NTRトラップダンジョン ―堕ちたあとの記録― (NORMAL END「勝ったはずの、討伐」の、その夜のSS) 討伐は、終わったはずだった。 宿のベッドに腰かけたまま、私はしばらく動けなかった。脱ぎかけの服は直す気になれなくて、剣はベッド脇に立てかけたまま。戦いは終わったのに、体だけがまだダンジョンにいるみたいに、熱くて、重くて、いうことを聞かない。 首もとのペンダントが、息をするたびに揺れる。 レオンの魔力が溶け込んだ、あの重たい石。あなたの贈り物より先に、私の首に掛かってしまったもの。 「……外せば、いいのにね」 分かってる。指先で摘まめば、それで済む話だって。 なのに私の指は、石を外すんじゃなくて、ぎゅっと握りしめていた。冷たいはずの石が、体温で温まってる。それを確認するたびに、胸の奥がきゅうっと締めつけられるみたいに痛くて、その痛さが、嫌じゃなかった。 首筋の跡も、そう。 指でなぞると、まだ少しだけ熱い。あの人の手の形を、体が勝手に思い出す。泉の水の冷たさより、蔦に絡まれた感触より、ずっと鮮明に。 ――ごめんなさい。ごめんなさい、あなた。 頭の中では、何度も謝っているのに。 謝りながら、私の体は正直だった。思い出すのは謝罪の言葉より先に、あの囁き声で、触れられた場所から順番に、ぞわぞわと熱が蘇ってくる。 「あっ……んんっ……♡ だめ、思い出しちゃ……」 声が漏れた。自分の声なのに、知らない子の声みたいに甘くて、情けなかった。 あなたとの夜は、いつも上手くいかなかった。成功率、たったの1%。二人で笑って、諦めて、それでも幸せだったはずなのに。 なのにこの体は、あっちの手つきは一度で覚えてしまった。覚えさせられて、しまった。 ギルドで「レオンさんの連れですね」って言われたとき、私、笑って流しちゃったでしょう。 否定できなかったんじゃない。否定する言葉が、出てこなかったの。 だってその瞬間、嬉しいって思ってしまった私が、確かにいたから。 心境、第四段階「依存」。 ゲームの表示は、嘘をつかない。堕落度93%。あと7%で、私は完全に―― でもね。100%には、ならなかった。 主を斬ったのは私の剣で、最後に振り返って立ち止まったのも、私。 だからこれは、お願いじゃなくて報告。 あなたのうちの子は、討伐に勝って、別の戦いに負けました。体はあっちの熱を覚えて、首にはあの人の石がぶら下がってて、謝りながら思い出して、また熱くなっちゃうような、情けない子になって帰ってきました。 ……それでも、帰る場所はここだって思ってる。 このどうしようもなさごと、叱ってくれるのも、許してくれるのも、あなただけだから。 ねえ、あなた。 私の首もとの跡と、このペンダントと、まだ治らない体の熱を―― ちゃんと、近くで見ててくれる……?