「(全く君って奴は本当に強引なんだね…。だがそういう情熱的なアプローチ余は嫌いではないよ。こうして取り込まれてしまったのなら仕方ない。この星の管理権を君に移行しよう。あの鬱陶しいデカブツを倒そうではないか…)」 俺の脳内から星姫こと火山王ラーヴァの声が聞こえてくる。 彼女の語りかけが終わったと思った瞬間、俺の脳内に膨大な情報が流れ込む。脳が焼き付きそうなほどであったが、なるほど大体のことはこれで理解できた。 「アイツの本体は頭上の暗雲で、弱点は聖属性なんだな?」 俺の問いにラーヴァが答える。 「(あぁ。アインスの奴が手下を使って試した様子を見ると効いてはいるみたいだった。だがどのぐらいのパワーが必要なのかは不明だけどね…)」 「聖魔法なら必要なのは純粋な魔力=マナだけだ。エレメントの属性は関係ない。各属性の余った部分を全部まずそこに持ってきて、後は平坦にならしておけ。それで各エレメントのバランスは取れるはずだ」 俺の提案にラーヴァは感心したようなリアクションを見せる。 「(なるほど枠外の存在を使うというわけか。私たち星姫では思いも付かない大胆な発想だよ…)」 俺のプランにラーヴァは賛同すると、俺の懐にある物に気づいた。 「(それはひょっとして聖剣の一部かい?)」 彼女が指摘したのはメトリから渡された人造勇者を製造するための聖剣、通称「役立たずの聖剣」の一部である。 その問いに俺はそうだ、そしてアインスを始め人造勇者たちにはこの欠片が埋め込まれていると説明した。 ラーヴァはなるほど道理で…と呟くと、俺にその剣の正体について説明してくれた。 この聖剣の正体は剣ではなく、実は星骸炉の鍵兼コントローラーである。 本来は正当な適合者でなければ起動はできないはずなのに、縁もゆかりもないアインスがそれを行えたのはコントローラーの欠片が埋め込まれていたせいとのことであった。 「だが今となっては柄しか残っていない本当の役立たずだよ…」 俺のぼやきにラーヴァは反論する。 「(それが違うんだなぁ…。本体はむしろその柄やら鍔やらの外装の部分なんだよ。そこに術式のメインが刻まれており、刀身は使い手がマナと念を注入して作り上げた副次的な物なんだ)」 「(確かに剣が完全でなければ、使い手が出せる力も完全ではなくなる。もし君があのデカブツをこの星のマナを使って倒そうとするのなら、その剣を復活させる必要があるよね…)」 この剣を復活させるにはどうすれば良いという俺の問いにラーヴァは嬉々として答える。 「(なぁに。君を通してこの剣にマナを注入し続けるだけでいいのさ。ただちょっと時間はかかるがね、チャージ時間は666秒。やるかい?)」 少し不安を抱いた俺は現在ゲヴィッターヴォルケと対峙しているライトに確認してみた。 「ライト!後11分だ! 後11分持たせることはできるか?!」 俺の叫びにライトは残業を命ぜられたブラック企業の社員のような沈んだ顔つきで「何とか頑張ります…」答えたのだった。    *   *   *   *   * 「(手順は簡単。この柄にピッタリくる刀身をイメージしながマナを注入して行くだけ。色々調整しなきゃいけない細かい作業はこれ一括でこなせるように設定している。凄いでしょ)」 周囲から色々な状況報告が流れ込むが、俺はこの剣にマナを送り込むことだけに精神を集中させる。 鍔の辺りから徐々に刀身が構築されてくる。 「(魔王を倒せる力を持つ聖剣の所有者…。ひょっとしたら君が伝説の勇者というやつかもしれないね…)」 ラーヴァの呟きに俺は冗談言うなと返す。 そういえばこの剣に纏わる謂れとして、天地乱れる時現れた勇者が使うとある。 ひょっとしたらエレメントの操作をミスった管理者本人が、シレっと手直ししてただけじゃないのか?  そう考えると勇者の伝説なんて大分当てにならない物だなと思うと、少し笑ってしまった。 そんなことを考えながらマナを注入し続けていると、刀身は1/3ほどまで伸びている。頼む早くしてくれ…。 最初は竜人モードのパワーに意気揚々としていたライトであったが、いくら攻撃を加えてもすぐさま再生をするゲヴィッターヴォルケには難儀をしていた。 敵は近接戦闘を諦めて遠隔からの電撃放射で撃ち落そうとする。 いくらドラゴンタイプがでんきタイプに耐性があったとしても、食らう電力量はそんなものでは済まない。その上ひこうタイプは基本的にでんきタイプに弱い。 逃げ切れない…。そう思った時に目についたのは星骸炉であった。 ライトは星骸炉を盾に身を隠す。やれるもんならやってみろ、お前の大事な忌器がぶっ壊れちまうぞと挑発するかのようであった。 だがゲヴィッターヴォルケは星骸炉に向けて電撃を照射しようとしている。 『すでに目的に必要な星皇は完成しております。もはやこの忌器には必要はありません。いっそ破壊してマナが溢れかえれば、星の初期化にも役立つかもしれませんね』 ゲヴィッターヴォルケが電撃を放とうとした瞬間、星骸炉の中にいた人物が内部で平手を伸ばした。 星骸炉に向って放たれた電撃は強力な障壁によって阻まれる。 そして星骸炉の中にいる人物が伸ばした掌の閉じ開きを繰り返すと、ゲヴィッターヴォルケの金属製のボディがグシャグシャと音を立てながら握りつぶされて行く。 それを何度か繰り返すとゲヴィッターヴォルケのボディはまるで潰されたアルミ缶のようになっていた。 「そこの小僧、さっさと奴を始末しろ」 炉の中から聞こえる地獄の底から響くような重低音がライトへと命令をする。 さきほどまで呆気に取られていたライトはその言葉に気が付くと、動けなくなったゲヴィッターヴォルケを魔力を込めた刃の斬撃“オーラブレード”で細切れにする。 やった!とライトが思うのも束の間、上空の暗雲から落ちる雷光によってゲヴィッターヴォルケは復活する…。 やれやれ、また一から出直しか…。死んだような目でそう思いながら敵へと向かうライトに背後から声がかかる。 「待たせたなライト! とりあえず奴を反撃できないようにさせてくれ!」 声の主は役立たずの聖剣いや星骸炉の起動キーを復活させたミレーンであった。 ライトは魔力を溜めた右拳をゲヴィッターヴォルケへと叩きつける。 「“魔浸拳”!」 ゲヴィッターヴォルケは腰砕けになりながら仰向けに崩れ落ちる。 ミレーンは呼吸を整えると上空の暗雲に向けて星骸炉の起動キーを振り抜く。 「聖魔法『ホーリーピュリファイ』!」 それは以前ミレーンが人造勇者拾惨號の魔剣に取り憑かれようとした時に使った、瘴気や呪いや悪霊に用いる浄化呪文である。 起動キーからは一筋の光線が暗雲を貫く。地上にいるゲヴィッターヴォルケは何故か一緒に苦しみだす。 『させはせん!私の使命をここで終わらせはっ…』 ゲヴィッターヴォルケは苦しみながらもミレーンの方へ阻止しようと向ってくる。 するとミレーンの脳内で何者かの声が聞こえてくる。 「(聖魔法『ホーリーウォッシュ』)」 「(聖魔法『ホーリークリーン』)」 「(聖魔法『ホーリーライト』)」 起動キーから放出される光がより濃く太くなる。 これは恐らく俺の脳内にいる聖女たちが力を貸してくれたのであろう…。 暗雲に放った光が効いているのか効かないのかは判らないが、少なくとも地上にいるゲヴィッターヴォルケには効果があるようだ。 言葉も途切れ途切れになり全身を痙攣するかのように苦しんだと思ったら地面に倒れ伏し、動かなくなったと思ったら最終的に風化して跡形もなく姿を消したのであった…。    *   *   *   *   * 戦いは終わった。空を覆っていた暗雲は晴れ、大地の揺れは収まった。世界は何事もなかったかのように平常運転へと戻って行った。 だが俺の仕事は終わっていない。この異変の原因となった忌器「星骸炉」を破壊するとことが俺の目的である。 星骸炉の起動キーこと役立たずの聖剣を上段に構えて降り下ろす。すると炉の本体は真っ二つになって崩れ落ちる。 そしてその中から身の丈6~7mほどはある巨漢が現れる。彼はストロングな奴を飲み干すとアルミ缶を握りつぶして放り投げた。 「なかなか良い蒸し加減であったぞ…」 その巨漢はとてつもない威圧感を周囲にまき散らすと、立ち上がって炉内から出てくる。 彼がどこかに行こうとするのでライトはその脇でお礼を言う。 「あの…先程はありがとうございます…。助かりました…」 「気にするでない。余は単に観戦の邪魔になったから払いのけただけだ…」 巨漢はそう告げて去ろうとしたが、ふと思い出したかのようにこちらへと振り向く。何やら俺たちを気にしているようだ。 「その方ら、名は何と申す?」 彼の問いに俺たちは答える。 「俺の名はコージン=ミレーン。一介の聖騎士だ」 「僕はホワイトライトです」 彼は俺たちの名前を何度か無言で反芻するとこう告げた。 「コージン=ミレーンにホワイトライトか…。記憶しておくぞ。今日は良い戦いを見せてもらい、十分暇を潰せたので感謝しよう。余はそなたらを勇者と認める。いずれ魔王モラレルを倒しに来い。それこそが余の長くつまらない人生の良い余興となるであろう…」 こうして何となく大団円的な空気になった時、俺たちの輪の中にふらふらと入り込もうとする人間が見える。人造勇者陸號ザット上等兵である。 ライトがぶっ刺した試作聖剣によって血の気(?)が減ったのか、彼は元の人間の姿に戻っていた。 その両の手からは試作聖剣が生えているのが確認される。サイズがドラゴンから人間に戻った時に、くっつけることに成功したのであろう。 「血…血が足りない…。ダメだ…こんなに弱くなっちゃったらだめだ…。もっと…強くならないと…父さんや母さんに…もう会えなくなっちゃう…」 陸號は力尽きて倒れ込むと、その目の前に魔王の姿を捕らえる。 生か死かの極限状態となっていた彼にはもはや恐れるものはなかったのであろう。魔王へと向ってこんな要求をしたのだった。 「あっ…これが魔王なんだ…。この人の血はどんな味がするんだろ…。ちょうだい…ちょうだい…」 そのボロ雑巾のような姿を見た魔王モラレルは、右手を強く握り込むと戯れに血を数滴陸號の聖剣へと垂らしたのであった。 陸號の聖剣は魔王の血をまるで蒸発するかのように急速に吸い取る。すると陸號の体に急激な変化が起こる。 「凄い…。ナニコレ…。力が漲る!獣人やドラゴンなんて目じゃないよ!これが魔王の力なんだ!」 陸號の全身がパンプアップすると、そこから全身に空気が吹きこまれるように膨張しだす。しかしその勢いは収まろうとはしない。 「えっ?!ちょっ待って! こんなに!こんなに力はいらないって?!」 陸號の全身は見る見るうちに膨れ上がり、まるで空気を限界まで張り詰めたような風船のようになると全身が弾け飛んだ。 陸號本人が求めた力の追及の果てとはいえむごたらしい最期に、彼と幾度となく戦ったライトは憐れみを感じざるを得ないのであった。 そして俺は力を吸収することに長けた陸號をたった数滴で肉体崩壊させる程の力をもたらす魔王の血、いや魔王の持つ力の底知れなさに恐怖するのだった。 「では帰らせてもらう…」 魔王モラレルは何もない場所に手刀で上下に降り下ろすと空間の切れ目が生じる。 その切れ目に頭から入って行くと彼は姿を消して行ったのだった…。    *   *   *   *   * とにかく全てこれで終わった。その安堵感が広がろうとしていた時、俺はふと思い出すと胸にある輝石を見てみる。 輝石にはひと際大きな亀裂が一本入っていた。星骸炉は確実に破壊したということであろう。 このまま地面に倒れて眠りにつきたい…そんなことを考えていたら、さらにふと思い出した。 「よし!ライト行くぞ!」 「えっ?! 何があったんですか?!」 「そういえばここにはまだ他に忌器があるんだよ! ラボと呼ばれる建物にはまだ仕舞われっぱなしの忌器が大量にあるらしい。ボヤっとしてたら研究員どもが持ち逃げしちまうかもしれないだろ!」 そう言い出すとミレーンは走り出そうとする。 すると視界の脇にシュウの遺体を抱えたまま座り込んでいた元星皇アインス=ドナーが見えたので、ミレーンは彼女に話しかける 「悪いがそいつの遺体を返してくれないかな。彼は俺たちの大事な仲間なんだ…」 俺の言葉にアインスは首を振って答える。 「いやだ…。やっと私の元に帰ってきてくれたんだ…」 アインスはシュウの遺体を抱き寄せながらいやいやをする。 「そうか…。だったら彼を丁重に弔ってやってくれ。よろしく頼む…」 俺はアインスに頭を下げるとラボへ向って猛ダッシュをする。 ライトは羽を生やしてそれを追いかけて行くのであった…。 (続く)