった。濡れている。戦いの最中に、敵の目の前で、私は——。 「(このままでは、本当に堕ちる……!)」 私は奥歯を噛み、印を結んだ。篠原に伝わる浄化の印。己の霊力を巡らせ、穢れを焼き払う術。スーツに巣食う魔力を、内側から焼き切るつもりだった。 ——それが、間違いだった。 巡らせた霊力は、スーツに吸い上げられた。霊力を編んだ装束は、私の霊力を隅々まで行き渡らせるための「回路」だ。その回路は今や、ヴェルゼの魔力に乗っ取られている。浄化の炎は生まれなかった。代わりに、霊力の奔流そのものが快感に変換され、私の全身を駆け巡ったのだ。 「あっ……!? あ、あぁっ……なに、これ……私の霊力が……!」 「あら、可哀想。知らなかったのね。霊力を回せば回すほど、そのスーツはあなたを気持ちよくするの。……退魔師の力が強いほど、よく効くようにできてるのよ」 術を止めようとしても、一度巡り始めた霊力は容易に止まらない。呼吸のたび、鼓動のたびに、微量の霊力が回路を流れ、その全てが甘い痺れになって返ってくる。自分の力で、自分を責める。なんという悪辣な仕掛けだろう。 「はぁ……はぁ……っ、やめ……止まって……お願い……」 誰に願っているのか、自分でも分からなかった。ヴェルゼにか、装束にか、自分の体にか。 その隙を、彼女は見逃さなかった。気がつけば、ヴェルゼは私の懐にいた。刃の届く距離。斬れる——はずだった。だが私の腕は、刀を持ち上げたまま、動かなかった。動けば胸が揺れ、動けば太腿が擦れ、それだけで絶頂しそうなほど、私の体は追い詰められていたのだ。 「斬らないの?」 ヴェルゼの指が、私の顎をすくい上げる。逃げられない。鈴が、ちりん、ちりんと鳴り止まない。 「斬ればいいのに。……斬れないのね。わかるわ。その体、もう戦うための体じゃないもの」 「ちが……私は、まだ……!」 「じゃあ証明して。——この距離で、私に一太刀、入れてみせて」 挑発に、体が反応した——違う、反応したのは私の誇りだ。私は吠えるように声を上げ、全身の力で刀を振るった。 斬撃は、ヴェルゼの髪を一筋、掠めた。 だがそれだけだった。振るった反動で全身を駆け巡った快感に、私はその場で崩れ落ちた。膝をつき、刀を取り落とし、畳に手をついて荒く呼吸する。秘部は絶え間なく疼き、絶頂の瀬戸際で何度も揺さぶられ、思考はばらばらに散っていた。 「あ……はぁ……あっ……」 「ふふ、いい眺め。篠原の退魔師が、自分の刀も持てなくなって、膝をついて喘いでる。……ねえ、もう分かったでしょう? あなたはもう、私と戦えない」 薄く開いた唇から、呼吸の合間に熱い吐息が漏れる。ヴェルゼの言う通りだった。この体では、もう戦えない。だが——まだ、逃げることはできた。逃げるだけの意思は、まだ私の中に残っていた。 「(ありえない……私は篠原の退魔師……淫魔の甘言なんかに、体が、こんな……)」 頭では拒絶している。だが体は、もう別の生き物だった。ヴェルゼが近づく気配だけで下腹が疼き、彼女の吐息が耳にかかれば、それだけで腰が震える。刀を構える手に、力が入らない。入らないのではない。快感に、意識を持っていかれるのだ。 「そろそろ限界みたいね。ねえミオ、降参なさい」 ヴェルゼが、ゆっくりと距離を詰めてくる。逃げなければいけないのに、足が動かない。いや——足だけではない。私の体が、彼女に近づかれることを、どこかで「待って」いたのだ。その事実に気づいたとき、背筋が冷えた。 「私のものになれば、この苦しさ、全部"気持ちいい"に変えてあげる。……強い女でいるの、疲れたでしょう?」 「誰が……! 私は……絶対に、屈し……っ」 言葉の途中で、スーツが大きく蠕動した。下腹部の一点が、まるで脈打つように熱を持ち、そこから快感の波が全身に広がる。声にならない声が漏れて、私はその場に膝をつきかけ——意地で、踏みとどまった。 (だめだ。このままでは本当に……。——退く。今は、退くしかない) 篠原の女として、最大の屈辱だった。だが、ここで堕ちれば全てが終わる。 ヴェルゼの手が、私の頬に伸びてきた。逃げるべきなのに、体が動かない。いや、正確には——頬を差し出すように、わずかに顔が傾いたのだ。自分の意思ではない。スーツに作り替えられた体が、魔力の源に「懐いて」いた。 彼女の掌が、私の頬を包んだ。冷たくて、柔らかくて——気持ちが、よかった。 「……っ!」 私は自分の舌を強く噛んだ。血の味と痛みで、意識が引き戻される。ヴェルゼの手を振り払い、よろめきながら後退した。 「あら、まだ抵抗できるのね。立派だわ、篠原の末娘」 ヴェルゼは、傷ついた様子もなく微笑んでいた。 「でもね、ミオ。あなたのスーツ、もう半分は"私のもの"よ。魔力は一度編み込まれたら消えない。日を追うごとに、あなたは感じやすくなる。鈴の音一つで、腰が砕けるようになるわ」 「……黙れ」 「いつまで意地を張れるかしら。私は逃げないわよ、この家で待ってる。……辛くなったら、いつでも来なさい。跪いて『助けて』って言えば、今の苦しみの十倍の快楽で、全部忘れさせてあげる」 私は懐の破魔札に手を伸ばした。残り一枚、切り札の札。 「——退魔の業火に、焼かれなさい!」 札が閃光を放った。純化の光が座敷を満たし、ヴェルゼの悲鳴が響く。私はその隙に窓を破り、屋根を蹴って、闇に紛れた。鈴の音だけが、夜の山に長く尾を引いた。 ——逃げたのだ。篠原澪は、初めて任務から逃げた。 *** 神社に辿り着いたのは、夜半を過ぎた頃だった。 自室に転がり込み、戸を閉めた途端、膝から崩れ落ちた。息が荒い。全身が汗ばみ、スーツの下は熱を持っている。——まず、脱ぐことだ。この装束を脱いで、浄化して、明日にでも師匠に相談する。そうすれば、きっと何とかなる。そう信じたかった。 震える手で、小袖を脱いだ。次にスーツの留め具へ指をかける。 脱げなかった。 霊装スーツが、脱ぐことを拒んだのだ。 指をかけた場所から生地が収縮し、肌にぴたりと吸い付いてくる。引っ張れば引っ張るほど、スーツは私の体に「しがみつく」。まるで意思があるかのように。まるで——まだ終わっていない、と言わんばかりに。 「……冗談、でしょう……? この装束が、私を……」 何度試しても結果は同じだった。肩口から捲ろうとすれば乳房に食い込み、腰から下げようとすれば太腿に張り付く。力任せに破ろうとすれば——その瞬間、スーツ全体が痙攣するように震え、抗議のような快感を送り込んできた。 「んっ……! ……っ、く……!」 脱ごうとするたびに、罰のように甘い痺れが走る。数分も格闘すれば、私の呼吸はすっかり乱れ、頬は上気し、額には汗が滲んでいた。脱衣の試みそのものが、私を追い詰めていく仕掛けだった。 ——そのとき、気づいた。 下腹部が、微かに光っていた。 スーツの生地の上に、浮かび上がる紋様。薔薇のような、花弁を模した曲線の紋。ヴェルゼの魔力で刻まれた、淫紋だった。私の霊力が満ちる場所——丹田の真上に、その紋は妖しく明滅していた。 恐る恐る、指で触れた。 「——あっ」 指先が吸い付くように熱かった。紋に触れた瞬間、スーツ全体が悦ぶように震え、下腹部から甘い波が全身へ送り込まれてくる。乳首が尖り、秘部が疼き、見る間に蜜が溢れた。紋は、スーツの「心臓」だった。ここを刺激すれば、装束全体が私を責める。逆に言えば、紋が脈打つ限り、装束は止まらない。 「や……やだ……勝手に、こんな……!」 畳の上に崩れ落ちた私を、スーツは容赦なく弄び始めた。誰の手も触れていない。だというのに、乳房は内側から揉まれるように蠕動に包まれ、太腿は見えない手に撫で上げられ、秘部は絶え間ない微細な振動と圧迫に晒され続ける。脱げない装束の中で、私の体だけが勝手に絶頂へ追い上げられていく。 「んんっ……! あっ……やめ……やめて、もう……誰も、いないのに……!」 抵抗の言葉は、すぐに喘ぎに溶けた。紋が明滅するたび、波が強くなる。鈴が鳴る。ちりん、ちりん、と、私の乱れを告げる音が、静まり返った神社の自室に響く。神聖なはずの場所で、代々守ってきた装束に、私は——。 「あっ、あっ、あ——イク、イッてしまう……こんなの、やだぁ……!」 絶頂は、あっけなく訪れた。背が弓なりに反り、声が裏返り、全身が痙攣する。誰にも触れられていないのに、敵の刻んだ紋と、裏切った装束に、私はイかされた。 だが、終わりではなかった。 息を整える間もなく、私は這って神棚に手を伸ばした。塩。清めの塩があれば、紋ごと魔力を祓えるかもしれない。指先が塩の小皿に触れた、その瞬間——紋が強く明滅した。スーツが「拒絶」したのだ。まるで、祓われることを察知した生き物のように。 「……させるか……!」 私は祝詞を唱え始めた。祓詞。子供の頃から何千回と唱えてきた、篠原の言葉。 「たかあまはらに、かむづまります——」 声が、震える。一言ごとに、紋が脈打った。神聖な言葉を口にするたび、その響きに呼応するようにスーツが蠕動し、言葉の意味が、体の中で快感に反転していく。祝詞は神に捧げるものだ。それが今、私の体を責める楽器に変わっていた。 「——すめらみことの、みこと、もちて……っ、あっ……!」 「んんっ……や……言葉が……言葉を、口にするたび……!」 唱えきれなかった。三分の一も進まないうちに、二度目の波が来た。一度目より深く、長い波だった。塩の皿が畳にひっくり返り、白い粒が散る。その上に崩れ落ちて、私は自室の畳に頬を擦り付けながら、声を殺して喘いだ。神棚の前で。位牌の前で。ご先祖様に見られているかもしれない場所で、私は二度もイかされた。 (謝らなければ。……でも、体が、止まらない……) スーツの蠕動は、もはや私の呼吸や鼓動と同期していた。呼吸すれば締まり、鼓動すれば震える。私が生きている限り、この装束は動き続ける。安らぎは、眠りの中にさえなかった。 ——ふと、恐ろしい考えが頭をよぎった。 この紋を、ヴェルゼなら「制御」できるのではないか、と。あの淫魔は言った。私のものになれば、苦しさを全部、気持ちいいに変えてあげる、と。つまり彼女の許に行けば、この終わらない責めは、終わる。あるいは、もっと心地よい形に変わる。 「……っ、違う……私は、そんなことを……」 頭を振って、考えを追い出した。だが一度芽生えた考えは、根を張ってしまったのだろう。スーツが甘く震えるたび、その考えは水を得た芽のように、静かに育っていく気がした。 余韻の中で、涙が滲んだ。屈辱で頬を伝うのに、体の芯はまだ疼いていて、スーツの蠕動が止まらないことに——恐怖と一緒に、微かな期待を覚えてしまった自分がいた。 (……私の体、もう、元に戻れないの……?) その後も、スーツは脱げなかった。 私は結局、その夜を装束のまま過ごした。眠りは浅く、夢の中でもヴェルゼの笑い声がした。『私のものになれば、全部"気持ちいい"に変えてあげる』——その言葉が、耳の奥に何度も蘇った。 翌朝。目覚めた私を待っていたのは、ささやかな、しかし決定的な変化だった。 洗面所の鏡の前。顔を洗おうと水に触れた、その指先の感覚が——鋭すぎた。水の冷たさが、快感に似た痺れとして伝わってくる。歯ブラシの刺激、タオルの繊維、朝の空気の冷たささえも、私の肌は過敏に拾い上げた。スーツは脱げていない。だが感覚の変質は、スーツを越えて、私の体そのものに移り始めていた。 そして下腹部の紋は、朝の光の中でも消えていなかった。むしろ昨夜より、色濃く。 「……師匠に、相談しないと」 口ではそう言った。言ったはずなのに、私の足は社務所へ向かわなかった。相談すれば、装束は封印され、私は当面、退魔師として立場を失う。——それが怖かったのか。それとも。 その迷いを抱えたまま、私は朝の務めに出た。箒を持ち、境内の掃き掃除。参道の石段。いつもなら心を整えるための時間だった。だが今日は、一動作ごとに試練だった。 箒を持つ手のひらに、柄の木目が過敏に伝わる。屈めばスーツが腰回りを締め、太腿が擦れ、甘い痺れが下腹に集まる。石段に落ちた濡れ落ち葉の冷たさが、足袋越しに鳥肌を立たせた。風が一陣、髪を揺らす。鈴が鳴る。ちりん——その小さな音が、昨夜の自室の音と重なって、私は思わず立ち止まった。 (……こんな体で、務めなど……) そのとき、社務所の電話が鳴った。黒沢邸の孫娘からだった。 「あの、昨夜はありがとうございました。お爺様の容態が、朝から少し良くなって……。魔は、祓えたんでしょうか」 嘘をついた。 「……ええ。ご安心を。もう大丈夫です」 震える声を、必死に抑えた。祓えていない。魔はまだ邸にいて、私の体には紋が刻まれ、装束は裏切ったまま。だが本当のことは言えなかった。篠原澪が淫魔に敗れて逃げ帰ったなどと——言えるわけが、なかった。 受話器を置いて、私は自室に戻り、刀を取った。 選択肢は、二つだった。師匠に全てを話し、封印されるか。それとも——一人で黒沢邸に戻り、今度こそヴェルゼを斬るか。 体の変質は進んでいる。明日になれば、もっと酷くなっているかもしれない。戻るなら、今夜しかない。 鏡の前で、私は自分の顔を見た。隈のできた目元、少し上気した頬。だが紫の瞳は、まだ退魔師の色をしていた——と、信じたかった。 「……今夜、決着をつける」 紋に、もう一度触れてみたいという衝動を、私は自覚していた。その衝動を振り払うように、私は強く刀を握り直した。 その夜、私は再び装束を整えた。脱げないスーツの上に小袖を羽織り、緋の袴を締め、髪を結い直す。鈴が、ちりんと鳴った。昨夜より、その音に体が反応する。指先が震え、下腹の紋が微かに熱を持った。——分かっている。今日の私は、昨日の私より弱い。スーツは一晩で、さらに私と同化した。 それでも行くしかない。篠原の誇りにかけて。いや——本当の理由は、別のところにあったのかもしれない。決着をつけなければ、この体はどこまでも変わり続ける。その恐怖と、もう一つ、口に出せない何かが、私を黒沢邸へ向かわせていた。 月が、山の端に昇っていた。 今夜、私は勝つか、堕ちるか。そのどちらかだ。 窓の外で、風もないのに、髪の鈴が小さく鳴った。 遠くで、ヴェルゼの笑い声が聞こえたような——そんな気がした。 (第2話へ続く)